第130話 今日は色々と治療しちゃいますよ
「フ~ 嵐が去った後みたいな感覚ですね」
「そうね、まだ恐怖で足が震えてるわ・・・」
「リーダーもですか? 私は背中に掻いた汗が止まりません」
「・・・ヤバいよ、あの人達はヤバいって・・・もう拘わんない方が良いんじゃないですか?」
「そうですね、三日月さんを怒らせたら彼女達に殺されそうですね」
「あの人達は本当に人間なのでしょうか? あの美しさや強さは常軌を逸してます。それに、リラさんの言葉は冗談には聞こえませんでした。私は彼女達が恐ろしいです」
「でも、私の怪我を驚くような<回復魔法>で治してくれました」
「私もです」
「私も・・・」
「リーダー、私も見て下さい」
「リ、リン、その目は?」
「皆さんにもバレていたかもしれませんが、私の右目は殆ど見えていませんでした。エリクサーでもなければ治らないと思っていたのですが」
「ま、まさかリンも、あの少年に治して貰ったのですか?」
「私が髪で眼を隠していたので気を使ってくれたのでしょう、皆からは見えない様に僅か数秒で治して下さいました。
ステータスの限界値は99と言われていますが、三日月さん達は明らかにそんなレベルでは無いと思います。
そして、エリクサーに匹敵するような<回復魔法>まで使えるなんて、彼は神か悪魔としか思えません」
「私達次第で、彼は神にも悪魔にもなると言う事ですね・・・」
「ですが、男性嫌いの私にも彼はとても心地の良い男性でした。
まして、リンや仲間達の怪我を治してくれたのですから。
この恩は返さないといけませんね」
「はい、リーダー。ありがとうございます」
「今日の事は口外を禁止します!
この禁を破った者はクランメンバーの剥奪及び最大の罰金に加え、彼に報告しなければなりません。
つまり、命の保証は出来ませんし、クランの後ろ盾は無いと思ってください」
「はい」×全員
◇ ◇ ◇
僕達は久しぶりに、コトエさん達とダンジョンへ行き、皆の成長ぶりを見て感心している。
「さっきの模擬戦でも思ってたんですけど、皆さん強くなりましたね~」
「あはは、ヨウはんに褒められたら嬉しいけど、まだまだなんは分かっとるさかい」
「うふふ そんなに謙遜しなくても本当に強くなったわ♪ ミミちゃんとルルちゃんなんて見違える程よ?」
「「ありがとうございます♪」」
「日に日に強くなっていくのが実感出来て、毎日が凄く楽しいです♪」
「それに毎日凄く稼がせて貰ってるから、特級ポーションも買えるようになったし凄く助かってます♪」
「特級ポーションって、誰か怪我でもしたのかな?」
「怪我じゃないんです。お父さんが結構キツイ腰痛で入院してたんですけど、特級ポーションのお陰で最近は元気いっぱいなんです♪」
「なんだ、僕に言ってくれたら良かったのに。じゃ、帰りにでもお父さんの所へ連れてって下さい」
「「ええっ?」」
「そんな、三日月さんに御迷惑ですから」
「そうです。最近は元気ですし大丈夫ですから」
「うふふ、遠慮しないでヨウ君に甘えときなさい? お父さんの腰痛ってヘルニアでしょ? 特級ポーションでも完全には治すのは難しい筈よ」
「そそ、遠慮は無用ですよ。コトエさん達も家族に怪我や病気の人が居たら遠慮なく言ってくださいね」
「おおきになヨウはん。ここまで言ってくれてるんや、断ったら失礼やで?」
「「は、はい」」
「「ありがとうございます。三日月さん」」
「いえいえ、僕の事はヨウって呼んでくれたら良いですよ」
「じゃ、ヨウさんって呼ばせて貰いますね、私達の事は呼捨てで結構ですから」
「ん~ 僕、呼捨てって苦手なんですよ」
「そうよ、ヨウ君って、私達の事も呼捨てで呼んでくれないんだから」
「にひひ、でもベッドの中だったら呼捨てルールなんだよね♪」
「「ひょえっ!」」
ミミさんとルルさんは、皆の顔をマジマジと見ていると、皆恥ずかしがって顔を背けている。
「ナ、ナギサ~~~ そんな事までバラさなくても良いでしょ?」
「ナギサ姉さん、堪忍してーな恥ずかしいって」
「ひょっとして、ユウカさんも?」
「お、お願い・・・聞かないで」
「ナホさん?」
「い、今こっち見ちゃ駄目ぇ~~~」
「マユさ・・・モゴッ」
「それ以上、喋っちゃ駄目!」
「ぷはっ!」
「・・・なんや、まだなんか言いたそうやな?」
「「皆・・・可愛い♪」」
ミミさんとルルさんの言葉に、全員の顔が真っ赤になり、照れまくってるようだ。
「ミミちゃんとルルちゃんも、そろそろヨウ君に呼捨てされても良いんじゃない?」
「ええこと言うな~ ナギサ姉さん♪」
「「そ、それって・・・」」
今度はミミさんとルルさんが顔を真っ赤にしている、もちろん僕も顔が熱くなっていくのが分かる。
「まあ、冗談はさておき、ウチもええタイミングやと思うで?」
「「は、はい、今日ちゃんと私達から言います!」」
「んふふ、息ピッタリなんだから♪」
「にひひ、良かったねヨウ君♪」
「えっと・・・色々と僕の事を考えてくれて、ありがとう。ナギサ♪」
「えっ? ちょ、ちょっと! こんな時に呼捨てって狡くない?」
「あはは、顔が赤いわよナギサ?」
「もう~ ヨウ君に、やられちゃったわ♪」
僕もちょっと照れながら、楽しくダンジョン探索を進めていった。
通いなれた大阪の上級ダンジョンだったけど、<発見>スキルのお陰で新たに隠し部屋や宝箱を見つける事が出来るようになり、コトエさん達が驚いている。
「凄いですね、隠し部屋なんて滅多に見つからないのに流石です」
「ありがとう。でも、種明かしをしたら<発見>って言う、新スキルを手に入れたからなんですよ」
「そうだったんですか。でも、そんなに凄いスキルを手に入れるなんて流石ですね」
「僕達でも1日1個しか取れないから、中々レアなスキルですね」
「とりあえず、コトエさん達にも1つ渡しときますね。えっと、回復役のマユさんが良いかな?」
「そんなに貴重なスキルなんて、貰えませんよー」
「そやでヨウはん、ウチ等もうメッチャ世話になってるさかいな」
「そんなに遠慮なんてしなくて良いですよ? 隠し部屋とかで見つけた宝箱には宝石類が良く入ってますから、彫金師のヒメさんに売って貰ったら喜んでくれますので」
「そうよ、売れすぎちゃって、私達の供給量じゃ足りないぐらいなんだから」
「高性能の物でしたら、コトエさん達にも良いと思いますよ?」
「あ~ また恩が増えてしまうやんか・・・」
「僕達も三日月君に恩返しなんて、とても出来ないから気にしたら負けだよ?」
「僕としては秘密の共有をしてくれるだけでも、とってもありがたいんですけど」
「マユー、ウチよう断れんわ」
「あはは、じゃマユさん、どうぞ♪」
「ありがとうございます、頑張って集めちゃいますね」
「やっぱり冒険者だから、宝箱を見つけたらテンション上がっちゃうんですよね~」
「分かる~~~♪」×全員
「あはは、嬉しいな」
それからも数々の隠し部屋や隠し通路、巧妙に隠された宝箱を発見していき、皆で大はしゃぎしていった。
「いや~ 流石に上級ダンジョンやな、こんなに宝箱があってんやな」
「宝箱の中って、色々入ってるから面白いよね」
「えっと宝石の原石・各種鉱石・武器や防具・装飾品とか一杯だね」
「装飾品なんて宝物っぽくて、高く売れそうよね?」
「コトエちゃんに良さそうな盾もあったじゃない?」
「あっ! 宝箱は全部持ってってね、僕達も一杯ありますから」
「今日、見つけた宝箱だけでも、メチャクチャあるんやで?」
「あはは、どぞどぞ」
「ヨウはんには敵わんな・・・ほな貰うとくで」
「ちょっとコトエ、売ったら幾らになるか分かんないのよ?」
「本当に良いですよユウカさん、職人さん達に売って上げて貰ったら喜んでくれますから」
「私達が持ってるの、見せた方が早いかもよ?」
「えっと、コンテナ1つ分ぐらいあるけど見ます?」
「・・・ありがたく貰っときます」
「あはは、ヨウさん達は、本当に冒険者を楽しんでますね」
「ヨウ君がダンジョン中毒だからね~ 私達もヨウ君のダンジョン好きが移っちゃったかな」
色々と宝箱を探していたので時間が掛かってしまい、地下20階のボスを倒して帰る事にした。
約束通りミミさんとルルさんの家に行く事になってけど、大人数なので僕だけお邪魔する事になり3人で向かう。
「あの~ 本当に小さくて汚い家なので、驚かないで下さいね?」
「全然大丈夫ですよ。僕も貧乏人でしたから」
「ヨウさんが貧乏だったなんて、想像がつきませんよー」
「そうですか? 僕、大阪に来るまでは月3千円のお小遣いで生きてましたよ?」
「うわ~ 私達と同じぐらいです」
「ヨウさんって冒険者になってから、メチャクチャ頑張ったんですね」
「ん~ ずっと冒険者になりたかったから頑張るって言うより、楽しんで儲けちゃったって感じですね。最初なんて凄く弱かったから、スライムばかり倒してたら、スライムハンターなんて呼ばれてましたし・・・」
「「あはは♪」」
「私達も一杯スライム倒しましたよー」
「でも、私達は格闘武器だったから、スライム倒すの苦労したんだよね」
「あー、なるほど」
「あっ! 着きました。此処が私達の実家です」
ミミさん達の実家は大阪駅からは少し離れており、2階建て長屋住宅の1戸みたいだ。
玄関に入ると、ミミさんとルルさんの兄妹だろうか、子供達が出迎えてくれた。
「お帰り~ ミルミル姉ちゃん♪」
「こら~ 混ぜて呼ばないの」
「うわっ! お母さーん、ミルミル姉ちゃんが彼氏連れて来たよーーー」
「こ、こらっ! 違うからね。お母さん」
「ウフフ、狭いとこですが、どうぞお上がり下さい」
「すみません、お邪魔します」
僕は家の中へ入らせて貰うと優しそうな両親と、中学生の妹さんから小学生の弟や妹さんが5人もいるようだ。
皆で僕の顔をマジマジと見て来るので、少し照れてしまう。
「えと紹介するね、私達が何時もお世話になっている、先輩冒険者の三日月陽さんです」
「何時もミミとルルがお世話になり、ありがとうございます」
「いえいえ、僕も色々と手伝って貰ってますから助かってるんですよ」
「私のせいでミミとルルには苦労を掛けてますから、力になって貰い感謝しております」
「僕は大した事してませんから、どうかお気にせずに、それよりも腰痛の方は如何ですか?」
「お陰様で普通の生活が出来る程に回復してきたんですよ、これも娘が持って来てくれたポーションのお陰です」
「なるほど、少し僕に診せて貰っても良いですか?」
「ええ、それは構いませんが?」
「お父さん、此処は狭いから2階に行って貰っても良いかな?」
「それは良いんだが、一体どうして?」
「まっ、良いから良いから、ヨウさん。すみませんお願いします」
「はい」
僕はお父さんと一緒に2階へ行くと、ミミさん達がお父さんに<回復魔法>の説明をしてくれ、僕がその為に今日来た事を告げてくれた。
「そうでしたか、私の事まで気遣ってくれて、本当にありがとうございます」
「いえいえ、あまり公には出来ないんですけど、ミミさんとルルさんは僕の大事なパーティの一員ですからね」
「「ありがとうございます。ヨウさん」」
「良いよ良いよ、じゃ、うつ伏せに寝転がって貰っても良いですか?」
「ええ、これで良いでしょうか?」
「はい、じゃ、ジッとしてて下さいね」
僕はまず<看破>スキルを使い、お父さんの状態を見ていく。
「骨粗しょう症とヘルニアみたいですね、やはりポーションだけでは治すのは厳しいかな」
「はい、確かに医者にはそう言われましたが、それが分かるのですか?」
「そう言うスキルがあるんですよ、じゃ、治しちゃいますね」
僕は何時もの様に<回復魔法>を掛け、光の膜がお父さんを包み込む。
「よし、これで良いかな。細かい怪我や持病もついでに治しちゃいましたから、これで大丈夫だと思います」
「こ、これは・・・信じられん。どこも痛くない・・・まるで昔に戻ったかのようだ」
「「お父さん、良かったね♪」」
ミミさんとルルさんは感激したのか泣きながら、お父さんの手を握り締めている。
それを見ていると、僕も来て良かったなとホッコリした気分になった。
「お前達には苦労を掛けてしまったな、これからは大丈夫だぞ。しかし、魔法ってのは凄い効果なんだな」
「本当に良かった、お父さんが元気になって嬉しい」
「お父さん、ヨウさんじゃなかったら、こんな事絶対出来ないんだからね?」
「そうか、やはり凄い人だったんだな三日月さんは、本当にありがとう」
「いえいえ、治せて良かったです♪ じゃ、次はお母さんを治しましょうか」
「「「ええっ!」」」
「お、お母さんも病気なんですか?」
「はい、2階に上がる前に家族さん全員診て見たんですけど、お母さんは軽い腎不全みたいです」
「わわっ! 大変だ! 直ぐ、連れて来ますね」
お母さんは訳が分からないまま2階に連れて来られたようで、不思議がっていたけど、僕がサックリと治療すると病気を隠していた事を攻められている。
「お母さん、体調が悪いなら言ってよ? ポーション渡したのに」
「・・・ごめんなさいね。これ以上、貴女達に苦労を掛けたくなかったから」
「お前にも苦労掛けたな、ごめんな」
「いいえ、アナタも治って良かったわ♪ ありがとう三日月さん」
「いえいえ、次は中学生の妹さんを治しましょうか」
「「「「えええっ!」」」」
「ヨ、ヨウさん、あの子病気なんですか?」
「そうですね結構重い貧血です。何時、倒れてもおかしくないかも?」
「た、大変、直ぐ連れて来ます」
<快癒魔法>はあまり使った事が無かったんだけど、お母さんに引き続き、妹さんも直ぐに治療出来た。
怪我だけじゃなく、病気も治せるのが嬉しい限りだ。
「うわ~ 凄い! ずっと怠かったのに気分爽快になっちゃった♪」
「なっちゃったじゃないって、体調が悪い時はお姉ちゃんに言わないと駄目って言ってるでしょ?」
「そうだよ、モモ?」
「えへへ♪ ごめんね~ でも、ちょっと怠いだけだったから」
「貧血って突然倒れたりするんですよ? 道路や階段で意識を失ったら死んじゃうかもです」
「「ほ、ほら、モモーーー!」」
「ふぁ~ そうなんだ、これからはちゃんと言うよぅ~」
「お兄さん、治してくれてありがとう♪」
「いえいえ、治せて良かったよ」
「んふふ、お兄さんってモテるでしょ? とっても可愛い顔してるのに凛々しくって恰好良いですよ」
「あはは、まさかって言いたいけど、冒険者になってからはモテ期到来中かな?」
「やっぱり~ お姉ちゃん達もお兄さんの事が好きですよ、だって最近すっごく綺麗になったんだもん♪」
「こ、こらモモ、ヨウさんには信じられないぐらい、綺麗な女性達に囲まれてるのよ?」
「すみません、ヨウさん」
「いえいえ、ミミさんやルルさんも可愛いし、強いからモテモテなんだよ?」
「そうなんだー、凄ーい、お姉ちゃん」
「ヨ、ヨウさん、恥ずかしいですよー」
「本当ですよ? あっそうだ、病気は治しましたけど栄養も取って貰わないとだから、色々と食材も置いていきますね」
僕はお土産代わりに肉や野菜、果物類を取り出していく。
「そうそう、とっても美味しいケーキもあったんだった」
「ヨウさん、こんなに悪いですよ」
「まあ、遠慮せず、どぞどぞ」
「「ありがとうございます」」
食材を渡し終わり、僕はトイレを借りる為に1階に下りることにした。
「・・・これだけの物をいったいどこから?」
「そうね、お父さん。不思議な少年だわ」
「お父さん、お母さん、モモ、ヨウさんの事は絶対に誰にも言わないでね?」
「ヨウさんは見ての通り凄い能力を持ってるから、普段は隠してるんだけど今日は私達の為に来てくれたの、だからお願いね」
「ああ、分かってる」
「そうね、こんな凄い治療出来るなんて世間にバレたら大変だもの」
「そんなに凄い人だったんだ、モモも誰にも言わないよ」
「後はお母さん、お土産も近所にお裾分けしちゃ駄目なんだからね」
「えっ? どうして? これだけ沢山あるなら食べ切れないかもよ?」
「このメロンって300万円ぐらいするんだよ?」
「こっちのお肉なんて、何千万円するか見当も付かないんだから」
「「「えええええっ~~~!」」」
「そ、そんなに高価なのか?」
「凄~い、お兄さんって大金持ちさんなの?」
「ヨウさんは、超一流の冒険者なんだよ」
「私達がお世話になってるパーティのお師匠さんでもあるの、だから失礼のないようにしてね」
「あわわ、モモ、気軽に喋っちゃった」
「それは、もう良いから失礼のないようにね」
「でも、こんなに貰っちゃって良いのかしら?」
「断ったら返って失礼だから皆で食べて、間違っても売っちゃ駄目よ?」
「何千万か・・・」
「お父さん?」
「い、いや、貰い物を売る訳無いだろ?」
「・・・本当にお願いなんだからね」
僕はトイレから出ると、小学生の子供達に揉みくちゃにされながら遊んでいたら、ミミさん達は慌てて謝ってくれた。
子供は好きな方だから、そんなに遠慮しなくても良いのに。
治療も終わり、帰る時には家族全員が頭を下げてお礼を言ってくれた。
兄妹が多い家庭って言うのも、大変そうだけど楽しそうだなと思う。