第1話 さあ旅立ちだ
僕の名前は三日月 陽身長163cm体重55kgで、平均より小さな方かな決してダンジョンにいる魔物を相手にするに恵まれた体型では無いが小さな事は気にしない。
顔立ちは母さんに似たのか女顔なので小さい頃は、よく女の子に間違われたりした・・・
今日は待ちに待った高校の卒業式が終わり、僕の大いなる人生の節目を迎えた。
早くこの日が来ないかと思っていたが、いざ卒業式になると感慨深い気持ちになるもんだな。
卒業式も終わり仲の良かった友人達とも、しばらく会えなくなるのが少し寂しくもある。
いつも仲良くしていた4人と高校生活最後の話をしに行った。
雪本夏樹、間島朱莉、豊永謙二、立川啓介の男女4名は皆地元の大学へ行くらしい。
「お~い、三日月~! お前やっぱり大阪に行くのか?」
「うん、明日出発する事に決めたよ」
「そっか~、寂しくなるな・・・だけど本当に大丈夫か?ダンジョンは危険だって聞くぞ」
「あはは、両親にも散々言われたから無理をしないように頑張るよ」
「も~! 本当に気をつけなさいよ? 三日月って小っちゃいんだから」
「ま、まだ身長が伸びるかもしれないだろ?」
「まだ諦めてなかったの? もう18才なんだから、そんなに伸びないわよ」
「まあ、心配するなって小さくたって三日月なら強くなれるさ。でも他にも冒険者になる奴が何人かいるけど皆東京に行くみたいだぞ、何故大阪にしたんだ?」
「う~ん、東京にはオークション本部があって規模が大きいからね~。でも僕は近い方が良いかなと思って」
「あはは、三日月らしいわね♪ それに私達が遊びに行くにしても近い方が良いしね~」
「そうだな、絶対遊びに行くから、それまで死ぬんじゃねーぞ」
「・・・また縁起でもない事を、ワンルームしか借りられないと思うから狭いぞ?」
「そりゃそうよね・・・まあ、その時はどっか民宿でも借りるわよ」
「民宿って田舎者め、大阪ならホテルだよ」
「失礼ね、あんたも田舎者でしょ~ 」
「あはは、まあ観光案内ぐらい出来るようになっとくから楽しみにしてるよ」
「ああ、絶対遊びに行くからな」
「えへへ! そそ、楽しみに待ってなさい♪」
友人達との話しも終え帰ろうとしていると、僕と同じ冒険者志望の上小路 壮士が声をかけてきた。
壮士は僕とは違い、冒険者になっても納得出来る体格の良い奴だ会話の内容は予想できる。
「三日月は大阪のダンジョンギルドに行くんだってな?」
「うん、上小路達は東京らしいね」
「ああ、場所は違うけど冒険者同士だし、なにか情報交換出来るかもしれないからアドレス交換しないか?」
「なるほど、是非お願いするよ」
今まで、あまり話をしたことは無かったが、上小路は中々良い奴かもしれない。
僕は積極的に話をする方ではなかったので、話をしてみれば仲良くなった者も多くいたのかもな~
「ありがとう、三日月も頑張ってな」
「こちらこそ、ありがとうお互い頑張ろう」
上小路は僕を励ましてくれるし好感度抜群だが、上小路の取り巻きの者達は小馬鹿にしたような表情で僕を見ている。
まあ、どうせ小さな僕が冒険者なんて無理だろ? とか思ってるんだろう。ある意味分かりやすい奴等だ。
ああいう奴らが居た方が僕もやる気が出て良いけどね。
高校の門を出て最後に振り返り、校舎をしっかり見てから自転車で家に帰る。
既に大阪へ向かう準備は終えているので忘れ物が無い限り大丈夫な筈だ。
今日は母さんが御馳走を作ってくれるらしい、そう言う事もあり今日は寄り道もせず真っすぐ家に帰った。
家に着くと真っ先に出迎えてくれたのは妹の光だ、ヒカリも母さん似だから僕ともよく似た顔立ちをしている。
我が妹ながら、とても可愛い顔をしているので、うざいぐらい僕にも紹介してくれと男が群がって来る。
よく似た顔立ちをしている僕は、全くモテないと言うのに世の中は理不尽だ。
「お兄ちゃん、お帰り~♪ 今日は焼肉だよ~」
「ただいま~、おっ!やったね♪」
「ヨウ君、おかえりなさい」
「ただいま、母さん」
ちなみに僕の両親は異状なまでに童顔で、どうみても二十代にしか見えない不思議な人達だ。4人で歩いていたら誰も親子とは思わないだろう。
それだけに友人からも良くネタにされた、ヒカリは若い方が良いじゃない? とあっけらかんと言っている。
「あ~! 良い匂い♪お腹ペコペコだよ」
「うふふ、もうすぐパパも帰って来るから、先に着替えときなさい」
「は~い」
僕は母さんに言われた通り部屋着に着替え、明日の準備をもう一度点検してから戻ると父さんも帰ってきた。
「おかえり、父さん」
「ああ、ただいま良い匂いだな」
「パパ、早く早く」
「あはは、分かった分かった。でもヒカリ今日はヨウのお祝いだぞ?」
「もっちろん、分かってるわ。少しでも長くお祝いしないとでしょ?」
「ヒカリは早く食べたいだけだろ?」
「えへへ! だって今日は、いつもより凄く美味しそうなんだもん」
「うふふ、今日は奮発したわよ。さー食べましょ」
ヒカリが言う通り今日はA5ランクの高級牛肉が並んでおり、丁寧に焼いてから口へ含むと驚く程柔らかくて美味しかった。
手間の掛かるテールスープや甘味のある野菜が、どれもこれも絶品で僕は久々に動けなくなるほど食べてしまった。
「ご馳走様、僕もう動けないや」
「うふふ、多めに買って来たお肉が全部無くなっちゃったわ」
「ふう~、俺もちょっと食べすぎたようだ、しかしヨウが居なくなると寂しくなるな」
「も~! パパそれを言ったら、よけい寂しくなるでしょー」
「でも、そうね。ヨウ君、何度も言うけど気を付けるのよ?」
「うん、決して無理をせずにコツコツと頑張っていくよ。だから心配しないでね」
「ふむ、ではヨウの新たなる門出を祝って、私達からプレゼントだ」
「えっ?」
僕は戸惑いながらも父さんから渡された小包を受け取ると、3人はニコニコとしていた。
「ありがとう、父さん母さん・・・ひょっとしてヒカリもか?」
「もちろんよ、なけなしのお小遣い叩いたんだから感謝してよね」
「ありがとうヒカリ、今開けても良いかな?」
「ああ、良いとも」
僕は小包の包装を開けると、サバイバルナイフがショルダーバッグと一緒に入っていた。
それを見た瞬間ジワっと涙が出てきた。そのサバイバルナイフは僕がいつも雑誌で見ていた物だったからだ。
凄く高価でとても僕には買えないが、いつか欲しいと思っていた。
冒険者装備を作っている所でも有名なウーツコーポレーション製のダンジョン素材から作られた物で、刃渡りだけで20cmほどあるにも関わらず、信じられないほど軽かった。
洗練されたデザインで手に持つとニヤニヤしてしまうほど恰好良い!
決して裕福とは言えない家庭なのに、僕のためにこんなに高価な物を・・・
「あ、ありがとう・・・僕最高に嬉しいよ」
「にひひ! お兄ちゃん、いつもニヤニヤしながら雑誌みてたもんね~」
「ママはこんな危険な物をと思ったけど、冒険者にナイフは欠かせない物らしいわね? どうか護身のために使ってちょうだい」
「お金の事は心配しなくて良いぞ。これは私達からの細やかな餞別だ頑張って来い」
「ありがとう、父さん母さんヒカリ・・・めちゃくちゃ嬉しい」
僕は感動のあまり涙が溢れ出て止まらなかったが、気分は最高だった。
大阪での新居が決まったら連絡する事、困った事が起こったら直ぐに連絡する事を約束した。
今日は早めに寝る事にしベッドに入ったが、明日の事を考えると寝つき難い夜を過ごした。
翌朝、いよいよ大阪へ向けて出発する時間になり、家の前で家族に見送って貰う事にした。
「じゃ、行ってくるね」
「ああ、頑張れよ」
「十分気を付けるのよ」
「お、お兄ちゃん・・・」
「ヒカリ泣くなよ? また帰って来るし、ヒカリも大阪へ遊びに来いよ。兄ちゃんが案内してやるからな」
「ヒック! うん、絶対だよ? 約束だからね・・・お兄ちゃん怪我しないでね」
「ああ、分かった命を大事に! だな。じゃ、また連絡するね。餞別ありがとう大事に使うよ」
僕は家族に手をブンブン振り歩いて駅へ向かった、さあこれからダンジョン生活の始まりだ!