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衝撃、異界の実態?



 再び暑い昼下がり、もといほぼ夜。


 あの一日がわたしの運命を形付けてしまってから幾許かの時が過ぎ去り、正確にはわずか三日後。わたしと、わたしの他3名こと愉快な仲間達は、大変に大変に狭苦しい車内にて激しく激しく揺られていた。

そして只今この場所は、なんと彼の地『異界』のど真ん中だった。



 本日午前十時より二時間半以上の道のりをかけて(注:一時間と四十五分くらいは迷っていた)到着してから滞在している、古いエアコンの振動音がやたらうるさ過ぎる上杉氏の家(注:噂では国主の屋敷)を脱出して、ほぼ陽の落ちかけた異界(注:見渡す限りの田園風景)を疾走しているのである。

その心は、


「いい加減、そろそろ外に行かない?」


とわたしがうっかり言ったらしいその言葉に、織田嬢が即座に返した、


『ひぐらしのなく頃に』


という時間指定によるものである。


 どういうわけか、聞いて数秒で返信が来た。しかもメールで。わたしの発言を予測していたわけでないのなら、打ち始めの『ひ』だけで関連ワードの筆頭にその単語が来たのだろう。

それはそれで、非常にどうかと思う。この自由人め。


 そもそもわたし個人としては、そのまま家にいてもいいかなというつもりだったのだ。が、どうにもこの異界には娯楽がない模様。

唯一ある娯楽だというのが競艇(注:の券売センター)という微妙さに加え、さらにこの時間帯で開いている店がコンビニだけ(注:異界にたった一つ)なのは致命的だろう。


それでどう考えても、家に留まっているのは土台無理な話、ということになってしまう。


 ただ、実は織田嬢だけは、最初のほうは留まることも主張していた。でも、目的が上杉氏の家の宝物庫(注:ただの冷蔵庫)にある地酒であろうことは見え見えだったのだ。

目ざといというところは、出来る人なのかもしれない。けど、やっぱり見え見えだったのだ。わざとだろうけど。で、結局連れ出すことにした。


 回想以上。そして、車内視点に戻る。


「隊長! 今後のプランは、どのようなものなのでしょうか!」


「えっと……。とりあえず、まずコンビニで装備を整え、今後の作戦のブリーティング、その後時間を合わせて、ちゅーは……、じゃなくて、ちゅーあいトンネルへ突入なんだって」


 あからさまに張り切った声で聞く隊員Aは上杉氏。わざとには違いないけど、意外と楽しそう。それに鷹揚に答えようとして見事に失敗しているのが、わたし的に不本意ながらも、隊長の斉藤ちゃんだ。

というか、ちゅーはって酎ハイですか。なんてベタなのですか。これだから天然って。しかもブリーティングではなくて、ブリーフィングです。ブリートって何ですか。ブリトー? アメリカ料理ですか。……そうですか。


「大袈裟ね。それで、お祓いとかはしないのですか? ……隊長」


 と、一応乗っておく、数の力に素直に流される純日本人なわたし。そして隊員Bらしい。ついでに言うと織田嬢は隊員C、ではなく閣下とのことです。

それだけでもう、配役設定の仕掛け人がありありと分かる。きっと閣下が階級ではないこともわざとなのだろう。


「あーねぇ。それはほら、装備はバッチリだから」


「交通安全のお守り……それは自分への、挑戦ですかぁぁぁぁぁぁ!!」


「うるさいよ! 危ないよ! 前見てよ!」


 別段驚くことではないが、上杉氏は車の運転が出来る。凸凹のあぜ道や強引な細道がほとんどである異界の中でそんなに便利なものでもない気がするが。

兼業農家である家の都合上、早くから覚えたのかもしれない。とあるが、織田嬢閣下のお言葉なので信用は厳禁、と付け加えておく。


 そしてわたしはこの車に乗る少し前、車のボンネットの上でファッションなのだとささやかな抵抗を主張する、斜め四十五度に向けてつけられた初心者マークを、見逃さなかった。

心霊スポットの仲哀トンネルは、犬鳴トンネルと同じく旧道とされた山道の先にあるという。

 なるほど、確かにいい装備だ……。


 さて。異界といえど所詮小さなところなので、コンビニへはすぐに到着した。異界の中にあるコンビニということで、少しローカル性を期待していたのだが、特に何のことはなかった。それはそうだ。

ただ、多少店員の言葉遣いが怪しいのと、店の中を妙な羽虫が飛んでいるのと、窓ガラスにカエルがぴったり張り付いているぐらいである。自由闊達な異界の風土がよく理解できる作り、ということで。


 これはわたし達に虫対策の必要性を提案してくれたということもあるし、よしとすべきなのかも。


「って、隊長。何故に駄菓子類を大量に買い込んでいるのでしょうか?」


「あ……。えっと、ほら……。遭難とかしたら大変でしょ?」


「してたまるかぁぁぁぁぁぁ!!」


「うるさい隊員A。それに一理はある」


「か、閣下!?」


「なんと言っても異界、ということ?」


「隊員Bまで。……だ~もう、そんな手の込んだ芝居までして、我が故郷を批判したいか君たちは……」


「えーでも」


「それは、まぁ」


「とりあえず、これを見なさい。上杉君」


 逆に今までよくもったという感じだけど、とうとうネタもやめてわめく上杉氏。そして彼の前に、どこから持ってきたのか(注:『こんなこともあろうかと』とだけメールが返ってきた)織田嬢が心霊特集の冊子を開いた。

それによると、この『異界』のあちこちが心霊スポットになっているらしい。トンネル、墓地、ダム、廃病院、廃学校……。

霊場というか、何というか、まさに『異界』といったところ、選り取りみどりだった。最後の二つは単純に過疎化が原因だけど。


「立派に異界」


「……マジ?」


 上杉氏にご愁傷様。合掌。


「完全無欠の真相真理、と書いてマジ」


 いやそんな読まない。そして長い。


「……」


 沈黙する上杉氏は放置して話を戻すと、仲哀トンネルはその中でも堂々のランキング1位とされていた。

これは、予想以上に危険なものとなるかもしれない……。全員の頭の中をそんな言葉がよぎったことだろう。いや、織田嬢だけは違うかもしれない。


 その後買い込んだ装備(注:使い捨てカメラ等、懐中電灯は持参)を車に積み込んで、我々は静かに戦地へと出発するのだった。


続く。


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