第111話 監視されるのは気分が悪いんですよね
メチャクチャ大きなデザートワームを薙ぎ倒すのは中々爽快で、アヤメさんまでロングメイスで<風斬>スキルを使っていた。
「ん~ 今日は、何かストレス発散出来たわね」
「何時もならアヤメに突っ込むとこだけど、今日は私も同意かな」
「フフ~ 確かに爽快感があったよね」
「フフ、戦闘で無双するのは高揚感がありますね」
「あれだけ大きな魔物が、スパスパ斬れちゃうんだから気持ち良いね」
「そう言えばヨウ君。よくあれだけ<風斬>を連射出来るわね? あんなの絶対躱せないわ」
「僕双剣ですから、手数は負けませんよ?」
「ヨウ君<風斬>スキルも重ね掛けしてるからね~ 私の弓矢以上の威力で、あれだけ連射出来るんだもの凄いよね~」
「あんまり褒められると、照れちゃいますよ?」
「「「「「あはは♪」」」」」
ダンジョンを出ると今朝感じた視線の先を探してみる事にした。
うん、やはり見られているようだ。
「ところで、どうなのヨウ君?」
「はい、やっぱり見られてますね、僕の後方のビルだと思います」
「了解、ちょっと待ってね<千里眼>で探してみるわ」
僕だけ<千里眼>スキルを習得していないので、皆で僕達を監視してる人を探してくれているようだ。
急ぐ必要もないかと思ってたけど、僕も早めに習得しといた方が良いかな。
「OK! 見つけたわ黒っぽいビルの20階だったわ」
「ほんとだ、双眼鏡で見てたのね」
「フフ、ヨウ様。私達に任せていただいても宜しいですか?」
「ん~ じゃ、お言葉に甘えちゃって良いですか?」
「任せて、少し待っててね」
「はい」
アヤメさん達は其々の方向へ歩きだし、自然に人混みに紛れて行った。
中々<気配遮断>と<隠蔽>スキルも使いこなしているようだ。
◇ ◇ ◇
<とあるビル20階>
「しかし、何時まで監視しないといけないんだろうな?」
「ボヤくなって、命令なんだから仕方ないだろ」
「まあ、とんでもない別嬪さんだから役得って言えばそうなんだけどな」
「ウフフ、ありがと♪」
「「なっ!」」
う、嘘だろ・・・此処まで何キロ離れてると思ってやがんだ、何かの冗談だろ?
しかも、俺達に全く気付かせずに、どうやって部屋に入って来やがった。
くっ! しかも5人共居やがる・・・なんで、ソファーで寛いでやがるんだよ。
「参ったな・・・最近の別嬪さんは奇術師、真っ青な事するんだな?」
「あらっ? 奇術師に女性は付き物よ?」
「そうだったな、別嬪さんが5人も来てくれたんだ、お茶でも飲むかい?」
「フフ、あいにくですが時間が、あまりありませんので遠慮致します」
「軽口叩いてないで、どうして私達を監視してるのか教えてくれる?」
「なんの事を言ってるんだ?」
「うふふ、惚けたって無駄よ? さっきも監視してるって言ってたじゃない」
「何か勘違いしてるんじゃないか?」
「フフ、勘違いしてるのはどちらかしら?」
「まあ、喋りたくないなら、それでも良いけど後悔しないでね?」
「おいおい、物騒な事言ってるが、本当に何の事だか分からないんだが?」
「んふふ、監視されるのが、どれだけ気分悪いか教えて上げるわ♪ ええっと・・・田中武治さんと高橋信二さんね神奈川県と千葉県に住んでるんだ」
「「・・・・・」」
「んふふ、どうしたの? そんなに動揺したような顔して。
へええ~ 田中さん結婚してるのね、可愛らしい奥さんと子供じゃない? 部屋に飾ってある写真が幸せそうだわ。
あれっ? 自衛隊の服かと思ったら、少し違うようね『DSF』って何の略なのかしら。
奥さんは今料理をしてるわ、今日はトンカツかな? 貴方の帰りを待ってるみたいね。
ヒヨコのエプロンが可愛いわ♪ でも、リビングに格闘家のポスターを貼るのは趣味悪いわね」
「・・・参った。もうそれぐらいにしてくれ」
「お、おい、本当なのかよ?」
「ああ、どうやら間違いなさそうだ・・・しかし、こんな短時間で一体どうやって?」
「んふふ、不思議かしら? 貴方達がしてたように、ずっと監視して上げるわ♪」
「悪かった。認めるから勘弁してくれ」
「理解が早くて助かるわ、自衛隊かと思ったら違うのよね?」
「ああ、俺達は元自衛隊だが今は違う、ダンジョンに特化した特殊部隊だ。それに、君達だけを監視してた訳じゃ無いが、どうやら俺達は当たりを引いたようだ」
「なるほどね・・・大体分かったわ」
「他に聞きたい事があったら答えよう。だから、俺達を無事帰してくれると助かるんだが?」
「フフ、条件次第ですが、とりあえず誰の命令ですか?」
「上からの命令だ、詳しい内容は何も聞かされていないんだ。実力者、つまり強者を探しているとしか」
「だが、君達の事は誰にも言わない、約束しよう。だから頼む」
「ん~ それなら一度会いに行きましょうか?」
「ヨウ様!」
「あはは、来ちゃった♪」
「お待たせして、すみません」
「良いですよ、ちょっと興味が湧いて来ただけだから」
「ヨウ君、本当に会いに行くの?」
「はい、この人達を口止めしても、また違う人が来そうですし。それに、僕達だけが目的じゃなくても、僕達の事を知られましたしね」
「も~ 何時から来てたのよヨウ君?」
「ついさっきですよ?」
「ほんとに~?」
・・・なんてこった、こんな少年が仲間の女性達にも気付かない程の実力者なのか?
話には聞いていたが、全く恐ろしいな・・・人は見かけによらないと言うが信じられん。
「とりあえず誰か分かりませんが、僕だけで良いですか?」
「ヨウ様、私も同行致します」
「ヨウ様? 駄目ですよ一人で行くなんて」
「そそ、ヨウ君が行くなら皆で行こうよ」
「当然一人でなんか行かして上げないんだから」
「僕も行く」
「ん~ 面倒な事になるかもしれませんよ?」
「まっ、確かに良い話じゃ無さそうだけどね」
「フフ、その時はヨウ様のお手伝いが出来るかと」
「あ~ バレましたか、リラさんには勝てませんね」
「もう、やっぱり暴れる気だったんじゃない?」
「ククッ、三日月君らしいね♪」
「すみません。じゃ、皆で行きましょうか、そうですね明日の15時頃で良いですか?」
「ちょっと待ってくれ。上に伺いを立てないと俺達では決められないんだ」
「ん~ では、ちょっと僕の事を少しだけ教えて上げますから、必死で説得して下さい」
「あっ! ヨウ君あれは駄目よ? トラウマになっちゃうでしょ、この人には奥さんも子供も居るんだからね」
「そうですか」
「にひひ、私に任せて♪」
ゾクッ!!!
な、なんだ一人の女性と目が合った瞬間、寒気が走りやがった・・・し、しかも動けないだと?
「私達の紹介なら、これぐらいで良いでしょ?」
「はい、じゃお二人さん、明日此方から連絡しますね」
少年達は、それだけを言ってから部屋から消えてしまった。
「・・・なぁ、おい動けるか?」
「ぐっ! ぐぅぅ、はぁ~ ハハハ、小指1本動かねえよ」
「あんな怖え奴等、本当に上に会わせて良いのかよ?」
「もう手遅れだよ。彼奴等の言う通り、上を必死になって説得するしかないだろ?」
「そうだよな~ まあ俺達に指示を出した奴に責任を取って貰うか」
「そう言うこった。俺は彼奴等には絶対逆らわねえぞ」
「彼奴等が本気なら、俺達って今頃?」
「ああ、何も分からないまま、そこらへんに首が転がってただろうな」
「うぇ~ おっとろしい奴等が居たもんだな、世界は広く闇は深いってやつか」
「そんな事より、何時に成ったら動けるんだろうな?」
「わっかんね・・・」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
<ヨウ視点>
僕達は大阪に着くと急いで自宅マンションに戻り、リラさんに食事の出前を取って貰った。
今日はスズカちゃんとの約束があるからだ、思わず時間を食ったために慌てて用意したけど何とか間に合ったようだ。
そして気になる事があったので、アヤメさんに聞いてみる事にした。
「そう言えば<千里眼>スキルって、素性まで分かるんですか?」
「ん? あ~ さっきのことだよね。素性って言うか、目の前に居る人なら移動経路まで見えちゃうみたい」
「なるほど、それで自宅まで分かったんだ。やっぱり凄いスキルですね~」
「でも、特定の人物や物を探し出すのは難しいんだよね~ ヨウ君が習得して重ね掛けしたら分かんないけど」
「ふむふむ、僕も早く習得したくなりましたね」
「んふふ、その時はシッカリと準備しないとね♪」
「了解です!」
しばらくすると、スズカちゃんが来てくれたので先に食事にすることにした。
ちょっと人に聞かせたくない話をするので、料理人さん達には食事の用意だけして貰い帰って貰った。
「うわ~ 今日も御馳走ですね、毎日こんなに豪勢な食事をいただいて良いのかな?」
「あはは、僕から呼んだんだから遠慮なく食べてね」
「ありがとうヨウ君。でも目移りしちゃう♪」
「でも恥ずかしいんだけど、テーブルマナーとかヨウ君、誰かに教えて貰った?」
「あはは、外側のナイフとかスプーンを使っていくぐらいしか知らないけど、冒険者だからガサツで良いかなって思ってます」
「うふふ、私もそうだったんだけど、シノママが高級クラブのママなら覚えてて当然って言って、最近色んな事勉強してるんだよ~」
「フフ、ヨウ様も覚えておいて、損はないと思いますよ」
「そうね、普段ガサツだけど、そう言う所はキッチリしてるのって恰好良いかもね」
「・・・リラ先生、僕も覚えておきます」
「フフ、分かりました。基本から説明致しますね」
「うふふ、ヨウ君とっても素直だね?」
「あぅぅ~ やっぱり格好良く見せたいですから」
「んふふ、大丈夫よ。ヨウ君は世界一、恰好良いからさ」
「フフ、もちろんです♪」
「ヨウ様以上の男性なんていませんよ」
「私も今は考えられないな~」
「僕も最高だと思うよ」
「て、照れちゃいますよ?」
「うわ~ ヨウ君凄いな~ こんな素敵な女性達に此処まで慕われるなんて」
「なに言ってるのよ? スズカちゃんも最近モテモテなんじゃない?」
「えっ! あー、ママになったから社交辞令かなっと?」
「そんな訳ないでしょー、私達から見てもスズカちゃん可愛いんだから」
「うわ~ お姉さん達にそんな事言われたら、調子に乗っちゃいそう♪」
「そんなに、モテてるんですか?」
「うふふ、ちょびっとね♪ でも、お客さんって色んな人が居るから裏が見え隠れして怖いんだよ?」
「そう言うの考えちゃうと、ヨウ君って不思議な人なんだよ、なんか安心するんだよね」
「嬉しいですね、僕もスズカさんとは喋りやすいから安心出来ます」
「むむ、境遇が近いから親近感が湧くのかな?」
「それもあるけど、僕スズカさんのパトロンですから」
「も~ 公に言うもんじゃないんだよ? 言葉では言い表せない程、感謝してますけど」
「んふふ、今日のお土産はそれらも霞んじゃうかもね♪」
「えっ?」
「そうそう、本題なんだけど、スズカさんへ僕達からの東京土産です」
僕は東京で知り得た初級・中級・上級ダンジョンデータを、スズカさんへ手渡した。
情報漏洩を防ぐために全て書面にしたものだ。
「こ、これって凄い情報なのでは?」
「フフ、そうですね。冒険者にとっては喉から手が出る程、貴重な情報です」
「そんな、以前にいただいた情報だけでも、私には身にあまる物なのに」
「大丈夫ですよ、絶対に人には言えない情報は書いてませんから、スズカさんの武器として使ってください」
「勘違いしちゃ駄目よ? 出し渋ってるんじゃなくて、知り得たら身の危険になりそうな物を書いてないだけだから」
「こんな貴重な物を私何かのために・・・まして、身の安全まで考えてくれて何とお礼を言えば良いか」
「三日月君がオーナーなんだからさ、その武器を使って、お店を繁盛させるのが恩返しになると思うんだよね」
「そうですね、はい私頑張っちゃいます♪」
「はい、でも無理はしなくても良いですからね」
「はい、今はとっても楽しいから大丈夫ですよ?」
「それは何よりです」
食事も終わり女性陣と交代でお風呂に入ってから、スズカさんを咥えた美しい女性達と飲むお酒が、また最高だったりする。
色々と喋っていたら時間も遅くなってきたので、スズカさんも泊って行って貰う事に成り、僕も自分の部屋に行く。
「あ、あのお姉さん達、本当に良いんですか?」
「ウフフ、昨日見たでしょ? 嫉妬するような間柄じゃないって、スズカちゃんこそ覚悟は出来たのかな?」
「はい、私の決心はとっくに固まってますので」
「じゃ、行ってらっしゃい。私達一同、歓迎と共に応援するから♪」
「ありがとうございます。でも、ちょっと膝が震えちゃいますね」
「大丈夫よ」
「歓迎するわ」
「その気持ちは分かりますよ」
「ガンバ!」
「必要なのは勇気じゃなくて愛情だよ?」
「はい、行ってきます」
この日何となく予想はしていたけど部屋に来てくれたスズカさんは、とても可愛らしく、幼馴染と過ごすような満ち足りた一夜となった。
スズカさんから「愛情と感謝と誠意を込めて、生涯たった一度の刻を捧げます」と言ってくれた。
僕にはこの言葉に返すようなものは何もないので、この瞬間を素直に感じ愛情を受け止めた。
これだけ多くの女性に好意を持たれ、ハーレムと言う言葉には抵抗を感じていたが、愛情とは常識や倫理では縛れない本能的なものだと思うようになってきた。
自分は間違いなくスズカさんが好きなんだと実感し、眠りに落ちていった。
翌朝、目が覚めると僕の腕の中で恥ずかしそうにモジモジしている可愛らしい女の子がいた。
チラチラと上目遣いで僕の顔を見ているので、ギュッと抱き締め朝の挨拶をすることにした。
「おはよ、スズカさん」
「おはよ、ヨウ君」
「ひゃー、やっぱり恥ずかしいよー」
「あはは、可愛いねスズカさん」
「うふふ、ありがとねヨウ君! 素敵だったよ」
「スズカさんも、可愛かったです」
「これからも、宜しくねヨウ君」
「こちらこそ♪」
僕はスズカさんを抱き締め、もうしばらくの間イチャイチャし、何時もの様にスズカさんを抱き抱えリビングへ下りた。
アヤメさん達はスズカさんを温かく迎え入れ、朝食を一緒に食べ終わると、スズカさんは笑顔で帰って行った。
僕達は昨日の続きである東京の上級ダンジョンに向かう事にする。
昨日と同じように地下20階からスタートし、ボスであるグランスライムを討伐してから、サクサクと階層を進めて行った。
ダンジョン検索にも皆慣れてきて、ドンドン攻略速度も上がっていくのが僕達の成長を感じさせる。
昨日その大きさに驚いたデザートワームも<風斬>でスパスパ切り刻み、ついに地下29階に辿り着いた。
此処での初見の魔物はバジリスクと言い、デザートワーム程ではないが巨大なヘビだった。
しかし、皆デザートワームで慣れてしまったのか、バジリスクに怯む事もなく<超振動>スキルを武器に纏わせ、巨大なバジリスクを苦も無く倒していった。
残念ながらスキルは既に所持している物だったが、ドロップアイテムであるバジリスクの皮が非常に綺麗で、フミさんが喜びそうなお土産が手に入った。
続く地下30階も初見の魔物はラミアだった。
上半身はまるで人間の女性ようで、下半身はヘビの魔物だ。
こちらも新たなスキルは手に入らなかったが、ドロップアイテムでラミアの心臓と言う物が手に入った。
心臓と言ってもリアルな形ではなくハート型をしておりグミのような感触で、とても良い匂いがする。
鑑定で調べた所<錬金術>の素材になるそうなので、セツナさんに良いお土産が出来た。
こうして、いよいよ最後のボスである地下30階のボスに挑戦することになる。
準備を整えた僕達はボス部屋の思い扉を潜り中を見てみると、そこにはエジプトのスフィンクスに良く似た魔物が鎮座していた。
「名前もスフィンクスみたい、魔法が効きにくそうだし防御も硬そうね」
「でも、形的に動き出しそうな気はしないよね?」
「ひょっとしたら、固定砲台かもしれませんね、皆さん十分気を付けて行きましょうか」
「「「「「了解!」」」」」
こうしてスフィンクスとの戦闘を開始したが、僕の予想通り固定砲台の様で、左右の足に埋め込まれた結晶体のような物から光線が放たれた。
ピッ! バッシィィ!!!
「キャアアア!!!」
「速い! ナギサさん<追加防御>張り直して、皆散らばって!!!」
「「「「「了解!!!」」」」」
そう、予想を裏切られたのは、その光線のスピードだった。
<追加防御>があるとは言え、僕達は魔物からの攻撃は全て躱していたんだけど、久しぶりに被弾してしまった。
僕は真っ先に光線が射出される結晶体を破壊するため、アダマンタイトで作られた双剣に<超振動>を纏わせ斬りかかる。
物理防御力も高そうだったけど、僕の左右からの斬撃で結晶体は十字に割れ、沈黙したようだ。
もう片方の結晶体も被弾したナギサさんが、お返しとばかり矢で貫いた。
これで、恐ろしく速い光線も納まるだろうと安堵した瞬間、今度は膝や肩口から4つの結晶体が現れ攻撃が倍になった。
「ちょ、ちょっと嘘でしょ~~~~」
ピピピピッ!!!
「わわわっ!」
倍に増えた光線は、どの角度で射出されるか見当が付かない為、<追加防御>と<結界>を駆使して、何とか4つの結晶体の破壊に成功した。
次の瞬間、皆と目が合い。嫌な予感を感じると言った不安な表情をしていると、案の定、次は8つの結晶体が魔物の胸から現れた。
「「「「「「イイイイイイッ!!!!!!」」」」」」
久しぶりに僕達は必死になって結晶体を破壊していき、8つの結晶体が沈黙したかと思ったら、スフィンクスの眼から極太の光線を放射状に放ってくるようになった。
顔全体に集中砲火して頭部を崩し切る頃、ようやく光の粒子となってスフィンクスは消えて行った。
「「「「「「つ、疲れた~~~」」」」」」