第140話 目には目をってやつですか
「あの・・・貴方に任すとは、どういった意味なのでしょう?」
「そうですね見て貰った方が早いんですけど、その指に巻いている絆創膏はどうしたんですか?」
「これですか? これは恥ずかしいのですが料理の時に少し包丁で切ってしまって・・・」
「絆創膏を取って、傷を見せて貰っても良いですか?」
「ええ、別に構いませんけど・・・大した怪我ではありませんよ?」
女性は意味も分からないだろうにも関わらず、親切にも僕の言う通り指に巻いた絆創膏を剥がして傷を見せてくれた。
普通なら断られる様な事なのに、これだけでもこの女性が優しい方なのだと伝わって来る。
「なるほど、結構痛そうですね~ 実は僕<回復魔法>が使えるんですよ、まあ見てて下さいね」
女性は少し驚いていたが、自分の怪我をした指が淡い光に包まれて次第に治っている様をみて更に驚いているようだった。
「信じられませんわ・・・本当に治ったようですね」
「今僕が使ったのは<回復魔法>なんですけど、<快癒魔法>って言って病気を治す魔法も使えるんですよ」
「まさか、私の息子を治す事が出来るとおっしゃるの?」
「確実とは言いませんけど、試してみられますか?」
「もちろんです、もし、もしも、息子の病気が治せるのでしたら株なんて喜んで差し上げますわ」
「分かりました。でも、僕は普段この魔法について秘密にしているんですよ、申し訳ないのですが、誰も見ていな所で息子さんと会わせて貰えますか?」
「分かりました。配慮致しますので、是非宜しくお願いします」
息子さんは現在大きな病院で入院中らしく、僕達は女性が運転する車で病院まで移動することになった。
病院に着くと女性は僕達と看護婦さんが、会わない様に配慮してくれてから、息子さんが入院している個室へ案内された。
個室のベッドには中学生ぐらいだろうか、痩せ細った少年が寝ており、酸素マスクを付けていた。
素人が一見しただけでも、具合の悪さが伺いしれる。
僕は早速<看破>スキルを使い状態を確認するも、やはり具合はかなり悪い様だ。
しかし、<快癒魔法>スクロールを9つも重ね掛けした、僕には治す事が出来そうだった。
「思ったより状態は悪いですが、何とか治せそうですね」
「ほ、本当ですか? 私に出来る事なら何でも致します。どうか、どうか、宜しくお願いします」
「分かりました。全力で治しちゃいますね」
女性からの悲痛なまでのお願いを感じながら、僕は<快癒魔法>を唱えた。
「<ハイエストメディカル>!!!」
僕は初めて唱える高位の<快癒魔法>に全神経を集中し、少年が魔法の光に包まれ少しずつ消える頃、もう一度<看破>スキルで確認してみると、どうやら完全に治療出来たようだ。
唯、やはり治療にエネルギーを使ったのか、空腹状態になっているようだった。
「あの、どうでしょうか?」
「大丈夫ですよ、完全に治療出来た見たいです」
「ありがとう、ありがとうございます」
女性は涙を流しながら息子さんの手を握り締めていると、どうやら少年が目を覚ましたようだ。
「お母さん? どうして泣いてるの?」
「どう? 痛いとこない? 苦しくない?」
「あはは、どうしたのさ母さん? んっ! そう言えば凄く気分が良いや・・・今日は絶好調だよ♪」
「あっ!」
「ど、どうしたの? どこか痛いの?」
「ううん、どこも痛くないけど僕、お腹空いちゃった。なんでだろう? 空腹感なんて久しぶりだよ?」
「あはは、治療にかなりエネルギーを使ったんだと思います。何か消化の良い物を食べさせて上げて下さい」
「ああ、良かった、本当に良かった。ちょっと待っててね、母さん直ぐに何か買って来るわ」
「あっ! 良かったら、これを飲ませて上げて下さい。スタミナポーションって言うんですよ」
「ありがとうございます」
僕達は、また明日にでも連絡する事を告げ、今日は引き上げる事にした。
女性からは何度も何度も頭を下げてお礼を言って貰い、申し訳ない気持ちになりながら病院を後にした。
「ねーねー、お母さん、あの人達は?」
「あの方達は冒険者よ。でも、お願い。今日あの方達に会った事は誰にも言わないでね」
「えっ? うん、良いけど?」
「約束よ? もし約束を破ったら、母さん死んでお詫びしなくちゃいけなくなるわ」
「そんなになの? 分かったよお母さん。僕、絶対誰にも言わないからね」
「ウフフ、お願いね♪」
◇ ◇ ◇
この日から僕達は結構忙しくなり、株の買い占めや色々な根回しをすることになった。
まあ、それでも午前中はダンジョンに行ってたんだけどね♪
そして、初めて株式会社スタッツの外部礼三に会ってから3日目の朝、僕達は再び株式会社スタッツに訪れていた。
もちろん、あの腹の立つ外部礼三に会うために。
以前と同じ様に受付嬢の案内の下、上階にある社長室に入ると外部は機嫌が良さそうな笑顔でソファーに座っていた。
「フフフ、もう会う事も無いと思っていたが、懲りずにまた来たのか。
お前達が此処の株を買っているのは知っているぞ、クククッ! アーハハハ、ご苦労な事だな♪
どうだ、過半数の株は集まったか? カカカ! おっと少ないとは言え我社の株主様に失礼だったかな」
「何か楽しそうですね、元々バカ丸出しだったけど、遂に頭が可笑しくなりましたか?」
「・・・なんだと?」
「一応バレない様に株を買ってましたが、ここまで何も知らないとは哀れですね」
「フフ、しょせん、羽虫のような存在ですから仕方ないかと♪」
「えらく強気じゃないか? だが此処の株を過半数集める事は不可能だ、それとも俺の弱みでも握ったか?」
「フフ、本当に哀れな人ですね? 過半数どころか、私達は68%の株を有していると言うのに」
「馬鹿な、冗談じゃない。そんな事がある訳がない」
「フフ、此処の筆頭株主である田添様の株を見れば、納得していただけますか?」
「そ、そんな馬鹿な、あいつが株を売る訳がない」
「別に信じなくても良いですよ? どうせ、貴方は今日の昼には社長でも無くなるのですから」
「なんだと?」
「フフ、どうやら貴方は少々傲慢だったようですね、上層部との話し合いは簡単に決まりましたよ?」
「そんな馬鹿な! 私が居なくて経営が出来る訳がない。私個人と懇意にしている会社がどれだけあると思うのだ?」
「あ~ そう言うと思いまして、取引先の会社20社ぐらいだったかな? 全て買い占めましたよ」
「フフ、本当に何も知らないのですね? 逆ですよ? 貴方がこのまま取締役をすれば、この会社は簡単に潰れます。大口の取引先は全て私達なのですから♪」
ようやく、僕達の言う事が真実だと分かって来たのか、自信に満ち溢れた表情からドンドンと顔色が悪くなっていくのが面白かった♪
「あ、ありえん・・・それが本当だとしたら、一体どれぐらいの金が動いたと言うのだ」
「えっと、1~2000億円ぐらいでしたっけ? はっきり覚えてないですね」
「に、2000億だと?」
「フフフ、どうしたのですか? 顔色が悪いですよ? ようやく危機感が湧いて来ましたか?」
「ウーツコーポレーションの乗っ取りでも、かなり無理をしてたみたいですね。私財まで投入してたみたいじゃないですか。
それも全て徒労に終わりましたけど、あの時素直に僕達に売ってくれればこんな事に成らなかったのに残念ですね」
「フフ、誰に喧嘩を売っているかも分からずに、傲慢な態度をとっているのは滑稽でしたね♪」
「では、もう会う事も無いと思いますが、借金返済頑張って下さいね」
「ま、待ってくれ、少し話しを・・・」
「「待ちません♪」」
この話しの後に執り行われた株主総会では、キッチリと取締役を解任され昼過ぎには退職したようだ。
まさに、人生どうなるか分からないって事だけど、自業自得だから仕方ないよね。
本当ならもっともっと、自殺するぐらい追い込んでやろうと思っていたんだけど、筆頭株主だった田添さんの元旦那が外部だったんだよね。
あの入院していた少年も外部の息子って事になる。
エリクサーを買うために必死になって会社を大きくしようとしていたのかもしれないけど、性格が悪すぎるよね。
偉くなると我が出るって言うけど、優位に立ったぐらいで人を見下すような奴は、何時かこうなるって事だね。
まっ! そう言う事もあり、外部には腹も立ったけど、これぐらいで許してやることにした。
そして、めでたくウーツコーポレーションも手に入れた事だし、サラリーマンさんの勧誘に行こうと思う。
とりあえず、ダンジョンに行きたいから夕方ぐらいになるんだけどね♪
そして、楽しいダンジョン探索を終えて、ビシッとしたスーツに着替えリラさんとノノさんの3人でウーツコーポレーションに向かう事にした。
ちなみに車の運転は、ツドイさんがしてくれている。
もちろん、ウーツコーポレーションの株は70%程所有しており、僕が文句なしの筆頭株主になっている。
事前に連絡を入れていたせいか、ウーツコーポレーションに着くと重役と思われる人達が大勢出迎えてくれていた。
重役さん達は僕の顔も分からないと思うので、不本意ながら僕の特徴を伝えておいた。
双子の秘書を連れて行くと言ってあるので、間違われる事は無いだろう。
僕が車から下りると、重役さん達は一様に驚いていたが、舐められない様にメイドさん達の時に練習した、プチ威圧をして威厳のようなものを出しておいた。
「ようこそ、私が社長の内方三郎です」
「出迎えありがとうございます。僕は三日月陽です」
「電話ではお聞きしておりましたが、本当にお若いですな」
「あはは、童顔で困ってます」
「ハハハ、いやいや私のような爺さんには羨ましいぐらいですよ、さあ此方へどうぞ」
「ありがとうございます」
僕は重役さん達が並んでいる間を歩いていると、後ろの方にサラリーマンさんとOLさんが居たので手を振っておいた、リラさんとノノさんは頭を下げて挨拶をしている。
「あ、あいつだよな?」
「はい、間違いないです~ やっぱり凄く可愛い顔してますね、私達に笑顔で手を振ってくれるだなんて反則ですよぉ~♪」
「だよな・・・あのゾクゾクするような双子の女性は、間違えようがねえが、なんであいつが此処に居るんだよ?」
「あっ! そう言えばそうですね・・・この会社を乗っ取ったのが、あの少年だったんでしょうか?」
「・・・なんか嫌な予感がするよな」
「あはは、先輩気にしすぎですよ♪」
「お前は楽観的で良いよな、頭がいてえよ」
僕は社長さんの案内の下、会議室のような所へ行き席に着いた。
今日は挨拶だけしようと思っていたんだけど、重役さん達は新たな筆頭株主である僕が、何を言いだすのか心配なのか緊張しているようだ。
せっかくなので、僕の考えも少し説明しておくことにした。
「皆さん、お集まりいただき、ありがとうございます。
まず、誤解のないように言っておきますが、僕がこの会社を乗っ取った訳ではありません。
この会社を乗っ取りに掛けていたのは株式会社スタッツなんですが、その会社を僕が乗っ取ったので必然的にこうなりました。
言い方が悪いですけど、まあそう言う事です」
「やはり、そうでしたか。私共もスタッツを相手に奔走しておりましたので、理解が追い付きませんでした」
「あはは、それはすみませんでした。そう言う訳なので基本的には内方社長に引き続きウーツコーポレーションを、お願いしたいと考えています」
僕がそう言うと内方社長は他の重役からも慕われているのか、皆一斉に安堵の表情になっていく。
「ありがとうございます。一時はどうなる事かと不安になっておりましたが、ようやく今日から安眠出来そうです♪」
「あっ! 経営は少し変わっちゃうかな、この会社が本部って事になりますからね」
「えっ? 仰る意味が良く分からないのですが?」
「えっと、実は株式会社スタッツだけじゃなく関連会社を後、20社程同時に入手したんですけど、その全てをウーツコーポレーションの支店にしようと思っています。
そう言う訳で、内方社長はウーツコーポレーションの本部社長って事になりますね」
「な、なんですと?」
僕の追加発言に重役さん達はザワザワとし出したが、僕は会社経営なんてやってる暇はないので、全部丸投げするのは決定事項だ。
「フフ、これが、株式会社スタッツと関連会社20社の資料です。どうぞ、御確認下さい」
リラさんが重役さん達に資料を配ってくれ、しばらく立つと今度は皆、動揺した表情になっていた。
「み、三日月様、どれも一流の会社のようですが、ウーツコーポレーションよりも規模が大きいのでは?」
「そうなんですか、リラさん?」
「はい、確かにどの会社もウーツコーポレーションより規模は大きいですが、全て傘下になるのですから問題ありませんね」
「なるほど、ちょっと会社が大きくなっちゃって大変になるかもしれませんが、内方社長宜しくお願いします」
「ちょ、ちょっと待って下さい。少しではないでしょう? 一体どれぐらいの金額が掛かってるのですか? 幾ら何でも私では荷が勝ちすぎるかと思うのですが」
「あはは、大丈夫ですよ♪ 後ちょっとお願いがあるのですが、この会社の館元さんと新見さんを呼んで貰っても良いでしょうか?」
「た、館元ですか、分かりました。しばらくお待ちください」
僕は当初の目的だった、サラリーマンさんとOLさんを呼んで貰う事にした。
一度ヘッドハンティングして断られているので、今度は断れない様に盤石の布陣を用意してある。
しばらく待っていると、二人が会議室に来てくれて、凄く緊張した表情をしている。
それを見ていると少し楽しいので、笑顔になっちゃいそうなのを堪えるのが大変だった。
「館元です、入ります」
「に、新見です、入らせていただきます」
『ひゃああああ、何なのよこれ。社長から重役勢揃いじゃない?』×小声
『静かにしろって、俺の嫌な予感が当たったって事だろ?』×小声
『でも、先輩。私達って場違い感が半端ないですよぉ~』×小声
『そんな事言われなくても分かってる。あ~ タバコが吸いてえ』×小声
「この二人で間違いありませんか?」
「はい、間違いありません」
「では、相談させていただきたいのですが、ここからは極秘と言う事で良いでしょうか?」
「もちろんです、ここに居る者は、私の信用のおける者ばかりなので御安心下さい」
「分かりました。実は僕達は冒険者なのですがダンジョンで入手した素材から作ったポーションを、この二人にモニターして貰ったんですよ。
最近、新見さんが、綺麗になったとは思いませんか?」
ガタッ!
「こ、これが、そのポーションの効果だと言うのですか?」
「はい、『ビューティポーション』って言うんですけどね、1本飲むと約1週間効果が持続します。
後、もう一つはスタミナポーションって言うんですけど、1本飲むと約8時間疲れにくくなります。
これは館元さんにモニターして貰いました」
「館元君、感想を聞かせてくれないか?」
「あ~ はい、とんでもないポーションでした。俺でもフルマラソンに出れるぐらいですかね」
「な、なんと・・・その2つのポーションを製造と販売をさせて貰えるのでしょうか?」
「はい、っと言っても、製造は極秘にしたいので、館元さんを支店の社長及び僕達の専属にして貰えないでしょうか?
新見さんは館元さんの秘書として、力を貸して貰いたいですね」
席から立ち上がった社長及び重役達の首が一斉にグリンと動き、館元さん達に注目が集まる。
「グッ・・・」
『せ、先輩、どうするんですか?』×小声
『おいおいおい、嘘だろ? 何てこと言いやがるんだよ・・・俺は普通のサラリーマンだぞ? あの野郎、まさか俺を堕とす為に会社まるごと買いやがったのかよ』×小声
「フフ、簡単には諦めないと、お伝え致しましたよね?」
『なっ! 俺の心が読めるのかよ? なんて奴らだよ』×小声
『先輩、聞こえてるんじゃないですか?』×小声
『こんな小さな声が、聞こえる訳ねーだろうが?』×小声
「館元君?」
「は、はい、なんでしょうか社長?」
ガタッ! ガタタタタタタタタタタタタタッ!
「この件、是非引き受けてくれないだろうか? どうか、お願いしたい」
この場に居る全員がサラリーマンさんに、一斉に丁寧なお辞儀をして頼み込んでいる。
「・・・分かりました。どこまで出来るか分かりませんが、頑張らせて貰います」
「そうか、いやそう言ってくれて助かるよ、では新見君?」
「は、はいぃぃぃ」
「館元君の秘書として頑張って貰いたい。どうかお願いする」
今度はOLさんに向けて、この場に居る全員のクビがグリンと動き、一斉に丁寧なお辞儀を披露してくれた。
「あわわ! わ、分かりました。頑張りましゅ」




