第119話 新たな職人さんは小っちゃいんです
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部屋に戻り夕食の相談をしているとソフィアさん達から電話があり、部屋に遊びにきてくれるそうなので一緒に部屋で夕食を食べる事にした。
部屋に来てくれたソフィアさん達は数日会わなかっただけなのに、更に綺麗になっていたので、ステータスを順調に上げているのが良く分かる。
「「「「「「こんばんわ~」」」」」」
「いらっしゃい♪」
「「「「「「・・・・・・・」」」」」」
「どうしたの? さあ中へ入って」
「いや、また凄く綺麗になってない?」
「ヨウ君も、何か逞しくなってるような」
「あはは、ありがとう。ソフィアさん達も頑張ってますね、見る度に綺麗になっていきます」
「いやいやいや、レベルが違うって何かまた、とんでもない事したんじゃない?」
ソフィアさん達は僕達の変わり様に驚いていたけど、簡単に説明出来ないので笑って誤魔化しておいた。
今日は中華料理の職人さんに頼んで、皆で楽しく近況を語り合っていた。
「えと、それで今日来たのは私達も、そろそろロシアに帰ろうと思ってね、報告に来たんだ」
「そうですか、いよいよ帰っちゃうですね、寂しくなりますね」
「あ~ 本当は帰りたくないんですよ」
「もう、仕方ないでしょ。ギルドも帰って来いって煩いんだから」
「やっぱり、ソフィアさん達みたいな高ランク冒険者には、早く帰って来て欲しいんでしょうね」
「帰国日は、もう決めてるのかな?」
「はい、3日後に帰る予定です」
「思ったより、早く帰るんだ」
「早めにしないと、ズルズルと延びちゃいそうだから」
「でも、また日本に来てくれるんでしょ?」
「ええ、絶対にまた日本に来ます。だから一旦帰るだけですね」
「私達の方が先に、ロシアに遊びに行っちゃうかもね」
「その時は、全力で接待しますから是非、来てください」
「じゃあさ、帰るまでは泊まっていきなよ」
「良いんですか?」
「もちろん、大歓迎ですよ!」
「にひひ、たっぷり堪能してから帰った方が良いでしょ?」
「こらっ! ナギサもうちょっとボカして言いなさいよ」
「これでも、私なりにボカしたんだよー」
「赤くなっちゃって可愛いよね♪ 僕達も寂しいから相手して貰っちゃおうかな」
「ツドイ誤魔化せないわよ? 今日はツドイが、ヨウ君のフルコースなんだからね」
「ぼ、僕、ちゃんと謝ったよ?」
「あはは、今日は賑やかに行きましょうか♪」
ソフィアさん達は借りていたホテルを引き払い、残りの3日間僕達と楽しく過ごすことになった。
でも、楽しい時間は早く過ぎるもので、あっと言う間に最後の夜になった。
「本当にお世話になったね、ヨウ君のお陰で私の希望も叶ったよ。
フフフ、空を飛べるように成る事が、一番の目的だったんだけどね、もっと素晴らしい体験をさせて貰ったよ。
色々と素晴らしい物も貰ったけど、今回、日本に来て一番の収穫はヨウ君達に出会えた事なのは間違いないよ」
「僕もずっとファンだった、ソフィアさん達に出会えた事に感動しました。
ずっと、ネットや雑誌で見てましたけど、本当に会えるなんて思ってもいませんでしたし。
初めて会った時も、僕の心配をしてくれてありがとうございます。あの優しさは嬉しかったです」
「ウフフ、あれが日本に来て、驚きの始まりだったわ、それから何度驚かされた事か」
「まさか、私達が模擬戦で負けるなんて思わなかったものね」
「ねえヨウ君? 最後にもう一度、私達と模擬戦をやってくれないか?」
「良いですよ、本気で来て下さい。僕も今度は本気でいきます」
「「「「「「ゴクッ!」」」」」」
もう外は暗くなっていたが、僕達は上級ダンジョンの地下30階に場所を移し、ダンジョン用の装備に身を包んでいく。
「何時も使っている武器を使って下さい。魔法も使って良いですよ。後は全員で掛かって来て下さい。言っときますけど手加減なんて考えてたら怪我しますからね」
ソフィアさん達は神妙な顔つきで、ただ頷いてくれた。
アヤメさん達も、何も言わずに見てくれている。
それだけで、僕を信用してくれているのが分かり、嬉しさが込み上げてくるようだ。
「私達の準備は出来たわ」
「はい、僕も良いですよ何時でもどうぞ」
僕は愛刀であるアダマンタイトの双剣を抜き、ソフィアさん達に対峙した。
「フフ、フフフ、これがヨウ君の本気なんですね、威圧されてる訳でもないのに汗が止まりません」
「ええ・・・震える程の恐怖を感じます」
「一体どこに、手加減する余地があるんですか」
ブルッ!? 「怖いですね・・・ヨウ君がこんなに怖く感じるなんて」
「初めて会った時の少年と、同じ人物とは、とても思えませんね」
「ええ、ビリビリと空気が震えているのが分かります」
「本気で行くよ。ヨウ君」
「何時でも」
ソフィアさん達は計ったかのように同時に動き出し、見事な連携で僕に攻撃を繰り出して来る。
「ヒュバババババババ! シュン! シュバババババババッ!」
「キンッ! キキキキキキキキキキンッ!」
「もっと、気配を感じ取って」
僕はソフィアさん達の攻撃の間隙を突き、一瞬で6人の<追加防御>を同時に叩き割った。
「パッリーーーーン!!!!!!!!!」
「「「「「「なっ!」」」」」」
「遅いです! <追加防御>を割られたら、直ぐに張り直して」
「「「「「「クッ!」」」」」」
「6人掛かりなのに、掠りもしないなんて・・・」
「だ、駄目。当たる気が全くしないわ」
「流石、ヨウ君ね・・・でも、まだ諦めないわ」
「そうね、何としても一撃ぐらい入れて見せるわ」
「今日のヨウ君って、厳しいわね」
「ええ、きっとソフィアさん達の事が心配なんだと思います」
「これが、三日月君の優しさなんだよね」
僕はソフィアさん達の猛攻を受け続け、何回も何十回も<追加防御>を叩き割っていった。
ソフィアさん達は疲れのため動きが鈍くなってきても、頑張って僕に攻撃を入れようとしていたが、もうソフィアさん以外は限界が来たのか動けないようだ。
「フーフー、ま、まだまだ! ハァアアアアアアアア!!!!!」
「キンッ! キキキキキキキキキキンッ!」
最後まで頑張っていたソフィアさんも、遂に力尽きたのか四つん這いになり、足が痙攣しているようだった。
「フフ、あはは、全く感動する程強いな。参った、もう一歩も動けないわ」
「ハァーハァー、強すぎです」
「フーフー、結局掠る事すら出来なかったわ。完敗よ」
「ゼーゼー、でも何か嬉しいわ♪」
「ハァーハァー、うん、私も何か凄く満足よ」
「フゥ~ 今日の模擬戦は、一生忘れないわ」
「あ~ 皆もう剣も防具もボロボロじゃない?」
「えっ? ああ、本当ですね、あはは、笑えるほどボロボロになってますね」
「すみません。出来るだけ優しく受けたつもりだったんですが、僕もマダマダですね」
「ウフフ、私達の猛攻を、優しく受け止めてくれてたんですね、ヨウ君には恐れ入ります」
「でもまあ、そうよね。ヨウ君の双剣を受けたら、普通の剣なんて簡単に折れる筈だもの」
「私達6人を相手に、どれだけ繊細な仕事してたんですか? 一生勝てる気がしませんよ」
「あはは、皆さん強かったですよ。でも、ロシアでも十分に気を付けて下さいね。
それから、僕達からソフィアさん達に細やかな餞別があるんです。どうぞ受け取って下さい」
僕達は、この日の為に用意したソフィアさん達用の武器と防具を、それぞれの前に置いていく。
この3日間でミナミさんとフミさんに頼んで、急いで作って貰った逸品ばかりだ。
武器は上質なミスリル製で、防具はレッドドラゴンの素材やバジリスクの皮等を用いたフミさんの自信作だ。
「こ、こんな凄い物を、私達に?」
「うふふ、ミナミさんとフミさんが、とっても頑張ってくれたのよ? 二人にもお礼言って上げてね♪」
「ええ、もちろんです」
ソフィアさん達に各自、自分の武器に魔力を通して貰うと、僕達の時と同じように専用武器として認識したのか、とても綺麗な輝きを示していた。
「軽い、なんて素晴らしい輝き」
「す、凄いわ、まるで誂えた様に手に馴染む」
「防護服も着て見て良いかな?」
「どぞどぞ♪」
「はい、ヨウ君は後ろ向く!」
「も、もちろんですよ」
「ホントに~?」
少し残念そうにしながらソフィアさん達の着替えを待ってから見せて貰うと、全員お揃いのデザインで、白地に赤いラインが入った、とても美しい装備だった。
「うわ~ 恰好良いですね。凄く似合ってますよ」
「やっぱり、ソフィアさん達って白が似合うわね、好い感じよ♪」
「この感謝は、もう言葉には出来そうもないです」
「たぶん、一生掛けても返せないぐらいの恩が出来ちゃった」
「そんな事無いですよ、僕が心配性なだけですからね」
「ウフフ、ヨウ君。たまにパパになりますからね♪」
「その言い方は誤解を招くので駄目ですよー」
「「「「「「あはは♪」」」」」」
こうして最後の夜は部屋に帰ってからも、全員参加の中々ハードな夜になったのは言うまでもない。
翌日は、空港までソフィアさん達を見送りに来て、いよいよ別れの時間になった。
「ヨウ君、最後までありがとう。最高の日本旅行になったわ」
「それに、素敵な夜だったわ♪ アヤメさん達もね」
「こんな所で、恥ずかしい事言わないでよベッキー」
「ソフィアも情熱的だったよ?」
「ベッキー、私まで飛び火しちゃったでしょ」
「あははは♪」×全員
「・・・ヨウ君」
ソフィアさんは薄っすらと涙を浮かべながら、僕の前で言葉を詰まらせていたので、僕は黙って両手を広げた。
ソフィアさんは背の低い僕に合わせ、しゃがんでハグしてくれたので優しく抱き締め返した。
続いてアヤメさん達とも順番にハグして、何時の間にか全員涙ぐんでいた。
しばらく留まっていたせいか、ソフィアさん達に気付いた人達の人垣が出来始めたので、名残りは惜しいけど見送る事にした。
ソフィアさんからの別れの言葉は『ミールィ モイ』と言っていた。
ロシア語で可愛い大好きな人と言う意味なんだけど、何故か<言語理解>スキルを持っていても、ロシア語で聞こえた様な気がした。
最後は、笑顔で手をブンブンと振りながら、明るく元気に見送った。
ソフィアさん達の姿が見えなくなってから、溢れてきた涙は仕方なかった。
「もう、ヨウ君は涙脆いんだから、これからフミさんに紹介して貰った彫金師さんに会いに行くんでしょ? 元気だしなさい!」
「ぐすっ! アヤメさんだって、涙ぐんでるじゃないですか」
「私は別れって弱いんだよね・・・」
「それは仕方ありませんよ。彼女達は私達にとって特別な存在ですから」
「フフ~ そうよね。ヨウ様を中心とした仲間だもんね♪」
「ん、三日月君の恋人は僕達の恋人?」
「・・・ツドイ。その言い方は、ちょっとやらしいかな?」
「あっ! ヨウ君顔が赤くなってきた、変な事思い出したんじゃないでしょうね?」
「そ、そんな事ないですよ、さっ、行きましょうか」
「もう、待ちなさいよー」
僕は誤魔化すようにチョコチョコと走り、ツドイさんの車に乗って彫金師さんに会いに行く事にした。
フミさんが紹介してくれた彫金師さんは、お店に雇われている職人さんらしいんだけど、とても良い腕をしているらしい。
フミさんが作る洋服に合わせた、アクセサリーや細工物は全て任せているそうだ。
会うのを楽しみにしながら、フミさんに聞いたお店に到着すると、そこは商業ビルの1階にある店舗だった。
コンビニぐらいの広さだけど、背の高いショウウィンドウに様々なアクセサリーが飾られており、とても豪華で綺麗なお店だった。
「うわ~ 品揃えが多いわね、目移りしちゃいそう♪」
「私、こんなお店ってあんまり来たこと無いけど、衝動買いしちゃいそうね」
「僕は初めてかも?」
「リラ姉は何か慣れてそうだね?」
「私も仕事関係でしか、来た事はないですよ」
お店の店員さん達はアヤメさん達を見て、凄く驚いている様だ。
エーテルで超越者になってから美しさのレベルも一段階上がったので、最近の注目度は半端じゃ無くなってきている。
アヤメさん達は視線にも慣れてきたのか、注目されているのにもお構いなく、嬉しそうにアクセサリー類を見ている。
やっぱり、女性は宝石類が好きなんだよね♪
皆で店内を見ていると一際豪華なショーケースに入っている物に注目しいていると、どうやらダンジョン産の原石から作られた宝石のようだ。
ダンジョン産の物は、品質が良いのか他の宝石に比べ、とても高額になっている。
「ねーねー、ヨウ君も気付いた?」
「はい、僕も<鑑定>スキルを使って見てましたから」
そう、ダンジョン産の宝石を使ったアクセサリーの何点かに、ステータス上昇効果が付いていた。
中にはSTR+3とか凄く性能が良い物も含まれている。
しかし、付与効果で高額になっている訳では無さそうだ。
実際、STR+3のアクセサリーは比較的安い方だからだ。
「へええ~ 凄いじゃない。冒険者なら絶対欲しいわよ」
「そっか、鑑定出来ないから付与効果が付いてるの、分かって無いんだ」
「だって、SPオーブが1000万円だから、+1のアクセサリーなら最低でも1000万円の値打ちがあるもんね」
「そうだよね、1/30ぐらいの値段で買えちゃうのもあるよ」
「でも、ダンジョン産の宝石全てに付与効果が付いてるって訳じゃ無いんだね?」
「ん~ 当たり外れがあるのかな?」
僕達が色々と話をしていると、何か奥の部屋から大きな声で、話をしているので思わず聞いてしまう。
「そ、そんな、行き成りクビだなんて酷すぎます。理由を聞かせて下さい」
「それは、以前から言ってるじゃないか、丁寧なのは認めるが仕事が遅すぎるんだよ。他の人を見てごらんよ、君の倍のスピードで仕上げてるのが分かるだろ?」
「そりゃ、あんな適当な仕事なら早く出来ます」
「うわっ、最低! 私達に八つ当たりしないでくれる?」
「ふむ、君と彼女達の作品に大した違いは無いと思うんだけどね?」
「じょ、冗談ですよね? この違いが分からないんですか?」
「・・・君が必死になって頼んでくるから雇って上げたのに、君は私の目が節穴だと言いたいのかな?」
「そ、そんな事はありません。でも私、仕事をクビになるのは困るんです。作業は出来る限り急ぎますからお願いします、どうか働かせて下さい」
「給料を半分に減らしてトイレで作るなら雇って上げても良いんだけど、トイレは使うからね分かるだろ?」
「店長、この人がまだ此処で働くなら私達は辞めさせて貰います。簡単な工程もチマチマ作るの見てるとイライラするんですよ」
「そ、そんな・・・」
「分かったよね? 此処に君の居場所はもうないから」
「ま、待って下さい給料半分でも良いですから、謝りますから・・・私、お金がいるんです、やっとやっと雇って貰えて店長には感謝してるんです」
「悪いけど、私も慈善事業してるんじゃないんだよ、今日までの給料を渡しておくから他で頑張ってね」
話しが終わったようで、店の奥から背の低い女性が悲壮な表情で出てくる。
僕達はフミさんが紹介してくれた、女性だと直ぐに分かった。
フミさんに名前を聞いていたので、僕は聞いて見る事にした。
「あの~ 店員さん?」
「もう店員じゃないんですけど、何かお探しでしょうか?」
「はい、ひょっとして貴女は端渓 姫奈さんでしょうか?」
「はい、そうですけど」
「良かった。僕達はフミさんの紹介で貴女に会いに来たんですよ」
「あ、ああ、そう言えばフミさんから聞いてました。貴方が三日月さんなんですね」
「でも、すみません。たった今此処をクビになっちゃって・・・」
「あ~ すみません、ちょっと聞こえちゃって事情は大体分かってるんですよ」
「・・・そうですか、すみませんそう言う事なので」
「あっ! ちょっと待って下さい。少し聞きたいのですが此処に飾ってある作品なんですけど、これとこれと、後はこれかな。貴女が作ったんじゃないですか?」
「はい、良く分かりましたね。確かに私が作った物ですけど」
「んふふ、貴女良い腕してるわ♪」
「えっ?」
僕達は先程見ていた付与効果が付いている物は、全て彼女の作品だと言う事が分かった。
やはり彫金師の技術で、付与効果が付いたのは間違いなさそうだ。
「フフ、捨てる神あれば、拾う神ありと言った所でしょうか」
「フフ~ 此処の店長もバカよね~ こんな超天才をクビにしちゃうんだから」
「見る目ないよね、こんなに可愛いのに♪」
「ちょっとツドイ、今はそっちじゃないでしょ?」
「えっと端渓姫奈さん、僕達は貴方を専属の職人としてスカウトしに来たんですよ」
「ええっ! わ、私をですか?」
「はい、良かったら場所を変えて、少し話を聞いて貰えませんか?」
「それは良いですけど・・・」
「ありがとうございます。あっ! リラさん。彼女の作品を全て買い占めて貰っても良いですか? 此処に置いておくのは勿体ないんで」
「フフ、畏まりました」
「えええっ!」