命あるだけで
しばらくして――
薄明かりの差し込む町医者の一室。
吉睦は、白い天井をぼんやりと見上げていた。
肩と腹に巻かれた包帯の感触がじっとりと重い。
しばらくして、襖がわずかに開き、誰かが入ってくる気配がした。
「……生きてるか、吉睦」
録之助だった。
彼もまた、腕と脇腹に分厚い包帯を巻いている。
やつれた顔で、無理に笑おうとしているのが分かった。
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「……なんとか、な」
吉睦が苦笑する。
しばしの沈黙の後、二人は同時にため息をついた。
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「――あいつ、逃げたな」
録之助が、ぽつりと言う。
「ああ……型に執着したまま、どこかへ消えた」
「これで終わったのか?」
「さあな。だが、俺たちは生き残った。それでいいじゃねぇか」
不意に、二人の間に、安堵と虚しさが同時に満ちる。
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春の光が、薄く畳の上に差し込んでいた。
町の外では、すでに新しい季節が始まろうとしている。
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「まったく……命があってよかったな」
録之助が、ついに笑った。
吉睦も、ようやく笑みを浮かべる。
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その笑い声だけが、しばらく病室に残っていた――




