別離
『局長ってもしかして、俺を殺すつもりなのか…?』
あのファイルを見てしまった翌日。
私はもう覚悟を決めていた。
「局長。」
昨日と同じく、慌てた様子の大俵に私は話しかけた。
「探し物らしきもの、ありましたよ。」
局長はありがとな、と黒いファイルを取り、またもや一人でアタッシュケースを持って出掛けようとした。
「局長、中身見ました。」
局長はこちらに背を向けたままである。
「局長、僕のこと殺すつもりなんですか?」
私はファイルの中身のことを全て説明した。
PSYの取引データが書かれていたこと。
過去の秘書が4人も殺害されている事実。
「なんのことだ。」
「局長、この計画はいったい何が目的なんですか?」
局長は背を向けたまま話した。
「この計画はお前の想像しているものを遥かに越えるような強大な力で動かされているんだ。これ以上かかわろうとするとお前の命もなくなってしまうことになる。」
局長は出ていこうとした。
「局長!」
局長は歩みを止める。
「僕は自分の力でこの事件を正しい方向に導きます!」
局長はなにも言わずにどこかへ出掛けていった。
☆★☆★☆
財務省本部に国原はいた。
パソコンで焦り気味に作業をしている。
「もしもし。ファイルを送ってくれ。」
数秒後、パソコンにひとつのメールが送られてきた。添付されたファイルを開くと、
PSYの密輸データが乗っている。
彼は財務大臣である。よって、国の資金の改ざんを何者かによって命令されているのだ。
「これで…いいのか…?」
『あぁ、それでいい。』
加工された声で、相手は返事した。
国原はパソコンの電源を落とし、大きなため息をついた。
☆★☆★☆
「お前、白神にバレただろ?」
押尾は大俵を睨み付ける。
大俵は押尾にPSYを届けていたのだ。
「いえ…」
大俵はそれしか言えなかった。
白神は押尾になにかいったのだろうか。
「お前って鈍感だよな、本当に。」
彼は自分のスマホを出して、大俵に見せた。
「…どういうことだ?」
大俵がこう言った瞬間、彼は驚愕の表情をした。自分の声が押尾のスマホから聞こえてきたのである。
「お前、自分の携帯出して見てみろよ。」
自分のスマホを出してみると、通話状態になっていた。
「丸聞こえなんだよ。」
押尾は、誰かに電話をし始めた。
「もしもし。殺しの依頼だ。」
大俵は白神が殺されると察した。
「やめろ!」
全力で止めにかかるが、止められなかった。
『依頼の目的は?』
「ちょっと待ってくれないか。後でかけ直す。」
大俵は押尾に掴みかかった。
「人の命をどこまで粗末にしたら気がすむ!?」
押尾は表情を変えぬまま、手でコインを弄んでいた。
「いっとくが。」
押尾はそこまでいって、体全身に静電気を起こした。
「俺、PSYCHICだからな。」
大俵は悲鳴をあげて倒れこんだ。
押尾はコインを持ってこちらに歩いてくる。
彼は磁場操作、雷生成のPSYCHICであった。
雷生成では体全身に静電気を起こすことができ、
磁場操作ではコインなどの金属の電磁波を操り、銃弾並のスピードで飛ばすこともできる。
よって、拳銃よりも殺傷能力が高い。
「やめろ…!」
押尾はにやつきながらこちらへ歩みより、
えりを掴んだ。
「前から試してみたかったんだ。」
不気味な笑い声でコインをこちらに向けた。
「なんてな。」
押尾は再び立ち上がり、電話をかけ始めた。大俵には、もう抵抗できなかった。
☆★☆★☆
明かりが薄暗い雑居ビルの一室に朴はいた。
『あぁ、わりぃ。』
「で、目的は?」
『んー、計画がバレたから?』
「まぁ、いいだろう。ターゲットの名前や、行動ルートを全部教えてくれ。」
押尾は白神の名前や行動ルートを説明した。
「銃は?」
『持っていない。』
「承知した。」
朴は電話を切り、机に置いてあったダブルアクションリボルバーに装弾を行った。
☆★☆★☆
「おかえり。」
白神が家に入るとみくるはヤドカリに餌をやっていた。
「あぁ。」
白神はネクタイを外し、みくるに渡した。
すぐに冷蔵庫からビールを取りだし、ソファに座って飲み始めた。
どうしたの?疲れてるの?とみくるは私に問いかけたが、答えるのが面倒なので黙ってビールを飲み続けた。
すると、みくるはこちらにコップを差し出していた。
「ちょっとでいいから。」
私はみくるの持っているコップにビールを注ぐ。
注ぐ。
もういいと言うみくるを無視して注ぐ。
溢れる。
こぼれる。
「何してんのよ、もう!」
びちょびちょとビールが汚い音をたてて床にこぼれる。みくるは大雑把に床をふいた後私の隣に座り問いかけた。
この感覚、どこかで…。
そういえば、大学生のとき、まぁ、今から6年前に何人かの友達で家に遊びに来たことがある。みんな帰ったのにみくるだけが残って、ソファに座って告白したのだ。
あぁ、懐かしい。
「最近どうしたの?なんか様子おかしいよ。」
私は話した。
「今、全官僚で行っている事業があるんだ。」
「新東京なんだかっていうの?」
「そうそれ。それ…なんか裏があるらしくて、知ったら殺されてしまうぐらい危ない計画らしいんだ。」
「うん。」
「もしかしたら、今俺は命を狙われてるかもしれない。」
「え!?」
「それで、俺はその計画を自分の力で解決したいんだ。」
みくるは黙りこんでしまったが、私は続けた。
「だから、君とは少しの間離れなければならない。」
「どうして?」
「交際してることがバレたら、情報が漏れないようにと、君の身に何か起こったら困る。」
「もし…」
みくるはこちらの瞳を見て話はじめた。
「もし誠也がその計画を解決したいんなら、私も協力する。」
「でも、みくるの身になにか起こっても…。」
そこまで言うと、みくるは私の手を握った。
「いつも二人で一緒に頑張ってきたじゃない。誠也が困ってるんなら私協力するから。」
私は小さくうなずいた。
「じゃあ、俺からもひとつお願いがある。」
「何?」
いつ言おうかずっと悩んでいたんだ。しばらく別行動をするなら、もうこのタイミングしかないんだ。私は胃を決した。
「この計画、二人で解決したら、結婚しよう。」
時が止まる。
☆★☆★☆
みくるが子供の頃。
両親はみくるを産んでからすぐに離婚し、母に育てられた 。母は一人っ子のみくるに自分の愛情を全て注いだ。
ことが起きたのはみくるが小学4年生の時である。
みくるはいつものように学校に通っていると学校から電話を受けた。
お母さんが事故に遭って病院に運ばれた…!
祖父の車が学校前に止まっていた。
みくるは頭が真っ白のまま祖父の車に乗っていった。
病院に着くと母は静かだった。
☆★☆★☆
みくるは涙をこぼした。
「うん」
やっと家族ができる。みくるはもう一人ではなかった。白神誠也という家族ができたのだ。
「でも、しばらくの間はお互いに別の情報を集めよう。」
「わかった。」
お互い何も喋らなくなったので、私は手を叩いた。
「よし!早く式を挙げられるようにどうやってこの計画を解決するか相談しようよ!」
「うん!」
みくるは泣き笑いの表情で頷いた。
☆★☆★☆
翌日。
私は少し大きな買い物をした。
防弾フォーマルシャツと携帯通話録音機。
それに、数本のカセットテープ。
通話記録はデジタルだと複製したと疑われる可能性があるため、わざわざアナログなカセットテープを買ってきたのだ。
帰って携帯と録音機を無線接続すると、早速誰かから電話がかかってきた。非通知である。
昔は非通知の電話には出なかったのだが、
今は出ない訳にはいかない。
「もしもし。」
『白神誠也か?』
「はい。」
『俺は朴という殺し屋だ。』
「殺し屋?」
『あぁ、そうだ。』
なにがなんだかわからなかったが、私は冷静に対応した。
「事業のことですか?」
『あぁ。その関係者からお前を殺すように命令された。」
おそらく局長のことだ。
「私を殺さなければならないのに、なぜ電話を掛けてきたのですか?」
この通話は全て録音されている。
証拠は必ず残る。
だが、朴の口からは意外な言葉が発せられた。
『俺はお前の味方だからだよ。』
意味がわからなかった。
『俺はお前を殺さない。俺はお前に協力する。』
To be continued




