第100話 もちろん自重はしますよ
ようやく100話まできました。
ここまで読んでいただいた方、ありがとうございます。
次の101話から少し文字数を増量しています、引き続き楽しんでいただけたら幸いです。
「ところで透子君、今年の新人冒険者はどうだね?」
「はい、何人か既にスキルや魔法を習得している新人も居るようですが、目を引くような者は居ませんでした。古戸社長」
「ワハハ、やはりそうか、最近色々と賑やかな大阪の者もかね?」
「はい、私が見た所スキルや魔法も習得していないようです。ステータスも初期のままでしょう」
「ふむ、滝川の事だから普通の新人を寄越した可能性もあるが、新人冒険者では今の大阪を計る事は出来んか」
「ですが、少し気になる人物は居ましたね」
「ほほ~ 透子君が気になる人物かね」
「はい、最高のコンシェルジュと名高い、天満リラさんが大阪のパーティに居ました。私も初めて拝見しましたが、とても美しい女性ですね」
「なに? 天満リラなら私も知っている程の有名人じゃないか、新人冒険者として居たのかね?」
「はい、とても信じられないような、美しい女性5人の中の一人として交流会に参加しております。それも双子のようにそっくりな女性も居ました」
「あの人垣を作っていた女性達か? 確かに遠目で見ても美しい女性達だったが、透子君も負けておるまい?」
「ありがとうございます。ですが、私とはレベルが違います。女の私でも息を飲むような美しさでした」
「あの美しさで、冒険者をしているのは不思議なぐらいです」
「なるほど、大阪は女性5人パーティで来ているのか」
「いいえ、最後の一人は男性なのですが、とても可愛い顔をした、あどけなさの残る少年です」
「聞けば聞く程、冒険者らしくない者達に思えてくるな」
「何故、天満リラが冒険者になったのかも分からんが、私も一度雇ってみたい人物だよ」
「それが、今はコンシェルジュは引退しているそうです」
「それは残念だが、この後は高ランク冒険者によるスキルと魔法の実演だったね、私も見ておくことにするか。それでは、行こうか透子君」
「はい、古戸社長」
◇ ◇ ◇
<ヨウ視点>
僕達は少々気分の悪い昼食を終え、新人交流会の次の項目に行く事にした。
どうやら高ランク冒険者が、スキルや魔法を実演してくれるらしい。
他の新人冒険者は、楽しみなのか少々興奮気味だ。
だけど、僕達にとっては、普段自分達で使用しているので珍しくもなんともない。
しかし、拒否する訳にもいかないので案内のまま見に行く事にした。
僕達は屋外に連れていかれ、射撃場のような場所に来た。
どうやら此処で実演してくれるらしい。
幾つかのグループに分けられていたが、また全員集まっているようだ。
案内役の隣には男性と女性の2名がいるので、あの人達が高ランク冒険者なのだろう。
<鑑定>スキルで確認したところ、高ランク冒険者とは言え、守護さん達より遥かに格下なんだけどね。
「え~ それではこれから高ランク冒険者である2名の方に、スキルと魔法の実演をしていただきます。それでは、お二人方宜しくお願いしますね」
「ああ、俺はAランク冒険者の矢城竜馬だ。俺はスキルを担当する」
「同じくAランク冒険者の太刀掛紗枝よ。私は魔法を担当するわ」
「じゃあ、まずは俺からだな。スキルと言っても色々あるんだが、今から<敏捷強化>スキルってやつを披露するから、良く見とけよ新人共」
何か偉そうに喋っているが、僕達にとっては基礎中の基礎に当たる<敏捷強化>スキルを使い、機敏な動きを披露している。
他の新人冒険者から歓声が巻き起こっているが、全く持って大したことが無い・・・
「ウフフ、じゃ次は魔法を披露するわね、私は<火属性魔法>と<水属性魔法>を披露するから、見ててね」
女性の方は丁寧に喋ってくれるので好感が持てる。
どんな魔法だろうと期待したが<ファイアボール>と<ウォーターボール>を繰り出し15メートル程、離れた場所に設置されている的に命中させていく。
どちらも単発の魔法だったので拍子抜けするが、普通はこんなものなのかと妙に納得する事になった。
スキルと魔法による実演も終わったが、高ランク冒険者に対して質問するため皆殺到しているようだ。
「う~ん、ヨウ君の非常識さに慣れちゃったのかな?」
「あはは、確かにね。でも、これが普通なんじゃない?」
「フフ~ ヨウ様は規格外ですから」
「ん~ これを見ると少し自覚しちゃいますね。でも、きっと凄い人も居ますって」
「僕、居ないと思うけど」
「フフ、これもヨウ様の良い所ですわ」
しばらくガヤガヤとしていたが、新人冒険者の中でも魔法を習得している者がいるらしく、実際に魔法を撃って指導を貰っているようだ。
「せっかくですから、アヤメさんも披露しちゃいますか?」
「えっ? 良いの?」
「あっ! もちろん手加減して下さいね。アヤメさんが普通に魔法使ったら大惨事になっちゃいますから」
「んふふ、この付近一帯が消し飛んじゃうもんね~」
「も~ 幾ら何でもそんなに酷くないわよ、見てなさい。完璧な手加減を見せて上げるから」
アヤメさんは自信ありげに歩いて行き、訓練用の的に正対すると周りの冒険者達もアヤメさんに注目しだした。
「すみません。私の魔法も見て貰って良いですか?」
「ええ、もちろん良いですよ」
「ウフフ、ありがとう、では」
アヤメさんが微笑むだけで周りにいる男性が息を飲む。
今日は何時もの冒険者の服ではなく肩がシースルーになっている大人びたワンピースに身を包み、豊満な胸が強調されている。
長く美しい髪に透き通るような肌、秘書が似合いそうな顔立ちに眼鏡がとても良く似合っている。
こうやって、改めて見るとアヤメさんって本当に綺麗な女性だと思い知らされる。
アヤメさんは的に向かい、右手の人差し指を銃のように構え、魔法を放つ。
「<ファイアブレット>!!!」
アヤメさんが放った魔法は<ファイアボール>としては、とても小さかった。
的の数と同じ5発の魔法は、凄まじいスピードで、それぞれの的の中心に当たり甲高い金属音を鳴り響かせた。
周りの冒険者達やAランクの冒険者までが、見たことも無いような魔法に呆気に取られている。
「す、凄いわ・・・なんて魔法制御なの、貴女本当に新人さんなんですか?」
Aランク冒険者である太刀掛さんから称賛の言葉が出る頃、周りの冒険者達からも拍手が送られているので、僕達も拍手をしている。
「ウフフ、ありがとうございます♪ もちろん新人ですよ」
「それが本当なら、貴女天才だわ」
「買い被り過ぎですよ? では、失礼しますね」
アヤメさんが僕達の所に帰ってきたので、僕達はもう一度拍手で迎える。
「流石ですね、完璧な手加減でしたよ」
「ウフフ、ありがとう。どうナギサ?」
「はいはい、アヤメにしては地味な魔法だったわ」
「ちょっと、地味は無いでしょ?」
「「「「「あはははは♪」」」」」
「フフ、十分凄い魔法でしたよ、歓声が上がってましたから」
「銃みたいでしたね? 恰好良かったですよ」
「んふふ、魔女の次はガンマンね?」
「ナギサ~~」
「あはは、ご、ごめんて」
スキルと魔法の実演会も終わり、次は各地の新人冒険者との交流会として、立食パーティがあるらしい。
それまで少し時間があるので、僕達はブラブラすることにして、その場を後にした。
◇ ◇ ◇
<藤堂院視点>
そ、そんな馬鹿な・・・魔法を使った?
私の<鑑定>スキルでは魔法なんて見えなかったのに。
この私が見落としたの? いいえ、ありえないわ。
確かにスキルも魔法も所持してなかった筈よ。
いったいどうやって? そうか、何らかの魔道具の可能性があるわね。
でも、<火属性魔法>が撃てる魔道具なんて聞いた事がないし。
「どうしたんです藤堂院さん、難しい顔をして?」
「何でも無いわ、少し考え事をしていただけなのよ。丁度良いわ、少し確認して貰いたいんだけど良いかしら、太刀掛さん?」
「ええ、良いですよ」
私は太刀掛さんと共に5つ設置されている金属製の的を見に行く事にした。
ひょっとしたらあの<火属性魔法>に見えた魔法は、何らかの幻覚の可能性もあるかもしれない。ちゃんと確かめておかないと。
「う、嘘でしょ? 藤堂院さん、これって・・・」
「凄いわね、こんなに厚い金属製の的を見事に貫通してるなんて・・・しかも5つとも正確に中心を捉えているわ」
「あの銃のように繰り出した<ファイアボール>が、恐ろしいまでの威力だったのが分かるわね・・・太刀掛さんなら真似出来るのかしら?」
「まさか! 私にはとても無理ですよ? まして、こんな威力出せませんし」
「そう・・・ねえ、太刀掛さん、この事は秘密にして貰って良いかしら?」
「はい、もちろん良いですが、やっぱりあの女性は新人レベルじゃないですよね。まさかSランクの冒険者なんじゃ」
「うふふ、まさか」
・・・最近色々と話題の多い大阪ダンジョンギルドを調べていたけど、アヤメさんは確かにギルドの受付嬢の筈。
それが、どうして冒険者をしているのか分からないけど、新人冒険者なのは間違いない。
ギルド職員・・・まさかアヤメさんが大阪ギルドの魔女と呼ばれる鑑定人なのかしら?
いえ、そんな筈はないか・・・私が<鑑定>したところスキルは何も所持してなかったし。
考えれば考える程何も分からないわね。でも、久しぶりに興味深いわ、もう一度接触してみないと。
◇ ◇ ◇
<ヨウ視点>
僕達は少し時間を潰した後、ギルドにあるパーティ会場へ向かった。
会場へ着くと人数が多いためか、中々大きな部屋で円卓に豪勢な料理が盛り付けられていた。
立食パーティなので椅子は無く、まさに新人冒険者達と交流を図るのを目的としているようだ。
しばらく待っていると、司会の挨拶によりパーティが始まったので、僕達も適当なテーブルへ行き食事を楽しむ事にした。
様々な料理に舌鼓を打っていると、少し場が落ち着いたのかアヤメさん達に声を掛けてくる者が増えて行く。
特にアヤメさんは魔法を披露したせいか、男女問わず声を掛けられているようだ。
対して僕には誰も声を掛けてくれないので、少し寂しいと思っていると、不意に僕にも挨拶をしてくれる人が現れた。
僕は、ちょっとだけ嬉しくなり声を掛けてくれた人を見ると、新人冒険者にしては結構年を取っている人のようだ。
30代前半だろうか、冒険者と言うよりもサラリーマンのようなスーツに身を包んでいた。
少しでも読みやすくなるよう修正しましたが、視点の切り替えが多い所があるのは御容赦下さい。




