表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山田浅右衛門 吉睦〜斬痕見立て帖〜  作者: やはぎ・エリンギ
第二章 影斬りの刀

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/36

銘を知る者

 「“景光写し”――か」


 柳生録之助は、紙片を覗き込みながら呟いた。


 「最近、市中の刀剣問屋で出回っているらしい。仕込みは江戸か、もしくは相州の流れを汲む鍛冶だ。だが妙だな……」


 「妙とは?」


 吉睦が尋ねると、録之助は鼻を鳴らした。


 「景光の写しは珍しくない。だが“人を斬るためだけに調整された写し”は異質だ。刃文の波が荒い。見栄えじゃなく、実用のために鍛えられている」


 「つまり、業物の“皮”をかぶった、本気の殺人刀というわけか」


 「その通り」




 二人は、吉睦の屋敷の奥座敷――刀剣押形の部屋にいた。


 江戸の名工からの写し、試斬記録、刀鍛冶の注文書……

 その中から、吉睦は数年前に見たある依頼書を思い出した。


 「……これだ」


 吉睦が引き出した一枚の巻紙。そこにはこう記されていた。


 > 『景光写し、長さ三尺三寸、刃渡り実戦調整、用途:据物試用。納入先:本所・伏見屋』




 「伏見屋……あの本所の書物問屋か」


 録之助が目を細める。


 「そこに“実戦調整”の景光写しが送られていた――なら、それが今回の凶器である可能性は高い」


 「問題は、誰が受け取ったかだ」


 吉睦がふたたび巻紙をたぐる。


 末尾に、受取人の名が記されていた。


 > 〈受領之者:小森 彦次郎〉




 「……小森、彦次郎……」


 録之助の表情が一変した。


 「知っているのか?」


 「いや……知らん。だがその名、どこかで耳にしたことがある。……確か、御前試合の過去記録にあった」




 御前試合――

 数年前、老中主催で催された幕臣の剣術競技会。

 その中で、記録に残らぬながらも「奇怪な技を披露した男」がいたという。


 その技は――斬った後の傷が、まるで彫刻のようだった。


 観客は凍りつき、審判は即座に打ち切りを命じた。


 そして、その男は姿を消した。




 「そいつが……“小森”だったかもしれん」


 録之助の声は低かった。


 「――ならば、奴は“斬る”ことそのものに取り憑かれている」




 「そして、今なお……“完成品”を求めて斬っている」


 吉睦は静かに言った。


 「刀の銘を、自分の血で書くように。――人の肉に、“刀の完成”を刻んでいる」




 外は、三月の風。

 雪は溶け、だが空気にはまだ冷たさが残っていた。


 春を迎えぬうちに――

 また、誰かが斬られるかもしれない。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ