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山田浅右衛門 吉睦〜斬痕見立て帖〜  作者: やはぎ・エリンギ
第二章 影斬りの刀

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斬れぬ戦い、封じられる記憶

 深川・霊岸島――。

 人けのない石畳に、黒漆の鞘が、静かに音を立てた。


 「……山田の名は、いずれ終わる」


 奥山典膳は、鞘を下げたまま、構えをとる。

 その姿は異様だった。刀を抜かぬまま、気迫だけが空気を裂いていた。


 一方、吉睦もまた、試斬に用いた同型の“音殺しの鞘”を手にしていた。


 「終わらせるために、私は来た。

 記憶を斬ることができるのは――封じる者だけだ」


 二人の間に、風が走った。


 典膳が踏み込む。


 ――ズンッ。


 重い空気が揺れると同時に、石畳が一枚、中央から真っ二つに割れた。


 「……刃がなくとも、意志は届く」


 典膳の言葉と同時に、吉睦が動いた。


 「ならば――その意志ごと、受け止めよう」


 彼の鞘が、横なぎに走る。


 ぶつかり合ったのは、形なき“圧”だった。


 振動。空気の共鳴。

 風鳴り。震動音。気配――すべてが刃の代わりに響き合い、**無数の“斬らぬ斬撃”**が空間を満たした。


 そして――


 典膳の体が、ふっと揺れた。


 口元から、薄い血が滲む。


 「……やはり、吉睦さま。あなたの“封じ”は、美しい」


 そのまま、音もなく膝を折り、崩れ落ちた。



---


 翌日、事件は幕引きとなった。

 香月堂の仕込み鞘と帳面は、町奉行に提出され、山田家の記録として封じられる。


 吉睦は、ひとり、山田家の納所にて典膳の遺した“記録帳”を焼いていた。


 「斬って、残すことが“罪”なのではない。

 それを、“誰にも渡せぬもの”とすることが――私のごうだ」


 そう呟くと、帳の最後の一頁を、炎の中に滑らせた。


 鞘は、封印された。


 典膳は、死んだ。


 そして――


 もう一人の“斬り手”は、未だ動いていた。


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