第21話 永遠と思っていたソロ脱出だ
んんっ? 何時かしら? 今日は体調が良いみたいですね。
ヨウ様の朝食を作らないと。
えっ? 服を着たまま寝ている・・・
わ、私としたことが。まさか、ワインで酔って寝てしまった?
エリクサーの事は全て夢だったの?
フフ、でも素敵な夢でしたね。
私も疲れが溜まってきましたか。
でも、弱音なんて吐いてられませんね。
とりあえず、ヨウ様に謝罪しなければいけませんね。失態です。
どうも、ヨウ様と居ると私でも気が緩んでしまいますね。不思議なお方です。
変ですね・・・昨日はお風呂にも入れなかったのに妙にサッパリしています・・・
まさか、ヨウ様が私の体まで拭いて下さったのでは?
いえ、まさか、そんなセクハラにもなりかねない事をヨウ様が・・・
ですが、ヨウ様なら純粋な親切心かもしれませんね。
本当に判断の難しい、お方です・・・覚えてない以上、先に謝罪しなければいけませんね。
私は洋服を着替えメイクをしてから、急いで階下へ下りると既にヨウ様が朝食を御作りになられている。
くぅぅ、大失態です。まさか、寝坊までしていたとは・・・
「ヨウ様、申し訳ありませんでした」
「あはは、気にしないで♪ こちらこそ勝手に部屋に運んじゃってごめんね」
「やはり、ヨウ様が運んで下さったのですね。申し訳ありませんでした」
「良いよ、良いよ、それよりリラさんみたいに上手く作れなかったけど食べてみて」
「いえ、そんなヨウ様に作らせてしまったのは私の大失態です。どうぞ、私に気にせずお召し上がり下さい」
「まあ、そう言わずに食べて見て、美味しくないかもしれないけど」
「すみません。それではいただきます」
「ヨウ様、料理の経験があるのですね。大変美味しく出来ております」
「良かった♪ たまに料理はしてたんだけど、適当だから味は分かんなくて」
「いえ、本当に美味しくいただいてます」
「じゃ、食べ終わったら妹さんの家に行こっか」
「・・・・・・・・えっ? い、今、なんとおっしゃいましたか?」
「えっ? だから妹さんの家に行こうと?」
「な、何故、私の妹に・・・・・まさか、昨日の事は現実なのですか?」
「あはは、夢だと思ってたんだ? これ見たら思い出すかな?」
僕は<虚空界>からエリクサーを取り出し、リラさんに見せてみる。
「あ、あああ、本当に・・・本当に現実だったのですね・・・私はあまりにも夢のような話でしたから、本当に夢なのかと・・・」
「安心して下さい。このエリクサーで妹さんの目が治るように祈ろうよ」
「は、はい、うぅぅ・・・あ、ありがとうございます」
リラさんは、泣きながら僕が作った朝食を食べ部屋を後にする。
妹さんは全盲になってしまったので病院で入院しているらしい。
なので、面会時間ではないが病院に行く事にした。
妹さんが入院している病院は歩いて行く事が出来るほど近くにあり直ぐに着いた。
妹さんの部屋へ入ると病院なのに良い匂いがする。
ベッドを見ると包帯が巻かれているため眼は見えないが、リラさんに良く似た顔立ちの綺麗な女性がベッドに座っていた。
「ノノ、元気にしてましたか?」
「お姉ちゃん♪ 来てくれたのね」
「ごめんね、最近ちょっと御無沙汰でしたね」
「良いの、良いの、嬉しいよお姉ちゃん」
「んっ? ええっ? お姉ちゃん、ひょっとして彼氏連れて来たの?」
「フフ、相変わらず鋭いですね、でも違いますよ」
「ええー! 絶対男の人だよー」
「クンクン・・・リラさん僕、臭いかな?」
「フフ、ノノは匂いに敏感ですから大丈夫ですよ」
「わ、若い、絶対若いわ! お姉ちゃん、年下趣味だったの?」
「初めましてノノさん、僕三日月陽って言います。いつもリラさんにはお世話になってます」
「フフ~、こちらこそ初めまして♪ 礼儀正しい人って好きよ」
「あはは、それは良かった」
「あなた冒険者ね? でも、若そうなのに新人には感じないわ」
「武器は短剣かもう少し長い剣ね、かなりダンジョンに潜ってるでしょ? 強者の匂いがするわ」
「リラさん・・・妹さんって超能力者なのかな?」
「フフ、そうかもしれませんね♪」
「でも、強者なのはハズレですね。僕は弱いですから」
「そんな筈ないわ、でも不思議ね・・・お姉ちゃんが冒険者の貴方に完全に気を許してるわ」
「貴方って何者なの?」
「ヨウ様は私の護衛対象ですよ、今日は一緒に来て貰いました」
「フフ~、お姉ちゃんもっと強くならないとね♪ この人の方がずっと強いわ」
「フフ、私もそう思います♪」
「参ったな、その通りになるように頑張らないとね」
「さてリラさん、せっかく良い天気ですから屋上にでも行きませんか?」
「はい、ノノ屋上へ行きましょう」
「フフ~、素直ね、お姉ちゃん」
「ノノにも直ぐ分かりますよ」
「へええ~! 凄いわヨウ君。堅物のお姉ちゃんが完全に墜ちてるわよ」
「ブッ!? ほ、本当ですか?」
「フフ~、間違いないわ」
「ノノ、ヨウ様を揶揄っちゃいけませんよ」
「はいはい♪」
僕達はノノさんの車椅子を押しながらエレベーターで屋上へ来た。
朝なので日差しは柔らかくポカポカして気持ちの良い日だ。
僕は、おもむろにエリクサーを<虚空界>から取り出してリラさんに手渡した。
リラさんは、これ以上ないくらい丁寧なお辞儀を深くしてくれた。
「ノノ、実は目に良い薬を貰ってきたんだけど飲んで見てくれませんか?」
「あはは、お姉ちゃん私の眼はもう完全に潰れちゃったから無理だよ~」
「試して見てくれませんか?」
「はいはい、フフ~♪ ポーションの入れ物なのねクンクン、知らない匂いね・・・まっ、いっかコクコク・・・プハッ! そんなに味は不味くないかな~」
「んっ? おお~! 凄いねこれ? 無い筈の私の眼が熱く感じるわ♪ んっ、治まったみたい。凄い、凄い、まるで眼球があるみたいに感じるわ、どこで手に入れたの? お姉ちゃん」
「ノノ、包帯を取ってみても良いですか?」
「えっ? 駄目だよ! 知ってるでしょ傷だらけなんだもん、ヨウ君には見せれないわよー」
「お願いします、ノノ」
「も~、分かったわよ。ヨウ君が引いても知らないからね」
リラさんはノノさんの目に巻いてある包帯をゆっくりと解くと、傷だらけと言っていたのに、そこにはリラさんに良く似た美しい女性の顔があった。
リラさんは既に溢れる涙が止まらないのかポタポタと涙を流している。
僕も貰い泣きしそうだ。
「んん? お姉ちゃん泣いてるの? どうしたのよ」
「ノノ・・・ノノ、目を開けてみて下さい」
「だ、駄目だよ~! 見せられ・・・
えっ? 嘘・・・嘘よね? 見える! 見えるわ、まさか・・・そんな・・・まさかよね? ひょっとして、さっきのってエリクサーなの?
本当に見つけちゃったの、お姉ちゃん! お姉ちゃんの顔がちゃんと見えるわ、もう二度と見れないと思ってたのに」
「うっ、うぅぅ、お、お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
「ノノ、ノノ・・・」
「うわあああああああああああああああああああああああん! お姉ちゃん、お姉ちゃん」
「うっ、うぅ良かったです。本当に良かったです」
心の底からの慟哭とは、ここまで心に刺さるものなのかと改めて思う。
もう完全に貰い泣きしてしまった。
僕は涙でぐちゃぐちゃになりながら、リラさん達を見て感動していた。
気付いたらリラさんに抱きしめられていた。
身長差のせいかリラさんの大きな胸に顔を埋めてしまっている。
僕は泣きながら照れて幸福感に包まれるという、不思議な体験をすることになった。
「ヨウ様、ありがとうございました。お陰様で私の夢が叶いました」
「えっ? ヨウ君がエリクサーを用意してくれたの? い、いったいどうやって・・・」
「ノノ、この事は誰にも言わないで下さい」
「分かってるわ、幾ら何でも言える訳ないわ」
「では、もう一度包帯を巻かせて下さいね。私は退院手続きをしてきますので」
「フフ~、嬉しい♪ 今までずっと我慢して来たんだもの、もう少しだけ包帯巻くの何て訳ないわ」
リラさんはノノさんの退院手続きを終えた後、ノノさんを乗せた車椅子を押しながらリラさんの家へ向かう事になった。
リラさんの家もマンションなのだが、思ったり小さな部屋で築20年以上経っていそうな所だった。
おそらく、少しでもお金を貯める為に倹約していた事が伺える、リラさんは素晴らしい人だ。
「すみませんヨウ様、こんなに狭い所へ来ていただいて」
「いえ、女性の部屋に入ったのは生まれて初めてなので新鮮で良いですね」
「す、すみません。あまり見ない様にしていただけると助かります」
「フフ~、お姉ちゃんも恥ずかしいもんね」
「そうですか? 流石に綺麗に片付いているなと感心してたんですが」
「お姉ちゃん、顔が真っ赤よ」
「そ、それよりもノノ今後の話なんですが、お金は十分用意します。一人で生きていけますね?」
「リラさん、それについては・・・」
「ヨウ様が言いたい事は大体分かりますが、私はヨウ様の護衛を辞める気はございません」
「お姉ちゃんは、これからどうするの?」
「・・・隠しても仕方がありませんから正直に言いますが、私はこれから生涯を掛けてヨウ様に仕えさせていただきます」
「リラさん、エリクサーの事は気にしなくても良いですよ」
「いえ、御迷惑かもしれませんが是非、是非お願い致します」
リラさんは正座し、土下座のような恰好をしてまで僕にお願いしてくれている。
僕は立っていられず同じ様に正座をして話を続けた。
「リラさん。頭を上げて下さい、リラさんが居れくれるなら僕は非常に嬉しいです。ですが、ノノさんを一人にするのも、どうかと思うのです」
「お姉ちゃん、お姉ちゃん一人に苦労かけて、私には自由を満喫しろって言うの?」
「そうです。ノノは私のために今まで苦労を掛けてしまいました。どうかこれからは自由に生きて下さい」
「無理よ! お姉ちゃんがヨウ君のために生涯を費やすなら、私もヨウ君に生涯を費やすわ。どうせ、あのままなら一生ベッド暮らしだったのよ? 第2の人生はお姉ちゃんとヨウ様に費やしても悔いはないわ」
「これから私はヨウ様が望めば、貴女でも殺しますよ? 貴女はヨウ様が望めば私を殺せますか?」
「そ、そこまでなの? お姉ちゃん」
「ノノ、貴女の為に使ってくださったエリクサーは、おそらく5000億円でも買えるかどうか分からない物なのです。
それ以前に売りに出された事が無いほど超希少品なのです。
それだけの物を貴女に使って下さったのです。
私も必死になってお金を貯めましたが、それだけのお金はどうしても工面出来ませんでした」
「・・・・・・」
「・・・分かったわ、私も覚悟を決めました。これからはヨウ様の為に生き、ヨウ様の為に死にます、私は本気よお姉ちゃん」
「ノノ、私は貴方には自由に生きて欲しいのです」
「無理よ、死んだ方がマシだわ」
「ノノ・・・ヨウ様。申し訳ありませんが、二人で仕えさせていただいても宜しいでしょうか?
もちろん護衛の必要が無くなれば、ヨウ様の近くに住みますので何時でも呼んで下されば駆けつけるように致します。
決して迷惑はお掛けいたしませんのでどうか」
「分かりました。でも1つだけ条件を付けさせて貰っても良いですか?」
「「どんな事でも致します」」
「本当に僕が言った事は、どんな事でも聞いてくれると約束して貰えますか?」
「「お約束します」」
僕はリラさん達とダンジョンに行くと言う事は、僕の極秘事項である<ウィル>スキルの一端を話さなければならない事に懸念していたが、此処まで言ってくれている人達を断る事は出来なかった。
僕はこの先、誰と結婚するとか、しないとか先の事は全然分からないけど僕もリラさん達と生涯一緒に居る事を心に誓った。
誰がどう思うかは分からないが、とりあえず一緒に住む事にしようと思う。
「分かりました、それでは先ず此処を引き払って行きましょうか」
「こ、ここを引き払うのですか?」
「はい、二人には僕の家に住んで貰いますね」
「宜しいのですか? 二人で押しかける事になりますが」
「はい、とりあえず全部持って行って要らない物は処分しましょうか」
「分かりました、しばらくお待ち願えますか?」
「いえ、とりあえず処分する物も全部持って行きますね」
「ぜ、全部ですか? ですが、いくら荷物が少ないといっても」
「大丈夫です、少し下がって貰って良いですか?」
「・・・はい」
僕は<虚空界>に部屋にある家具からベッド、絨毯に至るまで一瞬で収納した。
「こ、これは<虚空庫>ですか?」
「はい、では行きましょうか」
「お姉ちゃん、ヨウ様って?・・・」
「私にも分かりません。分かりませんが、今まで隠していたものを見せてくれたと言う事でしょう」




