殺気
暗い暗い森の中。
そんな中に小屋がある。
二人の男はその小屋で、
お互い怒鳴りあっている。
一人の男は拳銃を、
構えて男を狙ってる。
一人の男は泣き叫び、
自分の無罪を主張する。
男は彼を構わずに、
銃で頭を撃ち抜いた。
帰り血を浴びた男は、
その場にコインを置いていく。
早くこんな辛いこと、
終わってしまえばいいのにと、
帰り血を浴びた男は、
自分の帰路についてゆく。
世界は一部の人間が、
全て動かしていくのだ。
PSYCHIC -underworld-
高田はHAL細菌研究所の前まで来た。
いつものように自動ドアから中に入っていく。
「今日はPSYの管理は所長がなされるんですか?」
玄関ホールで稲葉は高田に問う。
あぁ、今日はな。と、無愛想に高田は返事した。稲葉もそうですか、と無愛想に答える。研究員のなかでも2人の仲の悪さは有名だ。
少し離れた位置で2人の女性研究員が小声で話をしている。
「なんかあの2人いっつも雰囲気悪いよね。」
「意外に所長が不倫してるから、外では無愛想にしてるのかもよ?」
「それはないよ、きっと。所長はそういう人ではないって。」
「どうかね」
高田は小声で話している彼女らの会話は
すべて聞こえていた。不倫か。不倫するほど恋愛に熱中してみたいものだ。
私は根っからの仕事人間だから、不倫どころか今の妻にすら興味がない。もちろん、
子供にも。
私はさっさと服を着替え、エアシャワーを
浴びた。その先には大量の機械、薬品がおかれている。そう、これだよこれ。
私が今まで研究してきたものを、まぁ、このような形だが、人の役に立つことはできた。彼は磁場操作、雷生成と書かれた薬品をそれぞれ2本取り、アタッシュケースにしまった。
その後、もう一度エアシャワーを浴びた後、着替えてホールへ出た。
「稲葉、薬品の数と薬品の様子のチェック、終えておいたぞ。あと、別件で出掛けてくるから、後頼んだ。」
稲葉は、はい、と無愛想に返事をしてから、高田が車に乗っていったことを確認すると、忙しく仕事をし始めた。
☆★☆★☆
とある、帝国ホテルの会場では、新東京開発計画の第一期工事が終了したことを報告するパーティーが行われていた。とても巨大な会場には、多数の有名企業の社長や、
これでもかというほどの量のマスコミが集まっていた。
会場のステージでは、総務省行政管理局局長の大俵が会見を行っている。
「我々官僚は、日本国民や東京都民が安心して安全に暮らせる街作りをしていく所存であります!」
辺りから拍手がわき上がる。
局長の秘書である私、白神誠也は、手のひらが痒くなるほどの拍手をした。
「続いて、押尾久さん、一言よろしくお願いします。」
押尾は、少しだるそうな態度でステージに上がる。
「えー、この事業が成功に近づいてきているのは、他でもない皆様のおかげです。
皆様に感謝申し上げると共に、これからもなにとぞご協力してくださるよう、お願い申し上げます。」
声のトーンをあまり変えず、無感情に少し早口で話した。
辺りからは先ほどよりも元気のない拍手が
起こった。私も同じく、あまり拍手をする気にはならなかった。
「…えー、では最後に未来開発社長の大久保さん、一言よろしくお願いします。」
大久保はステージに上がる。
「先日、社長に就任しました、大久保です。突然ですが、私はこの計画にとても思い入れがあります。それは未来開発元社長、私にとっては亡き父の生前に成功できなかった事業だからです。父は生前、私に言いました。俺の命はもう後少しで尽きる。だから、お前の手でこの東京を世界一安心に暮らせる街にしてくれ、と。
私はこの思いを受け継ぎ、この事業を成功させます!皆様のご協力よろしくお願い申し上げます!」
辺りからは再び大きな拍手が舞い起こる。
私はこの事業にさらにやる気が沸き起こった。
「大久保さん、ありがとうございました。」
司会がそう言うと、辺りの人々はざわざわと談笑を始めた。大久保はワインを片手に挨拶に来る人と忙しく握手をしている。
私はああいう風に常に笑顔で振る舞っていることは得意ではない。おそらく彼もそうであろう。
また、大俵は、別の会社の常務と話をしている。あれは、確かクロノスの人だったか。未来開発の子会社だ。
私は、押尾と他の社長が何人かで話しているところに紛れ込んで、グラスに入ったワインをちびちび飲んでいた。周りが大物過ぎて、気を遣ってあまり喋られない。
すると、押尾がちょっと失礼します、と彼の秘書のところへ歩み寄った。そこにいた数人はそのまま談笑していたが、私は彼の様子を目で追ってみた。
「おい、煙草。」
はいっ、と秘書は煙草を取りだした。
「…ライターは?」
秘書は慌ててライターを押尾に渡した。
「ライターねぇと煙草吸えねぇだろっ。こっちは周りに気ぃ遣ってストレス溜まってるっていうのに、これ以上イライラさせんなっ。」
秘書はオドオドして謝った。押尾は煙草を手にして会場から出ていった。
あの人がなぜ厚生労働大臣なのか、私には全く分からない。
「あぁ、少し失礼します。」
続いて、大久保も抜けたので、私はなんとなく彼について会場を出た。
☆★☆★☆
目の前には押尾が煙草をふかしていた。
おぅ、と彼は私にいった。お疲れ様です、と私は言い、そのままお手洗いに行こうとしたのだが、
「白神、だったか。お前大俵の秘書だよな?」
はい、そうですが。と彼の方に体の向きを変える。あまりこの人とは話がしたくない。
「お前んとこの局長、ストレス溜まってるっぽいぞ。ちゃんとケアしてやれてんのか?」
私は私なりではあるが、局長には最善を尽くしてきたつもりだ。それをこんな人に…とは思ったのだが、相手は厚生労働大臣だ。下手な口きいて、後々嫌な思いをさせられても困る。
「私なりではありますが、局長には最善を尽くしてきたつもりです。それに、私はいつか局長のような人になりたいと思っています。」
そうか、頑張れよと言い、押尾は煙草を灰皿でもみ消した。私は、下手な口をきいてはいけないという意識はあったが、今の自分の本心を述べたつもりだ。
お手洗いに行くと、大久保が鏡を見ながら顔のストレッチをしていた。手で顔の頬を上げたり下げたりしている。私は邪魔してはいけないと思い、素通りして小便器へ向かったが、大久保が先にこちらに気づいたようで、話しかけてきた。
「いやぁ、やはりこういうことには慣れていなくてね。笑顔振る舞っていると、顔がひきつってくるんだよ。君もこれから、こういう機会が増えてくるから、慣れておいた方がいいぞ。」
「はい、今のうちに慣れておきます。」
頑張れよ、と彼はお手洗いを出ていった。
パーティーが終わり、私と大俵は控え室にいた。
「局長の一言、とても感動しました。」
そうか、と局長は上機嫌だ。少しお酒も回っている。
「今日、サシでどうだ?俺が奢ってやっから。」
大俵は手でコップをかたどり、飲むジェスチャーをしている。
奢りだなんて、と遠慮しようとしたが、
せっかくのお誘いなので、言葉に甘えて奢ってもらうことにした。
☆★☆★☆
白神と大俵は銀座を歩いていた。
たくさんの居酒屋のネオンが辺りを照らす。
「俺、割と店ハシゴすんの好きぢゃないんよ。あ、あれなんかどうだ。」
彼は華月という店を指差した。ここらではかなり有名な居酒屋だ。
「いいんですか?こんな高級なお店…」
「もちろんだ。遠慮するなよ。」
局長の好意を無駄にしてはいけないと、今日はとことん付き合おうと私は思った。
☆★☆★☆
二人ともほろ酔い程度になってきたところで、大俵は事業についての話を始めた。
「大久保はなぁ、俺にいったんだよ。
父の願いを叶えたい、ってな。感動するだろ?」
私が返事をする間もなく彼は続ける。
「それでな、俺は言ったんだ。俺の優秀な秘書もきっと協力してくれるさって。」
彼は日本酒をお猪口に注いだ。
優秀な秘書…押尾は間違っていた。
局長はこんな私を優秀な秘書だと思っていてくれたのだ。
「おい!飲むぞ飲むぞ!」
勢い良く扉が開いた。そこには、酔っぱらった男となだめ役の男が2人入ってきた。あぁ、めんどくさそうだ。
「あ?お前どっかで見たことあるな。」
酔っぱらいは私たちのところへふらつきながら歩み寄ってきた。
帰りましょう!となだめ役の男は言う。
酔っぱらいは言うことを聞かない。
「新東京なんだかかんだかってやつの?
事業管理してるやつか?アホみてーなことしやがって。裏でこそこそ金回してんだろ?」
私は大人げないが、酔っぱらいの彼に本気で怒っていた。
「あ?オメー何こっち見てんだよ。」
私はおそらく怒りが表情に出ていたのだろう。局長は俯いている。
「事業や局長のことを悪く言うのはやめてください。」
いざとなったら私のほうが力はある。
私はこう言ったことによって殴られることは覚悟していた。
「お前、やる気か?表出るか?」
いい大人が情けない。
「構いませんよ。」
局長は止めようとしたが私は怒りが頂点に達していたのでそのまま表に出た。
人通りは少ない。酔っぱらいはふらついている。
「オメェ、それなりの覚悟はあるんだろ?」
「もちろんです。」
そう言った途端、彼は右ストレートで殴りかかってきた。スローモーションのように
拳を作った手が襲ってくる。
私はその手を力づくで掴む。腕が震える。
そこそこの力はあるじゃないか。
「てめぇ…」
酔っぱらいの力が弱まってきたところで、
私は足を酔っぱらいにうまく絡め、酔っぱらいに背中を向ける姿勢になった。
ベルトを掴み、思いきり地面に降り下ろす。見事、体落としを決めた。
もちろん、彼の袖は掴んでいる。怪我をしないように手は抜いたつもりだ。
「痛ててて…」
「あぁぁぁ、すいませんでしたあぁ…!」
なだめていた男はかなり焦った様子で、酔っぱらいの腕を担いで逃げていった。
あぁ、局長になんて言われることか。
店に戻って、私はすぐに謝った。
「局長、あと、店員さんも。
お騒がせしてすいませんでした。
頭に来てしまって、ついやってしまいました。」
私は深々と頭を下げた。局長の怒声を浴びるかと思っていたが、局長からは意外な返答がかえってきた。
「いやぁ、ありがとう。今の行為が正しいとは言わんが、俺は感謝してる。」
店員も笑顔だ。私が今、暴力を振るったことは正しくはない。だが、少なくとも局長が殴られることは阻止できたはずだ。
でも、もう暴力は振らないようにしよう。
私は心に決めた。
☆★☆★☆
「ただいま。」
家は暗かった。みくるは今日は来ていないのだろう。明かりを付けるとテーブルには
メモ用紙が置いてあった。
『鍋にポトフ作っておいたよ!みくる』
キッチンの方を見ると、大きな鍋が置いてあった。ごめん、みくる。今日はいらないって連絡するの忘れてた。明日食べるよ。私はシャワーを浴びようとネクタイを外した。
☆★☆★☆
朝、私は早くに目が覚めると、みくるが昨晩作ってくれたポトフを食べ、少し早めに出勤した。普段は満員電車で出勤するのだが、今日は久々に自家用車で出勤をした。
たまには車を運転していくのもよい。
30分程度車を走らせて総務省本部に到着した。
おはようございます、と行政管理局局長室に入ると局長は忙しそうになにかを探していた。
「探しましょうか?」
「いや、大丈夫だ。」
彼は何か挙動不審だった。
「白神、今日は上がっていいぞ。俺だけで何とかなるから。」
局長はアタッシュケースを持って、慌てた様子で出掛けていった。
私はどうしていいか分からないままとりあえず、辺りを見回した。局長が探していた物って何だったんだろう。すると、白いファイルの下に黒いファイルがあることに
気づいた。これか?私は中身をチェックした。
「嘘だろ…」
そこには、私の目を疑うような事が書かれていたのだった。
『局長ってもしかして、俺を殺すつもりなのか…?』
To be continued




