表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山田浅右衛門 吉睦〜斬痕見立て帖〜  作者: やはぎ・エリンギ
第二章 影斬りの刀

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/36

夜明けの急報

奉行所の座敷で夜を徹した推理は、やがて静けさに包まれた。

 外では夜風が街路樹を鳴らし、薄明の光が障子越しに滲みはじめている。

 行灯の油も尽きかけ、誰もが疲労と焦燥を隠せずにいた。



---


 その時、急ぎ足の下役が駆け込んできた。


 「録之助さん、また出やした! 今度は小名木川の河岸で斬り合い騒ぎです!」


 空気が一気に張り詰める。

 吉睦もすぐに立ち上がった。


 「田島、文蔵、用意はいいな?」


 「へい、すぐ行きやす!」



---


 一行は小名木川の河岸へと急いだ。

 春まだ浅い夜明け、川沿いにはもやがかかり、板橋の上に町人や夜回りの者たちが集まっている。


 田島が先に駆け出し、文蔵が現場周囲の人払いを始める。

 録之助は町人たちから証言を集め、吉睦は静かに斬り合いの跡を探し始めた。



---


 現場には、男の倒れた遺体――

 着流しは血に濡れ、手には折れた短刀。

 周囲の地面には泥の足跡と、斬り合いの混乱を物語る草履の跡が幾重にも走っている。



---


 吉睦はまず遺体の傷口を観察した。

 「……切っ先が浅い。肩から胸へ、まっすぐ斬り下ろしているが、骨まで届いていない。

 この型は――やはり素人か、あるいは別人だ」



---


 田島が周囲を歩き、見つけた証拠品を差し出す。


 「先生、橋の下にこれが落ちてました」


 白布に包まれていたのは、血の付いた女物の小刀。


 「女の物にしちゃ、刃こぼれが目立つ。誰かに貸し与えた可能性もあるな」



---


 文蔵が町人から新たな証言を聞き取ってくる。


 「昨夜ここで、若い娘が泣きながら駆けていったのを見たって人が二人いました。

 娘は着物を泥だらけにして、しかも手に血の跡をつけてたって……」



---


 録之助が低く唸った。


 「また“型”をなぞっただけの、下手な斬り方……。

 だが、斬り合いは真剣だったようだ。これまでの模倣犯と違う何かを感じるな」



---


 吉睦は巻紙に新たな斬痕を記録しながら、仲間たちの報告を一つ一つ吟味する。

 血の飛び方、足跡の間隔、草履の脱げた位置――

 細部を重ねるごとに、“斬る”という行為がこの町で妙な伝染を始めていることが、じわじわと浮かび上がってきた。



---


 田島は川のほとりを見回しながら言う。


 「斬ったやつは、斬られる方と面識があったようです。

 “泣いて謝っていた”って声も聞きました」



---


 文蔵が静かに頷いた。


 「先生、この先もきっと……もっと大きな騒ぎになりますぜ」



---


 吉睦は春の川面に目をやった。


 斬痕の記録と、未解決の謎。

 ただの模倣で済まないものが、確かにこの町に根を下ろし始めていた――




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ