第3話 初級ダンジョンデビューだ
翌朝、昨日入れて貰った新しい布団の感触に満足していた。
僕は、気持ちの良い朝を迎えて起きる事にした。
時間は6時か・・・ダンジョン生活を送るために早朝トレーニングしていたから、早起きが癖になっちゃったな。
昨日来たばかりの都会で走りにいっても迷いそうだから、また藤崎さんにトレーニング出来そうな場所を聞いてみよう。
昨日は新居も決まったから家族に連絡したら、ヒカリが自分の事のように喜んでいたのが面白かったな。
改めて部屋を見渡すと小さくて狭いけど、ここが僕の部屋なんだと思うとワクワクが止まらなかった。
昨日も初めて一人で行く外食に感動してしまった。これからは、これが普通になるんだけどね。
よーし! 頑張ってお金に余裕が出来てきたら何か家に送ろうっと。
僕は昨日買っておいたパンとコーヒーで簡単に朝食を取り、少し早いけどギルドへ行く事にした。
一応ダンジョンに潜れるように冒険者装備を整え、しっかりと部屋に鍵を掛けて気持ちの良い朝の空気を感じながら本日の第一歩を踏み出す。
今日は初心者装備のレンタルをしないといけない。
やはりダンジョンは危険なので、最低限の装備をしていないと入る事が出来なくなっている。
それがギルドでレンタルしている初心者用防具セットだ。
他にも初級ポーションも携帯することを義務付けられている。
ギルドの中へ入り、藤崎さんを探してみるが、朝が早いせいか見当たらない。
僕は少し残念な気持ちになったが、仕方が無いので他の受付嬢さんに装備のレンタルを聞いて見ることにした。
「すみません。初心者用装備セットをレンタルしたいのですけど?」
「分かりました。担当職員をお呼びしますので、しばらくお待ちください」
「分かりました」
しばらく待っていると、男性の職員がやってきて声を掛けてくれる。
「えっと、防具レンタル希望の三日月君?」
「はい、お願いします」
「了解、じゃ行こっか」
結構フランクに話をする20代ぐらいの男性について行くと、色々な装備が置かれている部屋に着いた。
「よし、じゃ始めるか。保証料込みで最低限のポーションも付けて5万やけど大丈夫かな?」
「はい、事前に聞いてたので大丈夫です」
「よっしゃ、装備の仕方もちゃんと覚えてや」
この男性が言う通り防具セットの初回レンタルは5万円もする。
壊さない限りずっと借りておけるんだけど、一月分の家賃と同額だと思うと少し高いんだよね。
痛い出費だけど、これは仕方がない。購入したらもっと高くなるしな~
流石に慣れているのか、僕の小さい体に合う防具をテキパキと装備してくれる。
結構簡単に装備出来るようになっているみたいだ。
「よし、こんなもんかな。自分短剣が武器みたいやから左腕にアームバックラー付けたさかい左腕で防御する練習しとくんやで。言っとくが、サービスやから内緒やで?」
「うわ~! ありがとうございます。凄く軽くて動きやすいです」
「あはは、自分ちっちゃいからな♪ 軽くて丈夫な奴を選んどいたんや。どうや、気に入ったか?」
「はい、気に入りました♪ ありがとうございます」
「ええよ、最初は地下1階のスライムでたっぷり練習するんやで。ポーションはウエストポーチに入れとくな」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
「自分、素直でええな~♪ 頑張るんやで、気ぃつけてな」
「はい、では行ってきます」
僕は気さくな男性職員に、ペコペコと頭を下げてお礼を言い、初級ダンジョンに向かう事にした。
初級ダンジョンはギルドから棟で繋がっており、長い通路を歩いていくとダンジョンの入口に職員が立っている。
僕はギルドカードを取り出し、職員に見せると簡単に通してくれたのでダンジョンに入り階段を下りていく。
階段を下りると洞窟のようだけど聞いていた情報通りだ。
薄暗いけど壁や天井が発光しているため視界は良好だった。
さあ、待ちに待った冒険者生活が始まる。
僕は腰に付けたサバイバルナイフを、何時でも取り出せるように確認してスライムを探しに行く。
何か怖いようなワクワクするような不思議な高揚感に包まれ、落ち着くように深呼吸をした。
歩き出して直ぐに初めてスライムを発見した。
ポンポンと弾むように2体のスライムが前方にいる。
いくらスライムと言っても初めてなので、最初は単体のスライムにしようと思い、来た道を戻る事にした。
しかし、あれがスライムか・・・思ったより動きは早くなさそうだけど慎重に行こう。
2体同時に相手するのは慣れてからでも遅くはないしね。
しばらく歩いていると、お目当ての単体でいるスライムを発見した。
腰に装備しているサバイバルナイフを抜いて攻撃の用意をする。
先程のスライムと同じようにポンポンと弾んでいるが、僕は覚悟を決めて弾んでいるスライムを追い掛け、隙を見てスライムに斬りつけた。
するとスライムはベチャっと形を崩し粒子となって消えていった。
地面にはスライムボールがドロップしている。
やった! ナイフでも一撃で倒せる。
これなら2体同時でも戦えそうだ。
僕はニコニコしながらナイフを腰に装着し、初ドロップ品を手に取ってマジマジと見てしまう。
「やったー! 初ドロップだーーー! うっれしぃぃぃぃぃぃ♪」
僕は嬉しさのあまり声を出してしまった。
急いで周りをキョロキョロ見たが、誰も居ない事にホッとする。
危ない危ない。誰かに見られていたら、身悶えするほど恥ずかしいところだった。
このドロップ品であるスライムボールは、中々の優れもので排泄物やゴミの上に置いて水を少量掛ければ、何でも分解して消えて無くなる。
これが発見されてから冒険者にとっては、必須アイテムになっている。
1つ800円ぐらいで売れるので嬉しい限りだ。
この調子ならスライムでも十分稼げるかもしれないと思い、続けてスライムを探しだす。
ダンジョン内は、とても広く10km四方ほどあるらしいので他の冒険者に会う事も少ない。
お陰でスライムの取り合いになる事も無さそうだ。
僕は道に迷わないようにマッピングしながら、単体のスライムを同じ様に倒していった。
結構慣れてきたので、2体同時の戦闘にも挑戦したが問題なく勝てた。
スライムは体当たりをしてくるが回避する事は簡単で、試しに左腕に着けてくれたバックラーでも防御してみた。
結構な衝撃はあったけど無事防御する事が出来た。
調子良くスライムボールを回収しながらスライムを倒していると、薄っすらと発光しているスライムを発見した。
スライムの色は半透明な水色なんだけど、最初は白色のスライムかと思ったら発光しているため白っぽく見えているようだ。
僕はレアモンスターかなと思い、慎重に観察することにした。
観察した結果、単体だし動きも同じようなので戦ってみる事にした。
戦闘は他のスライムと同じ様に簡単に倒す事が出来た。
何だったんだろうと首を傾げていると、地面にはスライムボールより大きな球体が転がっていた。
えっ!? こ、これってひょっとしてSPオーブ?
僕はドロップしたSPオーブを手に取り、マジマジと眺めていると不思議な事に、これがSPオーブだと言う事が何故か確信出来た。
や、やった。まさか初日でオーブが手に入るなんて♪ 僕は飛び上がりたい程嬉しかった。
先程の事もあったので自重する事にしたが、心の底から込み上げてくる喜びは抑えようがなく自然とニヤニヤしてしまう。
こうなってしまうのも仕方がない。
滅多に手に入る物ではないので高額で売れると聞いているが、詳細な値段なんて覚えてないからだ。
僕はSPオーブを大事にカバンへ収納し一旦ギルドへ戻ろうかとも思ったが、まだ時間も早いので、もう少しスライム討伐をすることにした。
次に発見したスライムは2体居たが、驚く事にその内の1体は先ほどと同じように薄っすらと発光していた。
まさかと思ったが、逸る気持ちを押さえて慎重に倒すと、そこには先ほどと同じ様にSPオーブがドロップされていた。
じょ、冗談だろ?
まさか・・・ここで僕はある仮説を立てた。
そう言えば今日倒したスライムから全てスライムボールがドロップしている・・・
こんなにもスライムボールってドロップするものなのか?
いや、そんな筈ない・・・
既にスライムボールは13個もあるドロップ率100パーセントだ!
1つ800円で売れるらしいから、これだけでも10400円になる。
この調子ならスライムボールだけで1日5万円ぐらい稼ぐのは簡単だ。
まさか・・・まさか、まさか、まさか。
僕の持っている謎スキル<ウィル>とは、強運になるスキルなのか?
でも強運になるだけならオーブをドロップする個体が分かるわけない。
何がなんだか分からないけど、これはとんでもないスキルなんじゃないか?
僕は検証するためにも昼食を取るのも忘れ、ひたすらスライムを倒し続けた。
そろそろ夕方になるだろうか・・・一心不乱に戦い続けた結果、スライムボール120個、SPオーブが11個もドロップした。
あわわ、スライムボールだけでも10万円近くになる・・・
少なくとも<ウィル>スキルって魔物が持っている物を100%ドロップするのは間違いなさそうだ。
でもきっとそれだけじゃない、まだ隠された能力があるはずだ。
凄い! これは凄いぞ! やっぱり冒険者になって正解だ!
これなら、きっとスキルオーブも手に入れる事が出来る筈だ。
僕は興奮し有頂天になって忘れていたが、流石にSPオーブをこんなに売るわけにいかないので自分で使う事にした。
よし、1つだけ残して10個使ってしまおう! えっとどれを上げようかな・・・
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【STATUS】
HP 80/80
MP 110/110
STR 7
VIT 8
DEX 10
INT 11
AGI 9
LUK 26
skill:<ウィル>
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
えっと、これからの戦闘が楽になるように素早さ重視でAGIは欲しいな。
でも、安全のためVITも上げて防御力を上げるのも大事だし、力も欲しいな。
よし、決めた! 力(STR)や素早さ(AGI)より防御力(VIT)を少し多めに上げておこう。
行く行くは、全体的に30ぐらいを目指そうかな、焦らずコツコツ強くなろう。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【STATUS】
HP 80/80→120/120
MP 110/110
STR 7→10
VIT 8→12
DEX 10
INT 11
AGI 9→12
LUK 26
skill:<ウィル>
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あっ! VITを上げるとHPも比例して上がって行くんだ。
これなら、VITは益々重要になってくるな。
ってことは、INTを上げると比例してMPが上がりそうだな。