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第11話

 これは、入学してまだ数日しか経っていないころの話である。


 校庭の桜の木には花びらがまだたくさん咲いていた。

 高校のオリエンテーションが終わり、今日から午後の授業が始まる、という日。

 俺はその日、弁当を持ってくるのを忘れてしまった。

 その日から昼食が必要になることは知っていたので、前日に母親に弁当を作って欲しいという申し出をしていた。

 母親は「高校生活初回のお弁当だから気合いを入れて作ってあげる」と言って、朝早く起きて豪勢な弁当を作ってくれた。

 しかし親不孝な俺は、リビングに用意された弁当箱を見事にスルーして家を出てしまったのだ。


「マジかよ・・・」


 昼休みになり、カバンを開けて初めて弁当を忘れてしまったことに気付いたときは、思わず冷や汗をかいた。


 さて、どうしようか。と、考えている時だった。


「え~!今日ってお昼ご飯必要なの!?」


 叫び声がしたので、声のする方を見た。

 すると、驚きのあまり唖然とした顔の男子生徒がそこにいた。

 どうやらこの男子生徒は、今日から午後に授業があることを知らなかったらしく、昼の用意をしていなかったようだ。


 いや、流石にバカだろ。

 事前に配付された手紙にも書いてあったし、前日の帰りのホームルームで担任が「明日から午後の授業が始まるから、必ず昼の用意をしておくように」と、念をおして言っていたのに。


 ちなみにこの男子生徒っていうのが浜中進だ。

 こんなバカはほっておいて、昼飯をどうするか、もう一度考えようとした時だった。


「なんと!お主も午後に授業があることを知らなかった者か!わが同胞よ!」


 バカな男子生徒がもう一人いた。

 もちろんこいつが細川翔太だ。


「なんだよ、俺だけじゃなかったのか。安心したぜ!」


 すかさず3人目のバカ、本郷蓮もその場に現れた。


 このクラスはどうかしてるんじゃないか。そう考えてから、初回から弁当を忘れてくる自分も同レベルだということに気付き、吸い寄せられるように3人が集まっている所へ向かった。


「実は俺も、弁当家に忘れてきて困ってるんだよね」


 あの時の3人が俺に見せた顔が今でも忘れられない。

 前世の婚約者を見つけ出したように目を輝かせながらこちらを見つめていた。


 さて、こうして俺、本郷、細川、浜中が集結したわけだが、今早急に解決しなくてはいけないことは、昼飯をどうするか。

 ちなみに富北高校には購買もなければ食堂もない。何とも高校生に優しくない学校である。

4人で必死に知恵を模索する。


「クラス中からちょっとずつおかずを分けてもらうっていうのはどう?」

「俺の中学の先輩が言っていたが、雑草って食えるらしいぞ」

「ここは一か八か、職員室へ行って先生たちの弁当をちょうだいするという策はいかがだろうか」


 案はいくつか出てくるがまともなものがない。

 もたもたしている昼休みが終わってしまう。さっさとどうするか決めなくては、そう考えていると、何故かは分からないが、ナイスアイデアが突如俺の頭に舞い降りてきた。


 俺はすかさず自分のスマホを取り出し、ある番号に電話をかけた。

 3人は不思議そうに俺を見ているが、俺の行動を静かに眺めるのみで、声をかけたりはしてこない。

 2コールもしないうちに、電話先の相手は出てくれた。


「いつもありがとうございます。こちらトランプピザ〇〇店です」

「すみません、ピザの注文をしたいのですが」

「ありがとうございます、ご注文をお伺いします」

「マルゲリータピザのMサイズを2枚ください」

「マルゲリータピザのMサイズが2枚ですねありがとうございます」


 といった感じで、流れるようにピザの注文をした。


「富北高校の1年1組のクラスの届けてください。2階にあります」


 届け先を伝えた時、店員は「え?」と驚いた様子だったが、「わ、わかりました」とぎこちない返事をして了承してくれた。

 電話を終えた俺に本郷が話しかけきた。


「えっと、今の電話さ、まさかとは思うけど、ピザの注文をした?」

「まさかもなにもピザの注文をしたぞ。合計3000円もしたから、一人750円くれ」


 本郷だけではなく、細川と浜中も驚きの顔を俺に見せてきた。

 そして何故か、そのやりとりを見ていた周りのクラスメイトたちも、目をこれでもかというくらい大きく開いて俺の方を見ていた。

 どうやらみんな、俺がピザの注文をしたことに驚いているらしい。


 なぜ驚くんだ?

 こいつらは出前でピザを頼んだことがないのか?

 そう俺が思案していると、本郷がにやっとした顔でこう言った。


「お前、めちゃくちゃ変わったやつだな!おもしれえ!」

「蜀の軍司、諸葛孔明も驚きの発想、これは恐れ入った!」

「学校でピザ・・・考えたこともなかった」


 3人とも快く750円を渡してくれた。

 ちなみにピザは昼休みには間に合わず、5時間目の数学の授業中に配達された。


「お届けに参りました、トランプピザです。佐々木裕介さんはいらっしゃいますか?」


 教室の扉を勢いよく開けて、若いお兄さんが室内に向かってそう告げた。

 教室に沈黙が訪れる。


 放課後俺は生徒指導室に呼び出され、生徒指導主任と担任にこっぴどく叱られ、反省文を書かされた。


「校則にピザの出前を取ってはいけないとは書いてありません」


 生徒手帳に書かれている校則一覧を突き付けながら抗議をしたが「常識を考えろ常識を!!」と、鬼の顔をしたように激高した生徒指導主任に怒鳴られ、俺の意見は全く取り合ってもらえなかった。

 校則って、書いてあっても書いてなくても意味がないんだな。

 俺はこの日、理不尽という言葉の意味を改めて知った気がした。






 とまあ、何はともあれ、このような経緯があって俺たちは仲良くなった。

 ちなみにその日以降、昼食を忘れてくるということが1回もなかったため、学校でピザの出前を頼んだりはしていない。

 個人的には4時間目の途中にこっそり教室を抜け出して、出前の電話をし、昼休みに配達してもらって教室でピザを食べたいと思っているが、それが見つかってまた叱られるのはめんどくさい。


「今度浜中の家でピザパーティーをしようぜ」

「それはいい考えだ。ぜひやろう」


 本郷の突然の提案に細川が賛成する。


「それ、楽しそうだね。あ、でも4人でピザ二枚じゃ足りないから3枚ぐらい買おうよ」


 家主の浜中も乗り気である。


「そうだな、いつか時間があるときにやろう」


 断る理由はなかった。いつになるかは分からないが、必ずこの場所でピザパーティーをやろう。そう決意した。


 ドーナツとジュースを平らげた俺たちはその後、1時間ほど勉強をして、その日の勉強会はお開きとなった。


 ここからだと家まで30分ぐらいってところか。

 帰りの時間を目算し、俺は自転車をこぎ始めた。

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