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山田浅右衛門 吉睦〜斬痕見立て帖〜  作者: やはぎ・エリンギ
第二章 影斬りの刀

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型の連鎖、町のざわめき

小名木川の河岸に朝の陽が差し始める。

 現場は徐々に人だかりが増し、町人や行商、夜回りの者たちが次々と集まってきた。

 田島は人払いを続けながら、証言の聞き取りに奔走している。

 文蔵は裏通りを回り、町の噂や隠れた目撃者を探していた。



---


 「先生、これ……」


 田島が川沿いの石垣の影から、小さな包みを拾い出してくる。

 中には血の滲んだ白い布と、古びた守り刀――

 刃はこびており、手元に泥がこびりついている。


 吉睦は静かにそれを受け取り、布の繊維や刀の傷を指でなぞった。


 「この守り刀、女子供が肌身離さず持つものだ。……だが、柄の握りが妙に荒い。

 きっと、“持ち主”とは別の手で握り締められた跡だ」



---


 録之助は橋の上から、群衆の動きを観察していた。

 町の端から端まで、“また斬り合い騒ぎ”の噂があっという間に駆け巡る。

 茶屋の女将や魚売り、子どもたちまでが「次は自分の町で起こるのでは」と不安げな顔をしていた。



---


 文蔵が戻ってきた。


 「親分、裏通りの米問屋で、さっき斬り合い現場にいた娘が目撃されてやす。

 どうも追い詰められて逃げ出した様子……店の手代が“娘は泣いて震えてた”と証言してます」



---


 吉睦は静かに首を振った。


 「型だけをなぞる者――それが町に蔓延してる。

 本物の剣士の斬撃は、こんな風には残らない」


 田島が、町の騒ぎを気にして言う。


 「町人たちも、皆怯えてます。“型”が流行るだなんて、世も末だ……」



---


 橋の袂では、奉行所の下役たちが現場を縄で囲い、

 録之助が近隣の親方たちと顔を合わせて回る。


 「こういう時こそ、町の連中に余計な不安を撒かせるな。

 “御様御用が調べてる”と伝えておけ。俺も町回りに出る」



---


 文蔵は吉睦に耳打ちした。


 「先生、裏で“誰かが斬り役を雇ってる”って噂が回ってます。

 次は町中で大捕物になるかもしれねぇ……」



---


 吉睦は巻紙にまた一つ、斬痕の線を加えた。


 春の川沿いに、得体の知れぬ恐怖と、不穏な風が吹き始めていた。



---


 そんな中、見習いの吉昌が遠巻きから現場を見つめている。


 (斬痕の“意味”を、俺はまだ知ることができない……

 だが、先生たちが見ているものの先に、何かがある気がする)



---


 町に不安と緊張が高まる中、

 一行は次なる手がかりと真相を求めて動き出すのだった――



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