表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山田浅右衛門 吉睦〜斬痕見立て帖〜  作者: やはぎ・エリンギ
第二章 影斬りの刀

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/36

第三章:影の銘

――文政十二年、晩冬。


 深川の町で、三人の町人が、相次いで斬られた。


 いずれも一撃。

 胴を断たれた者、肩口から腰までを割られた者、そして首から胸を裂かれた者。


 傷は深く、鋭く、容赦がない。

 それなのに――不思議なほど、美しかった。



---


 「……斬痕が整いすぎている」


 山田浅右衛門・吉睦は、白布の下に並べられた三つの遺体を前に、わずかに眉をひそめた。


 「人を斬って、こんなに均一な“型”が出るものか……」


 傍らの町奉行所与力が、冷たい息を吐いた。


 「型……?」


 「刀で斬られた痕の“形”のことだ。骨の断ち方、肉の裂け方、皮膚のめくれまでが――まるで手本のように、同じ角度だ」


 「そんなことが……」



---


 吉睦は、死体の脇に落ちていた小さな紙片を拾い上げた。


 墨書された文字。


 〈景光写し 三尺三寸 三の型 合〉


 与力がたじろぐ。


 「こいつは……何だ? “型”? “合”?」


 「“合格”の『合』だな」


 吉睦は低く言った。


 「――これは、刀の“試し斬り”だ」



---


 与力が顔をしかめた。


 「試し斬り……って、役所の御様御用の、それじゃないですか」


 「違う。これは“誰かが勝手にやった”ものだ。

 試すのは……刀の“性能”じゃない」


 吉睦は、最後の遺体の胴を斬った箇所を指差す。


 「これは……刀を“仕上げている”。

 人を斬って、刀そのものを“完成させようとしている”」



---


 静寂が落ちる。


 白布がかけ直され、死者の顔が闇に沈む。


 「……あの景光ってのは、有名な刀なんですか?」


 与力の問いに、吉睦はうなずいた。


 「相州伝、長船景光。南北朝の名工。だがこれは本物ではない。写し――偽物でも模倣でもない、“あえて模した業物”だ」


 「そんなもんで、斬れるんですか?」


 「斬れるさ。人を斬るには、むしろ好ましい」



---


 吉睦は静かに言った。


 「――問題は、“斬ったのが誰か”じゃない。

 “なぜ、こうまでして斬ったのか”だ」



---


 夜の空気が、遺体安置所の中でしんと冷えた。


 誰かが、己の刀の“完成”のために人を斬っている。

 何度も、何人も。


 それは、“刀剣試験”などではない。


 ――人間を素材にした、芸術的な殺戮だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ