型の連鎖、町のざわめき
小名木川の河岸に朝の陽が差し始める。
現場は徐々に人だかりが増し、町人や行商、夜回りの者たちが次々と集まってきた。
田島は人払いを続けながら、証言の聞き取りに奔走している。
文蔵は裏通りを回り、町の噂や隠れた目撃者を探していた。
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「先生、これ……」
田島が川沿いの石垣の影から、小さな包みを拾い出してくる。
中には血の滲んだ白い布と、古びた守り刀――
刃はこびており、手元に泥がこびりついている。
吉睦は静かにそれを受け取り、布の繊維や刀の傷を指でなぞった。
「この守り刀、女子供が肌身離さず持つものだ。……だが、柄の握りが妙に荒い。
きっと、“持ち主”とは別の手で握り締められた跡だ」
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録之助は橋の上から、群衆の動きを観察していた。
町の端から端まで、“また斬り合い騒ぎ”の噂があっという間に駆け巡る。
茶屋の女将や魚売り、子どもたちまでが「次は自分の町で起こるのでは」と不安げな顔をしていた。
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文蔵が戻ってきた。
「親分、裏通りの米問屋で、さっき斬り合い現場にいた娘が目撃されてやす。
どうも追い詰められて逃げ出した様子……店の手代が“娘は泣いて震えてた”と証言してます」
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吉睦は静かに首を振った。
「型だけをなぞる者――それが町に蔓延してる。
本物の剣士の斬撃は、こんな風には残らない」
田島が、町の騒ぎを気にして言う。
「町人たちも、皆怯えてます。“型”が流行るだなんて、世も末だ……」
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橋の袂では、奉行所の下役たちが現場を縄で囲い、
録之助が近隣の親方たちと顔を合わせて回る。
「こういう時こそ、町の連中に余計な不安を撒かせるな。
“御様御用が調べてる”と伝えておけ。俺も町回りに出る」
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文蔵は吉睦に耳打ちした。
「先生、裏で“誰かが斬り役を雇ってる”って噂が回ってます。
次は町中で大捕物になるかもしれねぇ……」
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吉睦は巻紙にまた一つ、斬痕の線を加えた。
春の川沿いに、得体の知れぬ恐怖と、不穏な風が吹き始めていた。
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そんな中、見習いの吉昌が遠巻きから現場を見つめている。
(斬痕の“意味”を、俺はまだ知ることができない……
だが、先生たちが見ているものの先に、何かがある気がする)
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町に不安と緊張が高まる中、
一行は次なる手がかりと真相を求めて動き出すのだった――




