忘れ草
「あ、あの……あ、あの……」
姫は美しい顔を赤らめ、困惑したように言葉を紡いだ。その様子に、世一は苛立ちを隠さずに声をかける。
「……おい」
「は、はいっ!」
姫はまるで叱られた子犬のように、びくりと体を震わせた。
「ヤニ持ってねーか?」
世一の問いに、姫はますます困惑の色を濃くする。
「ヤ、ヤニ?ヤニとは何なのでしょう?」
「は?ヤニも知らねーのかよ。チッ、使えねーな」
世一は舌打ちをし、露骨に不機嫌な態度を示した。姫は今にも泣き出しそうな顔で、目を潤ませている。
「涙……うっうっ……」
「はーっ……そこの門番に言って、ヤニを持ってこさせろ」
諦めたようにそう言い放つと、世一は面倒くさそうに顔をしかめた。
「は、はい!」
姫は言われた通り、近くに控えていた門番に声をかける。
「門番!今すぐヤニ?をここに持って来なさい!」
突然の姫の言葉に、門番の和勇牛は戸惑いを隠せない。
「は?、ヤニ……は、忘れ草の事ですな。外界の者からの貢物で、蔵にあったはず……」
状況を把握した和勇牛は、すぐに蔵へと向かった。
「今すぐに持って参りまする」
しばらくして、和勇牛は小さな箱を持って戻ってきた。
「世一様、お待たせいたしました。こちらが忘れ草でございます」
「おう、ヤニが来たか」
世一は箱を受け取り、中身を確認する。それは、彼が求めていたものとは少し違っていたが、まあ良いかと妥協する。
「こ、これでよろしかったですか?」
不安そうに尋ねる姫に、世一は気のない返事をする。
「あー、ま、これでも良いか」
世一は箱から葉を取り出し、手慣れた様子で巻いていく。
「ん……」
姫は世一の行動を不思議そうに見つめていた。
「????」
「何やってんだ、はやく火を付けろよ」
世一に言われ、姫はさらに困惑する。
「火?火等は持っていなくて……あ、あの……!」
姫は再び門番に助けを求める。
「門番!罪人を焼く地獄の釜から火を持ってきなさい!」
姫の予想外の言葉に、和勇牛は唖然とする。
「は、ハハッー……」
和勇牛は慌てて火を持ってくると、世一に差し出した。世一は手慣れた様子で火をつけ、紫煙をくゆらせる。
「ん……ふーっ、ちょっとシケってるが、まあ旨いな」
世一は満足そうに煙を吐き出した。
「ご、ご満足いただけましたでしょうか?」
恐る恐る尋ねる姫に、世一は短く答える。
「まーな」