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山田浅右衛門 吉睦〜斬痕見立て帖〜  作者: やはぎ・エリンギ
第二章 影斬りの刀

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模倣の斬痕

町医者の検死が終わるころ、現場の空気は張りつめていた。

 町人たちも少しずつ遠巻きに散り始めるが、吉睦と録之助、田島、文蔵はその場に残って捜査の手を止めない。



---


 「田島、文蔵、こっちの草履跡、もっと細かく見てみろ」

 録之助が指示を飛ばす。


 田島が、泥に残った足跡の形を小刀で丁寧に縁取る。

 「先生、こっちの足跡……明らかに普通の町人じゃありません。歩幅も狭いし、着物の裾を引きずった跡まで残ってる」


 文蔵は小声で言う。

 「昨夜の雨のせいで、どれもぼやけてやすが……こりゃ、女物にしちゃ大きすぎる。だけど男にしちゃ細すぎる。年若い女か、痩せた浪人かもしれねぇ」



---


 吉睦は巻紙に現場の足跡を写し取りながら、もう一度遺体の傷口へ意識を向けた。

 肋骨の内側に、刀が一度“止まった”痕がある――

 (小森なら、一太刀で断ち切るはず。これは、途中で躊躇い、押し込んだ……)


 「……切っ先が、いったん骨に引っかかってる。力の入れ方を知らねぇ素人か――あるいは、慣れていない手か」



---


 そこへ、町医者が診察道具をしまいながら歩み寄ってきた。

 「浅右衛門どの、こりゃ妙ですぜ。

 骨の割れ方もだが、血の流れ方が、前の三件とはまるで違う。何か……斬られた側が動こうとした形跡がある」



---


 田島がうなずく。

 「現場に血が飛び散ってない。おそらく、斬ったあとすぐに倒れ込んでやす」


 録之助が町医者に問う。


 「刺客か、知り合い同士の揉め事か――?」


 町医者は首を振った。


 「いや、現場の足跡を見る限り、斬ったやつもすぐ逃げてる。二人とも相当に動揺していた様子ですな」



---


 そのとき、文蔵が人混みの外れから戻ってきた。


 「親分、ちょいと変な話がありやすぜ。

 表通りで、昨夜“泥だらけの娘”が慌てて茶屋に駆け込んだと。

 血はついてなかったが、裾に細い赤い筋がついてたと亭主が言ってました」



---


 吉睦は足跡と現場の位置関係を再度確かめ、静かに記録を続ける。

 (女が逃げた? 斬ったのは女か、あるいは連れの浪人か。

 いずれにせよ、ただの模倣だけではない――

 誰かが、何か“伝えよう”としている気配……)



---


 録之助が肩をすくめた。


 「事件が増えるたび、訳がわからなくなるな。

 どうせまた町奉行所じゃ“酔っ払いの喧嘩”で片付けられるんだろ」



---


 「いや、今回は何か違う」


 吉睦は小声で呟いた。


 巻紙には、型に似せた“別人”の斬痕と、細い血の痕――

 春の風の中に、解けぬ謎がまた一つ、刻み込まれていった。




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