ヤニの礼
牢獄に、世一の低い声が響いた。
「結、お前の力はいらない」
結は、信じられないという表情で世一を見つめた。
「な、何故?私の力を使えば全知全能、全てを統べる王になれますのに!?」
「それじゃ結は救えないだろ」
世一の言葉に、結は息を呑んだ。
「っ!?」
「おい、火」
「は、はい……」
結は、戸惑いながらも火を差し出した。世一は煙草に火をつけ、深く吸い込んだ。
「フーッ……おい、そこの門番」
世一は、牢獄の前に立つ和勇牛を見据えた。
「お前、俺の首をはねると言ったな?デカイ図体の癖に、言った事を引っ込めるのか?小せぇカスだな」
和勇牛は、侮辱の言葉に顔を赤くした。
「なっ!」
「俺の首をはねれるかどうか、試してみろと言ってるんだよ」
「き、貴様、図に乗るのも大概にしろ!今すぐに身体を真っ二つにしてくれる!」
和勇牛は、巨大な斧を振り上げた。結が慌てて声を上げる。
「ろ、牢が壊れ……」
「!」
和勇牛は、結の言葉に一瞬躊躇した。その隙を突き、世一は嘲笑を浮かべた。
「ハハッ、馬鹿だろお前。開けてくれりゃ、もうお前に用はねぇよっっ!」
世一は、牢獄の扉を蹴り飛ばした。轟音と共に扉が開き、和勇牛は衝撃で後ずさった。
「グハッ!」
世一は、牢獄から悠然と歩み出た。煙草の煙を吐き出し、結に向かって言った。
「フーッ……結、お前の願いは何だったか……そうか、破壊か」
世一は、結の瞳を見つめた。
「ヤニの礼に壊してやるよ、お前を苦しめる世界全部な」
世一は、和勇牛を一瞥し、地獄の業火が燃え盛る方へと歩き出した。彼の背中からは、破壊の予感と、結への静かなる約束が感じられた。