決意
『白神さんですか!?大変です!局長が心臓発作で…!』
私はいつの間にか体が動いていた。
「どこの病院だ?」
車のなかで私は尋ねた。
『川田総合病院です。』
私は夜10時に全速力で車を走らせた。
20分程度車を走らせ、慌てて中に入る。
ナースステーションに局長の病室を聞き、慌てて入った。局長は点滴を打っていた。意識はあった。
「局長!」
私は駆け寄った。局長は驚いた顔をしたが、やがて涙をこぼし始めた。
横では局長の妻も涙をこぼしている。
「悪いな。ちょっと出ていってくれないか。白神と2人で話がしたい。」
数人の社員が局長の妻をつれて病室を出る。
「お前が生きててくれて本当に良かった。こんなことになって本当にすまなかった…。」
そこまで言うと大俵は咳き込んだ。
咳き込みながらもすまない、すまないと局長は謝り続ける。
「あまり思い詰めないで、今はゆっくり休んでください。」
「私は本当に無責任な男だ…。お前のことを危険にさらして…。」
「僕は大丈夫ですから、局長は今の自分のお体のことだけを気にしていてください。」
「本当にすまない。」
その言葉を境に私たちはしばらく黙っていたが、局長は口を開く。
「…今のお前の状況だけでも聞いておきたい。」
私は局長がこの事業のことを気にしすぎて逆に思い詰めたら困ると思い、
私は局長に今の自分の状況について説明をした。
「私はこんな体で何も協力できず、すまない。」
「局長、今はなにも考えずゆっくり休んでください。必ず生きて帰ります。」
「…くれぐれも命だけは大切にするんだ。頼んだぞ。」
局長はもう一度涙を流したが、先ほどの涙とは少し違った。
私は病室を後にし、階段を降りてロビーに行くと薄暗いロビーに局長の妻がいた。
私は軽く頭を下げると妻は言った。
「少し、よろしいでしょうか?」
私ははい、と答えたあと、妻に向かい合ってソファに腰かけた。妻は常時ハンカチを握っている。
「あの人、何でもすぐ溜め込む人なんですよ。今回のことも、ストレス性の心臓発作で…。」
妻は続ける。
「症状は軽くて良かったんですけど…あの人、私に何も話してくれなかった。今日までは。」
私は焦った。妻にはなにもしてほしくない。計画が狂うという理由もあるのだが、
彼女には死んでほしくないのだ。局長の身寄りが居なくなってしまうような気がして。
それにしても、局長はどこまで話したのだろう。
時折ハンカチで涙を拭きながら話していた妻は立ち上がった。
「どうか、あの人のことをよろしくお願いします。あなたのことは心から信用しております。」
妻は深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。私は必ず局長のことを救い出してみせます。」
妻は微笑み、自動ドアから出ていった。
私は力の抜けたようにソファに座り込んだ。辛い。私はこの計画のことも、局長のことも全てしょいこんでしまった。
精神的にも肉体的にも限界に近づいてきた。
家につくと、私は知らぬ間にみくるに電話を掛けていた。
☆★☆★☆
押尾は自分の手を眺めた。電気の具合が悪い。大俵は入院してしまったため、定期的に薬品をもらえなくなってしまった。
本当は自分の書斎に薬品をおきたくないのだが、こうなっては仕方がない。
「もしもし。」
『何ですか?』
冷たい返答が聞こえる。そんな中にもなぜか可愛らしさが浮かぶ。相手は島崎美玲だ。
「大俵が事情でPSY運べなくなったんだ。20回分まとめて運んでくれるよう従業員に伝えてくれないか?」
頼むよ、と押尾は加えた。
『今こっちの事業が忙しいから無理です。』
きっぱり断られてしまった。
「…じゃあ、配達サービスの資金援助うちからも少しやってやるから。」
『結構です。』
どうしようか。私は悩みに悩んだ挙げ句、
最終手段に出た。
「じゃあ、いいよ。飯おごってやるから今日うち来いよ。」
島崎は何も答えなくなった。少し不味いかと思ったがその心配はいらなかった。
『それなら、今日あなたの家に薬持っていきます。』
「うん、ありがとう。」
私は電話を切った。島崎はバツイチだ。
この事業で最近知り合ってから食事に何度かいくうちに、お互い気が合い交際しているのだ。結婚も…この事業がよい方向に向かえばしよう。下手に動くとヤツを刺激することになってしまう。白神にどう動いてもらうか。
私は自分の車で帰路についた。今日は島崎が来るため定時で上がったのだ。
☆★☆★☆
「おかえり。」
押尾は言った。島崎が入ってくる。
私は紅茶を入れてテーブルに置いた。
「これ、薬です。」
島崎はアタッシュケースに入った薬を私に差し出して、ソファに腰かけた。
「表の事業はどうなんだ。」
「うまくいってます。あなたこそ、利用されてる立場なんでしょう?うまくいってますか?」
私はしばらく黙っていた。確かに利用され
立場ではある。
「うまくいってるといえば、うまくいってるかもな。」
ふふっ、と島崎が笑う。
「そうゆうプライドの高いところ、嫌いじゃないですよ。」
素直に大変だって言えばいいのに、と島崎は言い、お茶を口に運んだ。
「…国原の様子は?」
「おそらく指令通り動いているはずです。」
「指令って…あいつのことか。」
「はい。」
私もお茶を一口すする。
「国原に良いように使われていないか?」
「使われていようがいまいが、私の表の事業は国原さんのお陰で成り立っています。良いように使われても構いません。」
あなたと同じ気持ちです、と島崎は付け加えた。微妙に口元に笑みが浮かんでいる。
「あぁ、俺と同じ気持ちなんだな、お前も。」
部屋は異様に静けさに満ち溢れていた。
☆★☆★☆
白神と朴は再びスクランブル交差点にいた。人混みを避けて歩いていると、朴はすぐに見つかった。
「その格好、慣れました?」
朴は無視して歩いた。だが、しばらく歩いてこちらを向いた。
「慣れるわけねーだろ。」
それっきりお互いは黙ってリヴァージュに
行った。
再び陰の仕切りのついた席へついた。
ふぅ、と一息つくと装備を外しすぐに朴は話始めた。
「今日、この計画の裏の情報を読み込むための暗号化されたUSBを手に入れたんだ。」
朴は続ける。
「そのUSBを繋ぐところなんだが、異様に警備の厳しい地下にあるんだ。厚生労働省のビルの…。」
朴は黙ってしまった。だが、私は運動だけには自信があった。
「要するにそこを突破していけばいいんですよね?なら突破するまでです。」
私は自信たっぷりに発言したのだが、朴は困った顔をしてしまった。
「相手はおそらく拳銃を持っている。いや、絶対にだ。いくら運動神経の良いお前でも銃弾をかわすことはできない。それでなんだが…。」
朴は間をあけて、さらに真剣な顔をして言い放った。
「PSYCHICになってもらえないか?」
衝撃的すぎて何をいっているかわからなかった。
「…どういうことです?」
「だからな、PSYを飲んでもらえないか。」
私は突然課せられた難題に何を答えていいか分からなかった。いや、そもそも、この事件に関わってしまったこと、拳銃を持った相手に飛び込んでいかなければならないこと、全てから逃げ出したいような気がしてきた。
「わかった。PSYを飲むよ。」
頭と思っていたことと全く違うことを言ってしまい自分でも驚いた。
「本当にいいのか。ここまでいって言うのもなんだが、後悔しないか。」
もう逃げ出せない、この計画には立ち向かっていけなければならない。
後悔なんて絶対にしないと思った。
「後悔はしない。」
よし、と朴は2本粉薬を渡された。
「あんまり見られたくねぇからポケットにしまえ。」
私はすぐにチャックのついたポケットにしまった。
「いいか、薬の効果の説明をするぞ。
体膜と書かれているのが体全身に膜を張る。銃弾に打たれても死なないが衝撃は感じるから注意しろ。もうひとつは冷却って書いてあるだろ。」
私はポケットから少しだけ薬を出してパッケージを確認してから頷いた。
「それは体内から人間を凍らすほどの威力がある冷風を出す薬品だ。結構体力を使うからいざというときだけ使ってくれ。」
朴は続ける。
「あと、お前が人間離れした運動神経を持っているということは知っているが、
なるべく人は殺さないでくれ。」
わかりました、と私は答えた。
「俺は裏のシステム室からドアのロック解除していくから、そんときはこれで連絡を取るぞ。」
朴はトランシーバーを2台、ヘッドホンを1台取り出した。
「お前は動くからスピーカー付きのトランシーバーだ。おもちゃに近いから外部から盗聴されることはない。」
「あぁ、それはいいんですけど、どこの部屋にいったらいいんですか。」
朴は地図を広げた。
「ロックがかかったドアは3つある。一つは前室、もうひとつは吹き抜け付きの大きなホールだ。階段を降りたらもうひとつドアがあって、そこ抜けたらロックのかかっていないドアがある。入れば、コンピューターが大量に置いてあるが、一つ特徴的なUSB接続端子があるから、そこにこれを指してくれ。」
朴は私に丸めの形をしたUSBを渡した。
「今日はもう帰るぞ。」
朴は言った。
「はい、決行は明日ですね。」
あぁ、と朴は言い、先に出た。
私はICレコーダーのスイッチを切った。
最後まで、完全に朴を信用できなかった。
この薬品を飲んだら死ぬかもしれない。
でも思った。もともとこの計画に立ち向かっている時点で死と隣り合わせだったんだ。今更怖じ気づく必要はない。
明日真実が全て解明するんだ。
長かった闘いももう終わる。
私は決意した表情で店を出た。
To be continued




