第274話 武蔵は凄い男でした
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コーヒーを飲み終わる頃、ようやくアヤメさん達は、笑いのツボから脱出出来たようだ。
全く、我ながら童顔にも困ったものである。
「亮? 目上の人には敬語で喋らなきゃ駄目よ?
お兄ちゃんが、お世話になってる大事な、お客様なのに」×スズ
「そうだぞ亮。もうそれぐらい分かんだろ?」
「分かるけど。姉ちゃんより若く見えるんだもん、仕方ねえよ?」
「もう亮、怒るわよ?」
「ごめんよ。姉ちゃん」
「ちゃんと、三日月さんに謝りなさい」
「三日月さん、ごめんなさい。俺、年上だって分かんなくて・・・」
「良いですよ。僕も自分の童顔は自覚してますから」
「ごめんな師匠。俺の真似したのか口が悪くてよ」
「いえいえ、気にしてませんから」
「三日月家の童顔は筋金入りだもんね」×ナギサ
「先祖にエルフが居たりして?」×ツドイ
「そんな訳ないでしょ?」
「んふふ、何時までも若く見えるから良いじゃない」×アヤメ
「後、何年かしたら僕だって男らしくなりますー」
「フフ、ヨウ様は戦っている時は、とても凛々しく見えますよ」×リラ
「僕、ずっと戦ってようかな?」
「あはははは♪」×アヤメ達
「なーなー、三日月さんって、兄ちゃんの師匠になるぐらいだから、偉い人なのか?」
「全然偉くなんてないかな?」
「でも、お兄ちゃんが、高ランクの冒険者だって言ってましたよ?」
「冒険者ランクは高いですねー」
「失礼じゃなかったら、お聞きしても良いですか?」
「良いですよ。僕はSSランクです」
「えっ?」
「はあああっ?」
「なあ兄ちゃん、SSランクって凄いのか?」
「ば、馬鹿野郎! SSランクって言ったら世界で1人しか居ねえんだ」
「ま、まさか三日月さんが、この間ニュースでやってた、世界初のSSランクなのですか?」
「あはは、照れますけど、そうですね」
「かはっ! そ、そんな凄え奴だったのかよ?」
「ちょ、ちょっと、お兄ちゃんも知らなかったの?」
「高ランクなのは分かってたけど、そんな凄いなんて思わねえって」
「別にSSランクだからって、偉い訳じゃありませんからお気にせず?」
「そんな事言ったって、実質冒険者のトップじゃねえか?」
「そういや、僕がトップなんですよね・・・えっへん♪」
「んふふ、ヨウ君。可愛いけど自覚が無さすぎよ?」×アヤメ
「あはは、まあ良いじゃ無いですか。それよりも、何か食べたい物ってありますか?」
「そーだ! 兄ちゃん。俺、焼き肉が良い!」×リョウ
「そんな、簡単に受け流すなよ・・・」
「お、お兄ちゃん、そんな凄い人と私達が一緒に行って良いの?」
「良いのって、言われてもよ・・・」
「そんな事気にせず、焼き肉にしましょうか」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、あんまり高い店は駄目だぞ?」
「僕、師匠なんだから食事代ぐらい出しますよ? さっ、行きましょうか」
「えっ! お、おい」
「えっ、ええっ」
「わーい! 焼き肉だー♪」
とりあえず、混乱している武蔵を連れて、有名な焼き肉店に行くことにした。
店はリラさんが段取りしてくれた。僕達も初めて行くところだったけど、2階建ての大きなお店だった。
僕達は、2階にある大きめの個室を用意してくれたようだ。
この店はダンジョン産のお肉も豊富にあるらしく、味も期待出来そうだ。
「おい、此処メチャクチャ高そうなんだが?」
「あはは、気にしない、気にしない」
「うわ~ 凄いお店だね、本当に良いのかな、お兄ちゃん?」
「ああ、もう来ちまったしな」
「兄ちゃん、何頼んでも良いのか?」
「ちょ、ちょっと待て!」
「んふふ、一通り注文するからさ。気に入ったのがあれば、追加したら良いわ」×アヤメ
「先に言っとくけど、私達メチャクチャ食べるからね?」×ナギサ
「ヨウ君に負けないぐらい、食べないとだよ?」×ツドイ
「ヨウ様ぐらい食べたら死んじゃわない?」×ノノ
「フフ、物理的に不可能かもですね」×リラ
「僕を人外みたいに言わないで下さいよー、ちょっと大食いなだけですって」
「そんな訳無いでしょ? あっ、来たみたいよ」×アヤメ
僕達の注文したお肉が、ほんの一部だけ運ばれてきたが、それでもテーブルがお肉で一杯になってしまった。
「「「うはー!」」」
「さっ、好きなの焼いて食べて下さいね~」
「兄ちゃん、食べて良いのか?」
「・・・値段が分からねえ、もう食っちまえ」
「やったー♪ いただきまーす」
「お、お兄ちゃん良いの?」
「ああ、鈴も一杯食え」
「うん、じゃこれ貰おうかな」
亮君はハラミを選び、鈴ちゃんは厚切りのタンを選んだ。
トングで丁寧に焼いてから、それぞれ口に含むと、幸せそうな良い表情をしていた。
「お、美味しい~♪」×スズ
「うっま♪ これうっま♪」×リョウ
「武蔵君も早く食べないと、無くなっちゃうよー」×ナギサ
「ええい、もう分からん。俺も食うぞー」
「あはは、どぞどぞ」
僕達もガツガツと食べ始め、流石高級店だけありとても美味しい。
肉も美味しいんだけど、人気がある焼き肉店って、タレが美味しいんだよね。
僕達が食べるスピードに焼くのが追い付かないので、魔法で焼いて行くと武蔵兄妹は、とても驚いていた。
山の様に積みあがった焼き肉が、みるみる無くなっていくのが圧巻だった。
それを見た武蔵兄妹が、また固まっていたのは言うまでもない。
「武蔵君、ビール飲まないの?」×アヤメ
「俺、ビールなんて飲んだ事ねーよ」
「冒険者なんだから、お酒ぐらい飲まないとだよ?」×ナギサ
「フフ、飲む前に<気配感知>の説明をしといた方が宜しいかと」×リラ
「あっ、忘れてました。じゃ、先に説明しときますね」
「ああ、焼き肉が凄すぎて、俺も忘れてたよ」
「あはは」
僕は武蔵に<気配感知>スキルの使い方や、訓練方法を詳しく説明した。
武蔵には明日から堺市西区中級ダンジョンの、地下13階に生息するホワイトサーペントを狩って貰う予定だ。
この魔物はケルピー並みに見つけ難いんだけど、なんと<幸運>スキルを持っている。
僕達が手に入れた<幸運>スキルはアップルバードから入手したんだけど、流石に鈍器使いの武蔵には倒すのは難しい。
なので、他を探したところ、たまたま同じダンジョンで見つけたのがこの魔物だった。
メチャクチャ発見するのが困難なんだけど、ホワイトサーペントはニシキヘビぐらいの大きさなので、武蔵でも倒せるだろう。
しかし、<気配感知>スキルを、かなり使いこなさないとなので、武蔵に頑張って貰うしかない。
それを説明し終わると、武蔵も納得してくれた。
「なるほどな。だから、先に<気配感知>スキルを取らせてくれたんだな」
「それもあるけど<気配感知>スキルは、数あるスキルの中でも一番有用なスキルなんですよ」
「分かった。とりあえず、明日から頑張るよ」
「先に言っときますけど、難度はかなり高いですからね?」
「ああ、でもSSランクの師匠が、ここまでしてくれてんだ。頑張るしかねえ」
「その意気です!」
食事も食べ終わり目的も果たしたので、武蔵兄妹を家まで送り帰る事にした。
鈴ちゃんは、よくできた妹さんで丁寧にお礼を言ってくれた。
僕は武蔵兄妹にブンブンと手を振り、別れの挨拶をしてその場を後にした。
「何か凄い人達だったね、お兄ちゃん」×スズ
「ああ、とんでもない人を師匠に持ったもんだ」
「でも、皆凄く優しそうな人よね? お金持ちなのに全然嫌みがないんだもん」
「スゲエ世話にもなってるしな、頭が上がんねえよ」
「兄ちゃん美味しかったな。また、連れてってくれよな?」×リョウ
「無茶言うな! でも、また外食には連れてってやるからな?」
「兄ちゃん。俺、安い店でも我慢するからな?」
「生意気言いやがって、見てろよ? その内、俺も稼げるようになって旨いもん食わせてやっからな」
「期待せずに待ってるよ、兄ちゃん♪」
「うふふ、でも無理しないでね、お兄ちゃん♪」
「わあってるよ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝から、また武蔵と合流し、訓練のため地下13階を目指し階層攻略していく。
「じょ、冗談だろ?」×ムサシ
「なにがです?」
「俺が何時も苦労して倒してるオークが、雑魚みてえじゃねえか?」
「んふふ、だって、中級ダンジョンだよ?」×ナギサ
「・・・分かってたつもりだったが、本当に皆強いんだな?」
「私達も頑張って強くなったのよ? 武蔵君も頑張ってね」
「ああ、分かってる。でもスキルって凄いよな。魔物の気配が分かる様になったよ」
「最初は驚くよね~ でも、それだけじゃ足りないのよ?」
「言ってることは分かるけど、俺にどこまで出来るか分かんねえ。まあ、頑張るしかねえんだけどな」
「大丈夫! っと、言いたいところだけど、今日からやることは難度が高いですからね」
「そこは根性で頑張るさ?」
「あはは、その意気です!」
武蔵にはスタミナポーションを飲んで貰って、地下13階まで爆走して貰った。
途中、地下10階のボスも瞬殺し、地下13階に着くころには武蔵もへばっていた。
「ハァーハァーハァー、よ、ようやく着いたか」
「お疲れ様です。良い時間になっちゃいましたから、本格的な訓練は明日からになりそうですね」
「すまん。これでも全力で走ったんだが、時間掛かっちまった」
「いえいえ、ステータスを上げてない事を考えたら早かったですよ? 少し休憩したら、これからやって貰う事を説明しますね」
「いや、休憩なんて良いから直ぐに初めてくれ」
「分かりました」
僕は目的の魔物であるホワイトサーペントを見つけると、武蔵に説明することにした。
「んっ? 何で止まるんだ?」
「見つけました! 今目の前に魔物が居るのが分かりますか?」
「えっ・・・い、居ねえぞ。いや、分からないと言った方が良いのか?」
「<気配感知>に集中して下さい。目の前15メートルぐらい先に居ますから」
「マジかよ・・・」
武蔵は目を凝らし集中して眼前を凝視しているが、やはり分からないようだ。
「本当に魔物が居るのか? 俺には何も見えないし感じない」
「この魔物は気配を程んど感じる事が出来ません。気配遮断していると言っても良いかもしれませんね。
なので見つけるには、かなり<気配感知>スキルを使い熟さないとなんです。
攻撃すると見えるようになりますから、見てて下さいね」
「し、信じられねえが、分かった」
「私が牽制するわね」×アヤメ
「はい、お願いします」
アヤメさんがホワイトサーペントの近くに<ファイアボール>を打ち込むと、一瞬だけ姿を現し、直ぐにまた姿を消した。
「い、居た! 本当に居たのか。白いヘビだよな?」
「正解です!」
「でも、今はもう分からねえ・・・皆には見えているのか?」
「僕達も見えてないよ?」×ツドイ
「えっ?」
「フフ、見えてはいませんが、どこに居るのかは分かります」×リラ
「フフ~ 言いたい事は分かるよね?」×ノノ
「なるほどな・・・確かに、これは骨が折れそうだ。少し時間を貰っても良いか?」
「分かりました」
武蔵は視覚を諦めたのか、地面に座り込み、目を瞑って<気配感知>に集中しだした。
僕達は良い判断だと思い感心する。いくら目を凝らしても見えないものは見えないのだから。
かと言って、目を瞑ったぐらいで分かる程、簡単な事ではない。
僕達は帰る時間になるまで武蔵を待ったが、やはりホワイトサーペントを見つける事は出来なかった。
「すまん。せっかく付き合って貰ったのに情けねえな」
「そんなに直ぐに分かる訳無いでしょ? ヨウ君が難しいって言ってるぐらいなんだよ?」×ナギサ
「でも皆、分かるんだよな? すげーよ」
「私達も最初は全然分かんなかったよ? ヨウ君に攻撃して貰って、やっと分かったんだからさ」
「むしろ、分からなくて当たり前だったりして」×ツドイ
「そうね、最初から分かるのはヨウ君ぐらいだから」×アヤメ
「フフ、難度が高い魔物程、良いスキルを所持しているんですよ」×リラ
「フフ~ これがクリア出来たら、見違えるほど強く成るわ」×ノノ
「ハハ、やる気にさせるのが上手いよな。全身全霊で頑張るよ」
「ガンバです!」
翌日からホワイトサーペントを見つけるため、地下13階に通う事になるが、予想通り簡単に終わるものでは無かった。
朝から夕方まで武蔵は一切の文句も言わず頑張っていたが、3日目が終わってもホワイトサーペントを知覚する事ができなかった。
僕達がずっと張り付いているのも武蔵が気を使うので、僕達も交代で狩りをすることにした。
しかし、それでも中々出来ない事に憤りを感じているのか、武蔵の表情は険しくなっていった。
「毎日付き合ってくれてるのに悪いな・・・」
「いえいえ、気にしなくても良いですよ?」
「いや、流石にこれ以上付き合わすのは気が引けるわ。少し俺に時間をくれねえか?」
「良いですけど、どうするんです?」
「手ごたえを感じるまで、1人で頑張ってみようと思う」
「1人で地下13階に来るのは無謀ですよ?」
「分かってる。ダンジョン以外で感覚を研ぎ澄ます訓練をしようと思ってる」
「分かりました。でもどうしても無理そうなら、違う方法もありますからね?」
「あはは、本当に優しい師匠だな? だが、俺にも意地があるからな、ちょっと待っててくれよ」
「分かりました。その手ごたえを感じることが出来たら連絡してください」
「分かった。ありがとな」
「いえいえ」
この日から一週間、武蔵から連絡が来ることは無かった。
「ねーねー、ヨウ君は、どれぐらいで武蔵君がクリア出来ると思ってるの?」×アヤメ
「そうですね~ どれだけ早くても2~3カ月、下手したら年単位になるかもです」
「ええっ! そんなに長期間になるの?」
「はい、でもホワイトサーペントを見つけれる事ができるだけで十分ですよ? 流石にドロップするかは運ですからね」
「なるほどね~ 後は武蔵君の頑張り次第って事ね」
「そうなんですよ。武蔵ならやり遂げると思ってるんですけどね」
そう言いつつも、流石に少し心配になってきて、ちょくちょく<千里眼>スキルで様子を見ていた。
どうやら武蔵は、この一週間ずっと部屋の中にいたようだ。
念のためにメイドさんにもお願いして、ずっと見張りをして貰っていたが、買い物にすら行って無かったようだ。
すると、一週間ぶりに武蔵が外出したと、メイドさんから<念話>で連絡が入った。
『ヨウ様、武蔵様は堺市西区にある、中級ダンジョンへ入っていきました』×<念話>
『ええっ? 1人では無謀だって言っといたんですが・・・すみませんが、武蔵の護衛して貰っても良いですか? おそらく地下13階に行くはずです』×<念話>
『畏まりました。お任せ下さい』×<念話>
幸い、メイドさん達も無色のクリスタル集めで、堺市にあるダンジョンにも来て貰っていたので、転送クリスタルで地下13階に行くことができるだろう。
僕も急いでアヤメさん達と共に、<転移魔法>で武蔵の下に向かった。
地下13階に着くと直ぐに武蔵を発見した。ちゃんとメイドさん達が護衛してくれている。
僕はメイドさん達にお礼を言い、武蔵に目をやると何かヨロヨロとしており、ふらついている様だ。
体調が悪いのだろうかと思っていると、それでも先へ歩いて行く。
武蔵が歩いて行く先にホワイトサーペントが居るので、このままでは危ないと動こうとしたら武蔵はその場で座りだした。
武蔵は胡坐で座りながら目を瞑っている。まさか、前方のホワイトサーペントが分かったのか?
僕達は期待の眼差しで武蔵を見ていると、ドンドン武蔵の気配が薄れていく。
僕達は全員驚いたが間違いない。武蔵はスキルも無しに<気配遮断>をしている様だ。
「み、見つけた・・・遂に見つけたぞ!」×ムサシ
武蔵は武器を取り出し、ヨロヨロとホワイトサーペントへ近づいていく。
完璧とまでいかないまでも、ちゃんと<気配遮断>が出来ているので、魔物も武蔵に気付いてないようだ。
武蔵はバトルスタッフを振りかぶると、気配が漏れたのかホワイトサーペントが武蔵の方に首を向けた。
それでも武蔵は渾身とも言える振り下ろしの攻撃を叩き込み、ホワイトサーペントは光の粒子となって消えていった。




