実録、心霊スポットばすたぁ♪(2)
結局は、恐れていたことはすべて起こったのだった。
と、しばし回想調に始まる。
目的の仲哀トンネルは意外となかなかに距離があって、その途中何度も崖崩れの現場をわたし達は通りぬけた。予想以上の困難に全員目的地目前となる頃には、休憩を余儀なくされてしまっている。
帰りも通ることを考えると、ちょっとつらい。
しかし、誰も戻ろうとはしなかった。さすが我ら、といいたいところかは別として、現実はとても切実な理由だったりする。考えてみよう。明かりなどあるはずもない山道、しかも昼間でさえ不気味だったであろう山道、後ろを振り返ることすら勇気がいるというものだ。
そう、とっても怖い、正直……。
そして『誰がこんなことやろうって言ったのまったく』と責めることの無意味さまでわかっている悲しい現状では、もはや全員黙々と歩き続けるだけだった(注:歌とか歌うなんていうのは人のプライドが許さない、断じて)。
さらに幸いといっていいのか、と問うのは愚問に過ぎるけど、それなりに道すがら様々なイベントもあったのだった。というか、あってしまったのだった……。
ほんとなくても良かったのに。
一つはお決まりというか、お約束というか、どこの心霊スポットにも大抵ありそうな朽ち果てた公衆トイレ。発見してしまった斉藤ちゃんは、後でこっそり織田嬢からサルミアッキ(注:世界一○○○飴)が贈呈される。いつもいつもいつも余計なことを。
ただこのトイレ、朽ち果て具合が相当に酷いらしく、その場所へと向かう脇道さえ草に埋もれてしまっていた。
内部の確認と写真撮影は上杉氏がかって出てくれたが、戻ってきた彼の感想は、
『もう便器すらなかった』
というなんとも微妙なコメントだった。
ほんとすっごい微妙。
それをどう評価するかは自由に任せる、というかもうスルーとして。ここは後に聞いた話によると、過去に焼死体が発見されたとかで有名な場所だったらしい。……上杉氏の冥福を祈ろう。
もう一つはこんな場所に、私達以外にも道を歩く人がいたということ。まぁ、確かに私達が車を止めた路肩にはもう一つ車があった。その車の人なのだろう、多分。
だけど、よく考えてほしい。こんな場面で前方の闇から突然ふらっと現れれば、普通は誰でもびっくりするはず。断じて。懐中電灯持ってようが関係なく。断じて。
ついでにその懐中電灯の光を勝手に誤認して、
『あ、ひとだま!』
とか叫んだ斉藤ちゃんは、後でこっそり織田嬢からロシアンダーク99(注:世界一○○○チョコ)が贈呈される。悪気がないなんてシラナイ。人は不条理で成長するものよ。迷惑甚だしい。
実際に、表情まで窺い知ることはできないけれど全員がその場で固まってしまっていた。寿命が縮まったかも知れない。外見も若くなればいいのに。それはともかく。
歩いてきたのは二人で、一人は黒いジャンパー姿の男の人。全身の配色が割と黒々。やや年配で、私達に気づかないかのようにうつむいたまま歩いて行ってしまった。
もう一人はさっきの人の隣を歩いていて、白いスーツ姿の女の人だった。実際この色は目立った。容姿は、長い髪が綺麗な人と記憶している。
すれ違い様に軽く頭を下げて会釈をした。もちろんそれには、わたし達も固まりつつ、ちゃんと会釈を返したのだった。
そして、時は今。
「あ~っ、ついた~~~~~!!」
「うわっ」
「えっ」
「……」
そしてついに仲哀トンネルへと到着した途端、斉藤ちゃんが突然大声で叫んだ。おかげで、わたし達(注:一名を除く)の驚きの声もまじった。もう、後でこっそり織田嬢からシュネッケン(注:世界一○○○グミ)を贈呈させるから、ほんとにやめてほしい。
もう今度やったら、しかもトンネルの中でやったら、絶対シュールストレミング(注:世界一○○○缶詰、今までの○○○とは別)とか贈呈する。わたしがそんなことをひそかに宣言したところで、メールを受信。
『そんなくさいものは、ない』
織田嬢の意外な(注:失礼?)弱点を発見。
そんな騒動から溜息をつきつつ、小休止がてらわたしはその仲哀トンネルをあらためて見つめた。
「いかにもって感じね」
それが、わたしの素直な感想である。暗闇にぽっかりと穴を開ける仲哀トンネルは、どこをどう見ても、だれがどう見ても、立派な心霊スポットそのものだった。犬鳴トンネルにも全然ひけをとらないと思う。一説には超えるとも言うし。
「そうね、吸い込まれそう……」
織田嬢はそう表現した。その穴へと向けられた懐中電灯の光ですら、トンネルの向こう側の入り口を、照らしきれていなかった。かなりの長さがあるのだろう。それに、やんわりと霧がかっているようにも見える。あの世からの瘴気とかじゃ、ないよね? と、メール受信。
『少し肺に入った』
いや、腐海とか絶対違う。
「……よし、行くか」
と、少ししてあっさりと言うのは上杉氏。この出所の分からない無尽蔵の勇気は一体どこから来るのか(注:まさか異界の王族の血?)。
たとえ何を考えていないただの筋肉バカだったとしても(注:多分そう)、わたしはこの点をプラスと評価することにしよう。と、何か微妙にずれたことを考えながらも、心拍が徐々に早鐘になるのを感じる。
とりあえず、上杉氏先頭に決定。
そしてわたし達は今、異界の深遠に足を踏み入れたのだ。
続く。