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山田浅右衛門 吉睦〜斬痕見立て帖〜  作者: やはぎ・エリンギ
第二章 影斬りの刀

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記録調査と返り討ち

吉睦と録之助は奉行所の記録蔵に向かった。


 重い蔵戸の向こう、古文書と巻物の山が二人を迎える。


 「小森彦次郎……いた。文政九年、御前試合で異様な斬撃を披露。

 対手は一太刀で胴を断たれ、観客騒然、審判即中止。その後、行方不明……」


 吉睦が読み上げ、録之助がうなった。


 「記録通りだとしたら……今起きている事件と型も似ている」



---


 二人はさらに、御前試合を知る道場の古老を訪ねる。

 茶を啜りながら、古老はゆっくり語った。


 「あれは、まるで“彫る”ような斬り方だった。傷の筋も、肉の裂け方も……普通じゃない。

 斬った後、本人はひとことも喋らず、審判が止めたらそのまま消えた。……噂じゃ、最近あの町外れの長屋で浪人を見かけるってな」



---


 さらに町人、刀鍛冶からも情報を集める。


 「景光写しを持った男が長屋に出入りしているらしい」

 「夜更けに物音がして、次の日には竹が切り倒されていた」

 「やせて無口だが、目だけが異様だった」



---


 ――夜。

 二人は裏道を抜け、町外れの長屋にたどり着く。


 「ここか。……正直、気味が悪いな」


 録之助が小声で言うと、吉睦も頷いた。


 「だが、やるしかない。被害者は、皆一撃で斬られている。“型”まで同じだ。

 放っておけば、また犠牲者が出る」



---


 長屋の灯りは消えていたが、戸の下からは微かな明かりが漏れている。

 二人は呼吸を合わせ、ゆっくりと戸口を押し開けた。



---


 畳の上には、小森彦次郎が座していた。

 吉睦たちが入ってくると、まるで何も驚かず、ただ静かに二人を見据えた。


 「……あんたが小森彦次郎か?」


 吉睦が問いかける。


 男は、ゆっくりと顎を引き、答えた。


 「俺に、何の用だ」


 「深川で起きた斬殺――三人とも一太刀で、型まで同じだった。

 現場に残された紙片、“景光写し 三尺三寸 三の型 合”。

 お前がやったのか?」


 小森は黙ったまま、畳に置いた“景光写し”の柄に手をかける。


 「――人間を素材に、刀を仕上げているだけだ」


 その声には感情の起伏がなかった。



---


 録之助が前に出る。


 「てめえ、それで何人殺した!?」


 「……足りないんだ。まだ、“型”が足りない」


 その瞬間、小森が立ち上がった。

 吉睦と録之助も、ほぼ同時に刀を抜いた。



---


 静かな緊張が満ちる。


 「やめろ、これ以上斬らせはしない!」


 吉睦が叫んだ。



---


 次の瞬間、小森が踏み込み、一直線に斬りかかる。

 吉睦は受け止めようとするが、肩に焼けつくような痛み。

 録之助も斬り込むが、小森の動きは鋭く、太刀筋が見えない。


 「くそっ……!」


 二人は必死で応戦するが、まるで小森の“型”の中に取り込まれていくようだった。

 気付けば、吉睦も録之助も、深い傷を負って畳に倒れていた。



---


 小森はその場に立ち尽くし、二人を冷たく見下ろした。


 「これで、また“ひとつ”仕上がった」


 そして、何事もなかったように長屋を出て、闇に消えていった――



---


 吉睦と録之助は、血にまみれたまま気を失った。


 夜が明ける頃、町人に発見されてようやく町医者へ運ばれた。




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