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主人が猫にセクハラされてから、一年が経ちました。

作者: Gr3nja
掲載日:2026/08/07

——〈寺野天音〉——————————


猫だ。猫がいる。

それもベランダから私の事を蔑むような眼差しで、じっと見つめている。

撫でられるかな…

"それ"がいる方にスッと手を伸ばすと、「シャーー」と威嚇をしてから外へ出て行ってしまった。

うちは3階なのに…。



ことの発端は私のバカ彼氏だ。

「猫が付いてきちゃってさー」なんて、考えなしに招き入れてしまった。

ふわふわとした白い毛に身を包んで、いつも自分が「王」だと言わんばかりの素振りを見せる。

全く人間を舐め腐っていやがる。でも憎めない奴だ。


今では家族そのものだが、どうしてか私には全く懐かない。


「翔は今日も遅いなー…」


時刻は11時へと迫っている。

同棲生活を始めてはや一か月、彼の帰宅はより遅くなったような気がする。

全く浮気でもしてんのかってくらい。


「ただいまー」

ドアの開く音と共に翔が帰宅する。

全く、人を待たせやがって。

それでも彼の目を見ればその疲れを感じられる。


「天音ごめんね、今日も遅くなっちゃって」

「いいよ、別に」


「あれ、ココはどこ行ったの?」

ココとは某猫の事だ。

猫に浮気してるってくらい翔はココの事が好きで、ココ自身も彼に凄く懐いている。

両想い…くそ。


「翔ーなんで遅くなったの?」

「いやー仕事が多くて」

「嘘付かないで」

「ホームセンターで猫砂見てました…すみません」


それから私はベッドメイキングの為に寝室へ向かう。

彼も帰ってきたことだし私はさっさと寝てしまおう、今日は色々あって疲れたのだ。



8月23日 火曜日。

カレンダーを確認してからリビングへと向かう。

そして私は見てしまったのだ、確信的な浮気現場を。


「ココは可愛いなー」


キス!?

あいつ猫とキスしてる…私もまだしてないのに。

そう、私の彼氏である東條翔は彼女を差し置いて猫とキスをしているのだ。

けしからん、こいつは重罪だ。

やはり浮気。一人のライバルとして見ておかないと何をしでかすか分からない。

一人というか一猫かな。


朝食を作って、彼氏の仕事を見送る。

それから朝のバトルは始まるのだ。


「ココ、ココ無視しないで」

「ねぇココ―」


「シャーーーー」


今日もだ。

私がココと呼んでも反応しない。それか威嚇してくるだけ。

まったくこの猫は何を考えてるんだ。

翔にばっかり甘えて…私も甘えたいのに…


「ココー。ねー返事してー、」


餌だって私の前では食べない。

何か理由があるのかな?いやきまぐれな生物なんじゃないか。

「猫 呼んでも威嚇してくる 原因」

スマホでググってみると色々なサイトで解説されている。

「恐怖や警戒心」「体調不良」「過去の嫌な記憶」

過去の嫌な記憶…なんかあったのかな。

他二つは翔のことを考えてみれば、警戒されてる?

あと単純に嫌われているのかもしれないのか。


ココの警戒心を解くために色々やってみようと思う。

なるべくゆっくり動いて、目を合わせない、あと優しい声で。

全部スマホで知った事だけど一つくらいは役に立つでしょ。


「ねーココ―、大丈夫だよー」


そもそも名前に反応してくれないのにどうすればいいんだろう。

ずっとそっぽを向いて歩いている。これじゃ何も意味がないんじゃないか。


それか有識者に聞いてみるとかかな。

近所で猫を飼っている方であれば宛てがある。



「今日はすみません-、お邪魔してしまって」

「いいのよ別に。私なんていつでも暇だし」

隣の家の恵美さんは猫を飼っている。

旦那と離婚してからラグドール二匹と生活しているのだそう。

私も定期的に見かけることが合って、よく撫でたりしている。


「それで今日は何があったの?」

優しく微笑みかける。

ココの事だ、嫌われているのか私に全く懐かない。

それも翔にはずっと懐っこいのに。


「警戒しているのかしらね、それか主人を守ってあげようとしているのか」

聞いたことがある。

でも防衛心か、確かにそれなら納得だ。




9/13日 月曜日

あれから色々試すも何も上手く行かない。

無理に近づこうとしては何度も噛まれてしまった。

なぜだろう、何が原因なのか。

相変わらず翔には懐いている。


「まーたベランダにいるよ、落ちそうだし危ないのに」

今日もとりあえず餌の挑戦はしてみるか。


「ねえココ―、餌だよー」


ウェットフードを片手にココへ近づく。

このまま食べてくれれば…いいんだけど。



寝ぼけた中テレビを付ける。

ココは相変わらずそっぽを向いている。


「今回の事件について千春さん、どう思いますか?」


あれ、ココが反応した?

ニュースにか、それとも餌にか。

「日常の中でも警戒するべきだと感じますね、同じような事が起きないように」

いややはり反応しない。気のせいか?

「千春さん、それでは…」

千春?


ココは千春という名前に反応するのか。

それにしてもなぜだろう。

「千春ー、」

名前を呼んでも来ないのに、そう呼んだ時だけは近くにきてニャーニャーと鳴く。


これは進歩だろうか。

初めてココが近くに来てくれたのだ。


警戒を解くためのコツその1【ゆっくり動く】

早く動くと怖がるらしい。

餌を手に持ち呼びかける。

「千春―」


すると今度は餌を食べ始める。

どういうことだ?

別に特殊な名前でも無い。それなのに。




10/6日 水曜日


ココも私に慣れて来たのか、だんだんと撫でられる回数も増えて行った。

「千春―」

いつものように呼んでいた時だった。

――ガチャ。

玄関でドアの開く音がした。


翔だ、今日は早いな。

そういえば翔にココの事を伝えていなかった。


「翔―ココがさー」

にこやかな表情で頷いている。

「千春って呼ぶと来るんだよねー」



「は?」

一気に顔が崩れ、声も重たく変化した。


「何を言ってるんだ天音」

「いやだから千春って、」

「その名を呼ぶんじゃない」


普段温厚な彼が、初めて声を荒げた瞬間だったかもしれない。

千春?だから誰の名前。

「もう呼ぶな。いいか?」

突然の豹変ぶりにただ頷くことしか出来なかった。

「誰なのか聞こう」なんて、そんな勇気は私に無い。

ただきっと触れてはいけない人物なのかもしれない。

いや、だからこそ。 私が知らなくてはならない人物だ。




11/21 月曜日


私の出来る限りの力で「千春」を調べたが、一切の手掛かりを見つけられずに終わった。

もしもココと会話できたなら分かるかもしれない。

元々ココを飼うことになった理由だってそこにあるのかもしれない。


それか浮気相手とか?

考えてもみなかったがもしそうなら辻褄が合う。

そんな事あって欲しくは無いが、彼の帰りは遅く毎回嘘を付いている。

大体が「ココの為」だがどうにも怪しい。



「尾行してみるか」

思い立ったのはもう日が落ちてからだった。

彼が帰ってきてくつろいでいる。これじゃ全く意味が無い。

明日だ、明日決行しよう。



日が昇って彼が家を出る。

今がチャンスだ。


常に10メートル程度距離を保ちながら。

気付く気配も無い、これならいけるかもしれない。


電車に乗り込む。

今の所怪しい部分は無い。

何かないのか?千春に関する情報は。

少しでも良いのに。


電車を降りて、会社へ向かう彼を見届ける。

これじゃ何も意味が無い。

何をしに来たんだろう、私は。

千春について結局まだ何も知れていない。




12/31日 木曜日


翔の実家へと行くことになった。

お義母さんはとても良い人で、すぐに馴染めそうな気がした。

でも最重要なのはそこじゃない。彼の実家に滞在する期間は短い。

もし千春についての情報が得られれば。


「お義母さんー」


翔のいなくなったタイミングで話しかける。

「急にすみません、千春という方を知りませんか?」


少し悩んでからとある人の話が返ってきた。

ああ、翔には悪いことをしてしまったな。

もしすべてが繋がっているのなら、いやもし何かの奇跡が起きたのなら。


主人が猫を飼い始めて、一年が経った時に私はその人の人生を知ったのだ。

「東條千春」の短い人生を。




——〈東條翔〉——————————


俺は猫を飼い始めた。

彼女の天音には反対されたが、どうも見放せなくて。

結局俺のわがままだった。



ある日その猫は現れた。

野良猫には珍しい真っ白の毛で、まるで雪のよう。

別にこんな猫と思っていたのだが、後からずっと後をつけられている事に気が付いた。

まったく可愛い奴だ。

振り返り様々に、「ニャーニャー」と鳴いてくる。

どうも鬱陶しい猫だ。

でもその猫には何とも言えない懐かしさがあって、どうも見放せなかった。

昔を思い出しているような、そんな気持ちで。


「ココ」と名付けたその猫は、ずっと俺に懐いてくる。

天音とは犬猿の仲だが。

そしてある時、俺はココとキスをしてしまった。それも天音の見ている前で。

「キス」なんて言ったって所詮動物だ、しかし何か積極性を感じた。

顔まで這い上がってきて。やはり不思議な感覚だった。


会社では上司に残業を押し付けられ、帰りは遅くなる。

その度天音には怒られる。

俺は近日全く天音と関われていない。

同居人として、彼氏としてどうなのだろうか。


それでもココの事も気になってしまう。

不思議に感じる原因と、懐いてくる可愛さ。

どちらにも興味が湧く。




9月13日 月曜日


天音が何か隠し事をしているのか、妙に変な雰囲気が漂うようになった。

俺がまた何かしてしまったのだろうか?記憶を整理するが思いつくようなことは無い。

それじゃあ何か… なんだろう。


付きっぱなしのテレビにはニュースが流れていた。

都内で火事があったようだ、それも不注意が原因で。

もしかしてこれで何かあったのか?いや無いよな。

テレビ壊しちゃったとか!?


そんな事は無いか。

それなら…ココを可愛がりすぎとか?

最近天音と一緒に居れる時間も少なくなったし、

帰宅後もココばかり可愛がっている。


大学以来そんな天音の姿を見るのは久しぶりだ。

女子と話しているくらいで嫉妬されて…いい思い出だな。

それから3年が経ってしまった。

全く時の流れは早いものだ。




10/6日 水曜日


会社での営業成績に伴い、俺はリストラされた。

これからどうすればいいのか、何も分からないまま道を歩いた。

天音にはどう説明すれば良いだろうか?

説明したってしょうがないのではないか?


そして帰宅後、天音から声を掛けられた。

「翔―ココがさー」


出来る限りの造り笑顔で頷いた。

内心不安に押しつぶされそうでどうしようかと、そんな中だった。


「千春って呼ぶと来るんだよねー」


心の中で何かが切れてしまったように感じた。

天音のせいじゃない、ストレスの積み重ねで。

その時天音を怒鳴ってしまった。

「その名を呼ぶんじゃない」


東條千春は俺が5歳の時に死んだ。

白血病。まだ生まれて3年しか経っていないのにその命は途絶えてしまった。

何度「俺だったら」なんて思ったことか。

その日から生活は絶望の一色に染まった。

5歳という年齢で状況すらまともに分からなかったが、それでも妹に何か起きたということは理解していた。死んでしまったなんて考えもしなかったが。

兄として守ってやれなかった。

3年しか。。

確かあいつはヒマワリが好きだったな。

そんなことを思いだしながら、段々と俺は今の状況を把握した。


俺は関係の無い天音を怒鳴ってしまったんだ。

天音に全てをぶつけてしまったんだと。


リストラの件と立て続けに、俺は何も言うことが出来なかった。

どうしようか?答えは出ない。出せそうも無かった。


それにしても、なぜ天音は千春の事を知っていたのか。




11/21 月曜日


新たな仕事を探すため家を出た。

ただその時俺はあることに気が付いた。

「尾けられている」

天音か?まあ妥当だ。

何も言わず毎回遅くなって、千春の名前に怒鳴って…

でもそれならどうしようか。

もし仕事を探していることがバレてしまったら。

仕方なく前の職場に戻ろうか。


会社側のカフェで一旦くつろぐ。

こんなことバレてしまえばただでは済まない…本当の事を話そうか?

今日こそは話そう、そうだ。

一杯のカフェモカを啜ってから。


日が沈み、家へ到着する頃にはもう天音は寝ていた。

疲れたのか。でもそれじゃ結局今日も言えず終いだな。


ココとでも戯れるか。


「千春」


声を掛けると、飛び掛かって来てから爪を立てて俺に向かって引っ搔いてきた。

これで天音はココと接せるようになったと言っていたがそれは違うのか?

天音だけ?

やはり違和感が残る。

ココには何かあるのではないか?


あの懐かしい感覚と、

何故か分からない、それなのに。




12/31日。


実家へ帰省した。

父には最近顔を見せていなかったな、申し訳ない。

大晦日について考えている時、突然母に声を掛けられた。


「天音ちゃんにあることを聞かれたんだけど。」


俺は大きくため息をついた。

そのあることというのは、やはり妹の事だったから。


「東條千春」


ココとの関係は分からない、あるはずが無い。

何が起きているんだ。


でもなにか… ココを飼い始めてから丁度一年が経った。

今度ヒマワリ畑にでも連れて行こうか。




——〈東條千春〉——————————


「白血病」

最初は何のことか分からなかった。

3歳の私に理解できるわけが無かった。

でも最期の日、一つだけ分かることがあった。

「私は死んだんだ」


それから真っ暗な闇が続いた。

苦しさも一瞬で無くなって、全てどうでも良くなった。

何日、何年そんな状態が続いたのかは分からない。

ただし私にはそれで良かった。

また生きてしまって苦しい思いをするのであれば。


それでも一つ気掛かりな事があった。

「東條翔」

私の兄だ。

死ぬ最期の瞬間まで一緒に居てくれて、ずっと守ってくれていた。

申し訳なかった。




12/31 火曜日


突然パっと目の前が明るくなって、身に覚えのない路地が広がった。

ここがどこなのか、私が誰なのか、その全てを把握する前に一つ感じた事があった。

目の前にいる男、それが「東條翔」であると。


歩いて行ってしまう彼を必死に追いかけた。

「行かないで」叫ぶと、そこには猫の鳴き声だけが広がった。

「猫になった」「転生した」テレビやラノベなんかでよく耳にする。そんな事が起きるとは思えない。

それなら夢か。でも翔を追いかける足は止められなかった。


ニャーニャーとただ醜い声で叫びながら。

あの時から随分時が経った。もう翔は私を覚えていないかもしれない。

それでも。


「ニャー」

少し進んだ所で翔は足を止めた。

私に気づいたのだろうか?

ジッと睨んでから頬を緩める。

何も言わずただ私を抱き上げた。


「名前は?」


答えられるはずもない。

相変わらずバカだな、変わってしまっても確かに聞き馴染みのあるその声に安堵した。

――ニャー。



少し経ってから、私は翔の家で過ごすことになった。

玄関を通り過ぎると大きな絨毯が目に入る。

本当に猫になってしまったんだ。

規格外に大きいその家の中、翔以外の人間がいることに気が付いた。

彼女?それか妻とか?

その人は私を見てすぐに睨んだ。

「猫?世話は誰がするの?翔帰ってくるの遅いじゃん」

嫌なやつだ。

「いやーなんか懐かしい雰囲気があって、放って置けなかったんだよね」

そりゃそうだ。

だって私は東條翔の実の妹、東條千春なのだから。


それでもその女は私を睨み続けている。

なんなんだあいつは。


「天音―、お願いだからさー」


天音というのか?

――なんなの、本当に。

今私が何を行ったって鳴いている猫だとしか思われないだろう。

どうにかして私だと伝える方法は…?




8月23日 火曜日。


朝起きてから翔に持ち上げられ、反射的に翔の唇を奪ってしまった。

複雑な感情だった。でも妹なんだから、キスの一回くらい良いだろう。

でも天音からの態度は一変した。

今まではまだ「だるい猫」くらいに思われていたのだろうが、なんていうか浮気者を見るみたいな目でこちらを見てくる。


「ねぇココー」


あいつやばい。

何をされるか分ったもんじゃない。


「ココ―。ねー返事してー、」


明らかに目の色が違う。

もう怯えながら生活するしか無いのか…?

翔だってずっと仕事に言っているし、なるべく家の外にいるようにはしているけど。

万が一交通事故にでも遭ったら…。想像もしたくない。

それこそ翔との接点が消え去ってしまうかもしれない。

でも今日は安全だ。

天音が家を出て、どこかに行ったのだ。


部屋を探索しているとある物を見つけた。

ヒマワリの入った花瓶だ。

久しぶりに見たなーヒマワリなんて。

そして花瓶に何か書いてある。

汚くて読めるか怪しいが…干?ちがうな、千?

なになに千円で買ったとか?値段まだ消していないのか。

やっぱバカだな。




9/13日 月曜日


私は9ヶ月を無駄にした。

あれから色々試すも何も上手く行かない。


触ろうとする天音を何度か嚙んでやったが、それでもこの気持ちは収まらない。

翔の読んでいる本に手を出してみたり、PCのキーボードに乗っかって名前を打とうとしてみたりなんて…続けていた物の何もかもが無駄だった。

何をすれば伝えられるのだろうか。


「ねえココ―、餌だよー」


あんなの食うかよ。

不味い、味覚も猫になればマシだったのかもしれないが苦痛の連続だ。


それから天音はテレビを付け出した。

「今回の事件について千春さん、どう思いますか?」


「これだ」と。

その名前が聞こえた瞬間にもうこれしか無いと確信した。

「ニャーアア!!」

全力で叫ぶ。

天音がどうにか違和感に気づいてくれれば。

でもやはり一回じゃ駄目だ。次にもう一度「千春」という名前が聞こえた時。


「千春さん、それでは…」

「ニャアアアア!!」


天音は不思議そうな顔でこちらを向く。

「千春?」

ああそうだ。

ようやく、ようやくチャンスが回ってきた。

「千春ー、」

なるべく元気よく天音に近寄る。

この名前が翔に届けば全ては終わる。





10/6日 水曜日


「千春」

いつものように天音はそう呼びかける。

丁度ドアの開く音と同じ時だっただろうか。


「翔―ココがさー、千春って呼ぶと来るんだよねー」


ようやく終わった。そう確信した時だった。

「は?」


翔の顔はみるみるこわばっていく。

何かしてしまったのか?私が?

私が死んだことにより何か翔に悪いことが?


「何を言ってるんだ天音」

「いやだから千春って、」

「その名を呼ぶんじゃない」


天音も困惑している。そりゃそうだ。

翔の奴、事情の一つも説明せずに。


「もう呼ぶな。いいか?」


違う、やめてくれ。

「ニャー」「ニャー」精一杯鳴いても、翔は何も反応しない。

クソ。なぜ。

今までのが全て無駄だったと言うのか。




それから憂鬱な毎日が続いた。

段々顔色が悪くなっていく翔に、何かと浮気を疑う天音に。

どうしてこうなってしまったのか、これは全て私のせいなのか。

もう何もかもが。


そうして私は2ヶ月というを自堕落な憂鬱で潰してしまった。

こんなことになるのならもう死んでしまおうか。二度目となればもう怖くはない。

ベランダから足をおろしていた時、二人の帰宅を知った。


どうせなら今日を過ごしてから命日を迎えよう。

ああ、それがいい。

でもそんな願望でさえ叶わなかった。




「東條千春」


寺野天音と東條翔はその名前を口にした。

互いが居ない時だ、それでも私がいる中で。

もう自分に呆れてしまって、期待はしなかった。

いや未だしていたのだろう。


一年か。

ようやく伝わったのだろうか。

今の私に知るすべはないけれど。



それでも。


元々、コミュニティでのリレー小説企画用の話でしたが、私自身このタイトルで書いてみたいなと思ったので書かせていただきました。

手休めで書いていただけなので随分クオリティは下がってしまいましたが、悪い部分でも感想など頂けると幸いです。

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― 新着の感想 ―
短いストーリーのなかに3人分の視点がしっかり心情まで描かれていて、めちゃ気になるところでストーリーが終わってるので続きめっちゃ気になります! 奥さまの気持ちも猫ちゃん(千春ちゃん)の気持ちも旦那さまの…
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