第18話 準備万端ボス戦行っちゃおう
「お待たせしました、アヤメさん」
「良いのよ。じゃ、とりあえず朝食にしよっか」
「はい」
僕とアヤメさんは喫茶店へ入り、お互いモーニングセットを注文した。
朝をゆったりと過ごすのは贅沢な気分になる。
それからアヤメさんの案内の下、武器屋さんに訪れる。
武器屋さんと言っても近代的な店内で、壁には無数の武器が飾られている。
うわ~! 何時までも見ていられそうだ。
「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」
「いえ、ちょっとナイフを研いで貰いたいのですが」
「分かりました拝見させて頂きますね・・・なるほど、良いナイフですが刃こぼれが酷いですね」
「少しミスリルの比率を増やし強度を上げる事も出来ますが、如何ですか?」
「ええ、良いんじゃないかしら」
「分かりました。それでお願いします」
「畏まりました。ミスリルは高価ですので大体50万円ほど掛かってしまいますが、宜しいですか?」
「うは~、結構高いですね? でも、お願いします」
「ありがとうございます」
「明日の朝にはお渡し出来るかと思いますので」
「・・・やはり直ぐって訳にはいかないですよね? では、同じようなナイフでお勧めを教えて頂けますか?」
「分かりました。同じようなナイフですと魔物素材ならオークキングの牙で作られたナイフですね。
金属素材で選びますと、黒鉄かダマスカス鋼で作られたナイフになります」
「アヤメさんは、どう思います?」
「そうね、魔物素材は金属より良いんだけど相性があるのよね、ヨウ君ならダマスカス鋼のナイフが良いんじゃないかしら」
「なるほど、じゃそうします」
「後は左腕用のナックルってありますか?」
「あれっ? ヨウ君って格闘もやるの?」
「いえ、僕ナイフだけですからスケルトンとか厳しい時があるんですよ、そんな時蹴りとかで対応してたんでナックルもあったら便利かと」
「なるほど、お客さんならナイフに合わせてミスリルナックルでどうですか?とても軽いので使い易いと思いますよ?」
「ふむふむ、良いんじゃないかしら」
「じゃ、それにします」
「毎度ありがとうございます」
「ではダマスカスナイフとミスリルナックル。それに、ミスリルナイフの研ぎ直しを合わせて135万円になります」
「はい」
「お客さん初心者っぽいのに稼いでますね~、彼女さんも綺麗な方だし羨ましいです」
「えっ? えとあの・・・」
「も~、客を揶揄わないの。それより、これだけ買ったんだから130万円で良いでしょ?」
「ひゃ~、ますますシッカリした良い彼女さんだ、参りました130万円に勉強しときます」
「うわ~♪ ありがとう」
「あはは、お客さん常連さんになりそうだから、サービスですよ」
アヤメさんのお陰で5万円も得しちゃった。
新しい武器を試させて貰ってから購入し店を後にする。
「アヤメさんのお陰で得しちゃいました。ありがとうございます」
「んふふ、とりあえず高い買物をするときは値切った方が良いわよ」
「分かりました覚えておきます」
「じゃ、私はオークションの段取りがあるから着替えてからギルドへ行くわね」
「はい、僕もダンジョンへ行ってきます」
「大丈夫だとは思うけど、気を付けてね」
「はい、行ってきます」
僕はアヤメさんに手をブンブンと振りながら、別れの挨拶をしてギルドへ向かった。
ギルドへ向かうと何時もより遅い時間帯なので人が多く、中には上級ダンジョンへ潜ってそうな恰好良い装備の方もいた。
僕は珍しさのあまり、ジロジロ見ていると声を掛けられてしまった。
「んっ? どうしたんだ少年?」
「あっ! すみません。恰好良い装備だなと思って見てしまいました」
「あはは、そいつあー嬉しいな♪ こいつは新調したばかりでな、俺も気に入ってるんだ」
「うわ~、みんな~、トールが新人冒険者を虐めてる~! テンプレだよー」
「ブッ!? このバカ、人が多い所で何てこと言いやがる」
「さあ、新人君テンプレどおりトールをぶっとばしちゃえ!」
「だまれ、このバカ」
「あはは、面白い女性ですね♪」
「全く・・・同じパーティなんだが、バカで困るんだ」
「む~、バカバカって煩いぞトールのくせに」
「もう、ちょっと目を離すと直ぐに騒ぐんだから」
「トールがテンプレしてたんだよー」
「だから虐めてないっちゅうに」
「あらっ? 可愛い新人さんね、ダンジョンは危ないから気をつけてね」
「はい、ありがとうございます」
「うふふ、本当に素直で可愛いわね♪」
「じゃーな、少年頑張れよ」
「はい、またどこかで」
僕は笑顔で手をブンブン振りながら、その場を後にした。
新しい武器も手に入れたので、慣れるためにも今日は地下1階から地下10階を目指す事にした。
<気配感知>のお陰で各階層のSPオーブやスキルオーブを効率的に取得していく。
<身体強化>からの<敏捷強化><腕力強化>を駆使し、適宜に魔法を併用する事で効率が上がっていく。
スケルトンでは、新調したミスリルナックルや<ウォーターボール>が大活躍した。
機敏な動きや魔物に合わせた戦闘を駆使し、どんどん最適化されていくのが分かる。
<身体強化>の影響か疲れにくいのも手伝い、地下10階に辿り着いた。
今日はボス部屋の扉も見る事が出来たので、確実に倒せる自信がついたら挑戦してみようと思う。
そろそろ夕方になるので今日はダンジョンを出て、リラさんに連絡を入れてから真っすぐ家へ帰る。
マンションに着くとリラさんが待っていてくれたので、一緒に部屋に入る。
今日の夕食はリラさんが用意してくれた。
「リラさん、本当に泊まりでも良いんですか?」
「はい、これも仕事ですので気にしなくても結構ですよ」
「ありがとうございます。じゃ、2階の部屋は好きな所を使ってください」
「はい、ではヨウ様の隣の部屋でお願いします。それと、明日からはダンジョン内以外は同行させて頂きますので、ご了承下さい」
「はい、分かりました」
「リラさんもギルドカード持ってるんですか?」
「はい、以前は冒険者もやっておりましたので」
「うはー、何でもやってますね」
「僕に護衛を付ける理由も聞いてたりしますか?」
「いえ、護衛を依頼されましたので、お引き受けしました」
「気になりますか?」
「いえ、余計な詮索になりますので」
「本当にプロって感じですね?」
「フフ、ヨウ様は、ひょっとしたら私より強いかもしれませんが」
「何故そう思うんですか?」
「プロの勘でしょうか?」
「あはは、でも買い被りですよ♪」
「そうでしょうか?」
「はい、僕は全然弱いですから訓練中ですし、頑張って強く成らないといけないんです」
「フフ、ではそう言う事にしておきます」
「リラさんは何故コンシェルジュの職を選んだんですか?」
「一番の理由は稼ぎが良かったからでしょうか」
「何か目標がありそうですね」
「フフ、それ以上はプライバシーですよ?」
「そうですね、すみませんでした」
「ヨウ様は、何故冒険者になったのですか?」
「僕は、あの隕石が落ちた時に、そういう運命になったんだと思います」
「それは、またミステリアスな返答ですね?」
「それ以上はプライバシーなので」
「それは申し訳ありません」
「あはは、冗談です♪」
「フフ、でもヨウ様は私が出会った人物の中では、最も不思議な方です」
「唯の田舎者ですよ?」
「フフ、ではそう言う事に」
その日、端的な会話だったけど初めてリラさんと長く会話し、楽しい時間を過ごした。
適当な時間になり寝る事になったけど、これからの生活も楽しみになる。
翌朝、何時もの時間に目が覚めた。
研ぎに出しているナイフを取りに行かなければいけないので、時間潰しを兼ねてリラさんと朝食に出掛ける事にした。
最近贅沢になっちゃったのか、朝のモーニングセットが美味しくてやめられなくなりそうだ。
家で食べている物の方がよっぽど高価なんだけどね・・・
モーニングセットも食べ終わり武器屋さんも開く時間になったのでリラさんとナイフを取りに行く。
「すみません、研ぎに出しているナイフは出来ているでしょうか?」
「お客さん、いらっしゃい出来てますよ」
「・・・しかし、お客さんモテますね~? 今日の彼女もメチャクチャ美人じゃないですか羨ましいですよ?」
「えへへ! 確かに幸せです」
「あはは、はいどうぞ」
「ありがとうございます。メチャクチャ綺麗に研いでくれたんですね、黄緑に銀の輝きが出てますね」
「そりゃー、うちは腕が自慢ですからね」
「凄く気に入りました。また来ますね」
「そりゃどうも御贔屓に」
僕は昨日買ったダマスカスナイフを予備の武器にして、研ぎ直して貰ったミスリルナイフを装備した。
そしてダンジョンの前でリラさんと別れる事になった。
「じゃリラさん行ってきますね、出たら連絡します」
「はい、お気を付けて下さい」
僕はリラさんに手をブンブン振ってダンジョンへ向かう。
今日も地下1階からアタックだ!
僕はこの日からオークションが始まる8日間を同じように毎日繰り返した。
今日はいよいよオークションの開催日になった。
僕は行かない方が良いと言われたのでダンジョンへ来ている。
この8日間で新しい魔法を覚えステータスも格段に上げる事が出来た。
なので、いよいよボス戦に挑もうと思う。
ボス戦の準備は万端だ! オークキングらしいけど弱点はオークと変わらず首らしい。
各種ポーション類や予備の武器、そしてナイフが傷まない様に編み出した魔法剣を習得した。
メインで使ってるのは、水属性の魔法剣にしている。
魔法伝導率の良いミスリルナイフに、水属性を付与して長さや強度を上げる事が出来るようになった。
ボス部屋の前に立ち、深呼吸をしてから扉を開ける。
うわ~、おっきいな・・・見た所普通のオークより二回り程大きな巨体だった。
右手には大きな斧を持っている。
僕は覚悟を決めて複数のスキルを発動し先制攻撃に入る。
<追加防御><追加攻撃><身体強化><敏捷強化><腕力強化><気配遮断>更に短剣に水属性を纏わせた。よし、行くぞ!
僕は<敏捷強化>を最大限に生かし、オークキングの死角から全力で首、目掛けて斬りつけた。
反撃を恐れ直ぐに離脱し、どれぐらいのダメージを与えられたか確認すると。
オークキングの首がスライドし地面へ落ちて転がっている・・・
あれっ?
ひょっとして・・・
勝っちゃったか・・・
今までに無いほど全力で斬りつけた僕の斬撃は、オークキングの首を切断し、勢い余って巨大な斧も両断していた。
・・・ちょっと、やりすぎたかも・・・でも、勝てないより全然良いよね。
僕はオークキングに勝てた嬉しさは薄かったけど、ドロップ品に加え宝箱が出ていたのでテンションが上がる。
ドロップ品を確認するとスキルオーブまで落ちている。
スキルオーブを持っている個体は強く発光して見えるんだけどボスは特別なのかな。
とりあえず、ワクワクしながら拾い上げてみると<威圧>のスキルオーブだった。
お~ ボスらしいスキルだ!
後は牙が2本と宝箱だ!
初級ダンジョンに罠はないらしいので宝箱を開けてみると、ポーションの様な物が1本入っており見たこともない色で薄く光っている。
宝箱から取り出してみると何のポーションか理解出来た。
うわぁ~、これエリクサーだ・・・凄いな♪ でも、こんなに簡単に出る訳ないだろうから<ウィル>スキルの効果って宝箱まで必ずドロップするのかな。
また、とんでもないもの手に入れちゃったなと思いつつダンジョンを後にする。