第62話 それは自殺と同じですよ
<ソフィア視点>
「こうしちゃ居られないわ、ダンジョンから出てあの子の事調べるわよ」
「えっ? 空を飛べるスキル探すんじゃないの?」
「私の感だけど、あの子が何か知ってると思うわ」
「いくら何でも、それは無いんじゃない?」
「スキルの事は兎も角、一人で私達を手玉に取る冒険者なのよ? 私は興味あるな~」
「貴女は、あの子が可愛いから気に入っただけでしょ?」
「えへへ♪ 可愛くて強いのよ? 最高じゃない?」
「・・・ちょっと反論しにくいわね、まあ良いわ・・・こっちに来ているウチの諜報員に聞いたら直ぐ分かるでしょうしね」
「じゃ、戻るわよ」
「「「「「は~い!」」」」」
私達は、あの不思議な少年? 三日月陽を調べる為に一旦ダンジョンの外に出る事にした。
ギルド本部にも日本に着いたら諜報員と連絡を取るように言われていたから丁度良かったけど、まさか此方から用事が出来るとは思わなかったな・・・
ダンジョンを出て直ぐに連絡を入れ、諜報員が借りているホテルの部屋で落ち合う事にした。
ホテルはギルド本部の近くらしいので、どこにも寄らずに向かう事にする。
仕事柄何度か会った事もある人物なので、私の頼みも聞いてくれるだろうと思う。
まあSランクの私にはギルドも好意的だしね、目立っちゃうけどランクも上げておいて良かったわ。
ホテルに到着したので諜報員の部屋に行き、軽く挨拶をする。
「まさかソフィアさん達まで日本に来るとは思いませんでしたよ」
「ん~、来る気は無かったんだけどね」
「そうよ、ソフィアの我が儘で来る事になっちゃったのよ」
「えっ? どういう事ですか?」
「大阪で空を飛び回ってる人間のニュースがあったじゃない?」
「ああ、あれは驚きましたね。私も色々と調べてみたんですが全く情報が無いんですよ」
「ソフィアがあれを見てさ、空を飛べるようになるスキルが発見されたって断言するから探しに来たのよ」
「うわ~、相変わらず凄い行動力ですね。でも、ソフィアさんらしいですよ」
「も~、今はその話は良いでしょ? それよりも三日月陽って男の子を調べて欲しいのよ」
「三日月陽ですか? どんな方なのです?」
「えっとね、小さくて可愛い顔をした男の子なんだけど、遊びみたいな模擬戦をやったのよ」
「あはは、Sランクの皆さん相手にですか? その男の子も災難だったでしょうね」
「っと思うでしょ、それが簡単に負けちゃったのよね」
「・・・ま、負けた? 皆さんがですか?」
「そうなのよ・・・ソフィアまで彼の動きが全く見えなかったんだもの、気になるでしょ?」
諜報員をしている女性は、私がそう言った瞬間から顔面蒼白になり、ガタガタと震えだした。
「えっ? 一体どうしたの?」
「ま、まさか、ソフィアさん達が負ける? 小さな男の子? 間違いない・・・その事を誰かに話したんですか?」
「えっ? どういう意味なの?」
「三日月陽です・・・・・まさか、私以外に喋りましたか?」
「いいえ、さっき会って名前を聞いてから、貴女に話すのが初めてよ?」
「良かった・・・その名前は忘れて下さい。絶対誰にも言わない様に、私は貴方達に死んで欲しくありません」
「お願いします。死にます殺されます。絶対に逃げれません。喋ってはいけません忘れて下さい」
諜報員の女性はガタガタと震えながら、何度も何度も同じ事を繰り返す・・・一体何があったんだろう?
「落ち着いて、分かったから誰にも言わないから」
「よ、良かったです。もし、誰かに言っていたらソフィアさん達は、生きてロシアには帰れなかったです」
「「「「「「ゾクッ!」」」」」」
諜報員の女性が言った言葉は冗談のような事だったが、何故か私達全員の背中には冷たい汗が流れていた。
「ねえ、何があったの? 三日月陽って何者なの?」
「言えません・・・あの事を喋る事は自殺と同じです。すみません、言えません、言え言えません・・・こ、怖いんです、怖い怖い怖い、あああああ」
「分かった、分かったから落ち着いて、さあ少し休みましょう」
酷い興奮状態になっていく諜報員の女性をベッドに運び寝かしつけた。
「ねえソフィアどう思う?」
「分からないわ・・・でも、名前は知らなかったみたいだけど三日月陽に一度接触してるようね。その時にありえない程の恐怖を感じたとしか」
「そりゃー、あれだけの強さなら諜報員の目にも付くわよね? でも普通脅したぐらいじゃ、あそこまで怯えないでしょ?」
「そうよね~、でも実際にあれ程怯えるような恐怖を感じたんでしょうね、どうやら私達が思ってたより危険人物なのは間違いなさそうね」
「でも、同一人物かどうか、まだ分からないでしょ?」
「私達より強くて少年の様な小さな男の子が他に居るんならね?」
「・・・・・確かに、そんな子が沢山居るとは思えないわね」
「どうするソフィア?」
「ん~、とりあえず落ち着いてから、もう一度話を聞いてみるわ」
それから諜報員の女性が目覚めるのを待ち、落ち着いてから今日あった事の経緯を順序良く話をした。
女性は、私の話を聞いて少し安心したのか話をしてくれる。
「申し訳ありませんでした、もう大丈夫です」
「ですが、もし三日月陽とまた会うのなら絶対に敵対してはいけません、細心の注意を払って対応して下さい」
「彼には恐ろしい程強いパーティメンバーも居ます、間違いなくソフィアさんよりも強いと思います」
「あんな子が、まだ居るの?」
「いえ、パーティメンバーは美しい女性でした、これ以上は許して下さい」
「ええ、十分よ・・・また会う事になったとしても貴女の事は絶対に言わないようにするわ」
「ありがとうございます。ですが、私は諜報員なのに覚悟が足りませんでした・・・」
「もし、生きて国へ帰る事ができたなら、もうこの仕事は辞めようと思います」
「あ、貴女・・・生きて国へ帰れないと思ってるの?」
「分かりません。ソフィアさん達が私の事を喋らなかったとしても、おそらく私はギリギリだと思います」
「ゴクッ! そこまでなの・・・」
「とりあえず、ありがとう貴女のお陰で三日月陽の事を聞き回らなくて助かったわ」
「まあ、本人から聞いた名前だから大丈夫だとは思うけど、聞き回って分かるような子じゃない事は確かよね」
「じゃ、私達は帰るけど、あんまり気にしすぎちゃ駄目よ? じゃ、またね」
「はい、ソフィアさん達も十分注意して下さいね」
私達は複雑な気分のまま当初の予定だった空を飛ぶスキルの情報を集めるため、ギルドに行く事にした。
もちろん、そんな情報が直ぐに集まるとは思えなかったが、他の手がないのも事実だった。
「ん~、ギルドに来てみたものの私達って日本語話せないしね、職員の人にでも聞いてみる?」
「それしかないわね、後お勧めのお店も聞きましょうか」
「それは名案よ、寿司と天ぷらが良いわ♪」
「あはは、日本に来る前から言ってたもんね」
「だってロシアにもお店があるけど、本場のも食べてみたいじゃない?」
「ウフフ、そうね、せっかく日本に来たんだから色々と楽しまないとね」
私達はギルドの受付嬢さんにロシア語で話し掛けてみると、片言のロシア語で「しばらく待って下さい」と言っているようだった。
言われた通りしばらく待っていると、眼鏡を掛けた綺麗な髪が印象的な女性が来てくれた。
「ソ、ソフィア・タラソワ?」
「ヒュ~、流石有名人ね?」
「だから、リーダーだから名前が目立つだけだってば」
「うふふ、ロシアのSランク冒険者に会えるとは光栄ですね」
「貴女ロシア語が上手いのね助かるわ、少し聞きたい事があるんだけど良いかしら?」
「分かりました、どうぞ此方へ」
受付嬢の女性は、とても流暢なロシア語で相談室のような所へ案内してくれソファーに腰を掛けた。
すると、もう一人ショートで明るい髪色をした女性が来てくれ、コーヒーを淹れてくれた。
「どうぞ、私は当ギルドの受付嬢をしております藤崎綾萌と申します」
「同じく、私は宮上渚と申します」
「丁寧な対応ありがとうございます。私はソフィア・タラソワです。彼女達は私のパーティメンバーです」
「流石に日本のダンジョンギルドは一流よね、ロシア語が話せる職員が2人も居るなんて」
「ありがとうございます。私も有名な皆様とお会いできて光栄です」
「では、早速お聞きしたいのですが、空を飛ぶ事が出来るスキルオーブの情報はありますか?」
「なるほど・・・皆様はあの件について、未確認のスキルオーブが発見されたとお考えなのですね」
「おっしゃる通りです。私は今、世界を賑わしている日本なら、その可能性が高いと思っています」
「残念ですが、私達にはそのようなスキルの情報は入っておりません。いえ、日本では未確認生物だと言う考えが信じられているかと」
「・・・やはり、そうですか」
「まあ、ソフィアもそう気を落とさないでよ予想の範疇でしょ?」
「そうよ、もしそんなスキルオーブ手に入っても公に出来ないしね」
「確かに空を飛べたら気持ち良いでしょうけど夢物語よ?」
「うふふ、でも、あの映像を見たら皆さんが欲しいのも分かります」
「そうなんです。私は自由に空を飛んでみたかったんですよ、あの映像に映っていた6人はとても楽しそうでした。羨ましいぐらいに・・・」
「もし、宜しければ空を飛ぶ魔物がいる階層ならお伝え出来ますけど、お探しになりますか?」
「本当ですか? それだけでも非常に助かります」
「良かったじゃない、明日から頑張ろっか♪ ソフィアが気が済むまで付き合うよ」
「ええ、ありがと♪」
「畏まりました。では、明日までに用意しておきますね」
「ありがとうございます」
「あっ! それと美味しいお寿司屋さんと天ぷら屋さんって御存知ですか?」
「はい、少々お値段は高くなりますが、お勧めの店がありますよ」
「うわ~、やったねギルドに来て正解だったわ♪」
「あの、良かったら私達が案内しましょうか?」
「えっ? 仕事は良いんですか?」
「はい、私達は本来ある人の専属受付嬢なので時間は自由なんですよ」
「二人も専属に付けている冒険者って、凄い人ですね?」
「そうですね、とても凄い人です! それとなんですが、その人もソフィアさん達に会ったら喜ぶと思うのですが、お誘いしても良いでしょうか?」
「私達は別に良いわよ、そんなに凄い冒険者なら会ってみたい気がするしね」
「ありがとうございます。車を用意致しますので、しばらくお待ちください」




