現場検証と調査
深川・町外れ、斬殺事件の現場。
雪解けの泥に、まだ乾ききらぬ血の筋が残る。
吉睦は屈み込み、指先で土をすくった。
ほんのりと温もりを帯びた地面――斬られたのは、夜明け前か。
「――胴を一息で断った跡だな。力任せじゃない、“抜き打ち”の型だ」
隣で見ていた録之助が、現場に落ちた草履の裏を見つめる。
「足の向きが逆だ……斬られた奴は逃げようと振り返った、その瞬間に斬られている」
「斬り手は、相手の動きに合わせて“正確に型をなぞった”」
「型をなぞる……?」
吉睦は立ち上がり、再度周囲を見渡した。
「“刀の型”だ。犯人は、ただ殺すだけじゃない。“試技”のように順序立てて人を斬っている」
与力が息を呑んだ。
「人を、稽古台に……!」
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第一の被害者宅。
吉睦と録之助は、被害者の妻から話を聞いた。
「夫は、普段通りに仕事に出ただけで……何の揉め事もありませんでした」
「恨みや借金など、心当たりは?」
「全く……。ただ……あの日の朝、見知らぬ男が店の前に立っていたと、夫がぼやいていたのを覚えています」
「どんな風体でしたか?」
「背は高くも低くもなく、顔立ちも思い出せません。ただ、すごく無口で、じっとこちらを見ていたそうです……」
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次に、斬殺現場近くの茶屋。
茶屋の老女は、事件の夜を思い返す。
「夜中、変な音がしてな……見に出たら、白い着物の男が立っていたんだよ。あの辺り、雪解けで足元が悪いのに、まるで濡れてなかった」
「白い着物……?」
「裾も袖も、真っ白。刀だけが、やけに光って見えたよ……」
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伏見屋――本所の書物問屋。
帳場にいた主が、帳簿を開いて言う。
「確かに“景光写し”は注文されたが、あれは二月末に“本人”が取りに来た。痩せた男で、年の頃は三十路前後、無口だったが眼だけは恐ろしいほど据わっていた」
「その男が“彦次郎”と名乗ったのか?」
「名は……確かに“彦次郎”と聞いた。ただ、身分証文は見せず、代金も一分銀でぴたりと支払った」
「その刀は?」
「細身で、長さは三尺三寸。刃文が荒々しく波立っていて、鞘の色が薄墨。名工物ともちょっと違う、妙な迫力があった」
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伏見屋を出ると、外は冷たい雨が降り出していた。
録之助は呟く。
「……この足で、鍛冶屋にも聞いてみるか。“景光写し”を鍛えた職人なら、何か知っているかもしれん」




