第20話 女性の涙は心にしみる
僕は遂に初級ダンジョンのボスを倒しダンジョンから外へ出ると、連絡を入れる筈だったリラさんが待っていてくれた。
「あれっ? リラさん来てくれたんですか」
「はい、お疲れ様でしたヨウ様」
「ありがとう。じゃ、帰りましょうか」
「はい」
リラさんとギルド内を歩いていると、周りの人達からの視線が痛い・・・
そりゃ、僕見たいな者がリラさんみたいな美人を連れていたら変に思うよね。
ま、まさか保護者に見られてるのでは・・・
流石にそれは・・・・・無いとは言い切れないのが悲しいな、よし考えない様にしよう、そうしよう。
僕達は真っすぐ家へ帰り、家で夕食を食べる事にした既にリラさんが用意してくれているようだ。
家に着いて直ぐにアヤメさんから連絡が入り、今日僕の家にナギサさんと共に来てくれるそうだ。
今日のオークションでの報告があるらしい。
そういえば今日オークションだったんだな、忘れてたや高く売れてると嬉しいな~
リラさんにもアヤメさん達が来ることを伝えると、夕食は揃ってから食べる事になった。
待つと言ってもアヤメさん達は直ぐに来てくれたので、夕食を取りながらオークションの結果を聞くことにした。
「うわ~、美味しそうね♪ 頂いちゃって良いのかな?」
「はい、っと言ってもリラさんが用意してくれたのですが」
「フフ、多めに用意しましたので大丈夫です」
「わ~い♪ ありがとうリラさん♪」
「もう、ナギサったら少しは遠慮しなさい」
「え~、こんなに美味しそうなんだから無理よ~」
「あはは、どうぞ遠慮なく」
「いただきま~す」
「美味しい♪ これ、リラさんの手作りなんですよね?」
「はい、いつも外食ですので今日は作って見ました」
「メチャクチャ美味しいです♪ これって、タンシチューですよね?」
「はい、手作りと言ってもビーフシチューの素を使っているだけですから」
「でも、お肉メチャクチャ柔らかいから下ごしらえ大変でしょ」
「凄いな~、料理も出来ちゃうんですね」
「フフ、褒めすぎかと」
「そう言えばリラさんは今日のオークションの事聞きました?」
「はい、落札額以外は全て聞かせて頂きました」
「出品者の事も?」
「はい」
「じゃ、後はナギサだけね」
「えっ? どうしたの?」
「貴方もヨウ君の専任受付嬢なんだから話すけど、今から言う事は極秘事項だからね。もし、誰かに話したらギルドから、とんでもない額の賠償を求められるからね」
「ちょ、ちょっと脅かさないでよ」
「それだけ極秘事項って事よ良い?」
「分かったわよ。守秘義務を守れなかったら受付嬢にも成れないでしょ?」
「そんなレベルの話じゃないから言ってるの」
「うわ~、脅しまくりね」
「じゃ、ヨウ君。先ず落札金額からなんだけど・・・」
「ちょっと楽しみにしてたんですよ、高く売れましたか?」
「・・・<身体強化>スキルが30億円で落札されたわ」
「えええっ? 凄いじゃない♪ ヨウ君が出品者だったの? 大金持ちじゃない」
「うわ~、儲かっちゃいましたね嬉しいです♪」
「・・・・・<虚空庫>スキルが500億円で落札されたわ」
「ひょえ? えっ? <虚空庫>って、それもヨウ君が出品してたの?」
「な、なんか桁がおかしくないですか?」
「・・・・・・・・・・・・最後に<鑑定>スキルは5000億円で落札されたわ」
「ア、アヤメ?」
「言ったでしょ超極秘事項よ。全てヨウ君が今日出品していたスキルオーブよ」
「えええええええええええええええええええええええええっ?
と、とんでもないじゃないヨウ君?
<虚空庫>スキルどころか、また<鑑定>スキル手に入れたの?
し、しかも5000億って」
「あわわ、以前の金額の・・・えっと50倍?」
「そう合計で5530億円よ、そこから手数料が1割引かれるからヨウ君の手取りは4977億円ね、既にヨウ君のギルドカードに入金されてる筈よ」
「スマホで確認してみて」
「はい・・・うわわ! 本当に5000億円入金されてます・・・・・」
「そう、社長がヨウ君に謝っていたからサービスしてくれたんだと思うわ」
「サービスったって、えっと23億円もサービスですか?」
「ええ、これからも最大限の優遇をするからって謝ってたわ、確かに伝えたわよ」
「ど、どうしようアヤメさん?」
「どうしようって言われても、私にも分からないわよー」
「ああ、それと今日のオークションで鑑定人したから、私にも臨時ボーナスが入ったわ。1億円よ?
ヨウ君のお陰で私も億万長者になっちゃったわ、親にどう説明したら良いか・・・」
「うわ~、アヤメもお金持ちになっちゃったのね、でもなんか・・・」
「そうよね、ヨウ君に比べたら、なんか普通のような・・・私の常識が壊れそうよ」
「ひゃ~! しかし、凄い事になっちゃったね」
「そうだ! 驚きすぎて忘れてたけど、アヤメの事ネットで凄い噂になってたわよ」
「えっ? 嘘でしょ?」
「そんな嘘つかないわよ、ほら見て此処「見た目通り全てが謎のベールに包まれた超絶美女鑑定人現る!
優雅で貴賓のある佇まいは正に麗人!!!いったいどこの誰なのか?」って」
「あはは、超絶美女? 麗人? 誰が?」
「だーかーらー、アヤメの事よ」
「うわ~、僕も見たかったですね、ドレスだったんですか?」
「一応人前に出るかもしれないからって、ドレスで顔も隠せるようにベールを被ってたのよ・・・」
「これからは麗人アヤメって呼んであげるね?」
「もう、怒るわよ?」
「僕には普段のアヤメさんも麗人に見えますけど」
「えっ? もう、何言ってるのよ照れるでしょ」
「リラさんが佳人で、ナギサさんは美玉ってとこですか」
「私って美玉だってアヤメ♪」
「フフ、ありがとうございます♪」
「お世辞に決まってるでしょ? ヨウ君はお世辞言うようなタイプじゃないけど・・・」
「それよりも、明日から特に気を付けてねヨウ君。出品者の件はバレてないと思うんだけど、絶対じゃないからねリラさんから離れちゃ駄目よ?」
「はい、分かりました」
食事が終わり、お祝いに夜景を見ながら皆でお酒を飲んだ後、アヤメさんとナギサさんは帰って行った。
送ろうとしたんだけど断られてしまった。
今気付いたけど、なんか今日のリラさんは考え事をしているような気がするな。
今はリラさんと二人だから聞いて見る事にした。
「リラさん、何か考え事ですか?」
「も、申し訳ありません。顔に出ておりましたか、私としたことが・・・」
「僕で良かったら話ぐらい聞きますよ?」
「フフ、ありがとうございますヨウ様。ワインも飲まれますか?」
「良いですね、飲んで見ようかな」
「畏まりました」
リラさんは、綺麗なワイングラスを2つと氷で冷やされたワインボトルを持って来てくれ、僕にワインを注いでくれた。
僕にはワインの味なんて分からないけど、きっと高いワインなんだろうと思う、50階から見る夜景を見ながら美女とワインを飲むなんて贅沢極まりない。
「では乾杯!」
「フフ、乾杯!」
リラさんは、可愛くて小さな口をワインで湿らし話をしてくれる。
「ヨウ様、少し私の話を聞いて頂けますか?」
「はい、喜んで」
「ありがとうございます。以前ヨウ様は何故、私がコンシェルジュをしているのか御尋ねになりましたよね?」
「はい、確か稼ぎが良かったからだと言ってましたね」
「はい、私は出来るだけ多くのお金を貯めて、ある物を買いたいのです。
実は、今日ギルドの部長である斗沢様からダンジョン内でもヨウ様の護衛をするよう依頼をされました。
ですが、私はある理由からダンジョン内での仕事だけは断り続けてきました」
「そうでしたか。無理しなくても良いですよ、僕は大丈夫ですから」
「ありがとうございます。ですが、今日斗沢様に言われました。
私が欲している、ある物とは<鑑定>スキルと同等の価値があると思われます。
当然落札金額も天文学的数字になり、私がいくらコンシェルジュをして稼いだとしても一生買えない様な金額であると」
リラさんは、とても悲しそうな表情になり話を続けていく。
「私には妹がいます。私は以前、妹と一緒に冒険者をしておりました。
・・・油断していたのだと思います。私は魔物から強襲された時、妹が私を助けてくれました。
ですが、その為に妹は両目を失いました。今思い出しても悔やんでも悔やみきれません・・・
妹の目は現在の医学でも、特級回復ポーションでも癒す事が出来ませんでした。
それが理由で私は冒険者を辞め、危険であるダンジョン内の仕事だけは断り続けて参りました。
しかし、私が欲する物はダンジョンでしか手に入らない物なのです。
私はまだ発見されていない、どんな傷でも癒す事が出来る奇跡の霊薬エリクサーのような物が売りに出された時、買えるだけの資金を稼ぐために頑張ってきました」
「なるほど、それでお金が必要だったんですね」
「はい、ですが先ほどの話どうり、現実的には私に払えるような金額ではないでしょう。
本日<鑑定>スキルを落札したような富豪の方や、ヨウ様の様な冒険者にしか買う事は出来ないでしょう。
また、ヨウ様であれば何時かダンジョンでエリクサーを発見なさるかもしれません。
どちらにしても私にはヨウ様に、おすがりするしか方法が無い事に気付きました・・・
図々しいのは承知の上ですが、何時の日かヨウ様がエリクサーを手にする時があれば、1本だけ私にお譲り願いたいのです。
ヨウ様。私の生涯を掛けてお仕えさせていただきます。
私に出来る事なら何でも致します。私の命も差し上げます。
ですから、どうか私の願いを聞き遂げて下さいませんか?」
リラさんは愁いを纏った瞳のまま、決死の覚悟を込めた言葉を絞り出しているように感じた。
「そうでしたか。今まで大変な苦労されてきたのですね・・・よしっ! 分かりました。明日、僕を妹さんの所へ連れて行ってくれますか?」
「えっ? そ、それは、どういう・・・」
僕はエリクサーを所持している事をリラさんに明かす事にした。
僕にとっては最大の極秘事項なんだけど、今までのリラさんの苦労を考えると言わずにはいられなかった。
僕は<虚空界>からエリクサーを取り出し、リラさんの目の前に掲げた。
淡く光を放つそのポーションは、一見で普通のポーションでは無い事が分かる。
「そ、そんな・・・そ、それはまさか・・・まさか?」
「はい、これがどんな怪我や病気も治ると言われている霊薬エリクサーです!」
「ですが、本当にこれが全ての怪我を回復出来るのか分かりません。
僕が調べてきた情報でも効能どころか発見の情報すらありませんでしたから。
でも、妹さんの怪我が治るかどうか、試す価値はありますよね?」
「そ、そんな私が必死になって探し続けていたエリクサーを・・・既にお持ちになられてるなんて・・・で、ですがヨウ様。本当に妹に使って頂いても宜しいのですか?」
「皆には内緒ですよ?」
「高く、非常に高く売れるんですよ?」
「あはは、僕ってメチャクチャお金あるから大丈夫ですよ♪」
「ですが・・・ですが・・・いつか、ヨウ様の大切な人が怪我をしたときに・・・」
「そうですね、僕の大切な人が怪我をしたときに使います。それが、今なんですよ」
「そ、そんな・・・」
「お仕えするようになって数日の私のために?
本来なら秘密にしておきたかった筈なのに・・・
うっ、うぅぅ・・・ヨウ様、ヨウ様、一生感謝致します。どうか、どうか妹を助けて下さい」
リラさんは目にいっぱいの涙を溜め、僕を見つめてくれている。
「うわぁぁああああん。
うわぁぁああああああああああああああん。
ヨウ様、ヨウ様ああああああああ」
今まで完璧な姿勢を貫いていたリラさんが、僕の小さな胸の中で子供のように泣きじゃくっている。
リラさんの、今までの苦労を考えると僕も貰い泣きしてしまった。
僕はリラさんが落ち着くまで、優しく抱き締め続けていると長年の心労による胸のつかえが取れたのか、そのまま僕の胸の中で寝てしまった。
どれぐらいの時間が立っただろうか、僕はリラさんをそっと抱き上げ、リラさんの部屋にあるベッドに寝かせて涙を拭き<クリーン>を掛けて部屋を後にした。