第129話 KISSは時には武器になるんですよね
「えっと、貴女の指からいきましょうか。さっ、手を出して下さい。
結構痛かったでしょう? 頑張り屋さんなんですね。
本当は何回かポーション使ってますよね?
その時に骨がズレて指の神経に当たってるから、完全に治らなかったみたいです。
じゃ、動いちゃ駄目ですよー」
僕は<看破>スキルで症状を完全に把握してから、<回復魔法>で、ズレた骨を元通りに戻してから、傷んでいた神経も治していった。
淡く光輝く<回復魔法>が、彼女の手から消える頃、治療が終わった。
「よしっと、終わりましたよ」
「い、痛くない、そんな特級ポーションでも治らなかったのに・・・」
「次は肩を亜脱臼してる女性を治しちゃいますね」
僕は一人一人丁寧に治療していき、無事3人共完全に治し終わった。
「き、君って一体・・・」
「僕が治療したのは内緒で、お願いしますね」
「もう、ヨウ君。そう言う事は最初に言わないと駄目でしょ?」
「でも、ヨウ君が普通じゃないのは伝わったでしょ? ヨウ君が言った事は全て本当なんですから」
「・・・中々驚かせてくれるわね、普通の可愛い少年って訳じゃ無いんだ?」
「自分では普通のつもりなんですけど、ちょっと違うかもしれませんね」
「あの、ありがとう。私達は絶対に内緒にしますね」
「ども、もう、あんまり我慢しちゃ駄目ですよ?」
「そうするわ♪ ありがとね」
そんな話をしていると、コトエさん達が練習場に入って来た。
一緒に歩いている人は明るい色をした髪でソバージュと言うのだろうか。
軽くウェーブが掛かっており、大きな眼は子犬のように愛らしい。
プックリした唇は、妙に色っぽさを感じさせる。
可愛らしい顔とは裏腹に、服装や佇まいに貫録の様なものを感じる。
おそらく、この人がクランリーダーなのだろう。
「お待たせしましたヨウさん、彼女がクランリーダーです」
「初めまして、私はクランリーダーをしている紫原蓮歌です、貴方達が見学希望ですか?」
「はい、無理言ってすみません」
「・・・少年と言うので見学を許可しましたが、どう見ても冒険者ですよね?」
「すみません。私が勝手に勘違いしてしまって」
「今回限りですよ? あの男性なら少年として言い訳も出来ますが、あくまでもお客としてですからね。
しかし、守護さん達も綺麗な女性ですが、また、とんでもない美女を連れて来ましたね」
「フフ、ありがとうございます。しかし、貴女も負けてないと思いますよ」
「貴女達に会うまでは良い方だと思ってたわ、貴女達もクランに勧誘したいぐらいよ」
「私達のリーダーは男性ですから、それは無理ですね」
「それは残念ですが、この少年がリーダー? ウフフ、それは面白いですね♪」
「模擬戦で強さを見せて、守護さん達には是非、クランに入って貰わないとですね」
「ウチ等もヨウはん達が見てるんや、全力で行かせて貰うで?」
「私達も日本の女性では、トップクラスの実力を持っているんですよ?」
「知っとるよ。でもな、同じトップクラスの中でも、とんでもない開きがあると思うで?」
「ウフフ、自信があるのね。良いわ、クランでも一桁台の実力者を出して上げるわ♪」
「ウチ等は、ミミから行こか」
「はいですー♪ 頑張ってきますね」
「私達は、そうね、サキ行きなさい」
「わ、私ですか? あんな小さな相手に可哀そうなんじゃ」
「サキ? リーダー命令ですよ」
「は、はい、すみませんでした」
どうやらミミさんの相手は、女性にしては身長も高く力のありそうな人で、武器は木製の大剣を持っている。
「武器を持ってないと思ったら格闘家か? 私は大剣なんだが良いのか?」
「はい、望むところです♪」
「・・・参ったな、あんまり弱い者虐めはしたくないんだが。リーダー命令じゃ仕方ない、何時でも掛かって来て良いぞ?」
「サービス満点ですやん♪ じゃ、行きますよ?」
「ああ」
「正拳・・・突き!」
ボッ! ビタッ!!!
「えっ? あぁ、嘘だろ?」
「模擬戦で良かったですね? 当ててたら死んでましたよ♪」
ミミさんが繰り出した正拳突きは、凄まじいスピードで間合いを詰め、相手の顔の前で寸止めされていた。
相手の女性は、茫然としていたが何の反応も出来なかった事を理解すると、怖くなったのか青い顔になっていった。
周りで見ていた女性達も、まだ状況が理解出来ないのか茫然としている。
「し、勝負あり、勝者ミミさん」
「わーい♪ 勝ちましたよー」
「「「「「お~ パチパチパチ!!!」」」」」
「ようやったミミ、次はルル行こか」
「はいですー、ルルも続きます♪」
「は、速い・・・実力者だとは聞いてたけど、少し見縊っていたようですね」
「マドカ!」
「はい」
「本気で行きなさい!」
「はい、分かってます」
「ルルさんでしたか、どうやら双子のようですけど、私もスピードには自信があるの、本気で行くわよ」
「うふふ、もちろんですよ♪」
「行くわ」
「どぞ♪」
「ハッ!」
カツッ! カカカカカカカカカカカカカカカカカッ!
「クッ! 私の連撃をここまで受け切るなんて」
「私はミミと違って防御型なんです。そんなスピードじゃ、私の回し受けは通りませんよっと」
ビタッ!!!
「うっ! あぁ、そ、そんな・・・」
今度はルルさんが放った上段回し蹴りが、相手の側頭部の前で寸止めされている。
「・・・勝負あり、勝者ルルさん!」
「ウフフ、とんでもない女性達ね、まさかマドカより速いなんて。私と同じレギュラーメンバーなんですよ?」
「リーダー。次は私が行きますね」
「リン・・・まさか、貴女を出す事になるなんてね」
「じゃ、コトエ、私が出るわね」
「せやな、ユウカ頼むわ」
「ねえ、貴女もナンバー2なのかしら?」
「そうね、コトエ以外は全員良く似た実力だから、ナンバー2かもね」
「・・・冗談では、なさそうね」
「ええ、コトエは強いわよ」
「クランリーダーのレンカを舐めちゃ駄目よ?」
「とりあえず、私も負けられないんだけどね」
「それは、お互い様みたいね♪」
「行くわよ」
「良いわ」
リンさんとユウカさんの戦闘はお互い木刀を武器にしており、実力は拮抗しているのか中々見応えの有る戦闘になっている。
しかし、持久力はユウカさんの方が上なのか、徐々にリンさんが押され気味になっているようだ。
「凄い! リンさんと互角の勝負をしてるなんて」
「・・・本当に新人なの? 幾ら何でも強すぎるわ」
「間違い無いわ、全員18才なんだもの」
「ユウカー、気張りどこやで」
「分かってるわよっ!」
ドカッ!
「クッ!」
遂に疲れの見え始めたリンさんの木刀を、ユウカさんが弾き勝負がついたようだ。
「フ~ 参ったわ私の負けよ」
「しょ、勝負あり、勝者ユウカさん」
「とんでもない新人が居たものね」
「うふふ、リンさんも強かったですよ」
「最後は任せたわよコトエ」
「任された! 大船に乗っときぃな♪」
「リーダーすみません、後はお願いします」
「まさか、新人相手に全滅するわけにもいかないしね、頑張るわ」
「それにしても貴女達、凄いわね? とても、新人とは思えないわ」
「仲間を褒められるのは、嬉しいもんやな♪」
「私に勝てたら、日本最強を名乗って良いわよ?」
「あはは、残念ながら、それは無理ってもんやで」
「あれっ? 意外と謙虚なのかしら?」
「そう言う意味やないんやが、全力で行かせて貰うで」
「ええ、私も様子見なんてしないわよ」
コトエさんとレンカさんの模擬戦は静かに始まったが、その攻防はレベルの高さが伺える。
身体能力はレンカさんの方が上回っているようだったが、コトエさんは持ち前の感の鋭さで悉く攻撃を回避している。
何時の間にか、皆からの声援を受けて盛り上がっていく。
「流石に強いんやな、さっきからヒヤヒヤもんやで」
「ハァーハァー、良く言うわ。息も切らさないで、どんな体力してるんだか・・・そろそろ、終わらせて貰うわよ」
「せやな、ウチも今からラッシュで良くで」
いよいよ、二人共勝負を決めに行ったのか、最後のラッシュが繰り広げられる。
この激しく続く攻防も、どうやら決着が着いたようだ。
コトエさんが上段から振り下ろした剣戟を、剣で受けたレンカさんは、地面に膝を付いて立てないようだ。
ドガッ!!!
「くぅぅ・・・フー、参ったわ私の負けよ」
「ハーハー、いや強かったわ、流石に疲れてもうたわ」
「勝ち名乗りは、もう良いわよね。リーダーにも勝っちゃうなんて化物なの?」
「酷い誉め言葉やな~ こんな可愛い化物なんておる?」
「うふふ、強くなれるなら化物でも良いじゃない?」
「せやな、ナホとマユは模擬戦どないする?」
「ん~ せっかくだから、やっとくマユ?」
「でも、模擬戦で弓なんて使えないよナホ」
「そっか、じゃ、短剣にしとこっかな~」
「リンさん、私達には無理です」
「もう、情けないわね・・・ごめんなさい。貴方達の実力に見合う人は厳しいみたい」
「ありゃ? まっいっか、ナホ」
「ん~ 残念」
「んふふ、私が相手して上げよっか?」
「「ア、アヤメさん!」」
「あ、あはは、また、今度お願いします」
「わ、私も、今度で」
「じゃ、私が相手して貰っても良いかしら?」
「リ、リンはん、悪い事は言わんさかい、やめといた方がええで?」
「やっぱり、コトエさんより強いんだ?」
「・・・それが分かってて、模擬戦するっちゅうんかいな?」
「ウフフ、だって貴女より強いんなら見てみたいじゃない♪ アヤメさん、お願いしても良いかしら?」
「ヨウ君。良いかな?」
「はい、でもハンデ戦にして上げて下さいね」
「ええ、分かったわ。ハンデ戦で良いならやっても良いってさ?」
「ハンデ戦? ハンデをくれるのかしら?」
「んふふ、そそ、私はこんな武器にしちゃおっかな♪」
「・・・口紅?」
「私の武器はKISSにするわ♪ どう? それでも良い?」
ピキキ! 「幾ら何でも、それは私を舐め過ぎじゃないかしら?」
「やめといても良いのよ?」
「いいえ、お願いするわ」
僕達はコトエさん達の見学に来ただけなんだけど、やっぱり見てるだけじゃ暇だしね。
アヤメさんの模擬戦を楽しむ事にしよう♪
「さっ、何時でも良いわよ♪」
ゾクッ! 「あ、貴女・・・」
「あれ? ひょっとして私の強さを感じ取れたのかな? 凄いじゃない」
「・・・どこまで強いの?」
「さあ、恐れずにいらっしゃい♪ 怪我なんてさせないから」
「胸を・・・貸して貰います!」
「ハァアアアアアアア!」
シュバババババッ!!!!!!
アヤメさんはその場から一歩も動かず、リンさんの連続攻撃を躱し続けている。
「あ、当たる気がしない・・・えっ! ええっ? 嘘でしょ」
リンさんは右手の甲に付いたキスマークを見て、驚愕している。
僕達には見えていたけど、リンさんは今気付いたようだ。
「一体、何時の間に・・・貴女、本当に人なの?」
「人のレベルを超えてる自覚はあるわ♪」
「・・・もう少しだけ、相手して貰って良いかしら?」
「んふふ、次で終わらせて上げるわ♪」
リンさんは何としても攻撃を当てたいのか、至近距離から呼吸が出来ないほどの連撃を続けて行く。
だが、まるでアヤメさんの体を擦り抜けるような錯覚をおこすほど、ギリギリで回避していく。
リンさんには、幻を相手にしてるように感じるかもしれない。
そして連撃をスルスルと回避しながら、リンさんの懐に入り頬に軽くキスをして決着となった。
「ハァーハァーハァー、ウフフ、あはは♪ こんなに素敵なキスされたのは初めてよ」
「素敵な男性からの方が良いと思うわよ?」
「ちょっと待って、リンだけじゃ狡いですよ?」
「ん~ 私だけ楽しんじゃうと、怒られちゃうんだよね」
「そだよ、次は僕が相手して上げる♪」
「ツドイさん、やり過ぎちゃ駄目ですよ?」
「ん、大丈夫。1秒で終わらせてくるよ」
「わ、私を相手に1秒ですか?」
「リーダー。おそらく本気だと思いますよ・・・」
「・・・それでも、信じる事が出来ません。この私が1秒すら守れないなんて」
「僕が信じさせてあげるよ。あっ! そうだ・・・アヤメ、口紅塗って」
「はいはい、ちゃんと練習しないと駄目よ?」
「僕、口紅塗るの苦手なんだよね・・・」
「はい、出来たわよ」
「ん、ありがとね。どうかな、ヨウ君?」
「なんか色っぽくなりましたね、似合ってますよ。ツドイさん♪」
「ありがと。ちょっと頑張って練習しようかな」
ちょっと嬉しそうにしてるツドイさんが可愛いなと思っていると、レンカさんとの模擬戦の用意が出来たようだ。
「貴女、本当に私に1秒で勝つおつもりですか?」
「そだよ、1秒守れたら僕の負けで良いよ」
「そ、そんな事、飛び道具でも無ければ不可能・・・いえ、口で言っても無駄ですね見せて貰います」
「じゃ、行くよ?」
「フー、何時でも良いわ、んくっ???」
レンカさんが返事をした瞬間、既にツドイさんはレンカさんのアゴを少し持ち上げ唇にキスをしていた。
「僕の勝ち♪」
レンカさんは唇に赤いキスマークを付けたまま、茫然としており地面に膝をついてしまった。
良く見てみると、手足が震えているようだ。
どうやら驚きよりも、恐怖が上回ったのかな?
「と、鳥肌が立ったわ恐ろしい人達ね、ここから見ていても全く見えなかったわ・・・リーダー。大丈夫ですか?」
「え、ええ、一体、何が起こったのですか?」
「どうやら彼女達のスピードは、次元が違うようですね。私には瞬間移動にしか見えませんでした」
「ウフフ、あはは、もう笑うしかありませんね♪ 簡単に唇を奪われてしまいましたわ」
「相変わらず、姉さん達はおっそろしいな・・・でも、ツドイ姉さん唇にキスはあかんて」
「コトエ、嫉妬しちゃった?」
「ち、ちゃうて、あ~ ツドイ姉さんには敵わんな~」
「私達なんて普通よ? ヨウ君に比べたらね♪」
「ちょ、ちょっと待って貴女達より、あの少年の方が強いのですか?」
「当然でしょ? 私達のリーダーなんだからさ」
「私達5人掛かりでも、まだ触れた事すらないんだからさ」
ナギサさんの言葉に、その場に居る全員が反応し僕に注目が集まる。
「えっ? あはは、ちょっと照れちゃいますね♪」
ツンツン・・・
「レンカさん・・・何で、僕の頬っぺたを突いてるんです?」
「あはは、リーダーが男性に触れるなんて珍しいですね?」
「冒険者の男性はガサツなので苦手なのですが、君はとても可愛いですね? お名前をお聞きしても良いかしら?」
「はい、僕はクレセントのリーダーをしている、三日月陽って言います」
「あんな凄い女性達のリーダーをしているなんて、彼女達の言う通り三日月さんの実力は計りしれないですね」
「紫原さんも、とっても可愛いのに、クランリーダーって凄いじゃないですか」
紫原さんは何故か少し驚いたような表情で、僕を見ているようだけど何故だろう?
「ウフフ、可愛いだなんて言われたのは、子供の時以来でしょうか♪」
「しかし、残念ですね。模擬戦で私達の実力を見せて、守護さん達をクランへ勧誘するつもりでしたが」
「悪いんやけど、ウチ等はまだまだ修行中やから堪忍してな」
「クランには入らなくても、お友達になるんなら良いんじゃ無いですか?」
「もちろん、友達にやったら大歓迎やで」
「ありがとうございます。三日月さん達も、私達と友人になってくれますか?」
「僕、男なんですけど良いんですか?」
「はい、三日月さんは特例として、このクラン本部の立ち入りも許可致します」
「それは光栄ですね、皆も良いかな?」
「フフ、もちろんですヨウ様。しかし、ヨウ様の機嫌を害する様なことがあればクランごと潰しますよ?」
ゴクッ! ×全員
「リラさん。友達になるんだから物騒な事言っちゃ駄目ですよ?」
「はい、申し訳ありませんでした」
こうして僕達とコトエさん達は、レンカさんと友達になる事になり、連絡先を交換することになった。
僕としては綺麗な女性達と友達になれたんだから、嬉しい限りなんだけどニコニコしてたら怒られそうなので当然自重している。
まだ時間も早いので久しぶりにコトエさん達とダンジョンに行く事になり、一緒にクラン本部を後にすることにした。
「あっ! そうだ。リンさんリンさん、ちょっと良いですか?」
「は、はい?」
僕はリンさんの手を握り、皆からは見えない柱の陰に連れていった。
「あ、あの?」
「動いちゃ駄目ですよー」
僕はリンさんの頭を両手で包み込む様に触り、<回復魔法>を施した。
「リンさん右目殆ど見えてなかったでしょ? どうやら外傷性の白内障だったみたいです。
よし、これで治ったと思いますよ、皆に隠してるみたいだったから、先程は言えなかったんですよ、ごめんね。
リンさんも、あまり無理しちゃ駄目ですよ? じゃ、僕もう行きますね~」
僕は皆に手をブンブンと振りながら、クラン本部を後にした。