狂気
回りくどいです。ご注意ください。
何処にでもある1LDK。キッチン、バス、トイレ付きの部屋。造りこそいいものの、あるのは、本、本、本。 ジャンルは、小学生の教科書から医学書まで。
薄明かりの中、一人。たった一人そこに居た。本に囲まれ埋れながらも、その人はそこに居た。
年の頃は20代。深くフードを被りあぐらをかいて座っている。右手には、赤い、紅い果実。その人にとっては、明日を生き抜く糧となる、まさに自分の一部。
がぶり。
何の前触れもなく噛み付く。落ちるのは、紅。赤。あか。
そして、笑う。嗤う。
静かに、そしてだんだん高らかに、そして楽しげに。
『フフッ、フッ…クックッハッ…フハハハハッアハハハハハッ』
だが、突然の来訪者により、それは途切れた。
ガンガンッ
『チカさーん?大家ですけどー!家賃の回収に来ましたー。』
築5年のマンションの一室を、荒々しく叩く音がする。
その人が、フードを脱いだ。切り取った左腕を大事に抱えその人は、いや、その男は言った。
『少し待ってくれ。今食事中なんだ。急がないのなら、明日にしてくれないか。』
いつもより、幾分低い声に疑問を抱きはしたが、さして気にする様子もなく大家は去って行く。
やがて、部屋は静けさを取り戻し、男はまた、静かに食事を再開した。
次の日の夜、とあるマンションの一室で、ある人が消えたとニュースになった。
…なぜ消えたとわかるかって?それはそれは簡単な理由さ。あぁ、いや待って。【消えた】じゃ誤解が生まれるね。消えはしたんだけど、消えたのは、その人の、体。正確に言えば肉。
部屋に残っていたのは、骨と頭。それ以外は、まるで削がれたかのように…いやいや歯型が着いていたんだから、食べられたかのように…かな。消えたのさ。
ありがとうございました。