第261話 怖い人って怖い人を見たことないのかな
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<シュアン視点>
立ち並ぶ護衛の中、椅子の背もたれに深く凭れ掛かり、不遜な態度で私達を見ている。
間違いなく、この女性が黒地牢のボスなのだろう。
視線を向けられただけで身体が緊張し、ジワっと汗が出てくる・・・
周りの屈強な護衛達も強そうだが、この女性から感じる雰囲気は間違いなく強者のそれだ。
この女性1人でも、私達では絶対に勝てないという事が窺いしれる。
「呼び出しておいて言うのもなんだが早かったな? 余程、あの娘が大事とみえる」
「・・・そんな、あからさまに言って良いの? 誘拐よ?」×シュアン
「ハハハ! ああ、誘拐だ♪ だが、それがどうした? この私に、何か拙い事がおこるとでも言いたいのか?」
「イーノォはどこなの?」×テユン
「さあな? そんな些細な事を、私が知る訳がないだろう?
6人揃って、この黒地牢に来たことは褒めてやるが、頭の出来は悪いようだな?
お前達は私が有益だと思う事を、小鳥の様に囀るだけで良いんだよ。
私が気に入れば全員無事に帰れるし、気に入らなければ土に返る」
「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」
「私の眼前に立つって事は、そういう事だ!」
な、なんて冷たい目をしているの・・・今度は冷たい汗が背中を流れていく。
強ちあの男が言っていた忠告も嘘じゃ無さそうね。私達を殺す事なんて気にもとめないのが良く分かる。
「有益な情報とは?」
「ハハハ、惚けなくても良いだろう? お前達が日本で一体何を見た? 誰に会った? なにか、良い物を手に入れたんだろ?」
こ、こいつ、私達の事をどこまで知ってるの? やはり、目当てはエリクサーの情報か。
私達がエリクサーの事なんて知らないと言っても、信じてはくれないでしょうね。
かと言って、ヨウ君の事を話せる訳もないし・・・
「どうした? 言っておくが、お前達が此処に来た時点で、あの娘は用済みだ。早く囀った方が良いんじゃないか?」
「「「「「「・・・・・・」」」」」」
「フゥ~ こう見えて、私は非常に忙しい身でな? 私は、お前達が直ぐに喋りたくなる方法を知っている」
「や、やめて!」×テユン
「おい?」
「はっ!」
部下である男はスマホを取り出して、どこかへ電話をしている。
これが、私達にとって最悪の事態になることは分かっている。
分かっているけど、どうにもならない・・・
い、一体どうすれば・・・
私達が茫然と立ち尽くす中。何時の間にか目の前にあるソファーに、誰かが座っている?
ま、まさか・・・
「んっ? なんだ? 何時の間に・・・」
ヨウ君! こんなにも早く来てくれたんだ。
相変わらず、この密閉された空間に一体どうやって・・・
うふふ、いえ、ヨウ君なら簡単な事なのでしょう♪
最初から私達に出来る事なんてなかったのね。
後はどうなっても、ヨウ君に任せるしかない。
「・・・坊や? 一体どこから入ったの?」
「ちゃんと、ドアから入って来ましたよ? ひょっとして、ノックとか入りました?」
「・・・・・・・」
「ヨ、ヨウ君!」×テユン
「お待たせしました。テユンさん。
イーノォさんは無事確保しましたよー、安心して下さいね?」
「あ、ありがとう。ヨウ君」
「なんだと?」×護衛
「・・・どうやら、只者じゃ無さそうだね?
日本人か?」
「さあね?」
「フフフ、いや流暢な中国語を喋っているが、間違いなく日本人だね。
一切の気配も感じさせずに、この部屋に入れるなんて誰にでも出来る事じゃない、高ランクの冒険者なんだろ? 少年の様だが大したもんだ♪」
「悪党に褒められても、嬉しくないですね~」
「このガキ! 誰に口をきいてやがる」
「やめろ!」
「・・・はい」
「あの小娘の怪我を治したのは、坊やなんだろ?
助け出したってのも嘘ではなさそうだ。
良い腕に良い度胸だ。部下に欲しいぐらいだよ」
「冗談でしょ?」
「フフ、だが坊や? 平静を装っているようだが、まさか無事にこの部屋から出れると思ってはないだろう?
しかし、私は優しい方でな、あの小娘を回復させた手段を教えてくれたら、全員無事に帰すと約束しようじゃないか? 悪い話しじゃないだろう?」
「さっきから、何の話しをしてるのか、分かんないんですけど?」
「・・・どうやら、腕に余程自信があるようだね? 坊やが日本でどれだけ強かったのか知らないが、世界の広さを体験してみるかい?」
「あはは、僕が高ランクの冒険者だってのは分かっても、自分達の方が強いって思うんですね~♪
僕から見たら、悲しくなるほど弱者の集まりに見えるんですけど?
滑稽も良いとこですよ。悪党のおばさん?」
次の瞬間、護衛である1人の男が、ヨウ君に殴り掛かった。
私が止めようとしても、とても間に合わず声を張り上げそうになるが、その必要はなかった。
ヨウ君に殴り掛かった男は、一瞬にして弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
頑丈そうな壁にメリ込んで亀裂が入っており、とても生存しているとは思えない有様だった。
私には何が起こったのか分からず、この空間が静寂に包まれた。
「ば、馬鹿な・・・その男はステータスがカンストしてるんだぞ?」
「あれ? ハエかと思ったら、人だったんですか?」
「・・・殺れ!」
立ち並ぶ護衛達はボスである女性のたった一言で、躊躇なく銃を抜きヨウ君に乱射し出した。
たった1人に対して、何十発もの弾丸が撃ち込まれていく。
「「「「「「ヨウ君!!!!!!!!」」」」」」
「はい、なんですか?」
「えっ?」
ヨウ君は何事も無かったかの様に、ソファーに座っていた。
良く見ると、ヨウ君の周りには銃弾が無数に転がっている・・・
な、なんて人・・・
「なんなのだ、お前は?」
「いきなりこんな事しておいて、言いたい事はそれだけですか?」
「くっ!」
「さってと、じゃ仕返しと行きますか♪」
「・・・お前達、全員で殺れ!」
「はっ!」×護衛達
護衛達は一斉に襲い掛かっていくが、ヨウ君が軽く拳を振り下ろす仕草をすると、轟音と共に床が陥没し、下の階層まで大穴が開いてしまった。
護衛達は何が起こったのか分からないのか、驚愕の表情で固まっている。
「あれ? 来ないんですか? ボスが殺れって言ってましたよ?」
「来ないなら、僕から行きますよー♪」
「ヒッ! ヒィィ!」
「ぐぎゃああああああああああああああ! お、俺の腕がああああああああああああ!」
「ぎゃあああああああああああああああ!」
「ぐふっ! ぐああああああああああああ!」
「や、やめてくれ・・・た、助けて、ぐほっ! ぐあああああああああああああああ!」
「あはは、逃げても無駄ですよー♪」
密閉されたこの空間が、まさに阿鼻叫喚に包まれていく!
ヨウ君の強さは分かっていたけど、私達ではたった1人にも勝てそうにない護衛達が、悲鳴を上げながら逃げまどっている。
瞬く間に豪華だった部屋が地獄絵図に塗り替わり、生臭い血臭に包まれていった。
床や壁、天井まで穴だらけになっており、もはやこの部屋は廃墟にしか見えなかった。
「しかし、哀れなほど弱いですね~ なんで、こんな虫けらが偉そうに出来るんですかね~
強面で身体が大きいだけの、見掛け倒しにも成らないゴミクズ共が。
ちょっと小突いただけでピーピー泣き叫んで、情けないにも程がありますよね。
ところで、おばさん? 世界の広さを体験させてくれるんですよね?
おばさんが、体験させてくれるのかな?
僕には、おばさんも汚い虫けらにしか見えないけど?」
「な、なんなのだ、お前は?
・・・参ったな。どうやら世界の広さを知らなかったのは、私の方だったようだ。
私は決して手を出してはいけない者に手を出したという事か?
私が鍛え上げた精鋭達が、まさか虫けらのように殺されるとはな・・・
これだけの騒ぎで誰も来ないとは、何をした?」
「あ~ 言って無かったですけど、もう黒地牢は、おばさん1人ですよ?」
「な、なにを言ってるんだ・・・」
「実は僕のパーティメンツが、掃除してくれてるんですよ?
このビルはもちろん、支部から下部組織まで先ほど掃除が終わったそうです。
今日で、黒地牢なんて言葉は無くなります。
もう一度言いますけど、おばさんが最後ですよ?」
「フフ、あはは! な、なんなのだお前は? これは悪夢か? たった、たった1日で、私の黒地牢が無くなる? 冗談じゃない」
「あはは、悪党の末路なんて、そんなものでしょ?」
「あ、謝る・・・金ならある。なんでもする、望みを言ってくれ? 助けてくれるなら大抵の事はどうにでもなる」
「往生際が悪いですね~ でも安心して下さい。おばさんは殺しませんから」
「本当か? 私の全てをやる。なんでもしてやろう」
「本当ですよ? 悪党の親玉を殺して終わりなんて、温い事するわけないじゃないですか?」
「はあ?」
「老衰で死ぬまで、全身麻痺にして上げますからね?
意識があるのに指先どころか、瞼も動かせない生活を味わって下さい」
「ヒッ! ヒィィィィィ! い、嫌だ! そんなの、死んだ方がマシだ」
「大丈夫ですよ? 反省する時間は、たっぷりとありますから。
一体誰に手を出したのか死ぬまで後悔するんですね」
ヨウ君が黒地牢のボスに近づくと、女性は恐怖に引き攣った表情のまま、ピクリとも動かなくなった。
お、恐ろしい・・・私は心底恐ろしい人間がいるのだと実感した。
ヨウ君達に比べたら黒地牢なんて、本当に羽虫以下の存在だったんだ・・・
見ない方が良いと忠告してくれた意味が、今ようやく理解出来た。
あの無邪気で可愛い少年が、今はただ恐ろしい・・・
「ごめんね。こういうところはあんまり見せたくないんだけど・・・」
「ご、ごめんなさい、私達が無理に着いてきたから・・・」×シュアン
「ヨウ君・・・私の為に、こんな事して本当に良かったの?」×テユン
「こういう事も、今回が初めてって訳じゃないですよ?」
「「「「「「・・・・・」」」」」」
「今まで、何度か理不尽に弱者を迫害するような奴らを始末してきました。
冤罪とかは無いですよ? 僕は人の真偽が分かりますから。
もちろん、良い事をしてるなんて思ってませんよ?
僕は、僕が気に入らない奴らを、始末してるだけですからね。
僕が怖くなりましたか?」
「そ、そんな事・・・無いって言っても、ヨウ君には分かるんだよね?
正直怖いわ! でも、それはヨウ君の圧倒的な強さによ?
躊躇なく人を殺せるところも、ちょっと怖いけど・・・
イーノォを助けてくれた事には感謝しかない。
それに、ヨウ君のやり方は、ヨウ君なら許されると思うわ」×テユン
「同感だ! 正しいとは言えないかもしれないけど、スカッとしたぜ?」×ソヒョン
「ええ、警察でもどうにも出来ないんだもの、ヨウ君の様な人が居ても良いわよ」×ソンイ
「私達は、まだあまりヨウ君の事を知らないけど、これからもっと理解していきたいと思ったわ」×ギュリ
「そうね、可愛くて、優しいけど、とても怖い不思議な少年をね」×フィ
「まさか、私達がヨウ君が怖くなってクレセントメンバーを拒否するなんて思ってないですよね?
黒地牢から私達を助けて貰ったのに、恩人を裏切るような事を言う訳ないわ。
それに、ヨウ君を好きになった気持ちは、こんな事ぐらいじゃ変わらないからね?」×シュアン
「うふふ、私も大好きだよヨウ君」×テユン
「あはは、シュアンが惚気たな♪」×ソヒョン
「良いでしょ? 私だってたまには素直になります」×シュアン
「あはははは♪」×シュアン達
「ありがとう、そう言ってくれると僕も嬉しいです」
「それと、もう出てきても良いですよ?」
「あちゃー、やっぱりバレてたか」×ナギサ
「盗み聞きなんて趣味が悪いですよ?」
「んふふ、ごめんね~ でも、私達が居たらシュアンさん達も本音が言い難いでしょ?」×アヤメ
「でも良かったよ。流石に始末し辛いからさ?」×ツドイ
「「「「「「イイッ?」」」」」」
「くくっ! 冗談だよ♪」
「し、心臓に悪いから、止めてくれよ?」×ソヒョン
「貴女達が言うと、冗談に成らないからね?」×シュアン
「あはは♪」×アヤメ達
「でもさヨウ君。もし私達が今回の事でクレセントメンバーを断ってたら、どうしたの?」×テユン
「その時は、残念ですけど諦めてましたよ?」
「口封じするって事?」
「ブッ!? そ、そんな訳ないじゃないですかー、ちゃんと無事に帰しましたよ」
「ヨウ君の秘密が漏れるかもしれないじゃない?」
「それでもです! でもまあ、しばらく、口説き続けたかもしれませんけど?」
「んふふ、ヨウ君って諦め悪かったんだ?」×ナギサ
「事と場合によりますよー、ナギサさんは諦め良いんですか?」
「私はメチャクチャ諦め悪いよー♪」
「悪いんじゃないですか?」
「良いなんて言って無いでしょ?」
「確かに?」
「あっそだそだ。イーノォさんを亜空間で保護してるんですけど、テユンさん達も行っといて貰えます?」
「ありがとう。ヨウ君」×テユン
「僕はやることがあるので、もう少ししてから帰りますね」
「・・・分かったわ、待ってます」
<ヨウ視点>
僕が倒した黒地牢は、全員<返還>スキルでオーブ等を抜き取っておいた。
アヤメさん達が掃除してくれた者達は、亜空間に入れてあるそうなので、僕がオーブ等を抜き取り全身麻痺で放置することにした。
下部組織は建物ごと回収してくれてるので、お金になる物は回収して被害者に当てることにする。
結構、邪魔くさいんだけど、少しでも還元して上げないとだからな~
今いる建物も、金銭になる物は全て回収してから、全て燃やし尽くした。
全身麻痺にした男達は、ここの敷地内に放置しとけば良いか。
中国に来たついでに、シュアンさん達の持ち物も回収しに行ってから、日本に帰る事にした。
クレセント本部に戻ると、早速イーノォさんに亜空間から出てきて貰った。
「えっ? ここは?」×イーノォ
「此処が日本にあるクレセント本部よ♪」×アヤメ
「ええっ? うわぁ~ 凄い景色・・・」
「で、でも日本って?」
「えっ? なんで?」
驚き戸惑うイーノォさんは、とても可愛くて皆で微笑ましく見守ってしまう。
「うふふ、イーノォ。ゆっくり説明するからね」×テユン
「うん、ありがとう。もう、私の頭の中は、新しい情報が多すぎてパニックだよー」
「長年寝てたんだもの、仕方無いわ」×シュアン
「イーノォ、これから一杯楽しい事しよーね♪」×テユン
「うん、私とっても楽しみだわ」
「でも、私、頑張って働くから、テユンの迷惑にならないように頑張る」
「ぐすっ! そ、そんな事良いのに・・・」
「泣かないでよテユン。私、働くのも楽しみなんだよ?」
「そ、そうだね、私も頑張るから」
皆で話し合った結果。イーノォさんには、しばらくクレセント本部でゆっくりとリハビリして貰う事になった。
ゆくゆくは、ナタリーさんの助手として、働いて貰うと良いだろう。
シュアンさん達もまだクレセントに慣れてないだろうから、のんびりと頑張って貰う事になる。




