第74話 猛獣使いじゃないですよ
僕達は空を移動しながら遊園地や大きな花縁を巡り、たった半日なのに遊びまくって部屋に戻って来た。
「う~ん、気分爽快だったわ」
「でも、富士山まで直ぐ着いちゃったわね、空を飛んでると速度があまり分からなかったけど、ひょっとしてメチャクチャ速いのかな?」
「フフ、おそらく音速ぐらいなら余裕で出せると思いますよ」
「えっ? それじゃ、時速1200キロぐらい出てるんじゃない」
「僕もそれぐらいだと思うよ?」
「そんなに速かったんだ? そりゃ、直ぐに着いちゃいますよね。それなら東京まで30分も掛かんないのか、あっ! 実家にも直ぐ帰れちゃうんだ」
「ウフフ、帰りたくなっちゃったかな?」
「あはは、直ぐ帰れると思ったら、意外と帰らなくなったりして」
「それは、あるよね~」
「ところで、この間手に入れたホークフェザーってあるじゃないですか?」
「うん、上級ダンジョンのハーピーホークからドロップした素材よね?」
「そです、あれって確か<鑑定>したときに、飛行速度上昇効果ってのがあったと思うんですが」
「うわ~、ヨウ君、もっと速く飛ぶ気なんだ?」
「いえ、もう十分速いから必要ないかと思ってたんですけど、海外遠征用に作っといても面白いかなと思っちゃったりして」
「良いね。僕も賛成♪」
「サーペントとかアルマイトの皮もあるから、フミさんに渡して海外遠征用の飛行服も作って貰いましょうか」
「では、明日の昼からフミさんの所へ伺うと連絡を入れておきますね」
「ありがとう、それと姫種を育ててくれる方を探したいんですが誰か居ませんか?」
「ああ、あの上級ダンジョンの地下10階のボスから出た宝箱のやつよね」
「それならシオに聞いてみよっか? 何時も良い食材探しで農家も良く知ってるからね」
「なるほど、シオさんなら信用出来るし、お願いしても良いですか?」
「分かったわ、連絡しとくね~」
「姫種から、どんなものが出来るのか分かんないけどさ、シオも喜びそうだしね~」
「あはは、とんでもないものが出来たりして」
「「「「「・・・・・・・」」」」」
「あれっ? どうしたんです皆さん?」
「三日月君、やっちゃったね?」
「えっ? まさかフラグとか言いませんよね?」
「はぁ~、すっごく嫌な予感がするわ・・・」
「な、なんですか僕が何時も、とんでもない事してるみたいじゃないですかー」
「フフ、自覚が無いのもヨウ様の魅力だと思います」
「絶対すっごい物が出来るのよ?」
「ある意味、皆からの僕の信頼って凄いんですね・・・」
今日は色々と遊びに行っていたので夕食は中華料理の出前を取る事にした。
もちろんリラさんが段取りしてくれたんだけどね。
どんなルートで見つけてくれてるのか分からないけど、とても可愛らしい女性3人が厨房で中華料理を作ってくれている。
なかなか女性の中華料理人って見た事ないんだけど、出張料理までしてくれるとは・・・
よく考えたら、この部屋に入った男性は、僕と魚座の料理人さんだけなんだな。
やっぱり僕の為にリラさんが女性を選んでくれているんだろうけど、正直嬉しかったりする。
料理が出来るのを待ちながら皆でテレビを見ていると、とんでもないニュースが放映されていた。
【では、次のニュースです! 本日、動物園内にある虎エリアに、少年が柵を乗り越え転落する事故がありました。
幸い、その少年は近くに居合わせた冒険者により救助されましたが、その時の映像を入手しましたのでご覧ください】
ニュースに流れている映像は今日僕達が少年を助ける所が映っている。
しかも、ナギサさん・アヤメさん・リラさんが素敵な笑顔で虎の頭を撫でている所や、ノノさんの足を虎がペロペロ舐めている所、またツドイさんが虎に懐かれている映像が鮮明に映っていた。
しかも、誰が撮ったのか知らないけど、皆凄く良い笑顔で美人にも拍車が掛かり、まるで天使か女神のようだ。
その後、少年を抱えながら傾斜のある壁を駆け上がり、まるで映像処理したんじゃないかと思える程、僕が格好良く映っている。
【しかし、冒険者は魔物を相手しているだけあり虎も怖くないのですね、しかも見た事もないような美人揃いだ。私もファンになりそうです】
【同じ女性から見ても嫉妬する程、綺麗な女性達ですね。美人でスタイルも良いし羨ましい限りです。
それにこの男性メチャクチャ可愛くて恰好良いですね、是非名前を教えて欲しいぐらいです♪】
【この事故の後、当局も調べてみましたが、まだ名前も分からないとの事です。分かっているのはパーティ名がクレセントと言うらしいですね】
【暗いニュースが多い中、今日は良いニュースを聞かせて貰って気分が良くなりましたね】
僕達のニュース報道が続く中、皆を見てみると頭を抱えていた。
この後、全員の携帯電話が鳴り続ける事になる。
「アヤメ~、テレビ見たわよ凄いじゃない、メチャクチャ綺麗になってるし~、テレビ移り良いタイプなの?」
「ナギサ、貴女何時から猛獣使いになったの?」
「ツドイ、久しぶりに顔を見たと思ったら、ニュースなんだもの吃驚したわよ」
「リラ君、良くやってくれた。冒険者のイメージが良くなる事間違いないだろう、ギルドの方も先ほどから問い合わせの電話がなりっぱなしだよ」
「ノノちゃん、久しぶり~高校以来だよね、テレビ見たわよ、お姉さんと一緒に映ってたじゃない? 双子みたいだったわよ」
「お兄ちゃん、ニュース見たよ凄いよ~、超格好良かったよ~、歯がキランってしてたよ~、お母さんに変わるね~」
僕達は、とりあえずスマホの電源を切り、食事をする事にした。
「ニュースでやってたの皆さんですよね? 凄い冒険者だったんですね♪」
「アハハ、ありがとう。顔隠しとけば良かったわ」
「緊急だったからね、迂闊だったわ」
「フフ、でも良い事ですから、良いじゃありませんか」
「テレビって凄いのね」
「ヒカリが凄く喜んでたから良いのかな・・・」
皆で電話の内容を喋りながら中華料理を食べて、引き続きテレビを見ていたらソフィアさん達も報道に捕まっていた。
最近は初級ダンジョンに行ってる筈だから、ギルドの中で目立ちまくったのだろう、唯でさえ綺麗だったのにケルピー美容で磨きが掛かったしな、仕方ないと思う。
少しだけ明日からのダンジョン生活に不安を覚えたが、それなりに顔も隠しているから大丈夫だろう。
食後、何時もの様にお酒を飲みながら話をし、自分の部屋へ戻るとリラさんが来てくれた。
「今日は、私が抱き枕担当なので、宜しくお願いします」
「いらっしゃい、リラさん♪ エスコートさせていただきます」
僕は入口に立っていたリラさんを抱き抱え、ベッドまで連れていき一緒に布団に入った。
「フフ、今日は積極的なのですねヨウ様。少し照れてしまいます」
「今日は、男らしくなっちゃいますよ」
僕はリラさんを、そっと抱き締めた。
相変わらず折れそうな程の腰の細さに、押し返すような胸の弾力が心地良い。
何回もキスを繰り返し、少し強めに抱き締め過ぎたのかリラさんの声が漏れる。
「す、すみません、苦しかったですか?」
「いいえ、大丈夫です♪ とても、幸せな気分です」
「良かった、僕も幸せ過ぎて力が入っちゃったみたいです」
「いくら私でも、ヨウ様の鋼の様な筋肉で強く抱き締められたら潰れちゃいますよ?」
「あはは、潰しちゃわない様に気を付けますから、あんまり可愛い声出さないで下さいね」
「フフ、それは、とても難しいかもしれません」
寝転がりイチャイチャしながら話をしていると、何時の間にか寝てしまった。
翌朝、目が覚めるとリラさんがキスをしてくれていた。
リラさんの様な美人に目覚ましキスをされると爽快な気分になる事がわかった。
「おはようございますヨウ様」
「おはようございますリラさん。凄く良い目覚めになりました」
「フフ、それは良かったです♪ もう起きられますか?」
「もう少し待って下さい」
僕はリラさんを抱き締め少しの間、幸福感に包まれる事にした。
何時もの様にリビングで朝食を取った後、上級ダンジョンへ向かうと入口の前でブラジルのロメロさんが立っていた。
ロメロさんとは、以前一緒にボス戦をやった以来だったよな。
おそらく、その時に渡した<風斬>スキルの件で僕達に話があるのかもしれない。
「おはようございますロメロさん。ひょっとして僕達に用事ですか?」
「ああ、話がしたくて待っていたんだが、少し時間を貰えるだろうか?」
「ええ、良いですよ」
僕達は此処で話をするのは人が多すぎるので、ダンジョンの中へ入る事にした。
地下10階に潜り、人気の無い所へ移動してから話をすることにした。
「此処で良いですかロメロさん?」
「ああ、ありがとう話と言うのは見当が付いてると思うが<風斬>スキルの件なんだ」
「あれから言われた通りギルドへ行ったら<鑑定>スキルオーブと交換して貰えたよ」
「それは運が良かったですね、<鑑定>スキルは在庫が少ないですから」
「・・・いや、そんな事よりも<風斬>スキルオーブが少なくとも<鑑定>スキルと同等の価値があるのを知っていたんだろう?」
「それなのに何故俺達に譲ってくれたんだ?」
「ん~、理由ですか? 説明するのは難しいですね・・・」
「なに言ってるのよヨウ君、説明なんて簡単じゃない?」
「そうそう、ヨウ君がロメロさん達を気に入ったからよ」
「気に入った? 君は俺達の事を気に入っただけで5000億円相当のスキルオーブを譲ってくれたと言うのか?」
「まあ、そう言う事ですね。でも、<鑑定>スキルと交換出来たのはロメロさん達の運ですよ?」
「例えそうだとしても、それだけの理由で譲って貰うには高額すぎる」
「それに俺達を気に入ってくれた理由にしてもだ。確かに君達を守ろうとしたが結果的に守られたのは俺達だろう? それなのに高額な報酬を譲って貰う訳にはいかないよ」
「なるほど。でも、僕達も一度渡した物を受け取る訳にはいきませんよ?」
「んふふ、そんな律儀なロメロさんだからヨウ君も気に入ったと思うわよ?」
「フフ、今回は素直に受け取っておいてくれませんか? それにロメロさん達は高額で取引されている<鑑定>スキルを母国に格安で譲るおつもりでしょう?」
「どうしてそれを・・・しかし、格安になるかもしれないが俺達も念願のSランクになれるからメリットは大きいんだ」
「では、貸しと言う事でどうでしょう? いつか僕達がブラジルに遊びに行った時に接待して下さい」
「あはは、借りにしても大きすぎるだろう? だが、これ以上言っても受け取ってくれそうもないな・・・」
「君達がブラジルに遊びに来るまでに、この借りを返せるほど稼ぐとしようか?」
「どうやら、それしか手がないようだな・・・大変だぞ?」
「俺達が意地を張ってもどうにもなるまい。母国のためにも頑張ろうじゃないか」
「・・・やれやれ、とんでもない事になったな」
「全くだ! 借りは苦手なんだがな」
「しかし、これでは目標がハッキリしないな。どうだろう? 一度俺達と模擬戦をしてくれないか?」
「模擬戦ですか?」
「ああ、もちろん君達の方が圧倒的に強いのは理解しているが、一度肌で感じさせてくれないか? 君達の強さを目標に定めたいんだ」
「なるほどな、三日月君。迷惑とは思うが受けてくれないか?」
「ええ、もちろ・・・」
「駄目よ? ヨウ君を目標にしたら心が折れちゃうわよ、私がやるわ♪」
「うっわ、アヤメ良いとこ持ってく気?」
「だってロメロさん達は魔法無しでしょ? 条件を揃えるなら魔法無しで一番弱いの私だもの、順当でしょ?」
「確かに俺達は魔法を使えないが、三日月君は、そんなに強いのかい?」
「フフ~、ヨウ様相手なら、私達全員でも5秒で死んじゃいますよ」
「「「「「「・・・・・・・」」」」」」
「って事よ。さあ、何時でも良いわよ相手になるわ」
話の流れから意外にもロメロさん達と模擬戦をやる事になったが、何故かアヤメさんに持っていかれる事になった。




