鍛冶屋での聞き込み
本所・鍛冶町。
町の一角に構える、古びた刀鍛冶の工房。
吉睦と録之助は、雨に濡れた暖簾をくぐると、炉端で鋼を打つ音が聞こえた。
「ごめんよ、仕事中でな……何か用かい?」
鍛冶屋の親方が、額の汗を拭いながら振り返る。
「伏見屋を通じて“景光写し”を仕立てたのは、あんたで間違いないか」
吉睦が巻紙を見せると、親方はじっとそれを見つめた。
「……間違いねえ。“景光写し”、あれはちょっと変わった注文だったよ」
「変わった?」
「普通は見た目の華やかさを気にするもんだが、あの客は“実用第一”“斬れることだけ考えてくれ”と何度も念を押した。 刃文も波のように荒く、厚みも攻めに攻めてある。おかげで鍛えるのに骨が折れたよ」
録之助が割って入る。
「その客――“小森彦次郎”はどんな男だった?」
「やせぎすで、無愛想。だが眼だけは、まるで死人のようだった。刀を手に取った瞬間だけ……妙に、嬉しそうに笑ったのを覚えてるよ」
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吉睦はしばし沈黙した。
「……その男、他にも刀を注文した様子は?」
「いや、“景光写し”一振りだけだ。だがな……」
親方は声を潜めた。
「奴が帰ったあと、工房の裏口に“試し斬り”された竹が一本転がってた。――並みの力じゃあんな風には斬れねぇ。 刀がよほど“斬り手”と呼吸を合わせていたんだろうよ」
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吉睦と録之助は、鍛冶屋を後にする。
雨は止み、町には鈍い光が射していた。
「――小森は“自分の刀”でなければ気が済まない。奴にとって、人を斬るのは“儀式”なんだろう」
録之助が低く呟いた。
「斬り痕を見れば分かる。あれは鍛冶屋と斬り手、二人で仕上げた“作品”だ」
「次は……小森の過去を洗う。御前試合の記録を探そう」




