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プロローグ

本作に登場する「山田浅右衛門 吉睦(やまだ あさえもん よしむつ)」は、江戸後期に実在した刀剣試斬師・鑑定家である山田家五代目・吉睦(1763年〜1829年)をモデルとした創作作品です。


吉睦は、江戸幕府に仕えた「御様御用おためしごよう」として、刑死者の遺体を用いて刀剣の切れ味を実証する試し斬りの名人であり、刀剣鑑定の目利きとしても知られました。 また、彼は『懐宝剣尺』の編纂協力にも関与し、後の「業物」評価の基準を形づくった人物としても評価されています。


本作は、そんな実在の吉睦を主人公に据えつつ、史実では語られなかった死体の斬痕から犯人像を読み解く“斬痕見立て”という観察術、さらには「斬ることで刀に記憶が染み込む」という特異体質という創作的設定を交え、江戸後期の闇に迫る伝奇ミステリーとして再構成しています。


【補足:山田家と江戸後期の背景】


山田家は初代・貞武以来、代々「浅右衛門」の名を継ぎ、「御様御用」として刀剣の実力を実際に人体で検証する役を務めました。 吉睦はその5代目にあたり、江戸市中の処刑場(主に小塚原)にて死罪者の介錯・試斬を行い、記録には「山田浅右衛門吉睦 試之」と刻まれた刀剣が多く残っています。


また、吉睦の時代――寛政、文化、文政――は表向き泰平ながらも、裏では犯罪や思想弾圧、冤罪などが増え、死体が語る真実に耳を傾ける者はほとんど存在しませんでした。


そんな時代に、「刀と死」のはざまで“真実”を見抜こうとする吉睦の姿を、本作では描いていきます。


【お願い】


本作は、史実の人物と時代背景をもとに再構成したフィクションです。 歴史的事実とは一部異なる描写も含まれますが、江戸後期の社会と人間の営みを照らす時代小説として、どうぞ最後までお楽しみいただければ幸いです。


【主人公】 山田浅右衛門 吉睦(やまだ あさえもん よしむつ) 幕府御様御用の刀剣試斬師。死体に残る斬撃痕から刀の銘、持ち主の癖、犯人の人間性までも読み解く。科学的観察と“斬ることで記憶が染み込む”特異な能力を併せ持つ。彼が一太刀を加えた刀は、斬られた者の“残留思念”を帯びることがある。


【ジャンル・コンセプト】 CSI × 鬼平 × 刀剣伝奇。 江戸後期の闇に起こる不可解な斬殺事件。 被害者の斬撃痕から真相を追う、異能ミステリー。


【世界観】 舞台:江戸後期。寛政・文化・文政期。 幕府の治世は続くが、治安のほころびと裏社会の暗部が拡大。 “刀で斬られる”事件が再び増えていた。


【主人公の役割】 ・死体の解剖と斬痕観察 ・刀剣鑑定と犯人の戦法推理 ・斬られた死体から「残留思念」を感じ取る(斬痕記憶) ・必要とあらば、自らの手で“試し斬る”

プロローグ:二ツ胴の亡霊


 雨上がりの夜――江戸の裏町、十間橋のたもとに、人ひとり転がっていた。


 その男は、胴を真っ二つに断たれていた。腹から背へ、骨も内臓も、まるで紙細工のように綺麗に分けられている。上体は仰向けに、下肢は少し離れて水溜まりに沈んでいた。


 その異様な死体に最初に気づいたのは、夜回りの町人だった。驚き、叫び、駆け込んだ先は南町奉行所。やがて現場を囲む提灯の灯りが、血に濡れた石畳を照らした。


 「胴を二つ。しかもこの斬れ味……」


 与力の柳生録之助は眉をひそめた。幾度も刀傷を見てきた男の目にも、これは尋常ではない。


 「これは、“試し斬り”の手口だ。しかも、熟練者……」


 誰が、なぜ、こんな場所で? 被害者の身元も刀も見当がつかぬ。


 ――否、一人だけ、この“斬痕”を見立てられる者がいる。


 「山田浅右衛門 吉睦……あの男を呼べ」


 闇の中、静かに吹き始めた風が、死者の上に落ちた。



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