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山田浅右衛門 吉睦〜斬痕見立て帖〜  作者: やはぎ・エリンギ
第二章 影斬りの刀

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典膳の殺人美学と“記録の呪縛”

神田明神裏の廃寺跡。

 冬の木立に陽が沈み、空気は澱んでいた。


 その中で、奥山典膳は、ただ一人、静かに鞘を拭いていた。

 黒漆塗りの、音を殺した“斬れぬ刀”――


 「……斬らねば、語らぬものもある」


 彼の独白が、闇の中にぽつりと落ちた。


 「記録は残せぬ。言葉は歪む。

 だが、斬り痕は、嘘をつかぬ」


 典膳は、懐から古びた帳面を取り出した。

 そこには、これまでの“斬り”の記録――

 肉の裂け方、内臓の位置、音の反響と死に至るまでの時間……細密に記されていた。


 「斬った者の“意志”は、刃に染み込む。

 ならば――その意志を、鞘に封じてしまえばよいのだ。語らぬ記憶が、最も純粋だ」


 彼は、筆を止めた。


 「吉睦さま……あなたは“封じた”が、私は“残す”。

 あなたが“責任”と呼んだものを、私は“記録”と呼ぶ」


 彼の顔に浮かんだのは、狂気ではなかった。

 誇り――斬るという行為に殉じた者の、それに近い、透徹したものだった。



---


 その夜。

 典膳は、三人目の“記録対象”を求めて、町に姿を消す。


 だが、彼の背後を、もう一つの影が追っていた。


 「……奥山典膳。お前はやはり“使える”。

 その“刃なき鞘”――我が手に渡れば、“本懐”に近づく」


 闇に溶けるような声。

 その者の手には、香月堂の古帳面と、吉睦の筆跡を模した銘文が握られていた。


 「“吉睦見立て”――偽られた鑑定ほど、世を惑わせるものはない」


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