第122話 はい予想を超える天才でした
時間は丁度昼を過ぎた頃だろうか、姫奈さんに連絡を入れると、直ぐに元気よく応答してくれた。
今日は、お店を決めるついでに、何点か試作品も作って貰う予定なので、とりあえず僕の部屋に招待することにした。
待ち合わせは分かりやすく冒険者ギルド前にしたので、ダンジョン帰りに直接行く事にした。
ギルドへ着くと、既に姫奈さんが待っていてくれたので声を掛ける。
「すみません、お待たせしました」
「こんにちわ三日月さん。良かった~ 昨日の事が夢だったんじゃないかと電話があるまで不安だったんですよ」
「あはは、ちゃんと現実ですから。じゃ、行きましょうか」
「はい、お願いします♪」
姫奈さんはツドイさんが出してくれた車に乗り込むと、車内の豪華さに凄く驚いていた。
マンションに着いて僕の部屋に入った瞬間、また驚いて口をポカンと開けて固まっている。
「んふふ、さあソファーへどうぞ」
「は、はい」
姫奈さんはソファーに座ってからも、キョロキョロと落ち着きなく、周りを見渡している。
「フフ、姫奈さんコーヒーで良かったですか?」
「はい、すみません頂きます」
「んふふ、そんなに驚いた?」
「そ、そりゃ驚きますよーーー、どれだけ豪華な部屋なんですか? 三日月さんって超お金持ちだったんですね」
「あはは、そんな事ヨウ君に言っても、あんまり自覚してないから駄目よ」
「ん~ そうですね、この部屋もギルドからの貰い物ですから、あんまり自覚はしてないかもですね。でも、僕も最初にこの部屋に入った時は、とても驚きましたから」
「うわ~ こんな部屋を貰っちゃうなんて、凄い冒険者なんですね」
「あはは、そんな事ないですよ、ところでスキルにはもう慣れましたか?」
「はい、昨日からずっと練習してたんですけど、スキルって凄いんですね、メチャクチャ便利ですよ。でも冒険者なら、こんな便利なスキルを簡単に取れちゃうんですか?」
「あはは、そんな訳ないでしょ? ヨウ君は天才冒険者なのよ」
「やっぱり、そうだったんですね、ごめんなさい。私、冒険者の事は何も知らなくて」
「そうだと思ったわ。<鑑定>スキルなんて幾らで売れると思う?」
「あ~ <鑑定>スキルって、メチャクチャ便利ですから数百万円ぐらいしちゃったりします? あっ! そんなに高かったら、私にくれる訳ないですよね・・・ん~ 幾らだろ」
「僕、最近の相場は見て無いけど、5000億円だったりして」
「へっ?」
「にひひ、5000万円じゃないよ?」
「フフ、今の相場でも5000億円のようですね」
「ごせんおく? えっ? ええっ」
「大丈夫ですよ、自分で取ってきたから只です」
「そ、それでも売ったら、それだけのお金が手に入るのに」
「それは姫奈さんが僕達の専属になってくれたからですよ、良い物を作ってくれたら僕達も嬉しいじゃないですか。
僕達の専属になってくれた職人さん達にも同じスキルを渡してますから、姫奈さんも気にしなくても良いですよ。
だから姫奈さんも、自分の思い通りに、物作りに励んで下さいね」
「分かりました。私にそんな値打ちがあるとは思えないんだけど、全力で良い物を作れるように頑張ります」
それからリラさんが調べてくれた、お店の候補地を検討していったところ、ギルドの近くにあるビルの店舗を、第1候補として現地まで見に行く事になった。
現地に着くと姫奈さんは、まだ、何も無い店内を嬉しそうに見渡して、自分の作業スペースを丹念に測っていた。
どうやら作業場も気に入ってくれたようで、場所は此処で決定した。
次は作業台や研磨機等、素人が見ても分からない様な、道具の数々を見て行き、姫奈さんは嬉しそうに欲しい物を選んで行った。
しかし、顕微鏡やパソコンまで使うとは僕も驚いた。
流石にアダマンタイトやオリハルコンを加工する道具なんて無かったので、今度鍛冶師のミナミさんに相談して作って貰おうと思う。
購入した道具類は全て姫奈さんの<虚空庫>に収納して貰い、いよいよ僕の部屋で試作品を作って貰う事にした。
姫奈さんには部屋を汚すからと遠慮されたけど、僕達には<クリーン>の魔法があるから問題ないと伝えて、部屋で作って貰う事にする。
「しかし<虚空庫>って本当に便利ですね~ 道具類が全部入っちゃったんですから、これなら全部持ち運べますね」
「んふふ、そうなんだよね、大事な物も<虚空庫>に入れておけば、盗まれる心配しなくて良いしね」
「でも、人に見られない様に注意しなきゃ駄目だよ~」
「分かりました。そうですよね、人に見られたら大変な事になっちゃいそうです」
「じゃ、早速、作らせて貰いますね。実は昨日からずっと楽しみだったんです♪」
「あはは、実は僕も楽しみだったりします」
姫奈さんは先ずダンジョン産である、普通の宝石から指輪を作ってくれるらしい。
<虚空庫>から幾つかの小さな原石を取り出すと、嬉しそうに作業していく。
「・・・作業台と椅子の高さに拘ってた訳が、今分かったわ」
「ヒメちゃんの作業台って、おっぱいなんだ♪」
「あぅ~ 私手が短いのに胸が大きいから、作業台に胸を乗っけて、おっぱいの上で作るのが楽なんですよ」
「フフ~ その気持ちは、分かるかもですね~」
「ノノさん達も胸大きいですもんね、分かってくれて嬉しいです♪」
姫奈さんは柔らかそうな胸の上で、器用に宝石を研磨して形を整えていく。
作業が遅いって言ってたのに、もう1つ完成しそうだった。
「はい、1つ完成しましたよー♪」
「えっ? メチャクチャ早いじゃない?」
「えへへ! たぶん<精密動作>スキルのお陰だと思います、いつも微調整してた角度とか、ピシッと決まってサクサク出来るんですよ」
「なるほどね~」
「もっと、作っても良いですか?」
「うん、良いですよ」
「ありがとう、やっぱりダンジョン産の物は質が良いですよね~ 嬉しくなっちゃう♪」
僕達は姫奈さんが作ってくれた指輪を鑑定してみると、行き成り『AGI+10』の付与効果が付いている指輪が出来たようだ。
「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」
「わ、私のせいじゃないんだからね?」
「にひひ、アヤメがフラグ立てるからだよ♪」
「フフ、それにしても凄いですね、普通の宝石で、ここまで性能が良い物が作れるなんて」
「やっぱり、ヒメちゃん天才だったんだ!」
それから姫奈さんは驚く程のスピードで、次々と作成していき、どれも驚く程の付与効果が付いている。
「・・・姫奈さん凄いです! 僕の予想以上に凄い性能ですよ?」
「えへへ♪ ありがとうございます。そんなに褒めて貰えると嬉しいですね」
「ねえ、ヒメちゃん自分の作品を鑑定してみた?」
「あっ! そうでした、せっかく素晴らしいスキルを頂いたんだから、ちゃんとチェックしとかないとですね。
えっと・・・うわ~ 本当にステータス系の付与効果が付いてますね、でもこれって、作成したときに何となく感じてたやつだ」
「えっ? ヒメちゃん、付与効果を知らなかったの?」
「あぅ~ すみません勉強不足で・・・」
「あはは、良いですよ」
「やっぱり、ヒメちゃん天才だわ」
「フフ、簡単に説明致しますとステータスを1つ上昇させるにはSPオーブが必要なのですが、現在の相場は1500万円になっております」
「ええっ? それじゃあ?」
「そそ、この『STR+10』の指輪なんて軽く1億を超えちゃうわけよ」
「またまた~ 幾ら何でも、この大きさの宝石じゃ、そんなに高くには・・・」
僕達は本当だよって意味を込めて、真剣な表情で姫奈さんを見つめた。
「ふぇ?」
「わ、私が作った指輪が、そんなに高く売れちゃうんですか?」
「だから、僕達も驚いてたりして」
「ちょ、ちょっと、私、とても信じられないんですけど?」
「ヒメちゃんをクビにした店長も大馬鹿よね~ ドンドン良い物作って見返しちゃえ♪」
「は、はい! わ、わだち、が、頑張りまひゅ」
姫奈さんは余程嬉しかったのか、嗚咽を漏らしながら泣き出したので、アヤメさん達が抱き締めて慰めてくれた。
僕も慰めて上げたかったけど、自重は大事だよね。
それからもドンドン作ってくれた指輪はどれも素晴らしく、STR・VIT・DEX・INT・AGI・LUKのステータスの内から+7~10の付与効果が付いている。
それもダンジョン産のシルバー鉱石から指輪を作ったせいか、サイズ自動調整の付与効果まで付いていた。
銀宝箱から手に入れた属性原石にも挑戦して貰ったところ、そのとんでもない性能に驚き、言葉が詰まってしまった。
『STR+20・DEX+18・火属性魔法+10』
男性用なのか分厚いシルバーの指輪で、龍の装飾が施されており、目の部分に宝石が組み込まれていた。
ステータス上昇の値が高く、しかも2種類付いており、なにより属性魔法強化まで付いている。
デザインも、メチャクチャ恰好良い!
「「「「「「・・・・・・」」」」」」
「あの~ どうでしょうか?」
「驚きました・・・性能も凄いですけど、これメチャクチャ恰好良いです」
「凄いわ~ ねーねー、女性用のも出来る?」
「はい、もちろんです。少し待って下さいね」
姫奈さんは、そう言うと直ぐに、女性用の指輪も作ってくれ、これも見事なバラの装飾が施された指輪だった。
『INT+21・LUK+23・水属性耐性+10』
今度は属性耐性が付いている、僕達でも是非、欲しい性能だった。
「うはーーー!」×全員
「ヒメちゃん凄いわ、天才よ!」
「やだな、褒めすぎですよ~♪ 調子乗っちゃいますよ?」
「本当だよ? ヒメちゃんやるね」
「フフ、これだけの物になると値段設定が難しいところですね」
「そうですよね。ステータスの組み合わせで値段が変わりそうです」
「属性魔法強化や属性耐性の値段も難しいよね?」
「うわ~ 本当だね、査定表作ろっか?」
「それ名案ですね、早速皆で考えましょうか」
僕達はソファーに移り、それぞれのステータスや属性に値段を決めて直ぐに計算出来るよう表に纏めて見た。
「うん、こんな感じでどうかな?」
「最初は、これで良いと思うわ」
「あんまり安くしたら転売されちゃうし、僕もこれで良いと思うよ」
「リラ姉は、どうかな?」
「はい、私もこれが妥当な所だと思います」
「じゃ、とりあえずこれでいきましょうか、姫奈さん」
「は、はい、私から見たら、とんでもない金額なんですけど?」
「スキルの値段に比べたら安いもんでしょ?」
「そりゃそうですけど、億とか聞いちゃうと戸惑っちゃいますよ~」
「んふふ、それがヒメちゃんの才能なんだよ? 自信持って良いわ♪」
「私、一か月の給料20万円で、そこをクビになったとこだったんですよ?」
「それは、ちょっと安すぎるわね、本当にあそこの店長ボンクラなんだから」
「あはは、でも、今は三日月さんに拾っていただいて助かりました」
「そう言えば、お金に困ってるみたいだったけど、何か事情があるのかな?」
「あ~ 私必死だったから、それっぽい事言っちゃったかもですね」
「言い難い事だったら、言わなくても良いんだよ?」
「別に良いですよ・・・まあ、良くある話しなんですけど、父親が借金して宝石店を出したんですけど1年程前に他界しちゃったんですよ。
当時はダンジョンが出来て、原石類が出始めたところで、これから伸び始めるチャンスだったから、父も無理しちゃったんだと思います。
父の友人が、当時仕入れた原石類を高く買い取ってくれたんですが、それでも借金がかなり残っちゃって。
それで、まあ母親とお姉ちゃんの3人で頑張って、借金返済って感じです」
「そっか、姫奈さん大変だったんですね」
「いえいえ、本当に良くある話しなんで、三日月さんが契約金一杯くれたから、皆喜んでくれたんですよ。三日月さんには、本当に感謝してます」
「ねーねー、お姉さんとお母さんって、どんな仕事してるのかな?」
「二人共、デパートで店員さんしてるんですけど、どうしてです?」
「んふふ、店員さんをしてるなら慣れてるから丁度良いわね。ねーねーヨウ君? ヒメちゃんのお店の店員さんって、まだ決めて無いよね?」
「ああ、なるほど。リラさん大丈夫ですか?」
「はい、ギルドで鑑定書を作る都合もありますから、店員さんもお借りしようと考えていましたので、二人なら丁度良いですね。信頼もおけますし」
「分かりました。姫奈さん?」
「はい」
「姫奈さんのお店の店員さんとして、お二人にお願い出来ないでしょうか?」
「ええっ? 姉さんとお母さんもですか?」
「はい、守秘義務もありますし、信用の置ける人が良いので、お給料も弾みますとお伝えください」
「はい、ありがとうございます。お給料が安いって文句言ってたから、たぶん大丈夫です」
「あはは、じゃ今日の帰りにでも、お願いしに行きますね」
「今日ですか? 分かりました。連絡しておきます」
今日は姫奈さんと一緒に夕食も食べようとしていたので、ついでに姫奈さんの家族も招待することにした。
僕達が6人居るので合計9人となり、話しがしやすいように、日本料理の料亭にすることにした。
リラさんが予約を入れてくれ、大部屋を確保してくれた。
ツドイさんとリラさんが姫奈さんと一緒にお母さん達を迎えに行ってくれる事になったので、僕達は先に料亭で待つことにした。
先に料亭に着いてみると、とても大阪とは思えないほど、緑に囲まれた日本風の建物で、入口から見事な庭園を楽しめるようになっていた。
料亭の中に入るとスリッパに履き替え、ピカピカに磨かれた廊下を歩いて行くと、中庭に広がる庭園も素晴らしい。
リラさんが予約してくれた大部屋に入ると、メチャクチャ高そうなテーブルに、間隔を広くとった肘掛けまで付いた座椅子が9つ並べられていた。
たった、9人で使うには勿体ないような部屋だった。
もちろん、部屋から見える日本庭園はとんでも無く広く、豊かな情緒溢れる安らぎの空間は、本当に大阪なのか疑いたくなる。
僕達は上座の席を3つ開けて席に着き、待ち時間も気に成らないほど景色を楽しんでいると、どうやら姫奈さんの家族さんも到着したようだ。
僕は席を立ち、まず挨拶をすることにした。
「急にお呼びたてして、すみませんでした。僕は三日月陽と言います」
「いえ、本日はお招きありがとうございます。姫奈の母親で端渓 舞華(たんけい まいか)と申します。
此度は娘を雇っていただいたそうで、ありがとうございます」
姫奈さんのお母さんは、とても礼儀正しく姫奈さんと良く似た顔立ちで、落ち着いた感じの人だった。
「私は姫奈の姉である端渓 雪奈と言います、私からもお礼を言います」
お姉さんも良く似た顔立ちをしているが二人共背は高く、姫奈さんとは頭一つ分ぐらい違うけど、胸が大きいのは親子を感じさせた。
二人共少し緊張しているのか席に座ってからも、落ち着きのない表情をしている。
「すみません。こんな高級なお店だとは知らず、こんな格好で来てしまって」
「いえいえ、僕達も普段着ですからお気にせず、とりあえず食事を楽しみましょうか」
「はい、ありがとうございます」
リラさんが食事の用意をお願いしてくれると、和服を着た綺麗な女性達が、また見事な懐石料理を運んで来てくれた。
どれもこれも非常に美しく、とても美味しそうだ。手毬寿司なんて知っていたけど初めて見る。
軽く食事を楽しみながら挨拶代わりの雑談をしていたが、そろそろ本題に入ろうかと思う。
「それでは姫奈さんからお聞きかと思いますが、此度姫奈さんを僕達の専属職人としてスカウトさせていただきました。
そこで姫奈さんのお店を開店するため、準備をしているのですが、お二人を姫奈さんのお店の店員さんとして、スカウトしたいと思います。
詳しくは後ほど話しますが、とりあえず給料は今働いていらっしゃる所の倍額をお支払い致しますので、どうかご検討下さいますよう、お願い致します」
「「ええっ?」」
「ば、倍額ですか? それは私達にとっても願ってもない条件なのですが、いったいどうして?」
「そうですね理由としては僕達はとても秘密が多くて信頼の置ける人じゃ無いと雇えないんです。
姫奈さんの御家族なら、その点心配要らないのが一番の理由でしょうか」
「その秘密とは、具体的にお聞き出来ますでしょうか?」
「御契約下さるまで詳しくは言えませんが、簡単に言うと、そうですね・・・
僕達は冒険者なのですが、世間に未発表の素材等を所持しております。
それを、姫奈さんに加工販売して貰うのですが、当然その全ては秘密になります。
他にも色々あるのですが、誓って犯罪を犯している訳ではありませんので御安心下さい。
詳しい話は隣のリラさんからお聞き下さい。返事はそれからでも結構ですので」
「はい、分かりました」
それからのリラさんからの説明は実に分かりやすく、要点を押さえつつ秘密厳守は絶対だと言う事が強調されていた。