まさか、これが真相。。。
まるで異常気象のごとく最後の最後まで延々と灼熱の日々が続いた、この夏。平穏だったファーストフード店内から始まった一つの小さな物語は、再びその場所で終わりを告げようとしていた。
座る席も以前と変わらず(注:よくマークされてなかったと思う)、服装も大して変わらず、まるで以前の時に戻ってしまったかのような(注:実際、なかったことにして戻したいと思う)雰囲気の中。
しかしこの四人の一帯はまたしても、突如として刹那の緊張が走り抜けていたりするのだった……。
「と、突然何を言い出すのかな? 斉藤よ」
やがて沈黙をのっそり断ち切るように、上杉氏が尋ねる。
「だって、撮れちゃったんだもん」
「い、いや。撮れちゃったって」
しかし天真爛漫斉藤ちゃんは、まったく意に介せずはきはきと応える。と、もう一人まったく意に介せない織田嬢が話を引き継いだ。
「いいじゃない、別に。見せてご覧なさいよ」
別にここへ集められたわけでもなく、自然の成り行きで入店した昼食の席上なのである。よって目的は昼食なのである。
まさかここで、再び斉藤ちゃんの突発的な爆弾発言を受けてしまうとは思わなかった。完全に全員が油断していた瞬間だったのだ。
しかしまったくもって斉藤ちゃんは悪びれた様子も見せない。そもそも、普通昼食の席上でする話ではないだろう。とくにあの最後の悲劇、わたしがイカ墨スパを克服するためにどれだけ苦労したと思っているのか。
そして悲しくも、そういう無言の猛抗議は、やっぱりというかまったく意味を成さなかった。わたしを除く三人はそういう考えは一切なかったらしく、斉藤ちゃんの出した一枚の写真をとりかこんで真剣に眺めている。
わたしも仕方がないので、心の中で涙を流しつつ、その輪の中に加わることにした。
「これは……、トンネルに行く前のね」
「暗いなぁ、ちゃんとフラッシュたいたのか?」
「えっと、失敗したかも」
織田嬢が珍しく真面目にコメントしているのに、この二人が口を開くと見事に脱線する……。たしかに、わたしも暗いなと思ったけども。問題はそうじゃなくて。
「って、そうじゃないでしょ。これのどこが心霊写真なの?」
斉藤ちゃんが見せてくれた写真は、夜道がまっすぐ奥にむかって伸びている何の変哲もない一枚だった。と、わたしの問いに対して、斉藤ちゃんは写真の真ん中付近からちょっと右、道の端を指差す。
まわりも暗いので分かりにくいが、その部分は確かに人のような影っぽいのが写っていた。
「あーあれだ。ほら、行く時すれ違ったやつだよ、これ」
「そうね。黒っぽい服だったから見えにくいけど、確かにそうだわ」
上杉氏とわたしが揃ってつっこむ。微妙に早口になりつつ。しかし必死さがこもった否定を斉藤ちゃんは、
「うん、そう」
あっさり肯定する。え、逆に? それ以外に問題が? 手強い……。でも負けない!
「でも、それだけよね。実際に人だったんだから、なにもおかしいことはないでしょ?」
「えっとね、その……」
意外な展開に戸惑いつつ、わたしはさらに問題のないことを強引に確定させようとする。事なかれ主義万歳。
「……なるほどね」
続けて織田嬢が写真に手を添えて、そう一言呟いた。何かに気づいたらしいということをわたしと上杉氏は察して、その後の台詞に耳を傾ける。
織田嬢の言葉は、一筋縄ではいかない。じっくり聞いて、慎重に手を打たねば。そう、わたしと上杉氏の視線が合って頷きあったかは、定かではない。
しかしその言葉に、二人同時にはっとなった。
「つまり、何かが写ってるんじゃなくてね。写ってるはずのが写ってないのよ」
「……あっ」
「おぉっ!!」
そう、良く考えてほしい。途中ですれ違ったのは、一人じゃなかったということに……。白っぽい服で髪の長い、綺麗な女性。この女性が写真にはまったく写ってなかったのだ。
「……ほ、ほら、一人だけ先に行っちゃったとか」
「う~ん、撮る時は見えてたんだけど」
「誤作動とかだろ」
「同じのが時間差で数枚あったりするんだけど」
「……」
否定できそうでいまいちだけど、確証は全然ない。この小さな物語が残した小さな謎は、真相は闇の中っていうことで落ち着いた。
とくにお焚き上げとかはしなくてもいいでしょ、という織田嬢の言葉だけが救いである。そしてわたし達は何事もなかったかのように食事を終え、ファーストフード店を後にした。
とりあえず、またここに来るのは、やめておこう。そんなことを考えながら……。
完結。