第40話 やっぱりちゃんと説明しとかないとね
僕達はテーブルに座り、大人しく料理が出来るのを待っている。
まだ少し夕食の時間には早いせいか、お客は僕達だけのようだ。
座って見て分かったが椅子も小さくなく、ゆったりとしてて座り心地が良い。
こういう所も拘ってるのが分かり、良いお店だなと気分が良くなった。
「ん~、ふふ~、田舎には無いお洒落な、お店たっのしいな~」
「ヒカリは料理が楽しみなんだろ?」
「も~、お兄ちゃん私だって雰囲気も気にするのよ~」
「まあ、確かに田舎には、こんなお洒落な店ってないよな」
「んふふ、気に入ってくれて良かったわ」
店の奥からは段々と良い香りが漂って来て食欲が掻き立てられる、ヒカリも待ち遠しいらしい。
すると最初の1品が来たようだ。
「お待たせしました、ドンドン持ってくるからね」
「わーい、わーい♪」
最初の1品は白いチーズの様な物にトマトが乗っている、綺麗でお洒落な料理だった。
「あっ? これリラさんが競り落としてたトマトですね」
「フフ、そのようです。ですが、綺麗に盛り付けてありますね、とても美味しそうです」
「じゃ、いただきます」
「「「「「「いただきます」」」」」」
「おっしゃれ~、パク・・・モグモグモグ・・・う~、美味しい~♪」
「すご~い、チーズとトマトってこんなに合うんだ? それにしてもトマトが甘~いダンジョン産って、こんなに美味しいんだ」
「本当だ、まるで果実のようですね、それに食材なのに魔力も感じないですか?」
「ヨウ君、シー」
あっ? そうか、僕達は<魔力感知>のスキルを持っているから、食材に含まれる魔力を感じ取れるんだった。ヒカリが居るの忘れてたや。
でも人差し指を口に当てているアヤメさんの可愛い姿が見れたから良しとしよっと。
「お兄ちゃん、魔力って?」
「いや、何でもないよ次の料理も来たみたいだぞ」
「わーい♪」
それから次々と料理が運ばれてくる、新鮮なサラダからコクの深いスープと続き、いよいよアップルミートが運ばれてきた。
元々リンゴの様な形をした鳥だったけど、ドロップするアップルミートもリンゴの形をしている。
この料理もその形を損なわない様にしているのか、リンゴのような形のまま出てきた。
しかし、良く見るとミルフィーユのように薄く切った肉を何枚も重ねて作ってあるようだ。
「これも綺麗~、それにとっても良い匂い、凄い料理人ねお兄ちゃん」
「うん、食べよっか」
「わーい、う~、切るのが勿体ないよ~」
「そんなこと言ってたら、食べれないだろ?」
「そだね♪ パクッ! モグモグモグ・・・美味しい! すっごく美味しい♪」
「本当に美味しいな♪」
「うわ~、どうやって作ってるのか分かんないよ~、隠し味にリンゴ・・・じゃないわ、う~ん、う~ん」
「へえ~、ヒカリでも分からないって凄いな」
「フフ、アップルバードのお肉は元々リンゴの様な酸味と甘みがありますから素材の味かと思われます」
「そっかー、元々のお肉の味だったんだ、ダンジョン産って凄ーい」
僕達が出した食材が次々と美味しい料理になって出してくれる事に感心しながら最後のデザートでは、ナギサさんが競り落としていたマンゴーも出てきて大満足だった。
「あ~、美味しかったよ~、ヒカリ幸せだよ~」
「良かったなヒカリ、良い店教えて貰って」
「うん、ナギサさんありがとう。とっても美味しかったです」
「んふふ♪ シオもやるもんね~、ヒカリちゃんを満足させちゃうなんて」
「こんな凄い料理人が友達にいるなら、当然ナギサも料理出来るんだよね?」
「・・・アヤメ虐めないでよ」
「あはは、やっぱりね~」
僕達が食事に大満足しているとシオさんが此方へ来てくれた。
「今日はありがとね、久々に料理のし甲斐があったわ」
「いえいえ、此方こそ美味しい料理をありがとうございました」
「ウフフ、お褒めのお言葉痛み入ります」
「ナギサ、しばらく会わなかったけど凄い冒険者と知り合いになったのね」
「う~ん、えっと実は私も冒険者になってたりして・・・」
「えっ? あ、貴女ギルド辞めちゃったの?」
「いや、え~っと、そういうわけじゃないんだけどね、今はヨウ君の専属受付嬢であり同じパーティメンバーでもあるの、まあ色々あったのよ」
「へええ~、意外ね、貴女が冒険者ね~」
「でも専属受付嬢か、やっぱり凄い冒険者ねヨウ君だっけ、安心してね私は貴方の秘密は絶対に誰にも喋らないからね」
「グッ! な、なんのこと・・・いえ、無駄のようですね、ありがとうございます。料理人って凄い感覚を持ってるんですね恐れ入ります、これから気を付けるようにします」
「ウフフ、素直なのね? でも、恐ろしい程の能力ね、絶対オンリーワンよ! また私を唸らせて欲しいわ♪」
「はい、きっとまた来ます、その時はまた何か持ってきますね」
「くぅ~、嬉しい♪ 人生最大の甘美なお言葉、ナギサに感謝しないとね」
「へっ? そこまでの事したっけ?」
「も~、相変わらず鈍いんだから、貴女はもうちょっとヨウ君の偉大さに敬意を払いなさい。ヨウ君は間違いなく世界一の大冒険者になって数々の偉業を成し遂げる筈よ。今、一緒に居る事が奇跡だと思う事ね」
「えっ? そんな・・・そこまでじゃ?」
「フフ、やはり分かる人には分かってしまうのですね、改めて尊敬致します。ヨウ様」
「もう、私は信仰心に変わっちゃいそうですよ。ヨウ様」
「か、神様扱いは勘弁して下さい」
「あはは、あっ? 忘れてたけど、食事代払っとくわ幾らだった?」
「良い物持ち込んでくれたから無料って言いたいけど、1本で良いかしら?」
「僕が払いますよ、1本ですね」
僕は1本って言われたから料理の質を考えて100万円の束をテーブルに差し出し、お礼を言ってから店を出た。
「えっ? あ、あの・・・ナギサ何これ?」
「あはは、まあヨウ君からのチップだと思って、取っておいて」
「幾ら何でも多すぎよ? 大金持ちじゃあるまいし・・・」
「にひひ♪ 残念外れよ、大金持ちなの♪」
「じゃね、シオまた来るわ」
「えっ 本当に置いてくの? あっ? もう、本当に帰っちゃうなんて、どうしよこれ・・・」
お腹もいっぱいになったし大満足出来た、帰りの車でも料理の話で持ち切りだ。
「ねーねー? お兄ちゃん。1つ聞いても良ーい?」
「んっ? どしたんだ?」
「お兄ちゃんって、どうやって時間を止めてるの?」
ヒカリの言葉に心臓が飛び出る程驚き、血の気が引いてしまう。
アヤメさん達の視線が痛い・・・ツドイさんは運転中なんだから前見て下さいーーー
「な、何を言ってるんだヒカリは? 時間なんて止めれる訳ないだろ?」
「え~、だってシオさんも言ってたじゃない? 時間でも止めない限りあの鮮度はありえないよ~」
「あ、ああ、あれは素材を傷めない様にするやり方があるんだ、冒険者なら当たり前の事なんだぞ」
「へええ~、やっぱり冒険者って凄いんだね、とっても便利そう」
痛い、痛い、痛い、視線が突き刺さるー、僕は汗をダラダラ掻きながら微笑むしかなかった。
部屋に戻りお風呂に入ってヒカリが寝静まった頃、当然のようにアヤメさん達に囲まれる事になった。
「こ、こうやって改めて見ると皆さん、本当に綺麗ですね別嬪さんです」
「んふふ♪ ありがとう。ところでヨウ君?」
「は、はい」
「私達に何か言う事はないのかな?」
「ヨウ様。ヨウ様の事を無理に聞く気はありませんが、今日のような事があるとフォローも出来かねますので、出来れば教えて下さると助かります」
「は、はい、すみませんです」
僕は観念して少しだけ僕の秘密を話す事にした。
でも、これを言ってしまうと、僕は本当に化物扱いされないか不安でもある・・・
「実は、今日の事は僕の根幹に大きく関わる事なので言えなかったんです」
「本当に時間停止なんて事が出来るのかな?」
「いえ、時間停止が出来ると言うか僕の<虚空庫>の名前は<虚空界>って言うんです」
「えっ? 何故名前が違うの?」
「それを言うと、僕は化物扱いされるんじゃないかと思うんです」
「ヨウ様、私達が信じれませんか?」
「いいえ、ですが嫌われたくないんです、僕は皆と居たいそれだけです」
「ヨウ君、余り見縊らないでよね? 今のヨウ君ですら見る人が見たら化物かもよ? そして私達もね」
「あはは、一般人から見たら十分私達も化物よね~」
「そうです、だから気にしないで良いですよ。ヨウ様」
「僕もそんな事、気にしないね」
「・・・ありがとうございます」
「説明するのは簡単なんですが、えと・・・」
「も~、覚悟を決めなさい」
「はい、おそらく世界中に居る人間の中で、僕だけがスキルを重ね掛けする事が出来るみたいなんです」
「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」
「ま、また、想像の斜め上をいったわね~」
「じゃ、<虚空庫>も重ね掛けしたの?」
「はい、2つ目を重ねると時間停止になりました、そして3つ目で時間停止に加え容量が無限になっちゃいました。それで、名前も<虚空庫>から<虚空界>に変わっちゃいました」
「うは~、容量無限で時間停止って、このマンションも入っちゃうのかな?」
「おそらく、やろうと思えば出来ます」
「中に居る人も入っちゃうのかな?」
「いえ、生物が入らないのは変わらないみたいです」
「・・・では、仮にヨウ様がこのマンションを<虚空界>へ収納すれば、中に居る人間は皆地面へ落下する訳ですね」
「それは分かりませんが着替えが出来るので、そうなる可能性は高いと思ってます」
「なるほどね~、そりゃ人に言えない訳よね、あっ? それって他のスキルもなんだよね?」
「・・・おそらく<気配感知><気配遮断><隠蔽>も3つの重ね掛けなんですね?」
「はい、その通りです。流石に能力系のスキルを重ねるのは躊躇してます」
「なるほど制御出来ないっぽい?」
「<気配感知>で説明すると、2つ目で既に能力は倍以上になりました。それを考えると・・・」
「制御出来ない事はないかも? でも時間は掛るね間違いなく」
「そうなんです、まだその必要性も感じないので、やりませんけど」
「確かに危険ですね、他のスキルを重ねるのはお控え願いたいです」
「なんか私達が化物って言ったのが恥ずかしいぐらいの桁外れの能力ね、でもそれだけだわ」
「フフ、そうですね私達がヨウ様に対するのに何の障害もありませんね、唯・・・尊敬度が天井知らずに」
「でも、まだ何かあるのよね?」
「・・・僕には、どうしても。家族にも言えない秘密が1つだけあります。
それだけは僕が完全に理解出来るまで誰にも言う気はありません。
言える事は、それの為に僕はドロップ率が良かったり、スキルの重ね掛けが出来るのかと思います」
「分かったわ、その事だけは絶対に聞かないわ」
「んふふ♪ まだ不安なんでしょ? 仕方ないな、少しだけ私がその不安を取ってあげよう♪」
アヤメさんは僕を正面から抱き締め、大きな胸に僕の顔を埋めてくれた。
僕はやっぱり不安だったんだと思う、アヤメさんの胸に顔を埋めながら、やらしさより安堵感が広がって行くのが分かる。
しかも、アヤメさんは胸から顔を離すと僕の口に優しくキスをしてくれた。
これには僕も一気に顔が赤くなり意識が真っ白になってしまう。
「ちょっと恥ずかしいんだけど、化物にキスなんてしないでしょ? それに私のファーストキスなんだからね、ちゃんと覚えときなさいよ?」
「フフ、私も不敬ではありますが、ヨウ様に対する信頼の証としてお受け取り下さい。わ、私も初めてなので・・・」
頭が真っ白になっている僕に、今度はリラさんの柔らかい唇が僕の唇に重なっている。
「もっちろん私もヨウ様をお慕いする気持ちに変わりはありませんよ? でも、まさかファーストキスの相手がお姉ちゃんと同じ男性になるとは思いませんでしたけどね♪」
もうパニックになっている僕の頭では、どうなっているのか現状が理解出来なかったがノノさんの唇の感触だけは鮮明に感じられた。
「えへへ! 実は私もキスした事ないんだよね、アヤメとどっちが先になるかって言ってたんだけどアヤメの方が先になっちゃったね」
ナギサさんは恥ずかしそうに僕を抱き締めてくれ、スズメのように軽くキスをしてから、ゆっくりと唇を重ね合わせ脳みそが蕩けるような気分になった。
「僕初めてじゃないんだけど、その分いっぱいして上げる」
一番身長差のあるツドイさんは、僕をギュっと抱き締めた後、屈んで僕の顔を見つめてキスをしてくれた。
その時ツドイさんの舌が僕の舌に触れた瞬間、僕の意識は完全に消失してしまった。
「ありゃ? 三日月君、気を失っちゃったかも?」
「もう、いくら経験者だからってやりすぎよ」
「でも、意外ね? ツドイさんって男性に興味なさそうなのに」
「僕ペットの犬飼ってたから、唇奪われちゃったんだよね」
「「「「ペットはノーカンです!」」」」
「あらっ?・・・じゃ僕もファーストキスだったんだ」




