実録、心霊スポットばすたぁ♪(1)
車の中は、終始無言だった。あぁっ、でも嫌なブレーキ音がっ!?
それがさっきの出来事によるものなのか、はたまたこの山道が予想外のテクニカルコースだったことによるものなのか、定かではない。あぁっ、今タイヤ滑った!? まさかドリフト!?
どちらにしても、必死の形相でハンドルを握っている上杉氏を前にしては、気軽にしゃべらないほうが正解だとは思う。だからっ、なんでハイスピード!? スピード狂!? さっきまで普通だったのにー!!
「ふふ、ふふふふふ、ふははははははっ!!!」
「制限速度ぉぉぉぉぉ……」
そして猛チャージのテンションアップから、わたし達の心霊スポット探検譚の、始まり、始まり。
『無敵のーサインー、フルスーロットルー♪』(注:着歌フル、誰の携帯とは言わない)
さて。ここは仲哀トンネルへ向かう途中、かつて『十三曲がり』と呼ばれし古の難所。道はとても車が走る道とは思えないほど、180度レベルのターンの連続で、山肌をのぼっていく。しかも、ガードレールのたぐいは一切ない。アスファルトもたまにボロボロ。というか廃道ですからね。
山道の下のほうへは春には花見が出来るということで開けていたが、今はもう月を探すのも難しいほどに、木々のトンネル状態だった。あ、メール。
『月夜ばかりと思うなよ』
だから、それはもういいです織田嬢。強引だし。
でもまさかないとは思うけれど、もしも対向車がやってきたら本当に危ないかもしれない。このハイスピードの場合バッグをするのも、横へよけるのも、初心者マークには……。またメール。
『スピード狂、その者えてして無駄な神業ドライビングスキルをその身に有し、無自覚に発揮せし者なり お約束語録』
果たして、それは現実世界で期待できるものなのだろうか。と、言ったそばから。
「うわ~~~~~~~~~~~~~っ!!」
「えぇ~~~~~~~~~~~~~っ!!」
それは現実となった。
あまりに突然のことに、その瞬間はわたしもあまり覚えていない。上杉氏が突然叫んだかと思うと、どうも同時に思いっきり急ブレーキをかけたらしい。
それからは、コーヒーカップを全力で回すかのような大回転。阿鼻叫喚の生き地獄となった。斉藤ちゃんの叫び声が聞こえた辺りで、もうわたしは意識を手放した。それから車の中にしばしの沈黙が訪れることになったのだ。
織田嬢も何か言っていたような気がするけど、ここは聞かなかったことにする。ともかく、しばし。
「いたたた。一体何なの? って、これ……」
やんわりと意識を戻し、身体の無事を確認する。よかった生きてる。次は状況を確認する。わたしは前のシートにぶつけた頭を上げて、運転席のほうへ身を乗り出した。
そこに衝撃の光景。次の瞬間私の目に飛び込んできたのは、フロントガラスのすぐ前にまで迫る大木だった……。
「うぉぉい!! 崖崩れだ崖崩れー! 車はここまでだな」
いつの間に車から降りたのか、いきなり上杉氏がドアを開けて入ってきた。
ハンドルはもう手放しているが、まだ少しハイになっているのか、声が大きい。それとも、現状の非日常性からか、声が大きい。とにかく声が大きくて、いきなりだった。
だから少しだけ、ほんの少しだけびっくりしたけれど、何か文句言いたいけれど……やっぱり黙っておこう。
結局のところ、この大木は多分今回の計画の少し前に大規模な集中豪雨があったので、そのせいで土砂崩れにでも巻き込まれて倒れたのだろう。もっとも計画の始動時にはすっかりやんでしまっていたので、良かったと思っていたのだけれど、まさかこんなところで阻まれるなんて。
「あとどれくらい距離があるの? まぁ、危険はつきものだよね」
斉藤ちゃんが助手席からたずねる。この先にもまだ崩れている箇所があるかもしれないし、歩いている途中に崩れるかもしれない。
流石に命まで懸けるわけにはいかないのだ。冷静な見極め、これもっとも重要。上杉氏にハンドルを握らせたことで、既に誤ってる感過多だけど。
一瞬計画の断念を進言しようかと思ったけれども、隊長たる斉藤ちゃんの顔には不安はなく、そのまま車を降りていく。危険運転の咎もなかったかのように平然としている上杉氏、有史以前から変わらぬ太陽のようにまったく動じない織田嬢。どうやら、誰も堪えてないらしい。
仕方ない。所詮数の力に流される純日本人な……以下略。わたし達の、旅は続く。
「どう? 通れそう?」
「……うん、意外と見かけ倒しだね」
電灯など何もないため、ヘッドライトの向こうで懐中電灯の明かりが点のように見える。その点から、斉藤ちゃんの声変わりが目立たない高い声が聞こえた。
上杉氏がそれを聞いて車を路肩によける。わたしと織田嬢はそれ相応の装備を整えた後、車の外へと降りた。
いざ、心霊スポットバスターズの出動である。……不安だ。
続く。