追跡、分析、黒幕の影
田島は朝から町を駆けまわっていた。
娘が最後に立ち寄ったという薬種問屋では、店主が顔をしかめている。
「……あの娘さんかい。泣きながら薬をくれって頼んできたんだがね、金が足りなくてな。
袖口は血で濡れてたが、けがをしている様子はなかった。すぐに表の人混みに紛れちまったよ」
田島は礼を言い、町角で着物の裾を引きずる女の目撃情報を集めて歩いた。
春の江戸、橋場の近くでは米屋の手代が「朝早くに泥だらけの娘が川べりを渡っていった」と証言した。
細い足跡が、しばらく川沿いの石垣に続いていた。
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文蔵は裏長屋の一角で、小柄な浪人者と静かに言葉を交わしていた。
「おい文蔵。最近、型の指南役だって大口叩いてる奴が出てきやしたぜ。
あっちこっちで“斬り役のやり口”を教えて回ってる。金さえ積めば、剣の型でも斬痕でも、何でも流行りだ」
「そいつの名は?」
浪人は口を濁す。
「名は明かさねぇ。けど……“夜鷹”と呼ばれてる。
どうも北町の辻斬り崩れらしいが、素性は謎のまま」
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一方、吉昌は奉行所の隅で斬痕記録の巻紙を並べ、丁寧に線をなぞっていた。
「一件目、二件目、三件目……最初は全部“右から左”の斬り下ろしだったのに、
途中から“左から右”や、水平に近いものまで混じってきている。
しかも、刃筋の走り方が事件ごとに微妙に違う――これは、“型”を教わった複数の手だ」
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吉睦は河岸の現場で再び足跡と血の流れを見直す。
朝露の残る土に、小さな足跡が交錯し、斬り合いの泥がまだ乾いていない。
(ただの模倣なら、なぜこれほど混乱が広がる?
“誰か”が意図的に型をばらまいている――それとも、もっと深い理由が……)
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奉行所に戻った録之助は、親方筋から得た情報を整理していた。
「どうやら、最近“本物の景光写し”の刀を求めて、町に怪しい鍛冶屋や商人が出入りしてる。
噂を撒く浪人や流しの剣客も増えてるが、どれも“夜鷹”を恐れてるようだ」
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吉睦、吉昌、田島、文蔵、録之助――
皆が各自の証拠・証言を奉行所の座敷に持ち寄り、緊張した面持ちで集まった。
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吉昌が口火を切った。
「今回の斬痕、どれも最初の事件と“芯”が違います。
型だけをなぞるやつは多いけど、“真剣の手”はひとつもない。
でも、必ず“夜鷹”の影が現場に残っている」
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吉睦は巻紙を見つめ、ゆっくりと頷く。
「“夜鷹”……町を騒がせる型の黒幕か。
そいつを突き止めなきゃ、この町に本物の“斬痕”は戻らねぇ」
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田島が手控えを握りしめる。
「今夜、北町裏で“夜鷹”がまた型の指南を開くって噂が回ってます。
仲間を集めて現場を押さえましょう!」
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録之助が鋭く指示を飛ばした。
「皆、支度をしろ。今度こそ――黒幕を仕留める」




