家族
トラックは高速道路を抜けていく。
あぁ、疲れた。最初のうちはこんな闇社会になんか紛れ込みたくなかったが、今は
少し面倒に感じられるほど慣れた。
日本から航空機を使って輸出された
なにかよくわからない薬品を
これまたなにかよくわからない土地へ運ぶ。
アメリカも、もうこんな街になってしまったか。いや、そもそも日本ってこんなことする国だったかなぁ?
そんなことを考えていると眠気が襲っていた。おっと、おでこがハンドルにぶつかる。いけない、少し仮眠をとろうとパーキングへ行こうとしたが、知らないうちに
目の前は真っ暗だった。
☆★☆★☆
いつも通りすぎていく筈のニューヨークの夜が一瞬にして変わった。
トラックはハンドル操作を誤って高速道路から転落。中に入っていたタナミーが漏れてしまった。運転手は即死。地上は大パニックとなった。
次々と倒れてゆく人々。逃げまとう人々。
「救急車!お願いします!」
誰かが電話を掛けている。しばらくすると
救急車やパトカー、そしてNBC災害対策部隊が到着した。
慌てた様子で対策部隊が車から降りてくる。
「この感染力の低さ、それと毒性の強さ、おそらくタナミーです!」
一人の部隊が叫んだ。
「しかし、解毒薬は…。」
副隊長が言いかけたとき、隊長は叫んだ。
「車内にまだ解毒薬があるかもしれん!念のためそこの3人は本部から解毒薬を取ってこい!残りのやつらは薬品を探せっ。被害を最小限に食い止めるんだ!」
全員力強く返事をし各々行動に移った。
しばらくして一人の部隊が叫んだ。
「あそこに解毒薬があります!」
一人の対策部隊が叫んだ。トラックの中に
偶然2本の解毒薬が無傷で残っていた。
対策部隊は慌ててそれを撒き散らし、
なんとかタナミーの毒性を中和させることができた。
☆★☆★☆
『先日発生しましたトラック事故での死者は23名、うち1名が運転手の模様です。』
ニュースが日本でも放送されていた。
国原は不安に満ち溢れた表情でモニターを見つめる。
「しくじったな、あいつ。」
国原は加工音声男と通話していた。
『あぁ、全くだよ。CIAやらFBIやら、
邪魔くさいのくるんだろうな。』
「まぁ、仕方ないことだ。お前も少しは対策をしておけよ。」
『対策ってなんだよ。』
「いくらでもあるだろ。某消費者金融とかな、あと、例の秘書殺害事件とか。」
『そうだな。いざとなったら大久保も潰すか?』
「いざとなったらな。お前、自分の身のことも気にしておけよ。」
『あぁ、わかったよ。じゃあな。』
加工音声男は電話を切った。
☆★☆★☆
ICPOでは事件の翌日から緊急会議が行われていた。
「先日発生しました、NBC災害についての概要を説明します。…」
「概要なんかわかってんだ!とっとと
本題にはいれ!」
「誰だそんな口を利く代表者は!」
全く日本の国会と変わらない低レベルな会議をしている国際警察がそこにあった。
「あの偽善者国がどうりで裏でこそこそやっていやがった。犯人見つけて締め上げてやるっ。」
ある国の代表者は叫んだ。日本の評判ってこんなに悪いのかと日本代表は思った。
「日本代表も何か発言したらどうなんだ。」
その言葉で日本代表は立ち上がった。
「まだ、我々日本での犯罪と決まったわけではありません。事は慎重に捜査していくことが重要だと思いますが。」
辺りからは同情の声と反対の声が入り交じって聞こえてくる。日本代表は黙って席についた。
「大体アメリカはまたなんか企んでんのかっ。」
「CIAが絡んでいるとしか思えん!」
アメリカ代表者は立ち上がった。
「どこの国の代表者だそんな無責任なことをいったのは!」
そう叫んだ直後、後ろの扉が開いた。
一人の男が階段を降りて、壇上に立つ。
すべての国の代表者の視線が集まる中、
一人の男が口を開いた。
「私はCIA長官のジャン=クロード・ラングレンだ。この事件は我々の国の信頼を大きく損ねた。だから我々CIAでこの事件を解決させてほしい。」
辺りのヤジが止まらないなか、日本代表は再び口を開いた。
「私もそれに賛成します。我々日本の信頼を、そして同時にアメリカの信頼も取り戻すべく、我々は全力でこの事件を解決に導く。」
日本代表は高々と宣言した。ジャンは笑顔でこちらを見つめている。周りのヤジはひとつもなくなった。
この日本代表はこのあと、この事件に深く関わっていくことになる。
☆★☆★☆
CIA本部では今回の事件についての会議が行われていた。捜査官の一人であるレイは
緊迫した表情で席についている。
辺りが重苦しい空気のなか、ジャンは口を開いた。
「今回の事件についての捜査を行う捜査官を我々で決定した。今から派遣命令書を配る。」
レイの手元にもその書類が置かれた。
私は緊張をしていた。長官であるジャンは
私を選抜しているのだろうか。
いざ、と書類を表に向ける。
エヴァン、ココ、スティーブン、アレクシス…
自分の名前がないような気がする。
もう一度確認する。私は自分で言うのもなんだがベテランだ。
もう一度確認する。ない、ない!
8名の名前以外何も見つからない。
この事件は自ら絶対に捜査したい。
目玉が飛び出しそうなほど目を見開き、
私は会議後ジャンに問い詰めていた。
☆★☆★☆
焦げ暑いトラック事故の現場にレイはいた。警備員がガードを張っている中に入ろうとするとすぐに止められる。
「中に息子と妻がいるんです!入れてください!」
トラックは見覚えのある車に衝突していた。トラックは高速道路から墜落した直後、2台ほどの車を巻き込んだ。
担架にのせられた妻と息子が運ばれてくる。私は駆け寄るがお互い意識がなさそうである。
そのまま救急車に乗っていったのだがその間私はずっと泣き顔だった。
病院に到着するとすぐに処置がなされたが、妻は事故直後、タナミーを吸引し死亡。息子は偶然タナミーを吸引していなかったが、頭を強く打ち、植物状態が続いている。
私はこの事件が只の事故ではないと知った瞬間、必ずこの事件を解決に導くと決心したのだった。
☆★☆★☆
「長官、私をこの事件の捜査メンバーに入れてください!お願いします!」
私は頭を下げる。
ジャンは黙ってレイに話しかけた。
「頭をあげなさい。」
目を真っ赤に充血させて、レイは頭を上げた。
「そういってくると思っていた。だが、もし君が息子の傍にいてやりたいと考えていたら、そうしてほしいと思っていたんだ。」
ジャンは続ける。
「この事件は日本で行う。息子の状態を確認することはできない。CIA捜査官の腕前から見たら君を捜査メンバーに導入するかとは常識だが、君の大切な家族との仲を無理矢理には引き離したくないと考えたんだ。」
レイはとうとう涙をこぼした。
「気を使っていただき、本当にありがとうございます。しかし、私はこの事件を解決し、この苦しい現実をあなたは産み出してしまったということをわかってもらいたいのです。捜査メンバーに入れてもらえませんか。」
ジャンは笑顔で答えた。
「もちろんだ。私も実際に日本に訪問して全力で協力する。」
私はありがとうございます、ありがとうございます、何度も言い続けた。
☆★☆★☆
バックに荷物を詰め込んで日本に行く用意をレイはしていた。
出発の前にひとつよらなければならないところがある。
私は息子の入院中の病院に向かっていった。
息子は静かに眠っている。心電図がテンポを変えず穏やかに波打っている。
「父さん、日本に行って真実を確かめてくるよ。」
そこまでいって、我慢できなくなる。
思わず息子に抱きついた。
「ごめんな、近くにいてやれなくて。
でも、父さん本当のことを確かめなくちゃずっと心が苦しいままなんだ。」
長居するのが辛いので必ず帰ってくると
言い残し、湿っぽくなる前に病室を抜け、空港に向かった。
そこにはジャンや他の捜査官たちが自分を待っていた。
「レイ、仕事だ。」
ジャンは言う。はい、としっかり返事をし、私たちは戦場へ真実を確かめに向かい始めた。
☆★☆★☆
「金本さん。」
多田は呼びかける。金本は背もたれが異様に高い椅子に腰を掛け首をしたに向け腕を組ながら居眠りをしている。
「金本さんっ。起きてください。」
少し大きめの声で呼びかけると金本は驚いたのか反り返り背もたれに頭をぶつけた。
「なんだぁ、朝か。」
「夕方ですっ。」
多田はあきれた様子で言う。
金本は辺りを見回して言った。
ここはレインボー・ジャパン会議室であり、幹部7名が会議を始める直前であった。なぜか冷や汗をかいている幹部たちの前でなぜか神取と出目川は冷静だった。
大西もまだ多少冷静である。
「んじゃあ、始めるか。」
金本は椅子にしっかりと座り直した。
「これよりレインボー・ジャパン定例会議を始める。議題は借金の取り立てについてだ。見返済の借り手、まだ残っているよな。そいつら、誰が殺すか。」
全員に戦慄が走る。
☆★☆★☆
HAL細菌研究所のロビーのソファに高田は座っていた。テレビを見つめながら焦った様子である。
「稲葉!」
稲葉は素っ気ない返事をし高田の元へ向かう。
「近頃CIAがうちにくるかもしれん。」
テレビではCIA捜査官が日本に派遣されたことが報道されていた。
「でも、何かがおかしい。政府が入国を聞いているのは確かだし、アイツもこのことは聞いているはずなのに、なぜわざわざ報道なんか…。」
稲葉は黙って突っ立っている。
「とにかく、来たとしても余計なことは喋るな。PSYは全て坂本急便の倉庫に預ける。部下にPSYを触らないよう言っておいてくれ。」
「つまり、PSYの管理は私に任せてくれるということでしょうか。」
稲葉は冷静に答えた。
「まぁ、そういうことだ。俺は今から直々に島崎に頭下げてお願いしてくる。」
高田は着替え車に乗り込んだ。
後ろから二人の研究員は噂話をする。
「あの二人やっぱヤバイよ!」
「ねー。不倫、まだしてるのかなぁ。」
「バレたら稲葉さんやめると思うよ。」
「それもそうね。」
二人の話し声は稲葉には全て聞こえていた。不倫か…高田に不倫なんてあり得ない。そんなことより、高田はもう終わり。
変な研究につき回された日々からもおさらばできる。噂好きの二人組に聞こえそうな声量で稲葉は口を開いた。
「もう終わりね、高田所長。」
To be continued




