第226話 これが日本の冒険者なのです
ツドイさんは大勢の観客が見守る中、闘技場の中央に佇んでいる。
まるで敵地とも言える、この場所で堂々と佇んでいるツドイさんは、とても凛々しく会場中を魅了している様だ。
「うはー、近くで見ると尚更、綺麗な姉ちゃんだな」
「馬鹿野郎! そんな問題じゃねえだろ?」
「なあ姉ちゃん、1つ聞きたいんだが、何故1人しか出て来ないんだ?」
「ツドイだよ」
「あぁん?」
「僕、ツドイだよ?」
「・・・でっ! ツドイさんよ、何故1人しか出て来ないんだ?」
「今日は、僕が遊んであげる♪
遠慮しなくて良いから、掛かっておいで『フリーマン』♪」
「「「「「「はあああああああああ?」」」」」」
「まさか、俺達相手に1人で戦うって言うのかよ?」
「そうだよ、今日戦うのは僕1人♪」
「ふ、ふざけるな~」
いよいよ今日の階層争奪模擬戦が始まる様だ、全てギルドで仕切っているのかマイクを持った受付嬢が模擬戦会場に入って来た。
どこかで見た事があると思ったら、僕達を最初対応してくれた受付嬢さんだった。
会場も盛り上がって歓声が鳴り響いている、日本では考えられない事だけど、こういうのも良いかもしれない♪
【時間となりましたので、本日の上級ダンジョン階層争奪模擬戦を開始致します】
【まず第1試合はシドニー最強の1角、クラン『フリーマン』対、日本からの飛び入り参加『クレセント』の対戦です!】
【あれ?】
「えと『クレセント』さん、早く舞台へ上がって下さい。始まりますよー」×受付嬢(司会進行役)
「僕1人で戦うから他は見学だよ?」
「ふえ? 本気で言ってるんですか?」
「うふふ、私が認めます。初めて下さい」×ナタリー
「は、はい、ナタリーさんがそう言うなら、分かりました」
【お待たせしました。どうやら『クレセント』は、たった1人で戦うそうです。それでは第1試合スタートです!】
「うおおおおおーーー」×観客
「あはははは、スゲエ、完全にシドニーを舐めてやがる♪」
「面白いじゃない? やっちゃえー『フリーマン』!」
「ぎゃはははは、舐められてるぞー『フリーマン』!」
「たった、1パーティで全階層エントリーしてるのも大概なのに、1人で戦うだと? どこまでシドニーを虚仮にしてやがんだ?」
「・・・いいえ、違うわ。彼女達は複数で出る必要がないのよ、それだけ実力差があるんだから」
「なんの冗談だよ?」
「私見たんだもの彼女達の戦闘を、舐めてるのは『フリーマン』の方よ?」
「マ、マジかよ?」
「ふぅ~ 正気とは思えねえが、まあ良い後悔するなよ?」×フリーマン
「ところで、武器も持たない気か?」
「僕の武器って手加減が難しいんだよね・・・気にしなくて良いよ?」
「ああ、そうかよ。全く日本では強いのかもしれないが、オーストラリアの広さは桁違いってのを教えてやるよ」
「くくっ! 君は自分の方が強いと思っているんだね?
僕が女だから? それとも日本の小さな島国だから?
見た目や偏見で物事を判断するなんて甘いよ?
おいで甘ちゃん、世界の広さを教えて上げる♪」
「こ、こいつ・・・」
いよいよ戦闘が始まり『フリーマン』の男性が、ツドイさんに攻撃を繰り出した。
「なっ! なんだと・・・」
片手剣で攻撃した男は、攻撃が躱された事に驚き戸惑っているようだ。
「躱しただと?」
「馬鹿な! 俺の攻撃が当たる直前まで、微動だにしなかった筈だ」
「一体何をしたんだ?」
「不思議なのかな? 不思議だよね?
遠慮しなくて良いよ? 全員でおいで遊んであげるからさ♪」
「・・・分かった。本気で行かせて貰う。おい、全員でやるぞ」
「「「「「分かった!」」」」」
たった1度の攻撃で、ツドイさんの実力を認めたのか『フリーマン』も本気になったようだ。
流石にシドニーがレベルが高いってのも頷ける。見事な連携でツドイさんに攻撃を繰り出していく。
しかし、いくらレベルが高いと言っても相手が悪い。
ツドイさんの動きは流麗な舞を見ているように軽やかで、まるで実体が無いかと思う程華麗で美しい。
それを見ている観客達も、先程まで大歓声を上げていたのに、今は水を打ったように静まり返っている。
「き、綺麗・・・」
「どうして、あんな動きが出来るのよ?」
「何故、背後からの攻撃まで躱せるの?」
「な、なんなんだよ・・・あれが人間の動きかよ?」
「ハァーハァーハァー、お前本当に人間か?」
「僕、ツドイだよ?」
「そこに拘るよな・・・分かったよ。ツドイさん、本当に実体があるのか?」
「僕、幽霊じゃないよ?」
「フゥーフゥー、俺達の攻撃が、体を擦り抜けているようにしか見えねえ・・・」
「ハァーハァー、攻撃が当たる気がしねえ」
「降参する?」
「「「「「「しねえ!」」」」」」
「くくっ! 漢だね♪ おいで、終わらせて上げる」
ツドイさんは無防備な体制から、リッカさん直伝の構えをとる。
中段に腰を落とし、突き出した右手の掌は自分へと向ける独特の構えである。
ゾクッ! ×フリーマン
「ハハハ、怖えな?」
「ああ、汗が吹き出しやがる」
「上級のボス戦の方がマシじゃねえか?」
「こいつ、化物だ・・・」
「これが日本のレベルか?」
「怖い事言うなよな?」
「信じられんことだが、本当に俺達は、甘ちゃんだった様だな・・・
此処からが本番だぞ? 皆気合入れていけ」
「「「「「おう!」」」」」
『フリーマン』の男達は最後の攻撃だと理解していたのだろう、先程より速い連携攻撃を繰り出していく。
だが、1人また1人とツドイさんの右手の掌に顎を触られた瞬間に、糸が切れた人形のように崩れ落ちていった。
最後の1人も崩れ落ち、ツドイさんは構えを解いたので、1戦目の闘いが終わった事を意味する。
「終わったよ?」
【えっ! あわわ!】
レフリーである受付嬢さんが倒れた男達を確認すると、ガードリングのHPが0になり、全員気を失っているだけなのが確認出来た様だ。
【し、失礼しました! 勝者『クレセント』です!】
受付嬢さんから勝敗宣言が出たのに関わらず、観客達は何が起こったのか理解出来ず静寂に包まれていた。
僕達がツドイさんに歓声を上げると、観客達も我に返ったのか会場は大歓声に包まれた。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」×会場中
「つ、つええ」
「あのフリーマンが、全員一撃かよ?」
「ツドイさん、素敵~~~♪」
「こりゃ、楽しみになってきたな」
「嘘だろ? たった一撃でガードリングのHPを奪った上で気絶させやがったのか?」
「その様だな・・・どうやら、噂は本当だったらしい」×ジェマ
「おいおい、洒落にならねえぞ?」
「あれだけ綺麗な顔してるくせに化物だったみたいだな、どおりでたった1パーティでシドニーへ殴り込んでくる訳だ」
「他の奴等も同じレベルだって言うのかよ?」
「間違いなく同等か、それ以上だろうな」
「あれ以上ってマジかよ・・・」
「おい、気合入れていけよ、もう遊んじゃくれねーぞ?」
「「「「「「おう」」」」」」
【そ、それでは、引き続き第2試合スタートです!】
『フリーマン』の面々は第1戦でツドイさんの実力が分かったのか、皆真剣な表情をしている。
2戦目に出て来た者達には、もう笑顔を見せる者すら居なかった。
「良い表情だね?」
「ああ、もう油断はしねえ」
「なあ、ツドイさん?」
「なんだい?」
「1つだけ聞きたいんだが、ランクだけ教えてくれないか?」
「良いよ、僕達は全員Sランクだよ」
「なっ! いや、やはりと言うべきか・・・」
「ランクなんて、強さとは何の関係も無いんだけどね」
「格上なのは間違いないだろう? 胸を借りるつもりで行かせて貰うよ」
「僕のおっぱいは、ヨウ君のなんだけど?」
「そ、そう言う意味じゃねえ!」
「くくっ! 冗談だよ♪ さあ、おいで『フリーマン』」
「ああ」
流石に1戦目を見ていただけあり『フリーマン』も慎重になっている様だ。
ツドイさんを取り囲み隙を伺っている。
「慎重だね? 来ないなら、此方から行くよ?」
トンッ! ドサッ!
「はあ?」
「ドンドン行くよー」
ツドイさんは取り囲んでいた男達の背後へ一瞬で移動し、次々と手刀で急所を打ち倒していった。
スキル<縮地>で動くツドイさんの動きを捉えれる訳も無く、あっと言う間に全員を倒し終わった。
「終わったよー」
【えっ! あっ!】
受付嬢のレフリーさんは、ツドイさんの言葉で慌てて倒れている者達の様子を伺っている。
アタフタしてる仕草がとても可愛い♪
【だ、第2試合、勝者『クレセント』です!】
「・・・・・・・・・」×観客
「な、なんで、こんなにも簡単に『フリーマン』の猛者が倒れていくんだよ?」
「お前、今の戦闘見てなかったのかよ?」
「見てたけど分かんねえんだよ」
「・・・初動から接近までの動きが早すぎて見えないわ、まるで瞬間移動してるみたい」
「幾ら何でも瞬間移動って事は無いだろ?」
「だ、だって、こんなに離れた所から見ても見えないんだもの?」
「確かに見えなかったな・・・」
「そうでしょ? あんな事されちゃ対峙してる人は、自分が倒された事すら分からないかも」
「どんだけ、強いって言うんだよ・・・」
倒れている者達は医療班の人達が搬送していき、最後の『フリーマン』の面子が闘技場へと上がる。
【そ、それでは続いて第3試合スタートです!】
「参ったな・・・今のってスキルだよな?」×ジェマ
「さあ、どうだろうね」
「まあ、簡単には教えちゃくれねえか・・・」
「なあ、1つ頼みがあるんだが?」
「何かな?」
「アンタが・・・いや、ツドイさんが強いのは良く分かったが、出来たら武器くらい出しちゃくれないか?
俺達にも面子ってもんがあるからよ?」
「・・・僕の武器って手加減しにくいんだよね、怪我しても知らないよ?」
「文句なんて言わないさ」
「大丈夫かな・・・死んじゃ駄目だよ?」
「はい?」
ツドイさんは、アダマンタイトで作られた薙刀を<虚空庫>から取り出した。
改めて見ると背の高いツドイさんより長く美しい薙刀は、まるで関羽の青龍偃月刀を思わせる。
僕でも薙刀を持ったツドイさんの前には立ちたくないと思う程に恐ろしい。
あの『フリーマン』のリーダーであるジェマさんって、勇気あるなと思い感心してしまう。
「当たり前の様に<虚空庫>持ってんだな・・・」×ジェマ
「それにしても何だよそりゃ? 前言撤回しても良いか?」
「くくっ! もう駄目だよ?」
「だろうな、俺も言ってから後悔したよ。しょーがねえ、さあ戦るとするか♪」
「ん?」
ジェマさん達パーティは闘技場に設置してある石柱に移動し、戦闘態勢に入って行く。
なるほど。そう言う事か・・・ツドイさんの長い薙刀なら石柱が邪魔で振るえないだろう、これが狙いだったのか。
「さあ、来い!」
「賢いね?」
「ははは、理想的なくらい長い得物だったからな、悪く思うなよ?」
「これも、兵法ってやつだ」
「文句なんて言わないけど、死なないでね?」
「なに?」
ツドイさんはウォーミングアップの様に薙刀を回転させてから、右手だけで柄を持ち天に掲げた。
とても長くて美しいツドイさんの薙刀は、その仕草だけでも演武を見ているようだった。
長身であるツドイさんの頭上に掲げられた薙刀は、切っ先がとても高く眼前に立つと視界に入りきらないのでは無いかと思う程だ。
高く高く掲げられたアダマンタイト製の薙刀は、魔力を注がれ青く半透明になりながら淡い光を発していく。
その姿は、まるで絵画の様に美しく、見ている者を魅了した。
「な、なんなんだよ、その武器は?」
「くくっ! 僕達の武器って特別製なんだよね♪
じゃ、行くよ。覚悟は良いかな?」
「クッ! 全員石柱に隠れろ!」
「「「「「お、おう」」」」」
「無駄だよ♪」
ツドイさんが繰り出した縦横無尽な攻撃は、『フリーマン』の面子が隠れている石柱をバターの様に切り裂いていく。
「うおおおっ! なっ、なんの冗談だ?」
「ば、馬鹿な、唯の石柱じゃないんだぞ、これは」
「ぐおお! あ、危ねえ・・・」
「ぐっ・・・」
気が付けば舞台に設置された石柱は、細切れになり散乱していた。
そして『フリーマン』のリーダーであるジェマの鼻先には、石柱を貫通した薙刀の刃先が付きつけられている。
「参ったしない?」
「参ったする。降参だ!」
「くくっ! 潔いね♪」
「良く言うよ・・・降参しなきゃ死んじまうだろ?」
「一応、手か足を狙うつもりだったんだけど?」
「冗談じゃねえ、手足と泣き別れるじゃねえか?」
「石突の方を使うとかあるだろ?」
「ん・・・まあ、見る方が早いかな」
「かる~く、かる~くやるからね・・・ほっ!」
ツドイさんは薙刀の石突で、ゆっくりと石柱に突きを入れると、見事に貫通し突き刺さってしまった。
「「「「「「はあああああああああ?」」」」」」
「ねっ? こんなのお腹に食らいたく無いでしょ? あっ! 手足ならセーフだったかな・・・」
「「「「「「セーフじゃねえ!」」」」」」
「あはは、君達面白いね♪」
「笑えねえよ・・・」×ジェマ
「ナ、ナタリーさん?」
「・・・良いから進めなさい」
「は、はい」
【勝者『クレセント』です! 地下11階の権利を、たった1人で獲得となりました!
強い、あまりにも強い日本からの挑戦者です】
「なんも言えねえな・・・」×観客
「なんて奴だよ・・・」
「だから言ったじゃない? 彼女達は桁が違うって」
「日本って、怖い国だったんだな・・・」
「最近、日本が騒がしい理由が分かった気がするわ」
「なんて奴だ・・・おい、今からで良いから急いで調べろ」×マシュー
「えっ?」
「日本の『クレセント』についてだ、どんな些細な事でも良い。
今世界中から注目を浴びている事柄に、奴等が絡んでる可能性が高い」
「は、はい、直ちに」
「それにしても、本物の化物かよ・・・
日本には、あんな化物が無名のまま居やがるのか。
シドニーでも最強を誇る俺達より、遥かに強いじゃねえか」
【それでは第4試合クラン『旋律』と『クレセント』の試合を行います】
「ははっ、ははは! ねえリリー降参する?」
「駄目! 『旋律』の面子に関わる」×リリー
「そりゃそうだけど、あれは人外にも程があるわよ?」
「私だけで行く!」
「・・・それしか無いわね、ごめん応援してるわ」
「やるだけやってみる、でも少し楽しみ♪」
「ふふ、リリーらしいわ♪」
【第4試合スタートです!】
次のツドイさんの相手は、クラン『旋律』のリーダーであるリリーさんである。
小柄な女性だけど流石に外人と言うか、スタイル抜群の可愛い女性だ。
武器を持ってなく、籠手を着けてるから格闘系なのだろう。
ちょっと、眠たそうな目をしており、ぽやっとした雰囲気が印象的だ♪
「あれ? 君だけなの?」×ツドイ
「そう、私だけ」×リリー
「ん~ ちょっと、待って欲しいんだけど?」
「・・・別に良い」
「アヤメ、僕に口紅塗ってくれないかな?」
「もう、自分で出来る様になりなさいよ?」×アヤメ
「鏡があったら出来るんだけどね、んっ! ありがと」
「言っとくけど、唇にしちゃ駄目よ?」
「分かったよ♪」
「お待たせ、何時でも良いよ?」
「また、素手なの?」
「そっちこそ?」
「私は格闘武器を付けている」
「なるほど。今回、僕の武器はキスだよ?」
「キス? そっちの人?」
「違うよ? あれ、半分そうなのかな?」
「貞操の危機・・・」
「くくっ! 面白い子だね? さあ、おいで♪」
「ん!」
遂に始まったリリーさんの戦闘はやはり格闘系であり、超近接状態から攻撃を繰り出していく。
「嘘でしょ? リリーの超近接攻撃まで受けずに躱すなんて・・・」
「うわ~ ハイレベルな戦いすぎて、私には何をしてるか分からないよ」
「むぅ! これも躱された」×リリー
「今の技初めて見たかも、えっとこうかな?」×ツドイ
「えっ? くっ!」
バッシィーーーー!!!!!
「流石に自分の技だけあって、よく受けたね?」
「私の技? 一度見ただけなのに・・・ふふ、面白くなってきた♪」
リリーさんが繰り出す多彩な技は、ツドイさんに悉く躱されコピーされていく、その動きは武道の型を見ている様で美しく見応えがある。
「かかった・・・ここだっ!」
ブンッ!!!
「えっ? い、居ない?」
「惜しかったね」
「チュ♪」
リリーさんはコピーされた自分の技に罠を張り、カウンターを取りにいったのだろう、でもそこにツドイさんの姿は無く、リリーさんの攻撃は空を切った。
ツドイさんは、一瞬硬直したリリーさんの背後から頬に優しくキスをしたようだ。
リリーさんの頬には、クッキリとキスマークが付いている。
「キスされちゃった・・・」×リリー
「御馳走様♪」×ツドイ
「参った。私の負け」
「面白かったよ?」
「また、やりたい・・・」
「良いよ」
「ん♪」
【だ、第4試合 勝者『クレセント』です!】
【これで、地下12階と地下14階の権利を獲得しました!】




