連携
『俺はお前を殺さない。俺はお前に協力する。』
朴は全く訳のわからないことを話していた。彼は殺し屋なのに。
私をどこかへ連れ出そうとしているのか。
「じゃあ、解決に協力してくれるのですね?」
『もちろんだ。』
「では、この通話は全て録音されていると言ったら、あなたどうします?」
そこまで疑って要るわけでもなかったが、
あえて畳み掛けてみた。
『俺は事実しか話していないが。』
「仮にあなたが私を殺したら、このことは第三者が全て公にします。」
私は昨日、みくると相談していたのだ。
お互いの身になにか起こったらそれまでの
通話記録を全て公にすること。
『どこまで俺を疑うんだ。』
「私があなたの持ち物や会う場所を指定してよいのならあっても構いませんが。」
『まぁ、いいだろう。』
「はい、それなら、…」
☆★☆★☆
私は渋谷スクランブル交差点にいた。
防弾フォーマルシャツを着用し、ポケットにはICレコーダー、サングラスを駆けた。
かなりの人混みのなかで私は朴を探した。
こんな朴に格好させたら、警備員に職務質問されるかと心配したが、どうやらその心配はないようだ。
目の前にあきらかに朴らしき人物がおり、
思わず笑みがこぼれた。迷彩服にヘルメットを被り、美少女系のアニメのお面をつけている。私は人混みを避けながら歩き、朴の腕を強めに引いた。
「なんでこの格好なんだよ。」
朴はお面を外して怒りっぽく言った。
「これなら絶対朴さんだって分かりますもん。それに、お似合いですよ。」
「うるせぇ。俺は殺し屋なんだぞ。」
「まぁ、行きましょうよ。」
朴は再びお面をつけてそのままカフェに行った。
朴は薄々思っていた。白神は殺し屋だという私を前にしてなぜこんなに余裕なのか。
仮に私が裏切り者だとして…彼はどうするのだろう。私は裏切り者…いや、仮の話だ。これは。
2~3分歩くと洒落たカフェが一件立っていた。リヴァージュというお店である。店に入ると好きな席へどうぞ、と案内された。私は仕切りのついた一番端の目立たない席へ朴を連れていった。朴は席に着くと、すぐにヘルメットとお面を外した。
私もサングラスをとった。
そして、白神はロイヤルブレンド、朴はブルーマウンテンとそれぞれ注文した。
「ここだと周りの客から会話が聞こえなくていいんですよ。」
「あぁ、都合のいい場所よく見つけたな。俺がおまえを殺してもすぐに見つかる。でも、周りの客にはなにも聞こえない。」
「はい。事前にここはリサーチしておきました。」
二人の珈琲が届いた。甘い香りが鼻をくすぐる。
「あぁ。ただ、お前死んだことにしておかなくていいのか。関係者に見られたら終わりだぞ。」
「その時にはあなたが私を殺すタイミングを見計らっていたと言えば十分でしょう。」
「あ…あぁ、そうだな。」
朴はやはり思う。白神はなぜここまで冷静なのかと。実は朴自分自身が白神に裏切られているのではないかと。勇気を出し、朴は聞いた。
「俺、お前のこと敵じゃないかって疑ってるんだ。」
率直に言ってしまい白神からどんな返答が返ってくるか心配したが、あまりにも意外な答えが返ってきた。
「実は僕も疑ってます!朴さんがやっぱり敵なんじゃないかって。」
朴はまさかの返答になぜかライバル心剥き出しにした。
「なんでだ?殺し屋前にしてそんな冷静でいられねーだろ普通。実は関係者から別に命令されてるんじゃないか?」
白神も負けず反抗する。
「朴さん陥れる理由なんかないですよ。それに、殺し屋のあなたを疑わない方が異常でしょうが!」
「じゃあなんでそんなに余裕なんだ?」
「なんで殺し屋なのに味方なんですか?」
話が原点に戻ってしまった。
「敵はお前だ!」
「あなたです!」
周りの客の視線が一気に集まる。
二人は恐る恐る少し頭を下げた。
「まぁ、誰が犯人か分かんないんだ。
お互い疑心暗鬼になってるだけだろ。」
朴はそうまとめた。
「そうですね。きっと。」
「今日はここまでにしておこう。次会うときまでに俺は色々調べておく。」
「私も調べておきます。」
そう言って朴は立ち上がった。 だが、私は動こうとしなかった。
「どうした?行かないのか?」
「私はもう少しここにいます。支払いも私がしておきますので、先どうぞ。」
「あぁ、サンキューな。」
朴が店を出ていったのを確認すると私はレコーダーのスイッチをOFFにした。
これから何を調べよう。そんなことを考えながら私はサングラスを掛けて店を出た。
☆★☆★☆
未来開発本社では、大久保や竹田、田畑三人での会議が行われていた。
「とりあえず、第一期の工事は終わった。ご苦労様。」
竹田はなぜか挙動不審である。
「具合でも悪いのか?」
大久保は尋ねたが竹田はいえ、と首を振るばかりである。
「…まぁ、話っていうのは第二期工事のことなんだが、クロノスにはもう依頼済みだ。なにか追加したい件はあるか?」
そこまで言ったとき、突然大俵が入ってきた。汗だくである。
「どうされました?」
大久保が問う。
「大変だ…」
☆★☆★☆
大俵は応接室で大久保を待っていた。
10分程度待つと大久保が戻ってきた。
「どうしたんだ?大俵。」
大久保は向かいのソファに腰かける。
大俵はうつむき気味にこの計画のことを全て話した。
「…ということなんだ。」
大久保は少し黙っていたが、しばらくして口を開いた。
「どうしてもっと早く言ってくれなかったんだっ。白神の命がかかっているというのに。それに、俺ら一緒にこの計画を成功させようと言ったじゃないか。」
「すまない…」
大久保はかなり焦っていた。
「そうか…。押尾はやっぱり裏があったか。」
「どういうことです?」
「あいつ、外車やたら持ってるんだよ。
なんでそんなに持ってるか聞いても、あいついつも曖昧なこと言って誤魔化すんだ。」
「はぁ…。」
父の計画がまさかこんなことになっていたとは思いもしなかっただろう。
「まぁ、今はこれからどうするかを考えよう。密輸があるんなら、国原にあたったらいいんじゃないか?」
「俺が当たってみるよ。」
「あぁ、頼んだ。俺は押尾に当たってみる。あいつはおそらく主導者なはずだ。」
大久保は驚いているだろう。押尾がそんなことを考えていたということに。
「押尾はPSYCHICだ。気を付けた方がいい。」
「わかった。」
「今日は突然悪かったな。」
「大丈夫だよ。一緒にこの計画を正しい方向に導こうじゃないか。」
確か、白神も同じことを…。
私は涙が出そうになった。彼は情熱と優しさに溢れた秘書だった。そんな秘書がもういないかもしれない。死後とにも来ていない。他の社員には別件での研修と言ってあるが、いつバレるかもわからない。
白神…
俺を酔っぱらいから守ろうとしてくれた。
押尾に薬を届けるなんて馬鹿みたいなことをしていた俺を真剣にケアしてくれた。
そんなことを考えると、私は胸が苦しくなった。苦しいというか、痛い。胸を押さえ、深呼吸をした。
「大丈夫か?無理するなよ。」
「あぁ、少し疲れただけだ。」
そこまで言って、私は咳き込んだ。
大久保は背中を叩く。
白神のことを考えれば考えるほど、咳は止まらなくなっていった。
☆★☆★☆
財務省ではまた、国原がパソコンで作業していた。電話が掛かってくる。
「もしもし。」
『俺だ。』
また加工されている。
「例のヤツ、今日動いたんだが厄介なことになりそうでよ。」
『そいつのことか。こちらで全て監視しているが、今日は変化がなさそうだぞ。』
「どこかで情報が行き違えたな。確認しておくよ。」
『わかった。』
「くれぐれも大久保は巻き込むなよ。あいつがこの計画の裏を知るとおそらく俺らのことを調べてくる。」
『当たり前だ。あいつは真面目だからな。』
「あぁ、じゃあな。」
国原は電話を切り、少し笑った。
事はうまく進んでいる。
☆★☆★☆
白神は自宅で今日の会話のカセットテープへの変換、またPSYの研究をしているHALについて調べていた。
生まれたときから一度もこんなことするとは思っていなかった。普通の生活に戻りたい。でもみくるとの結婚のことを考えるとそんなことすぐに忘れた。
朴のような裏社会に精通しているものからしてみればPSYを研究している研究所等、すぐに分かるらしい。
いくつか教えてもらったが、ここが一番大規模である。所長、高田吉彦…。
そこまで見たとき、誰かから電話が掛かってきた。社員である。念のため録音機のスイッチを入れて電話に出た。
「もしもし?」
社員はかなり焦っていた。
『白神さんですか!?大変です!局長が心臓発作で…!』
To be continued




