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第21話

 帰りのホームルームが終わり、放課後になっても雨はまだ降り続いていた。この調子だと、今日は一日中降りそうだ。


 俺は自身の帰り支度をさっさと済ませ、白川の下に行く。


「白川、ちょっと話があるんだが、いいか?」


 白川は教科書をカバンに入れる手を止め、「いいよ。帰りの準備がまだだからちょっと待ってね」と笑顔で返事をしてくれた。


 帰り支度が完了した白川と共に教室を後にし、教室前廊下で俺は話を切り出した。


「今週の日曜日、暇か?」


「うん、空いてるよ。どうしたの?」と、いつものにこにこした表情で答える白川。


「お前の家に遊びに行ってもいいか?というか、お前の部屋に入りたい」

「えっ……?」


 目の前のにこにこした表情は一瞬で驚きの様相へ変化した。


「どういう……意味かな?」


 白川の背後に一瞬、黒い影が見えたような気がした。その正体が何かは分からないが気にする必要はないだろう。


「本郷が言ってたんだ、彼女の部屋に入ると幸せになれると」


 俺は昼休みの時の本郷の言葉がずっと頭にこびりついていた。正確な文脈は覚えていないが、確かにあいつは彼女の部屋に入れば幸せになれるというニュアンスなことを発言していた。


 白川の過去の話を聞いて以降、俺は幸せという概念の正体が気になっていた。

 それは個に応じて姿を変えるものなのか、万人に共通な存在なのか、年齢や性別、人種によって変容するものなのか、時代によってパラダイムシフトされるものなのか。


 本郷の言葉に深い意味がないことはもちろん重々承知している。しかし、幸せとは何か、解決の糸口が見つからない以上、藁にも縋る思いになるのは当然のことだ。


「ああ、本郷君がそんなこと言ってたんだ。本郷君なら、なんか言いそうだね」


 湿気を含む横髪を指先でくるくるしながら、白川はそう答えた。表情はすでにいつもの笑顔に戻っており、発信元が本郷だと分かると、大いに納得しているようだった。


「一応確認したいんだけど、その……エッチなことは、しないよね……?」


 俺から視線を逸らし、頬を赤く染める白川。髪の毛をくるくるさせる指先が先程よりも少し速くなる。


「特に興味はない。俺はお前の部屋に入って幸せとは何か、それが知りたいだけだ」

「──そうだよね、良かった。でも、やっぱり佐々木君って変わってるね」


 今の会話で、変わってる要素がどこに含まれていたのか俺には分からなかったが、白川家への訪問のアポを取り付けることができて良かった。


 親指を立てたいいねポーズを俺に見せつけて「部屋、キレイに掃除しておくね」と上機嫌な様子で白川はそう言った。女子の部屋は普段からキレイなもの、という固定概念を持っていた俺だが、実際はどうなのだろう。こんな発言をしたら世のフェミニストに袋叩きにされるのは目に見えているので、決して口には出さないが。


 昇降口に来ると、雨は勢いを増していた。

 太い雨粒が「ザアー」という効果音を発しながら容赦なく降下する。雷の音も聞こえ出し、嵐がやってくるんじゃないかというぐらい、外は荒れた天気となっていた。


 この悪天候の中下校するのはめんどくさいな。そう思いながら俺はカッパを取り出し、駐輪場まで足を進めた。

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