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第260話 人は見たいものしか見ないものなんですよね


 テユンさんとイーノォさんは、抱きしめあい嗚咽を漏らしていた。


 20年という途方もない年月の苦労は、僕には計りしれない。


 2人を見ていると溢れ出る涙を止めることが出来なかった。


 シュアンさん達はもちろん、アヤメさん達も僕と同じだったようだ。



「ぐすっ! イーノォ、これからの事は心配しないでね」×テユン


「そんな事気にしなくて良いわ、私に何が出来るのか分からないけど、一生懸命働くから」×イーノォ


「お金の事なら心配しないで良いわよ?」


「お金の事だけじゃないの、お願いテユン! 絶対、邪魔にならない様にするから、貴女の傍にいさせて?」


「ごめんなさい。それは出来ないの・・・」


「お、お願い! 直ぐ近くじゃなくても良いの、出来るだけ近くに居れるだけで良いから・・・絶対迷惑にならない様にするわ、お願い貴女が居ないと私・・・」


「ごめん、ごめんなさい。私これから・・・」


「それなら、しばらくの間。クレセント本部に来たらどうですか?」


「フフ~ さっすがヨウ様! 私もそう思ってたんだよね」×ノノ


「クレセント本部? それって、日本ではないのですか?」×イーノォ


「日本だけど、テユンさんも日本に住むことになったんですよ」


「ええっ? そんな! 私、日本に行くお金なんて無いわ・・・」


「お金なんて要りませんよ? どうしても返したいなら、働いて返してくれたら良いですし」


「・・・また、お世話になっちゃって良いの、ヨウ君?」×テユン


「もちろん、良いですよ」


「毎日、北京まで送っても良いですけど、それだとイーノォさん昼間1人になっちゃいますしね」


「えっ? 毎日、日本から北京まで? そ、そんなに日本と中国って近くなったの?」


「まあ、そこらは、ゆっくりとテユンさんに聞いてくれたら良いですから」


「ありがとうヨウ君。この恩は絶対に忘れないわ・・・ぐすっ!


でも、イーノォ。日本でも良いの?」×テユン


「良いわ! テユンと一緒に居れるなら、私どこへだって着いて行くわ♪」×イーノォ


「それに、日本ってラーメンが美味しいんでしょ? 私とっても楽しみだわ」


「ありがとうイーノォ。ありがとうヨウ君」


「いえいえ、直ぐに退院って訳にはいかないでしょ? 段取りが着いたら来てください」


「それなのですがヨウ様。いきなり完治して退院というのは目立ちますので、転院という事にされませんか?」×リラ


「あっ! そうですね。それだと、しばらくイーノォさんには寝といて貰わないとですね?」


「手続きは今日中に終わりますから、明日の朝まで我慢していただければ」


「イーノォ、我慢出来る?」×テユン


「うふふ、問題無いわ。明日がとっても楽しみよ♪」×イーノォ


「そだそだ、暇潰しに良い物上げちゃいますね。


イーノォさんなら、凄く使いこなす事が出来る様になるかも?」


「えっ! 私なら?」



 僕は<気配感知>スキルオーブをイーノォさんに手渡した。



「また、スキルオーブなの?」×イーノォ


「ま、またって他にも貰ったの?」×テユン


「うん。<身体強化><超回復><状態異常耐性>ってスキルをくれたのよ」


「あ、ありがとうヨウ君。素敵なスキルばかり」


「いえいえ、それも習得しちゃって下さい」


「うん、ありがとう♪」


「えっと、<気配感知>? うわ~ これ凄いわ、目を瞑ってても誰が何処に居るか分かる」


「んふふ、なるほどね、確かにイーノォさんなら誰よりも使いこなすかも?」×アヤメ


「でしょでしょ? <気配感知>スキルは、これからとっても役立つから訓練してるとお得ですよ?」


「ありがとう。明日まで頑張って練習しとくね」


「はい、では、また明日迎えに来ますね」



 僕達は、転院の手続きをするテユンさんを病院に残し、外へ行くことにした。



「んふふ、せっかくだから観光でもする?」×ナギサ


「そうですね~ ならダンジョンにでも!」


「・・・言うと思ったけど、言うんだね?」×ツドイ


「あはは、でも、シュアンさん達を見られるのは拙いですね~」


「そうね、私達は日本に居る筈だから、知ってる人に会ったら言い訳が出来ないかも?」×シュアン


「飛んで帰ってきた、なんて言えねえしな?」×ソヒョン


「残念ですけど、テユンさんの手続きが終わったら、日本に帰りましょうか」


「フフ、シュアンさん達が帰国してから、遊びに来るとしましょうか?」


「なんか、不思議な会話よね?」×ギュリ


「うふふ、もう慣れるしかないわ♪」×フィ



 こうして、テユンさんの手続きが終わると同時に、日本へ帰る事になった。


 そして翌日。また同じメンツでイーノォさんを迎えに病院へ向かう。


 テユンさんは、とても嬉しそうにしていた。


 当然、皆もテユンさんの気持ちが分かるので、釣られて気分良く病院へ向かう。



「あれ? イーノォさん居ないみたいですね」


「まだ、検査が残ってたのかな?」×アヤメ


「そ、そんな筈無いわ・・・イーノォ?」×テユン



 イーノォさんの病室へ入ると、空のベッドに置手紙があり、テユンさんは震える手で読み始めた。



「そ、そんな・・・黒地牢」×テユン


「「「「「ええっ!」」」」」


「まさか、攫われたなんて言わないでしょ?」×アヤメ


「・・・その可能性が高いです」×テユン


「何なの? その黒地牢って?」×ナギサ


「ダンジョンが出現してから、現れだしたマフィアです・・・」×シュアン


「私達とも何度か、いざこざを起こした事があるんですが、まさかこんなところまで目を付けられていたなんて」


「彼奴等・・・」×ソヒョン


「すみませんヨウ君。しばらく待っていてくれませんか?」×テユン


「まさか、1人で行く気じゃないでしょうね、テユン?」×シュアン


「駄目よ! 当然、私達も行くわ」×ソンイ


「で、でも・・・皆にも迷惑が掛かるわ、家族にだって手を出して来るかも?」


「・・・それでも、ほっとける訳ないでしょ?」×ギュリ


「でも、何でイーノォを攫ったんだろ?」×フィ


「おそらく、イーノォさんが回復したのがバレたのでしょう」×リラ


「なるほどね~ 狙いはエリクサーかな?」×ノノ


「きっと、テユンさんがエリクサーを手に入れたと思ったんでしょうね」×アヤメ


「馬鹿だよね? ワザワザ虎の尾を踏む事ないのにさ」×ツドイ


「ヨウ君。大丈夫?」×ナギサ



 僕はナギサさんが声を掛けてくれるまで気付かなかったけど、とても冷めた表情をしていたんだと思う。


 沸々と湧き上がる怒りを制御していたからだ。



「フゥ~ 大丈夫ですよ、ナギサさん。とりあえずイーノォさんを取り戻して来ますね」


「だ、駄目です! 幾らヨウ君が強くても、奴等は駄目です!」×テユン


「そんなに強い人達なんですか?」


「・・・強いし、とても危険なマフィアなの。人数も多いし勝つためには手段も選ばない奴らなの」×シュアン


「分かってヨウ君。これ以上ヨウ君に迷惑掛けたくないの・・・」×テユン


「迷惑なんかじゃないですよ? こんな人質を取るような奴らが、強いわけありませんし? 僕に任せといて下さい」


「そ、それなら、せめて私も連れていって。お願い!」


「・・・貴女は行かない方が良いわ」×アヤメ


「そだね、今からのヨウ君は見ない方が良いわ」×ナギサ


「私もクレセントメンバーなんだよね? お願い! 連れて行って?


イーノォが連れ去られたのに、待って何ていられない・・・


ヨウ君なら、イーノォが何処に居るか分かるんでしょ?」


「・・・ヨウ君は、決して優しいだけの人間じゃないよ?」×ツドイ


「失礼ですがテユンさん。まだ貴女に覚悟があるとは思えないのです」×リラ


「私達を信じて待ってた方が良いよ?」×ノノ


「私は命を掛けてイーノォを守ると誓ってます。どうかお願いします」


「私達も連れて行って。テユンは大事な友達なの」×シュアン


「言いたい事は大体分かるけど、私達も清廉潔白に生きてきた訳じゃ無いわ」×ソンイ


「何があろうと、私達の決意が揺らぐことなんてねえよ」×ソヒョン


「冒険者だもんね、色々な覚悟は既に出来てるわ」×フィ


「都合の悪い事は、見なかった事にするわよ?」×ギュリ


「んふふ、良いわね貴女達! クレセントに誘って良かったわ♪ ヨウ君も、変な事考えちゃ駄目よ? 私達は一蓮托生でしょ?」×アヤメ


「・・・分かりました。僕の性格を理解してくれてありがとう。テユンさんの気持ちも理解出来ます。一緒に行きましょうか」


「は、はい。ありがとうヨウ君」


「1つだけ忠告させて下さい。私が言った覚悟とはどういった意味なのか、皆さん良く考えて下さいね?」×リラ



 ゾクッ! ×シュアン達



「わ、分かりました」×テユン



 こうして僕達は、シュアンさん達とイーノォさんを取り戻す為に乗り出すことにした。


 僕達はイーノォさんの居場所を<千里眼>スキルで探しだし、囚われているだろう建物の前に辿り着いた。



「どうやらイーノォさんは、此処に居るみたいね」×アヤメ


「やはり、此処ですか」×シュアン


「知ってたの?」


「はい、此処が中国でも悪名高いマフィアである、黒地牢の本部です」


「なるほどね~ 悪い事してるだけあって大きなビルね?」×ナギサ


「悪人って皆お金持ちだよね?」×ツドイ


「・・・・・・・・」


「フフ、ヨウ様は違いますよ?」×リラ


「もうツドイ? 言い方が悪いわよ、ヨウ様が落ち込んじゃったじゃない?」×ノノ


「誤解だよ?」×ツドイ


「いえ、僕は悪党ですから。でも、クズじゃないつもりですよ?」


「んふふ、なら私達も悪党ね♪」×アヤメ


「くくっ! 強い者が正義なんだよ!」×ツドイ


「フフ~ 違うわ。勝ったものが正義なのよ」×ノノ


「それって、悪党でも正義に成れるって事になるよね?」×ナギサ


「フフ、正義なんて曖昧なものですが、我を通すには力が必要と言う事です。誰を敵に回したのか、思い知っていただきましょう」×リラ


「あはは、此処は中国人なら誰でも恐れる黒地牢なんだが、皆頼もしいな?」×ソヒョン


「皆さん気を付けて下さいね? 高位の者はステータスも高く、スキルも複数持っている筈ですから」×シュアン


「にしし、クレセントを舐めちゃ駄目よ?」×ナギサ


「さてと、じゃ僕達はイーノォさんを助けに行ってきますから、シュアンさん達とは後で合流しましょうか」


「そ、そんな事が出来るのですか?」×ソンイ


「任せて下さい!」


「「「「「「えっ?」」」」」」


「き、消えた?」×ギュリ


「うふふ、全く恐ろしい人達ね?」×フィ


「黒地牢も今回ばかりは、下手を打ったみたいね・・・」×シュアン


「ああ、本当に敵に回したくねえのが、どんなものか黒地牢も分かるだろうな」×ソヒョン


「さあ、私達も行きましょうか? ヨウ君達が動いてくれるなら安心して良いわ、テユン」


「うん、でも黒地牢・・・絶対に許さない」×テユン


「今日が、黒地牢の最後かもね?」×シュアン


「えっ?」


 <シュアン視点>



 私達は黒地牢のビルへ入ると、如何にもガラの悪そうな人達が出迎えてくれた。



「くくくっ! 早かったじゃねえか?」


「御託は良いから、早く案内しなさい」×シュアン


「あはは、怖え怖え! 上に上がりな、ボスが待ってるからよ。


言っとくが階段で行けよ? エレベーターなんて使ったらハチの巣にされるからな」


「電気代の節約か? セコイ奴等だな?」×ソヒョン


「あはははは!」


「此処が何処だか分かってんのかよ? 度胸ありすぎだろ?」


「しかし、相変わらず別嬪だよな? 冒険者にしとくには勿体ねえ」


「なあ、悪い事は言わねえから、俺達と仲良くしよーぜ?」


「悪党が悪い事言わない訳ないでしょ?」×ソンイ


「あはは、違いねえ」


「おい、俺に着いてこい案内してやる」


「アニキが案内って・・・」


「どうやら、そいつらはボスのお気に入りらしいからな、丁重にお連れしろってよ。


お前ら一体、何をしやがったんだ?」


「下っ端には関係ないでしょ? 早く連れて行きなさい」×シュアン


「こ、こいつ、誰に口を聞いてやがるのか分かってんのか?」


「止めとけ! 俺達の方がボスに怒られっぞ?」


「ちょっとは賢いじゃない? 聞いてたら怒られるどころか、始末されてたかもね?」


「なに?」


「だから止めとけって言ってんだろ?」


「・・・はい」


「どうやら、良い情報を掴んだみてえだな。ほら、着いて来い」



 私達は男に着いていくと、本当に階段から行くらしく、歩いて登っていく。


 なるほど。直通でボスが居る階層まで行けない様になってるみたいね。


 何度も階層を経由して、まるで迷路のようだわ。


 流石に悪い事ばかりしてるだけあって、それなりの用心はしてるってことか・・・


 それにしても、どの階層でも人が多いわね、一体何人居るのやら。



「チッ! どいつもこいつもジロジロ見やがって、女に飢えてんのか?」×ソヒョン


「あはは、それだけ、お前らが綺麗だからだろ? ちっとは喜べよ?」


「クズに褒められても、全然嬉しくないわ」×テユン


「俺は、お前が一番好みだけどな?」


「ふざけないで! 貴方は、私達に何をしたか知らないかもしれないけど。私は絶対、貴方達を許さないわ」


「なあ姉ちゃん? さっきから黒地牢を舐め過ぎてねえか?


俺達に逆らえばどうなるかなんて、此処に住む者達なら子供でも知ってるぜ?


まして、お前達が今から会うのは黒地牢のボスだ。


喋り方一つで、お前達の家族が今日消える事になっても、なんら不思議な事じゃねえ。


それが、黒地牢の力だ! 北京ギルドだって、手出し出来ねえのが俺達だぞ?


警察にでも泣きつくか? もしくは俺達に匹敵するマフィアに頼むか?


何をしても無駄だ! どれだけ自分達が非力なのか思い知るが良い」


「・・・貴方は何も知らないのよ」


「なにっ?」


「黒地牢? 北京ギルド? 警察? 例え中国と言う国が相手でも、どうにもならない力が存在する事を・・・私は命を掛けて此処に来たわ、貴方も大口叩くなら死を覚悟するのね?」


「何を訳の分からねえ事を言ってやがる? 薬でもやってんじゃねえだろうな?」


「もうすぐ分かるわ。早くボスに会わせなさい」×シュアン


「ケッ! いかれてやがる・・・」



 私達は何度も階層を経由し、最上階にある黒地牢のボスが居るであろう階層へに辿り着いた。


 最上階には、分厚い絨毯が敷き詰められており、幾つもの美術品が飾られていた。


 まるで、この階層だけ違う空間であるように、豪華な佇まいになっている。


 エレベーターの前には、違法な拳銃を携えた者が警備している。


 エレベーターを使うとハチの巣になると言うのは、強ち嘘では無かったのが窺いしれる。


 そして、一際豪華なドアの前に着くと、大男が2人待機していた。


 唯の大男ではない・・・見ただけで分かるその風貌は、明らかに鍛え上げられた身体をしていた。


 つ、強い・・・おそらく、この大男1人でも私達全員で勝てるかどうか分からない。



「忠告しといてやる、今から思考に気をつけろ!


言葉に気をつけろ!


行動に気をつけろ!


表情一つで命を落とすと思え!」


「「「「「「・・・・・・」」」」」」


「私からも忠告しといて上げるわ、今から起こることは運命よ! 誰にも逆らう事は出来ないわ」


「・・・入れ!」



 大男が扉を開けてくれると、黒尽くめの護衛が立ち並ぶ中、豪華な椅子に美しい女性が座っていた。





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