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プロローグ

 初期装備だと渡された武具がいくらの価値かも分からない。

 アガサという名前で呼ばれる少年が、訓練は十分だと送り出される。戦士として認められた訳ではない。訓練は施したのだから、好きに死ねと追い出された。


 そのまま街の一番大きな酒場に行くように勧められる。それ以上は教えてくれるわけでもない。

 それだけ人が集まる街であり、ありふれた光景なのだ。

 ここは明日にでも死ぬことができる冒険者の街。


 酒場に行くと人で溢れている。食事の場所としての利用ではなく、人が集まるコミュニケーションエリアとして存在している

 飯だけを目的としているのであれば、宿屋の主人に料金を支払うなり、市場でパンを買う方がずっと安い。


 店の入口近くに広げられた、掲示板へと足を向けると依頼がびっしりと貼られている。仕事のメンバー募集でこそあるものの、多くはアガサが出向いたところで、良くて荷物持ちとして使われるくらいだろう。


 ふと、目に留まった竜討伐の依頼。文章だけでなく、獲物であるドラゴンの絵まで添えられている。

 堅牢な鱗。爬虫類特有の縦長の瞳。そして折れた翼。


 飛べなくなって、群れから逸れた飛竜の討伐。今日の一番の目玉依頼らしく、そこかしこでドラゴンという単語が耳に入る。


「……金になるが、翼が折れたとて竜だ」

「尻尾の薙ぎ払いで、先に討伐に向かったパーティが壊滅したらしい」

「牧場への襲撃に、街路の封鎖。被害がデカいからか、領主が討伐の賞金までかけてる」

「騎士団で対応しろよ」

「領内の治安維持で手一杯だとよ。冒険者といえば聞こえはいいが、大半はチンピラだからな」


 竜の住処も見つかっておらず、商人たちが被害にあうことで、街への経済にも深刻なダメージを負わせている。

 ここまで噂が広まっている以上、この竜を倒せば富も名声も手に入るに違いない。

 そうした夢を見る冒険者もいるのだろう。怯えだけではない熱気がそこにあった。


「人々を苦しめる邪悪なドラゴンめ。このワタシが絶対に討伐してやるんだから……ッ」


 というか、隣にいた。腰に差した剣を握りしめ、決意の表情で睨みつけている。

 それが様になるくらいの美少女だ。あまり歴戦の戦士といった風貌でもないが、見た目で侮れば痛い目を見るのは、修練場で何度も経験させられたことだ。

 本気で挑もうというからには、名だたる剣士なのかもしれない。


「俺には関係のない話か」


 先達の冒険者が徒党を組んで撃退されるような怪物を相手にするには、新人一人には荷が重すぎる。

 こうして考えるだけ時間の無駄だろう。


 新人冒険者募集の張り紙を見た。酒場のマスターに相談するか迷ったところだが、同じく新人で募集しようとしている一党がいるようだ。

 これはパス。新人がパーティを選ぶのもどうかとは思うが、少しでも経験者のいるところに入って、冒険者としての心得を聞いておきたい。


 新人だけで一党パーティを組むのは珍しくないようで、酒場の端の方へと目を向ければ、どことなく便りない一団に、修練場で見かけた戦士の一人が加わった。

 同じく視線を向ければ、パーティリーダーとしてだろうか、一人テーブルを占領している女戦士に、一人の男が近づいていく。


「え、これ嬢ちゃんが募集してんの、まじかよ」

「まじかよとは、ごあいさつだな」


 一触即発の雰囲気だ。男の声のかけ方も拙いが、女もそれを受け流さないだけの負けん気がある。

 心配するとすれば、男の方にか。アガサも何度もぼこぼこに殴られた。

 大体そんな感じになる。追加で言葉の燃料をお互いに投下したかと思えば、先に仕掛けた男がノックダウンしている。


「舐めやがって、女ぁ!」


 とか言いながら、座っている状態の女に襲い掛かり、一撃での昏倒である。

 突然の暴力沙汰にも関わらず、酒場の一角が盛り上がりを見せる。


「やるじゃねえか嬢ちゃん!」

「俺をパーティに入れてくれぇ~!」


 むしろ宣伝効果になるのだから、この街に来る人間がチンピラばかりであることを思い知らされる。

 あっちにチンピラ、こっちにチンピラ。

 自分だけは違うというのも角が立つ。周囲から見れば、アガサもまた同類に見えているには違いない。


 実際、アガサは自分の口元が笑おうとすることを抑えられないのだから。

 喧嘩を吹っ掛けた男の方へと歩み寄る。


「ナイスファイト」

「……へへ、まあお相子ってところかね」

「第2ラウンド開始か、任せろ。おーい! まだ負けてないって――」

「テメェの命を先に刈り取ってやるよぉ――ッ!」

「おっと」


 見た目以上に弱いパンチだ。後から見ても反応が間に合う。

 適当にいなして見せると、目を丸くして驚いて見せた。


「俺アガサ。パーティ組もうぜ」

「待った待った、話の流れについていけてない」

「俺がお前を気に入ったってことじゃダメか?」

「俺はお前を変な奴だと警戒している」

「どうせ組むなら笑える奴がいいなって思ったんだよ」

「ライブ感で生きてんなぁ……。お断りだ。お前といると、命を懸ける機会が多そうだ」


 拳を振り払って去っていく足を止めはしない。断られたのは少し勿体ないなぁと、掲示板の募集に戻ろうとして――頭を殴られる。

 振り返ると、不機嫌そうな女戦士に胸倉を捕まれる。


「勝ったのはあたしのはずだが?」

「負けてる方を応援したくなるんだよ」

「新人と組むのは嫌だって断った癖に、いったい何を考えているんだお前は」

「面白いと思ったんだよ」


 アガサ自身も悪癖の自覚はある。先に決めていることがあっても、ノリとテンションで覆される。

 直感とでもいうべきか、こっちの方が面白い、という瞬間に立ち会うと抗えない。


「あの男、盗賊だぞ。それが戦士に真っ向から喧嘩を売った――2回もだ!」

「状況判断のできない馬鹿だろ。そんなのを一党に入れてみろ。無謀な突撃に巻き込まれて全滅するのが、容易に目に浮かぶ」

「結局のところ、戦いの決め手は前に出るかだろ? 後ろに引っ込むよりは何倍も良い」

「だったら噂の竜にでも挑んでこい。死んだら酒場で喧伝してやるよ。馬鹿がいたってな」


 ここがターニングポイント。

 後々になって、「それもそうだな」と引き返すタイミングはここだった。


「いいだろう! ちょうど竜をぶっ殺したいと思ってたところだったんだ!」


 そこまで宣言すると、背後から勢いよく抱きしめられた。


「……ッ!?」


 今日はよく背後から不意打ちを貰うものだが――突然の掴み攻撃に、反射的に体が動いた。

 鎧同士がぶつかり合う音から選択したのは、肘打ちではなく頭突き。こちらも痛みを伴うが、拘束が緩んだ隙間をしゃがみですり抜け――反転。

 姿勢を戻すためにジャンプしたまま拳で頭をガードする形を取りながら顎につき込もうとして――。


「――あ、さっきの変な奴」

「な、なにをするんだ! 危ないやつだな!」

「危ないのはお前だ、突然なにをする」


 掲示板前で竜討伐を宣言してた娘だ。嫌な共通点ができた。弾みで出た言葉も、こいつの影響を受けた可能性がある。

 とりあえずのところ敵意はないようで、反撃の続きを警戒して腕で防御を固めていた。


 乱入者との一部始終を見ていた女戦士が茶々を入れてくる。


「俺の背後に立つな……ってやつだ!」

「お前もなにを言っているんだ。戦士なんて前衛職なんだから、後衛職と一党を組むべきだ」

「知らないのか? 吟遊詩人の謳う、とある英雄の決め台詞だとか」


 随分と物騒な話だと思ったが、英雄なんて冒険者チンピラの行きついた先なのだから、そりゃそうかと納得する。


「で、割り込んできたそちらさんは……アガサとはどんな関係なんだよ」

「わ、私は――この男が欲しい!」

「……え?」


「おお、色事めいて関係性を探ってみたが、まさかのビンゴ……。冒険者になって真っ先にやることが恋人づくりとか、舐めてるな」

「誰だか知らない女のせいで、俺の名誉が地に落ちていく……」

「やーい、お前の名誉、逸れドラゴン!」

「お前ちょっと黙れ。……それで? 俺を竜討伐の仲間として欲しい、とでも言いたかったのか?」


「そうだ。この酒場で一党の募集をかけているところに、竜討伐を共に成し遂げようと言葉をかけてきた。追い返されたところを……渡りに船とはこのことだ!」

「わた……船ってなんだ?」

「好都合ってことだろ。これもけっこう有名な英雄譚に出てくる。最近じゃあご都合展開とか、悪くも見られる時もあるけど」

「お前はなんでも知ってるな」

「そのフレーズも……キリないな。とにかく、竜退治の仲間ができたみたいだな。派手に死んで来い」


 嫌なタイミングで援軍が来た。


(というか、お前も新人なのかよ)


 ぱっと見では戦士に見えるが、訓練所では見かけていない。

 それは女戦士――チハヤも同じらしく、初見の反応をしている。


「お前、職業は?」

「おっと、つい名乗りを上げる前に飛び込んでしまった。私はワタシ。聖騎士として訓練を受けてきた」

「ワタシ?」

「そういう名前なのだ。なぜワタシなのかは疑問に思う時もあるが、しかし名前など所詮は記号に過ぎず、これから成し遂げる偉業の方が重要だろう。これ以上触れるな」


「すごい気にしてないか?」

「やめてやれ。今後偉業を成し遂げたとしても、ワタシという名前で伝わっていくんだぞ。吟遊詩人が歌ってたら、『え、これお前の英雄譚なの?』って疑問に思われるに――」

「――わあああああ! これから一緒に竜討伐をこなす仲間なんだから、意地悪なこと言うんじゃない!」


 言ったのはチハヤだが、ワタシの中では既に仲間として認識されてしまったようだ。

 本人と目が合うと、自分に指を差して問うてくる。


「え、私もか?」

「わざとだろそれ。ややこしくするな」

「イカれた一党メンバーを紹介するぜ! あたしとワタシ、それとアガサ」

「おい、その言い方だと俺が浮く」

「でも、ワタシちゃんが紹介したら、『ワタシとチハヤ、それとアガサ』」

「『お前は誰なんだよ』ってなるな」


「ぐッ、全然止まらない。……討伐した方が世のためなのでは?」

「竜討伐のノリで人殺しに悩むんじゃない。それと――一党を組むにしても、いきなり竜討伐をやるつもりもないよ」

「なぜ!?」

「いや、そこの阿保は知らんけど」

「俺はやる、そう決めた」

「やるんだ……。好きに死ねばいいと思うけど、あたしの組むパーティはトレジャーハントを目的としてる。金銀財宝がないことには――」

「竜は財を貯めこむ習性があるから、商人から奪った商品や貨幣が手に入るって話だよ」

「――野郎ども、トレジャーハントの時間だ。目標は竜の巣」

「金に目が眩みすぎだろ、身を亡ぼすぞ」

「うっさい。狩人として成功する冒険者が、商人から安く買い叩かれたなんてよくある話。だったら貨幣で手に入る報酬が一番信用できる」


 いっそ商人を目指せばいいのでは、とまではアガサも言わない。

 金勘定よりも暴力が得意な女である。金を得るために用心棒でもやってる方が似合っている。

 なにせ、冒険者の一党を結成する理由が、自分が頭目でないと信用が出来ない。だからな。


「竜討伐か……巣にどうにか忍び込んで、宝だけ奪い取るとかどうだろう」

「竜に執着されて街まで竜に追いかけられるだろうな」

「じゃ、他の一党で竜を倒せそうなのを探して、討伐中に……」

「間違いなく恨まれるぞ、それ。竜討伐から逃げるな」


 目の色を変えてろくでもない方向へと検討を重ねるチハヤに、ワタシが義憤を募らせて詰め寄る。


「宝だけ取って放置なんて言語道断! 私たちは竜が人々を困らせるからこそ! 討伐に向かうのだ!」

「別に倒さないとは言っていない。けど、資金が増えて装備を充実できれば、より確実に討伐できるんじゃないかって話だ」

「あ、なるほど。そういう考え方もあるのか」

「……」

「おっと信用していない目のやつもいるな。仲間なんだから信用しろって」

「仲間が信用できないから一党集めをやってるやつにか?」


 耳を塞いで聞こえないフリをする。

 どうあれ、新人冒険者だけで竜退治をする話にまとまってしまった。今更、不安だからやっぱり無理ですとも言い出しにくい。

 それに……竜討伐が目標で結成された新規の一党なんて、肩書が面白すぎる。


「やっぱりここは、ドラゴンスレイヤーズを名乗るべきじゃないか?」

「だっさ。却下で」

「そもそも、私は竜だけを相手にするつもりもないぞ。たまたま世を騒がせているのが竜というだけだ」

「……実際に竜を討伐して見せたら、むしろ話題になるだろうに」

「そういうのは称号として得られるからカッコいいのであって、自分から名乗ったってしょうがないだろ。だいたい、あたしも竜ばかり相手にするのは嫌だ」


「うーん、竜牙兵団、竜爪の刃」

「名前よりもまずは実績だろう。頭を悩ませる方向がずれるのをヤメロ」

「格好良さは大事だろ」

「模擬戦でカッコつけて、見栄えの良い戦い方をするの、あれ意味ないから。舐めプにすら見えるわ」

「見栄えの良い戦い方?」

「剣の腕はいいんだけどね。相手の武器を絡め取ったり、相手の剣に対して白刃取りを試みたり」

「できるのか!?」

「できないから毎回それで怪我してるの。上手くいくこともあるけど、拘らなければ勝てた試合もあった」


 それが理由で、負傷しては治療院に運び込まれ続けた。

 アガサとしては、できると思ったから試しているだけなのだが、イマイチ理解を得られないことは自覚している。


「コツさえ掴めば、誰でもできると思うんだけどな」

「んなもん掴んでも実践で使うにはリスクの方が大きいって話。コイツ、治療院に運ばれすぎて『丁度いい練習相手』として覚えられてたからね。最後の方とか白魔法使いとか薬師の方から練習に来るし」

「……うーん、聖騎士として回復こそ修めているが、応急処置程度のものだからな?」


 助かってたけど、怪我人の心配よりも怪我の具合の確認に喜びを見出されてたのだから、治療系の後衛職ってのは変態なんだなアガサも感謝の気持ちが薄れていった。

 『もしよければ腕を切り落とされてくれ』とか平気な顔で頼んできてたしな。いいわけあるか。


「でも、そうか。回復役がいるってのは心強い」

「回復薬を節約できて、前衛もできる……」

「一番得意なのは光の刃だ。邪悪な存在を祓うことができる」

「おお、すげえじゃん! ――それ竜に効果あるの?」

「……邪悪な存在を祓うことができる!」

「オーケー、使わない方向でいこう」

「……ッ! なぜ!?」

「悪霊が巣食う地下迷宮カタコンベで、財宝の噂が見つかるといいな」

「私のこの光の刃は、人々を救うためにあるというのに……!?」

「人々の救済を継続させるためには、資金回収が必須なんだよワタシちゃん」


 アガサとしても、いずれ光の剣の習得はしてみたいが、魔剣や聖剣を手に入れるという手段で検討している。今回の竜討伐で手に入ることがあれば、ぜひとも回収したいものだ。


「しかし、竜討伐ね。目標として掲げてみたものの、人が集まるかが直近の問題だ」

「それは……そうだな。新人冒険者の一党には一通り声をかけたが、竜討伐に乗り気の冒険者は少ない」


 ならいっそのこと、竜討伐を目的としている一党に混ぜて貰えばいい――とは誰も言わない。

 アガサは自分が討伐すると宣言した以上、それならば戦力として戦いたい。チハヤは取り分が少なくなるから。だが、ワタシが言い出さないのは少し意外だった。


(竜が討伐されればなんでも良いって訳でもないのか?)


 名誉でもなく、財宝でもなく正義心を持っての討伐を望んでいると思っただけに、どこか行動理由が読めないことに違和感があった。

 英雄願望に近いものだろうと、アガサは仮置きした。その感情ならば共感できる。


「あまり長く募集する時間もない。難易度こそ高いが、今回の個体はせいぜいが逸れ竜だ」

「だからこそ狙ってる冒険者は多い。最悪、この三人だけで作戦を立てるしかない、か。頭数を揃えてどうにかなるってもんでもないし」

「どうにもならないとなれば、最後は人海戦術になるだろうがな。緊急依頼にまで難易度が上がる可能性は十分にある」

「よし、とりあえず一党募集は中断! 今後のためにそれぞれ泊まってる宿舎を――」


「――あの、一党募集をしていると聞いてきたんですけど……」


 どうやら未だ、竜退治を画策している初心者冒険者という悪評は広まってないらしい。

 丁度いい鴨が来たと、チハヤはアガサに目配せをして、アガサはワタシへと距離を詰めた。


「竜討伐の希望者が――」


 言うより前に口元を手で覆い隠し耳打ちする。


「はひをふふ」

「馬鹿お前、竜討伐を掲げて人が逃げるんだから、知らないやつにまでいう必要はないんだよ」


 鴨を相手にするのはチハヤだ。逃げられない様に退路を断って、店の奥側へと押し込んでいく。


「あの……あれは?」

「気にするな。先に仕掛けたのはあの女の方で、二回戦に突入するってだけの話だよ。合意合意」

「ッ!? ええーーーーーーーッ!」

「冒険者とはいえ男女だからね。そういうこともある。いざ長期で遠征したときに相手がいるってのは、あたしらとしては防波堤になってくれるんだから、いいことだよ」

「え、いや……そういうこと!? 冒険者ってすごい……」

「……もしかして、興味ある?」

「ぃやいやいやいやいや! ないです! 興味! ナイ!」


 よく通る声であまり妙なことを言うのはやめて欲しい。

 頬を染めたワタシの表情は歪んでいて、それでも絵になるのだから美人ってのは得だとアガサは思う。

 当の本人は抗議の声を上げるが。


「し、ししししないぞッ!?」

「当たり前だ。それに関してはあとで訂正すればいい。それより黒魔法使いが入って来たってことが重要だ」

「黒魔法……珍しいのか?」

「数が少ない上に、敵に狙われる後衛職だからな。欠員補充も頻繁で、新人であっても需要は高い」


 アガサも目にしたのは初めてだ。金属鎧を装備せず、下手すれば杖だけで旅に出る。装備品にこそ金がかからないものの、魔法使いになるための知識の探求が求められる。

 これは一党にとって――というよりもアガサにとっても喜ばしい。


(もし加入することがあれば、魔法の習得もできるかもしれない)


 そうでなくても、声をかけらているのであれば、加入には積極的であるのだろう。

 女性が多い一党だから女性が寄って来た、ということだろうか。アガサとしては肩身が狭くなる一方である。


 そう思ったところで、ワタシが腕を叩いて、指でアガサの視線を誘導する。


「あれ、私より前に話してたやつじゃないか?」

「ん、あれ本当だ。何やら手招きをしているのは――俺たちに向けてか?」


 少し抜ける、とチハヤに視線を向けると、了解のサインで返される。

 そそくさと一党の募集待ち合わせから離れるアガサたちを、黒魔術師が赤面して見送った。


「やい、竜討伐を掲げたイカれた一党め。新人を騙して加入させようってのか?」

「人聞きの悪い。新人で結成された一党に加入したら、たまたま竜討伐を目的としていただけだ」

「かーーーーーッ! 盗賊を卑怯者だと非難するくせに、戦士ってのは力に任せてあくどいことを平然としやがる! 許しておけん!」

「なにおう! 私たちは正義の一党だ!」

「自分たちが正義なら騙したって良いと? 随分都合の良い正義を語るじゃないか」


 突如始まった罵り合いに、ワタシが突撃していく。


「なら、それを理由に乗り込んでこずに俺たちに因縁をかけるお前は、どういう正義を掲げるんだ?」

「ほう、俺に正義を問うのか! いいだろう! 俺はなぁ――女にモテたいッ!」

「それを正義と主張するのか!?」

「ええい、女のお前には分かるまい! いつ命がなくなるかって職業で、守るべきものを得られるかってのは大事な信念なんだよ! これは男に生まれた天命といってもいい!」


 同じ男の意見を求めてか、アガサへと視線を向ける。


「そ、そうなのか?」

「男児たるものってやつか。嫌いじゃないな」

「そうなんだ……!」

「そこぉ! 俺の話を肴にいちゃつくんじゃない!」

「いちゃついてないッ! そ、それに、そんな正義を掲げられても、反応に困る……どう受け止めろというんだ?」


(……案外、押しに弱いな? 人の話をよく聞いているというか、我が道を貫くような性格でもないらしい)


「知れたことッ! 俺も一党に加入させてくださぁい!」


 握手を求めるように手を差し出して、頭を下ろした。困惑しているワタシに代わって、アガサが手を握る。振り払われた。


「男が触るんじゃねぇッ!」


 アガサは男の言葉無視して確認を続ける。


「竜討伐するんだぞ? 俺たち」

「関係ねえ。寧ろ、困難を乗り越えてこそ男女の仲は進展するというか? ――竜討伐から始まる恋もあると思います」

「ドラゴン入刀か。いいね。やっぱお前を一党に誘った判断は間違ってなかった。よろしく頼む」


「えぇ……私を求められても困る……」

「お前はお前で自信がすごいな」

「私が美人であることは事実だろう?」

「コメントは差し控える。人の感性は自由ということで」

「アガサ。お前も軽々しく、淑女の肌に触れようとするな。さっきのことは意図があってのことと認めるが、次は殴る」

「淑女なら殴るとか言うんじゃねえ」


 人数問題はひとまず解決したか。男を連れて一党募集の机に戻ると、机の上に飯と酒が並んでいた。


「戻ったか。ていうかさっきの奴じゃん。まじか」

「まじだ。紹介しよう。えっと……知らないやつだ」

「おい適当か」

「どうせ聞くなら、全員揃って名乗らせた方が早いと思ったんだよ」

「頭数は十分なくらいに増えたし、ちょうど良い。自己紹介も兼ねて、歓迎会と行こう。飯と酒代は折半な。長いこと居座ってるもんだから、店主に注文取られた……」

「言われてみればここ、酒場だった」

「人が集まるまで待ってる当たり、商売上手ですねぇ」


 各々が席に座る。席順としてはチハヤと黒魔法使いが対面で話していたこともあって、アガサがチハヤの隣。黒魔法使いの隣を、ワタシと知らないやつが座った。

 三人で並んで中央に位置を取られると、ワタシが一党の代表にも見える。チハヤは特に気にするつもりもないらしい。

 代表がどうのこうのではなく財産管理が目的であるので、それほど拘りがないようだ。


「じゃ、新規で一党が出来るくらいに頭数が揃ったということで、乾杯~」

「「「「かんぱい」」」」

「ゴクゴク……ぷはッ。あたしがこの一党の募集をかけたチハヤだ。職業は戦士。こんな感じで、それぞれ名前と職業、あと一言付け加えて自己紹介を頼む」


 と言って、手が対面に差し向けられると、さっきまで対面で座っていたからか、黒魔法使いから名乗りを始める。


「えと、まーちゃんです。黒魔法使いやってます」

「ん? マー、さん?」

「いえ、まーちゃんです。ちゃんも含めて名前でして……敬称とかじゃありません。後衛が少なそうな一党とお見受けして声を掛けるにいたりました」

「びっくりしたっしょ? あたしもびびった」

「まーちゃん、この一党は名前弄りがひどいんだ。お互い励まし合っていきていこう」

「はあ……え? 自己紹介渡してもいいですか?」


「私はワタシだ。聖騎士をやっている」

「ふざけてます?」

「ちゃんと名乗れよ、名前を言え名前を」

「お前は誰なんだよ」

「くそッ……揶揄う人間が増えた!」

「? ……ああ、そういう」


 一人だけ、本当に疑問に思ったらしく、知らないやつが不思議な顔をしていたことを見てワタシが一番ショックを受けていた。


「わ、笑いとしても伝わるか中途半端……何をもってこの名前となったのか、責任者でてこい」


 独り言なのだろう。周りに聞こえるように言わず、名前を背負って生きることとの折り合いをつけている。


「俺は盗賊のキタムラ。……そう落ち込むなって。そのうちみんな慣れるだろ」

「ぐすっ、そうやって私に気に入られようとも、下心しか感じられない……」

「俺の言葉、全部下心に変換されてるッ!?」

「いや普通の励ましではありましたけど」

「そう反応されると怪しく見えてきたな」

「異性として見られていると、前向きに生きていこうぜ、兄弟」


「え、兄弟なんですか?」

「まーちゃんは知らないか。男ってのは血がつながってなくても、同じ道を出入りすると兄弟になれるっていう……」

「え、あ、そういう!?」

「……え、そうなのか? 私は詳しくないが」

「その話は事実無根だからストップで。俺の紹介に進めない」

「事実、無根!?」

「あれ、加入する一党、早まったかな……」


 まとまりが皆無だった。というより、誰かがまとめるって気がないのが悪い。


「お前がふざけると場が収集されないんだが?」

「そうだな。緊張でがちがちになるのもって思ったけど、必要なさそうだ」

「すみません、ちょっと調子乗っちゃいました。……あらためて、自己紹介をオネガイシマス」

「……戦士のアガサだ。これからよろしく頼む」


「しかし、これから竜討伐に行くって一党にはとても見えないな」

「あれ、もう言うのか」

「というか、それも含めて声をかけたところはあります。……竜の素材を集めてまして」

「まーちゃんは魔法だけじゃなくて調薬もできるんだとか。……やば、我ながら金の卵を拾ったかも」

「売りに出すには、資格とか認められてないとダメなんですけどね」

「まーちゃん! アタシと組んで、素材の採取から販売までやろう!」

「お前要るか? 商売ができるとは思えないんだが」

「うぐッ……おいおいね。お金がたまったら、この街で店を構えて見せる」


 金稼ぎに関しては盗賊としても思うところがあるのか、キタムラが溜息をついた。


「金稼ぎを始めるために、金が要るとは……世知辛い話だな」

「一攫千金は冒険者の夢ですけど、その後に店を構えるって話は、夢のまた夢って感じですねぇ……。応援はしますケド」

「同情するなら金をくれ……!」

「その金を稼ぐための竜討伐だろうが」

「おっと、そうだった。とりあえずの自己紹介と、目標が共有されたことだし、このまま作戦会議をするために移動するぞ」

「ここでしないのか?」

「おいおい冗談。ま、新入りが集った一党に聞き耳を立てるやつもいないとは思うけど、だからって垂れ流しにするつもりもない。今の拠点を紹介するのも兼ねてね、それなりに広い共用スペースがあるんだよ」


 そう言って立ち上がったチハヤに続いて、みんな立ち上がる。

 店を出ようとする俺たちに、チハヤが続けて告げる。


「飯と酒代は折半だからねー!」

「ケチ臭いリーダーだ」

「倹約家といえ。こういうお金のやり取りはきっちりすること。メンバー間での貸し借りはお互いが納得してなら自由だけど、他所でお金を借りるとか、一党の資産に手を付けたらぶっ殺すからそのつもりで」


 チハヤが怖いのか、キタムラがアガサに耳打ちをする。


「賞金首狩りにでもなったほうが稼げるんじゃないか、あのお嬢ちゃん」

「ばっかお前、人間殺したら稼げるなんて知った次の日には、あいつこそ賞金首になってるだろ」

「うーん、女につられて加入したにしては、周りの女が強すぎる」

「……諦めるとでも?」

「馬鹿言うな。モテに強い弱いは関係ねー。強い女をベッドでひーひー言わせるのが俺の生き様だッ」

「生き恥とは言わない。それで竜の討伐に参加するっていうんだから、大したもんだ」

「言ってるだろそれ。ま、金が入れば女が抱けるってのは冒険者の共通認識だ。それが早まるっていうなら喜んで死地にでも飛び込んでやるさ」

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