第7話 何か凄い事になっちゃった
地下4階からギルドへ戻って来たのでスキップしたい気持ちを押さえて、アヤメさんを探してキョロキョロする。
見つけた! アヤメさんは何時もいるカウンターではなく、何かの用事で通路を歩いていたので僕はトタトタと追い掛けて声を掛ける。
「藤崎さん、こんにちわ」
「お疲れ様でした三日月様、今日は何時もよりお早いお帰りですね」
アヤメさんは何時も通り素敵な笑顔を向けてくれ、僕も表情も緩んでしまう。
「あの~・・・今、受付業務していないのは理解してるんですが、また是非相談に乗って貰いたい事が出来まして」
「畏まりました。小用が御座いますので、先に何時もの相談室でお待ち願えますか?」
「分かりました。無理を言ってすみません」
「いえ、大した用事ではありませんので直ぐに参ります」
アヤメさんは相談室に案内してくれ、僕にコーヒーを出してくれた後、小用を済ましに部屋を後にした。
<鑑定>スキルは、カバンに入れて持ち歩くのが心配だったので<虚空界>に入れてある。
念のためにカバンから取り出す、ふりをして<虚空界>からオーブを取り出す練習をしておいた。
コーヒーを飲み終わる頃にはアヤメさんが戻って来てくれた。
「お待たせヨウ君。最近はスライムボールもカウンターから袋で貰ってたのにどうしたの?」
「はい、今日は初めてスライム以外の魔物と戦ってきたのですが、その・・・また出ちゃって」
「まさか、またSPオーブがドロップしたの?」
「いえ、あの・・・その・・・スキルオーブが出ちゃったので、アヤメさんに相談したくて」
「ガタッ!!!」
「ス、スキルオーブですって? 嘘でしょ? 冗談よね?」
「あはは、そう思いますよね? 僕も驚きました。一応これです」
僕は練習していた通り、カバンの中へ手を入れ<虚空界>から<鑑定>スキルを取り出してテーブルの上に置いた。
「き、綺麗・・・本当にスキルオーブ? いえ、間違いないわ。この輝きは本物だわ。一体どこで? いえ、ごめんなさい。私とした事が個人の秘匿事項よね。それで、何のスキルだったのかな? 取得したときに分かったでしょ?」
「はい、<鑑定>ってスキルです」
「えっ!? えええええっ? ヨ、ヨウ君! <鑑定>スキルって、間違いないの?」
「はい、間違いなく<鑑定>ってスキルでした」
「・・・ヨウ君。<鑑定>スキルが、どれだけ凄いスキルなのか知ってるの?」
「一応知ってますよ? 確か東京に<鑑定>スキルユーザーが居るんですよね?」
「そうだけど日本では、まだ1人しか取得していないスキルなのよ?」
「はい、だから高く売れるかなって思って、アヤメさんに相談したかったんです」
アヤメさんは何故か両手で頭を抱えている。
「と、とりあえずスキルオーブを間違って使わないように専用のケースがあるの、それを取って来るから少し待っててくれる?」
「へえ~! 便利な物があるんですね。はい、待ってます」
「す、すぐ来るからね」
アヤメさんは珍しく慌てて相談室を出て行くと、言葉通り直ぐに戻ってきてくれた。
「ごめんなさいヨウ君。私怖くて触れないから、このケースにスキルオーブを入れてくれない?」
「はい、えっとこれで良いですか?」
「ふぅ~・・・ああ、驚いた。心臓が止まるかと思ったわ、ヨウ君って強運すぎるわよ? ところで本当にヨウ君はこれを売る気なのよね?」
「僕としては高く売れるなら習得するより売っちゃおうかなと思ったんですけど、アヤメさんどうしたら良いと思います?」
「・・・ごめんなさい。これは私の判断だけでは手に余るわ、私の上司に相談しても良いかしら?」
「はい、アヤメさんの信頼する人なら僕は大丈夫です」
「ありがとう、少し時間が掛かるかもしれないけど待っててね」
「はい、分かりました」
想像通り<鑑定>は、とんでもないスキルみたいだな、大人しく待っていよう。
◇ ◇ ◇
<アヤメ視点>
とんでもない事になったわ・・・
とりあえず岩永課長と斗沢部長に報告してからよね・・・流石に緊張しちゃうけど、そんな事も言ってられないわよね。
「岩永課長すみません、私と一緒に斗沢部長の部屋で御相談したい事があるのですが」
「むっ? それほどの事かね?」
「はい、とんでもない話しがあります」
「分かった。行こう」
「ありがとうございます」
「コンッコンッ! 岩永です」
「どうぞ」
「「失礼します」」
「ふむ、藤崎君と一緒に来るとは、何か揉め事でもあったのかな?」
「いえ、私もまだ話しを聞いていないのですが、藤崎君が相談があると申しますので連れてきました」
「ほほ~? 聞こうじゃないか」
「はい、お忙しい中、お時間を取っていただき、ありがとうございます」
「フフ、前置きは良いから話しなさい」
「はい、ある新人冒険者が、私に<鑑定>スキルオーブを売却するかどうか相談しに来られました」
「「なにっ?」」
「ま、まさか<鑑定>スキルとは・・・本物なのかね?」
「はい、スキルオーブなのは間違いありません。
ですが、種類については取得した本人にしか分かりませんので、確認出来ませんでした」
「しかし、信用のおける冒険者ですから、嘘を言っているとは思えません」
「ふ~む・・・分かった私も信じよう。私は急いで社長に話しをしてくる。おそらく、緊急会議になるだろうから岩永課長、君も出席したまえ」
「分かりました」
「藤崎君。その冒険者は今どこに居るのかね? <鑑定>スキルオーブも持参しているのか?」
「はい、相談室でお待ち頂いてます。<鑑定>スキルオーブは専用のケースに入れて頂き、本人がお持ちになってます」
「流石藤崎君だね、直ぐにVIPルームへ案内しなさい。藤崎君もそこで待機しといてくれ、くれぐれも機嫌を害さない様にな」
「分かりました」
ひゃ~! やっぱり凄い事になっちゃたわ。
VIPルームって私も初めてなんだけど、間違ってもヨウ君って呼ばないようにしないと、忙しくなってきたわ。
◇ ◇ ◇
<大阪ダンジョンギルド梅田支部 会議室>
「社長まで出席するとは何があったのだ?」
「氏橋支部長。私にも未だ分かりませんが、どうやら斗沢部長からの緊急会議以来だそうです」
「なに? 斗沢の奴からか・・・くだらん件じゃないだろうな?」
「瀧見社長が来られました」
「ガタッ! ガタタタッ!」
「カツカツカツ・・・ふむ、皆座ってくれ緊急会議を始めよう」
「ガタッ! ガタタタッ!」
「皆忙しい中よく集まってくれた。実は、新人の冒険者が<鑑定>のスキルオーブを手に入れたらしい」
「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」
「それは本当なのですか?」
「まあ、慌てるな。まだ売ると決まった訳ではないらしい、受付嬢である藤崎君に売るかどうか相談に来ているそうだ。藤崎君は斗沢部長の担当だったな、斗沢部長の考えから聞かせて貰おう」
「はい、私の思案では現在<鑑定>スキルは、東京ダンジョンギルドが所有しているのみであります。
ダンジョン素材のオークションも東京でしか開けない状態となっております。
従って、今このタイミングで大阪ダンジョンギルドで<鑑定>スキルを所持することは、非常に大きな利益に繋がる重大事項だと思われます。
もし、我々が<鑑定>スキルを入手出来れば、西日本でのダンジョン素材オークションを手掛ける事が可能になります。
ですが、我々が<鑑定>スキルオーブを買い取るには、資金不足なのは否めません。
私の予想ではオークションに出せば、数百億の値が付くだろうと思われます。
我々が捻出できる金額は、おそらく百億程度が限界だと思われますが、それと最上級の待遇を以って誠心誠意、頼んでみるしかないと思われます」
「ば、馬鹿な! たかが新人冒険者にそんな大金が払えるか」
「ふむ、そう言うなら氏橋支部長は、どうしたら良いと思う?」
「フフフ、新人冒険者なら高額で買い取ってやると伝え、数億も渡せば喜んで売るでしょう。ランクもAランクになるでしょうから十分かと」
「ふぅ~、正気ですか? 氏橋支部長?
情報化社会の昨今、新人冒険者とは言えそんな話信じる訳がないでしょう、そんな話をすれば信用を無くし違う支部に行くのは目に見えている」
「なっ、なに! 上司に向かって何だ、その口の聞き方は」
「落ち着きなさい、それぞれの意見は分かった。しかし、その<鑑定>スキルオーブの真偽について、どう考えている?」
「はい、藤崎君の話では信頼のおける冒険者と言う事で間違いないと思われます。
ここは、鑑定の魔道具を使用しても良いかと思われます」
「君こそ正気かね斗沢君? 鑑定の魔道具がいったい幾らするか知ってるのかね?」
「もちろん、存じておりますよ氏橋支部長。ですが、今こそ使う時だと私は思いますね」
「岩永課長。少し聞きたいのだが、君から見た藤崎君はどんな方かね?」
「はい、非常に有能な受付嬢であり冒険者からも慕われており、私も信頼している部下であります」
「分かった。よし、先ずは鑑定の魔道具を使う事にしよう」
「しゃ、社長! 本気ですか?」
「ああ、確かに高額で希少な魔道具だが、鑑定スキルが手に入れば不要な道具になる。もし、本物の鑑定スキルオーブなら、私も斗沢部長の考えに乗ろうじゃないか」
「ありがとうございます」
「ぐっ・・・」
ぐぬぬ・・・斗沢め私に恥を欠かせおって。
まあ良い、鑑定スキルオーブが本物であっても、上級ダンジョンを管理しているワシの部署の者に習得させれば様々な利権に食い込める。
ぐふふ! そうなれば、あの生意気な社長も追い出してやるぞ。
「よし、そうと決まれば場所は此処が良いだろう。誰か、藤崎君と新人冒険者の方を丁重にお連れしてくれ」
「分かりました」