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山田浅右衛門 吉睦〜斬痕見立て帖〜  作者: やはぎ・エリンギ
第二章 影斬りの刀

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封じたはずの記憶

典膳の死から、わずか三日後。

 江戸・牛込の町外れで、第四の死体が見つかった。


 胸部に外傷はなし。内臓が内部から破裂し、死因は“心臓の炸裂”。


 そして遺体の傍に置かれていたのは――


 **「山田浅右衛門吉睦 試之」**と刻まれた、見事な銘の押形紙。


 それは、吉睦の手による**“真贋不明の偽押形”**だった。



---


 「……おい、冗談じゃねえぞ」


 録之助の声が震えていた。


 「この押形、どう見たってあんたの筆跡だ。

 しかも、鞘の構造も……“香月堂”の細工と同じだ」


 吉睦は、黙って押形を手に取った。


 筆致、紙質、墨の濃淡、押印の角度――どれも完璧。


 だが、彼には“書いた記憶がない”。


 「……この手口。まさか、典膳が生きて……?」


 「いや。死体は俺が見た。あれは確かに、典膳だった」


 録之助が低く呟く。


 「じゃあ、“誰かが典膳の後を継いだ”ってことか。

 しかも、あんたの“名”まで使って」



---


 吉睦は、ゆっくりと座敷に腰を下ろした。


 目を閉じ、深く息を吐く。


 「……“記憶は斬っても、斬りきれぬ”か」


 鞘を封じ、帳を焼き、記録を絶ったはずの事件。

 だが、それでもなお――“名”だけが、再び人を斬っていた。


 「吉睦さま。俺ぁ知ってる。あんたは誰よりも、“斬らないために、斬ってきた”人だ」


 録之助の言葉に、吉睦はかすかに微笑んだ。


 「……“誰かが、俺になろうとしている”。

 ならば、俺は俺の手で、その“記憶”を断たねばならぬ」



---


 夜の山田家。

 座敷の灯がひとつ、ゆっくりと消えた。


 ――だが、どこか遠くで、もう一つの鞘が音を立てていた。

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